報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「出張」

2018-07-14 20:13:34 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月9日13:30.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 取りあえず今日は抜け出していた病院に対し、お詫びと退院の手続きをしてきた。
 バスで事務所の近くまで戻ると、私と高橋は再び灼熱地獄に襲われた。
 梅雨明けした都内は、連日30度を超えているのだ。
 バスの中は冷房が効いていて涼しかったが、1度降りるとそれはもう……。
 途中で私達は昼食を取り、それからコンビニに寄った。
 コンビニ立ち寄りは、高橋の希望によるものだったが……。
 こうして私達は事務所へと帰ってきた。

 高野:「あ、先生。お帰りなさい」
 愛原:「ああ、ただいま。無事、病院の退院手続きをしてきたぞー」
 高野:「それはお疲れ様でした」

 事務所の中もまたクーラーが効いて涼しい。
 前の事務所は建物が古かったせいか、冷房の効きも悪かったのだが。

 高野:「今、お茶入れますね」
 愛原:「ああ、すまない」
 高橋:「アネゴ、先生にはアールグレイだぞ?」
 愛原:「いや、いいよ!普通に麦茶で!冷えていれば……」
 高野:「こんな暑いのに、熱い紅茶なんか飲めませんよね」
 愛原:「確かにちょっと厳しいな。ところで高橋君、さっきコンビニで何を買ってたんだい?」
 高橋:「ああ、ちょっと待ってください。アネゴ、俺と先生は夕方、仙台まで行って来る」
 愛原:「なに!?」
 高野:「ぬねの!?」

 すると高橋はコンビニの袋の中から、更に横長のチケットケースを取り出した。

 高野:「ちょっと!新幹線代だけでバカにならないのよ!?」
 愛原:「それに、クライアントから仕事の依頼が入ったらどうする!?」
 高橋:「御心配いりません。アネゴ、高速バスで行くから大丈夫だ」
 高野:「あら、そうなの。それなら行ってらっしゃい」
 高橋:「先生、ボスからは『しばらく仕事の依頼は無い』とのことです」
 愛原:Σ( ̄ロ ̄lll)ガーン

 そんなぁ……。
 せっかく仕事に復帰できると思ったのに……orz

[同日16:10.天候:晴 都営地下鉄新宿線菊川駅]

 私は1度マンションに帰ると、取りあえず出張の準備をした。
 それから最寄りの菊川駅に向かった。

〔まもなく1番ホームに、京王線直通区間急行、橋本行きが10両編成で到着します。黄色いブロックの内側まで、お下がりください。都営新宿線内、笹塚までは各駅に停車致します〕

 高橋:「先生にとっては、まだ気持ちの整理が付かないでしょうが、今をおいて他に無いんです」
 愛原:「それはもう何度も聞いたよ」

 電車が轟音を立ててやってくる。
 京王電鉄の車両がやってきた。

〔1番線の電車は、京王線直通区間急行、橋本行きです。笹塚までは、各駅に止まります。菊川、菊川〕

 夕方のラッシュが始まる前なので、そんなに混んではいなかったが、下校中の学生の姿は目立った。

〔1番線、ドアが閉まります〕

 ピンポーンピンポーンとチャイムが2回鳴ってドアが閉まる。
 確か、京王の電車は大抵こんな音ではなかったかな。

〔「この電車は京王線直通、区間急行の大沢……失礼しました。橋本行きです。笹塚までは各駅に止まります。次は森下、森下です。都営大江戸線は、お乗り換えです」〕

 京王の電車、都営線内では自動放送ではなく、肉声放送を使うそうだが、どうやらその通りのようだ。
 その理由は分からない。

 愛原:「取りあえずこれで馬喰横山まで向かって、それから総武快速だな」
 高橋:「そうですね。さすが先生です」
 愛原:「こう見えても、十津川警部みたいな探偵を目指していたからな」
 高橋:「崇高な目標です。でも、本当にサツなんかには就職しないでくださいよ?」
 愛原:「この歳じゃ、今さら採用試験すら受けれねーよ」

 それより、さっきから女子高生達がこちらをチラチラ見ている。
 もちろん私などではなく、高橋だ。
 いかに彼がイケメンと言えよう。
 イケメンが、こんな世界に来るとは……実に勿体無い。
 私は吊り革に掴まりながら高橋に言った。

 愛原:「おい、高橋。さっきからJK達がキミのことを見てるぞ?イケメンだなぁ?おい」
 高橋:「ジェイケー?何のことですか?因みに俺はS系です。あ、でも、先生にだったらM系でも……」
 愛原:「何の話だ!?」

 高橋は天然系イケメンだ。
 いわゆる、残念系イケメンの1つだ。

[同日16:40.天候:晴 東京都中央区日本橋三丁目]

 そろそろ夕方ラッシュも始まろうとする頃、私達はバス乗り場に到着した。

 愛原:「東北急行バス“スイート”号、17時ちょうど発か。まだ時間あるな」

 バスの乗り場は待合所があるわけでもなく、ただ屋根付きのバス停があるだけだった。

 愛原:「夕飯でも買って乗り込むか……」
 高橋:「途中休憩ありますよ、先生?」
 愛原:「10分、15分じゃ、トイレ休憩とか一服がいい所だよ。ほら、ちょうどバス停の真ん前にセブンがあるじゃないか。そこで適当に見繕う」
 高橋:「はい」

 そう考えるのは私達だけではなかった。
 店内には他にも、高速バスの利用者と思しき者達が飲み物を購入していた。

 愛原:「ビール、ビールっと……」
 高橋:「先生も何気に旅行気分ですね」
 愛原:「仕事で行くわけじゃないからな」
 高橋:「ま、それもそうですね」
 愛原:「高橋君は飲まないのか?」
 高橋:「申し訳ありませんが、今そんな気分じゃありませんので」
 愛原:「そうか」
 高橋:「あのクソガキを【ぴー】したら、お供します」

 そんなにあの仮面子ちゃんは、高橋の逆鱗に触れるようなことをしたのだろうか?
 いや、まあ、彼の言う事が本当だとしたら、相当悪どいことはしていることになるが……。

[同日17:00.天候:晴 東北急行バス“スイート”号車内]

 バスに乗り込んでみると、昼行便であるにも関わらず、独立3列シートだった。
 広くてコンセントも毛布も付いていて、なかなか素晴らしいと思ったのだが、何故か高橋は不満顔。
 まさか、この安い値段で更にWi-Fiまで付けろなんて言うんじゃないだろうな?
 都営バスと一緒にしない方がいいぞ。

 高橋:「残念です。俺は先生のお隣に座りたかったのですが」
 愛原:「は?」

 私はこれ以上、深く聞くのはやめた。
 私は後ろの方の進行方向左側の窓側に座り、高橋はど真ん中のB席に座った。
 隣と言えば隣なのだが、他人が顔を合わせないようにと少し位置が前後にズレている。

 愛原:「……なあ?今頃、気づいたことがある」
 高橋:「何でしょうか?」
 愛原:「今から出発したら仙台に着くの、夜中だよなぁ?」
 高橋:「22時過ぎってところですね」
 愛原:「何でそんな時間に着くようにしたし?!」
 高橋:「新幹線より安く、しかしなるべく今日中には向かおうとしたら、こうなったのです」

 私は高橋の考えに、呆れて反論できなかった。
 とにかく、バスは座席を半分ほど埋めた状態で出発した。
コメント (3)
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