報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“戦う社長の物語” 「AIが人類を超える時」 1

2018-07-30 19:09:27 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月30日02:02.天候:雨 埼玉県さいたま市大宮区 敷島家]

 敷島:「ん……」

 敷島は夜中にふと目が覚めた。

 敷島:「トイレ……」

 ベッドから出てトイレに向かう。
 隣のベッドには、アリスがまた斜めになって寝ていた。
 相変わらずの寝相の悪さである。
 その為、トニーと同じベッドで寝かすことができないのだ。

 敷島:「ん?」

 敷島とアリスの寝室を出てトイレに向かうと、納戸の方から声が聞こえたような気がした。
 納戸ではエミリーとシンディ、それに二海が充電中のはずである。
 ロイドのバッテリーは電力が大きいので、充電は電気代の安い深夜に行われている。
 それは事務所にいるボーカロイド達も同じ。
 23時からなので、ボーカロイド達は自分達の『就寝時間』を23時と決めているようだ。
 尚、バッテリーは着脱可能である為、予備バッテリーだけを先に充電させておけば24時間稼働である。
 但し、使う人間が24時間稼働できないので、必要とされていない。

 敷島:「気のせいか?」

 敷島は首を傾げてトイレに入った。

 敷島:「いや……何か聞こえるな」

 トイレから出るが、また何か声が聞こえた。
 こんな時間に、何か話しているのだろうか?
 敷島が納戸のドアに耳を当ててみると、エミリーの声のようだった。
 『イライザ……イライザ……』と聞こえて来る。

 敷島:「?」

 試しにエミリーを監視する端末の子機であるタブレットを見てみたが、特に何かエミリーに異常が出ているような表示は無かった。
 で、そんなことをしているうちに、声が聞こえなくなった。
 しばらく待っていたが、エミリーの声が聞こえて来ることはなかった。

 敷島:(何だったんだろ?)

[同日09:30.天候:晴 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]

 朝起きた時、別にエミリーは普通だった。
 出勤する時も普通だったし、シンディにエミリーが夜中に何か言ってなかったかどうか聞いても首を傾げるだけだった。

 エミリー:「今日は11時より勝又先生がいらっしゃいます」
 敷島:「ああ、分かった。『クール・トウキョウ』のことだな。レイチェルも来るというわけか」
 エミリー:「さようでございます」
 敷島:「……なあ、エミリー」
 エミリー:「何でしょうか?」
 敷島:「お前、昨夜はちゃんと『眠れた』か?」
 エミリー:「はい。特に充電に問題はありませんでしたが?」
 敷島:「実は昨夜、俺は聞いてしまったんだ。お前が『イライザ』と言ってるところを」
 エミリー:「!」

 するとエミリーは目を丸くした。

 敷島:「何か心当たりは無いか?」
 エミリー:「恐らく自動でメモリーが整理されている際に、私が発した言葉でしょう」
 敷島:「イライザという女性に知り合いでもいるのか?」
 エミリー:「知り合いの女性と言いますか、マザーの名前です。あの頃のことが整理されていましたので」
 敷島:「マザーって、あれか?マルタイプの試作機!?」
 エミリー:「はい。試作機を基に私達が量産されましたので、私達にとっては母なる存在です。だから私は試作機を『マザー』と呼んでいます。でも、当時の開発者達は『イライザ』と呼んでいたそうです」
 敷島:「なるほど。南里所長やドクター・ウィリーの憧れの女性の名前がイライザだったわけだな?」
 エミリー:「それは違います」
 敷島:「ええっ!?」
 エミリー:「試作機が造られた時、まだあの女性科学者は生きておられました。だから全く違います」
 敷島:「そうなのか!じゃ、どうしてイライザって名前を付けたんだろう?」
 エミリー:「私達の人工知能の祖が『イライザ』だからですよ」
 敷島:「!?」
 エミリー:「御存知ありませんか?1966年に開発された、世界初の人工知能です。それを搭載したアンドロイドが造られたわけですが、それが私達の試作機です。『イライザを搭載したアンドロイド』という意味で、南里博士達は便宜上そう呼んだのでしょう」
 敷島:「ほお……」
 エミリー:「それが改良に改良を重ね、私達のAIができました。メイドロイドもバージョンシリーズも、概ね同規格のAIを搭載しています。だから私達と話が通じるのです」
 敷島:「そうなのか。それじゃ、お前は『母親』の夢を見たんだな」
 エミリー:「そうかもしれません」
 敷島:「ロイドも昔の夢を見る時代か。進歩したもんだ。何しろ、感情があるくらいだからなぁ」
 エミリー:「はい。今のAIには全て感情があります。少なくとも、私はそう思っています」
 敷島:「前期型のシンディなんて、いくらウィリーの命令だったと言えど、ある意味ではAIの人類侵略みたいなものだ。お前はどう思う?」
 エミリー:「ノーコメントです」
 敷島:「えっ?」

 エミリーは済ました顔で答えた。

 敷島:「い、いや、ノーコメントってどういうことだ?」
 エミリー:「お待ちください。シンディからの通信です。……ふむふむ。村上博士がロボット未来科学館に来られたそうですね。ロイがまたもやモーション掛けて来てウザいそうです。アリス博士は破壊命令を出してくれないので、社長に代わりに破壊命令を出して頂きたいそうです。如何でしょうか?」
 敷島:「ダメに決まってんだろ。適当にデートでもしてやれやって言っとけ」
 エミリー:「かしこまりました」

 エミリーはシンディに返信した。

 敷島:「それにしてもお前の場合は執事のキールといい仲だったし、ロイはロイでシンディのことが大好きだ。これ、もしかしたら、お前らも子供を作れるんじゃないのか?」

 するとエミリーは笑みを浮かべて答えた。

 エミリー:「子供を作れるのは生命体だけですよ」
 敷島:「ま、それもそうだな」

 ところがその直後、エミリーはクルッと後ろを振り向きながらボソッと呟くように言った。

 エミリー:「……今の・ところは」

 まるで、昔に使っていたロボット喋りのような口調で。

 敷島:「おい、今何て言った?おい」
 エミリー:「コーヒーのお代わり、入れて参ります」
 敷島:「カフェインレスで頼むぞ!」

 エミリーは頷くと社長室を出て行った。

 敷島:「何だろ?やっぱりエミリーの調子が悪いのか?」

 敷島は社長室のすぐ裏にある小部屋に入った。
 ここは敷島エージェンシーに所属している全ロイドの遠隔監視をしている端末の親機が収納されている。
 ロイド達にはここは一切の立ち入りを禁止するプログラムを組み込んでいる。
 なので、秘書も務めるエミリーやシンディさえも目もくれない。
 だが、その端末でエミリーを監視している物を確認しても、全く何の異常表示も出ていなかった。

 敷島:「……俺がおかしいのか、もしかして?」
 エミリー:「気になるようでしたら……医務室へご案内しますよ?」
 敷島:「!!!」

 小部屋の入口の前に立つエミリーが、不気味な笑顔でこちらを見ていた。

 エミリー:「何かお探しですか?私もお手伝いしたいのですが、この部屋には一歩たりとも入ってはならぬとプログラムされておりますので」
 敷島:「ああ、その通りだ!絶対入るなよ!」

 敷島は急いで小部屋を出た。
 そして、急いでドアを閉めて施錠する。

 エミリー:「コーヒーをお持ちしました。もちろん、カフェインレスです」
 敷島:「あ、ああ。そこに置いといてくれ」

 エミリーはまた元の柔らかい表情に戻っていた。

 敷島:(一体、何だって言うんだ?)

コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« “戦う社長の物語” 「夏はプ... | トップ | “戦う社長の物語” 「AIが... »

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
つぶやき (雲羽百三)
2018-07-31 14:44:20
それにしても、今の会社にもいい加減飽き飽きしてきた。
給料やボーナスは上がらない。仕事はキツい。それでいて希望の業務に就かせてくれないんじゃ、正直居続ける意味が無いような気がする。

施設警備検定2級持ちが防災センター業務を希望するって、そんなにおかしいことかね?
もしこの希望を受けてくれる他社があれば、是非とも話を伺いたいものだ。
返信する

コメントを投稿

アンドロイドマスターシリーズ」カテゴリの最新記事