報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「東北新幹線やまびこ134号」

2018-07-27 10:22:02 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月11日10:15.天候:晴 JR東北新幹線“やまびこ”134号8号車内]

 ホームへ上がると、既に上り本線である13番線にはエメラルドグリーンの塗装が目立つ列車が発車を待っていた。

 愛原:「8号車だな」
 高橋:「BSAAの奴ら、もっと後ろの車両を取ってくれりゃ良かったのに。先生をナメてます」
 愛原:「だから、いいっつってんだろ。早く乗るぞ。……ほら、リサ」
 リサ:「……あ、はい」

 私達は普通車指定席である8号車に乗り込んだ。
 外は夏の暑さに包まれていたが、車内はクーラーが効いて涼しい。
 “はやぶさ”用の車両を転用しているこの列車は、例え普通車であったとしても、照明はグリーン車と同じ電球色、しかも座席にもピローが付いているというものだった。

 高橋:「この席ですね」
 愛原:「よし。リサは窓の景色でも眺めててくれ」
 リサ:「はーい」

 私は真ん中の席に座り、高橋は通路側に座った。

〔「ご案内致します。この電車は10時15分発、東北新幹線上り“やまびこ”134号、東京行きでございます。停車駅は福島、郡山、宇都宮、大宮、上野、終点東京の順です。電車は10両編成での運転です。自由席は1号車から5号車、グリーン車は9号車、グランクラスは10号車です。お待たせ致しました。まもなく発車致します」〕

 ホームの方から発車メロディの音色が微かに聞こえて来る。

 愛原:「それにしても、BSAAの人が付いて来るのかと思いきや、誰もいないな?」
 高橋:「中国のどこかで発生したバイオハザードの鎮圧で忙しいんですよ。それで、先生にそっちのBOWの輸送を依頼したってわけです」

 そんなに大規模なバイオハザードが発生したのか。
 昔は外国でそんなことが発生したとしても、『暴動』だとか『放射能汚染』とかで誤魔化していたのだが、霧生市のバイオハザード事件以来、少なくとも国内のマスコミはちゃんと『バイオハザード』と報道するようになった。
 北朝鮮の拉致事件が問題化する前は黙って誤魔化していたのに、それが確実になった途端報道するようになったのだから、全くマスコミというものは……。
 列車は定刻通りに発車した。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は東北新幹線“やまびこ”号、東京行きです。次は、福島に止まります。……〕

 高橋:「さすがに東京駅には迎えに来るみたいですけどね」
 愛原:「そうでないと、リサも俺達も宙ぶらりんになってしまう」
 高橋:「俺達は事務所に帰ればいいんです」
 愛原:「こらこら」

 そんなことを話していると、デッキに出るドアの上の電光表示板にニュースが流れた。
 最初は車内の案内とかを流していたのだが、それが流れ終わると、ニュースだの天気予報だのが流れる。

『◆◇◆チョンイル新聞ニュース◆◇◆ 日本時間10日未明に発生した中国◯×省□■市で発生したバイオハザードは、国連組織BSAA極東支部方面部隊の投入により、終息へ向かう見通し。なお、中国当局はウィグル族を中心した犯人グループを拘束』

 愛原:「おー、さすがBSAAだ。精鋭部隊だな」
 高橋:「軍人には勝てませんね」
 愛原:「ウィグル族が犯人って本当かなぁ……?」
 高橋:「さあ……。何しろ中国人のやることですから……」
 愛原:「おっ、何か中国人に対して何か嫌な思い出でも?」
 高橋:「俺が少年院に入る前、怒羅権と一戦やらかしたことがあるんですよ。全く、ウザい連中でした。まだ川崎の在日朝鮮人達とボコし合う方が良かったです」
 愛原:「……DNA的には在日朝鮮人よりも、怒羅権のメンバーの方が日本人に近いからね?」

 怒羅権のメンバーは中国残留孤児の子孫達で構成されている。

 車販嬢:「失礼致します。車内販売でございます」

 そこへ車内販売がやってきた。
 食堂車が全廃されて久しく、自動販売機も全廃されている昨今、車内サービスは粛々と縮小されている。
 この車内販売も御多聞に漏れず、その運命を辿りつつある。

 愛原:「何か飲むか」
 高橋:「はい。サーセン」
 車販嬢:「はい」
 愛原:「アイスコーヒー2つ……と、リサは何がいい?」
 リサ:「オレンジジュース」
 愛原:「オレンジジュースください」
 車販嬢:「ありがとうございます」

 私はポケットからSuicaを取り出した。
 それで支払う。

 車販嬢:「ありがとうございました」

 車販嬢が立ち去ると、私はアイスコーヒーにガムシロップを入れた。
 ミルクは要らないブラック派なのだが、さすがに無糖は苦いな。
 なので私はブラック加糖派または微糖派である。
 だが、そこは高橋君。
 彼はブラック無糖派のはず……って、あれ!?
 高橋君もシロップを入れ始めたぞ?

 愛原:「高橋君、キミ、無糖派じゃなかったっけ?」
 高橋:「ええ。確かにケンカは得意ですが、腕っぷしだけで、口ゲンカはちょっと苦手です」
 愛原:「……何の話?」
 高橋:「俺が武闘派かどうか、ですよね?」
 愛原:「違う!コーヒーに砂糖入れるかどうかだよ!」
 高橋:「さ、サーセン!とんだ聞き間違いを……!確かに前はブラックで飲む派でしたが、俺が少しでも先生に近づく為には、コーヒーの飲み方も参考にしないといけないと思ったんです」

 妙な所が真面目だよな、コイツ。

 リサ:「オレンジジュースは甘くて美味しいよ?」
 愛原:「そりゃあ良かった。リサはオレンジジュースが好きなのかな?」
 リサ:「うん、好き。これのおかげで助かったから」
 愛原:「……リサにも、何か過去の秘話が?」
 リサ:「この前、バカなことをした『4番』はコーヒー飲んだら、ああなったんだもの」
 愛原:「んん?」

 どうやらだいぶ前、リサを始めとするナンバリングされた少女達が集められ、様々な飲み物を与えられたらしい。
 実はその飲み物、コーヒーならコーヒーの、オレンジジュースならオレンジジュースの色や味を付けられた新型ウィルスを液化したものだったらしい。
 生き残った少女達はリサの知る限り、半分以下だったという。

 リサ:「私の飲んだオレンジジュースは、『当たり』だったんだよ。だから、こうして生き残っていられるの」
 愛原:「生き残ったところで、『4番』みたいに暴走したりする恐れもあるわけだからな。本当にリサは……」

 『運がいい』と言おうとしたが、それは止めた。
 もし運がいいのなら、そもそも拉致されることも無かっただろう。
 だが、高橋君は違う考えだったようだ。

 高橋:「もし……お前の親が最悪の虐待野郎で、そこから逃げる為にアンブレラに捕まり、しかも更にそこでも生き延びて先生と出会えたというのなら……スーパーラッキーガールかもしれねぇぜ」
 愛原:「高橋君……?」
 高橋:「『運も実力のうち』って言うからな」
 リサ:「うん。ありがとう」
 愛原:「でも、他にもリサみたいに生き延びて、他にもどこかで生きているコはいるかい?」
 リサ:「それは分かんないけど……。飲んだ後、すぐに解散させられたから……」

 もし他にもリサみたいに生き残っているコがいたら、助けてあげたいけどなぁ……。
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“私立探偵 愛原学” 「帰京へ」

2018-07-25 19:24:29 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月11日10:00.天候:晴 宮城県仙台市内某所→JR仙台駅]

 私の名前は愛原学。
 都内で探偵事務所を経営している。
 郊外でのBOW調査も終わり、検査入院を経て、ようやく帰京できることになった。
 今、私と高橋は仙台駅に向かうタクシーに乗っている。
 ここまではいいのだが、不思議なのはそのリアシートにはちょこんとリサ・トレヴァーも乗っていること。
 私はついリサとは病院でお別れするものと思っていた。
 だが退院手続きを取っている時、BSAA職員から頼まれたのだ。
 リサを東京まで連れて行ってほしいと。
 何でも日本地区本部に連れて行きたいそうだが、こんな時に中国で比較的大きなバイオハザードが発生し、輸送用ヘリもそちらで優先的に使うことになった為、陸送するしか無くなったのだという。
 それなら装甲車で運べば良いではないかということだが、それもまた中国で使うことになってしまった。
 かといって自衛隊に頼むと高くつく。
 しかもよく見ると、リサは私に懐いているので、私が輸送すれば安全だろうという判断をしたというのだ。
 さすがに夜中のあれを見た以上、1つ返事で受けにくい状態だったのだが……。

 高橋:「先生。いくら報酬が高いからって、こんな危険な仕事引き受けないでくださいよ」
 愛原:「ま、まあいいじゃないか。高野君の話じゃ、まだ探偵の仕事の依頼が来ていないというんだし。当面の生活費は確保しておく必要がある」
 高橋:「どうなっても知りませんよ」
 愛原:「降りるなら降りていいぞ?」
 高橋:「いえ。俺は先生と地獄の果てまでも付いて行く決心はしてますんで」
 愛原:「じゃ、俺の決定に賛成ってことでいいな」
 高橋:「しょうがないですね」

 助手席後ろのシートに座っているリサは、物珍しそうに窓の外を見ていた。

 リサ:「これが車……」

 よっぽど珍しいのか。

 愛原:「そんなに珍しいかい?」
 リサ:「いつも移動はヘリコプターとか、トラックの荷台だったから……」

 荷物扱いだな。
 元は普通の少女だっただろうに、BSAAも微妙かな。
 いや、こうして私に託しているという所は英断かもな。
 そこは旧アンブレラと違うかもしれない。

 愛原:「そうか。じゃあ、今日は東京まで珍しい乗り物で行くことになるよ」
 リサ:「ほんと!?」
 愛原:「ほんとほんと」

 私はリサの頭を撫でて答えた。
 手触りといい、髪質といい、この辺は人間の少女と変わらないのになぁ……。
 こうして私達は、無事に仙台駅のタクシー降り場に到着した。

 愛原:「タクシーチケットで払います」
 運転手:「どうぞ」

 タクシーチケットで払うの久しぶりだなぁ……。
 これはBSAAの職員からもらったものだ。
 リサの輸送を手伝う代わりに、その報酬と交通費は全て負担してくれるそうだ。
 私は運転手から渡されたボールペンで料金を記入した。

 運転手:「ありがとうございました」
 愛原:「どうも」

 私達はタクシーを降りた。

 高橋:「プリウスのリアシートに3人は狭いですよ」
 愛原:「リサがまだ女の子で良かったな」
 高橋:「そういう問題じゃ……」
 愛原:「乗り換え先はタクシーのリアシートよりも広いぞ」
 高橋:「BSAAの奴ら、グリーン車くらい用意してくれなかったんですか」
 愛原:「別にいいだろ。往路みたいな高速バスよりは」
 高橋:「すいません!」

 私達は駅構内に入った。

 リサ:「おお〜!人がいっぱい!」
 愛原:「東北一のターミナル駅だからな。まだ夏休みじゃないから、こんなもんだ」
 リサ:「これだけ人が多いと、一思いに薙ぎ払いたくなっちゃうね〜!」
 愛原:「するなよ!?するなよ!?絶対するなよ!?」
 高橋:「先生、いっそのこと、こいつマジで殺……」
 愛原:「さて、早く乗り場に行こう!」

 私達は駅構内に入ると、上の階へ昇るエスカレーターに乗った。

 高橋:「先生。昔はどこぞの空港で、バイオテロが発生したというじゃありませんか。ここも油断できませんよ?」
 愛原:「未だに地下鉄以外の鉄道駅でそんな話は聞かないから大丈夫だろ。いざとなったら……リサに任せてみよう」
 リサ:「ゾンビくらい一網打尽だよ!」
 高橋:「アホか!……先生、俺が言いたいのは……」
 愛原:「分かってる。俺は常に真剣に考えてるぞ」
 高橋:「さすが先生です」

 2階は在来線乗り場。
 新幹線改札口は3階にある。
 私達は更にエスカレーターで3階に上がった。

 愛原:「よく普通車指定席3人横並びの席を確保できたものだ」
 高橋:「もしかしたら奴ら、先生が必ず引き受けると予想していたのかもしれませんね?」
 愛原:「はは、そうかもな」
 高橋:「ナメやがって……!」
 愛原:「ま、旧アンブレラの織り込みに巻き込まれるよりはマシなんじゃない?BSAAは正義の組織だからな。悪の組織に恩を売ったところで、後でロクでもないことになるのがベタな法則だが、正義の組織なら協力しておいても損は無いと思うんだ」
 高橋:「それは俺も同意見です」

 3階に着くと新幹線改札口がある。
 もちろん今は自動改札機がズラッと並んでいる。

 愛原:「キップは1人ずつ持とう。リサは窓側がいいな?」
 リサ:「うん!」
 高橋:「『うん』じゃなくて、『はい』だろ!」
 リサ:「はい!お兄ちゃん!」
 高橋:「う、うむ。素直でよろしい」

 おやおや、高橋君もリサが妹みたいに思えて来たかなぁ?

 愛原:「自動改札機を通り方は知ってるか?」
 リサ:「んーとね……クランクを拾って来て開けるー」
 愛原:「それは秘密の研究所とか、そこに至る道に仕掛けられたゲートを開ける時にやろうね」

 “バイオハザード”と言えばクランクだ。
 謎解きのアイテムとして欠かせないものだ。
 実写映画が何だか物足りないのは、こういうクランクとかアイテムボックスとかが出てこないからだと私は思う。

 愛原:「こうやって、ここにキップを入れる。するとゲートが開いて、向こうの穴からキップが出て来るから、こうやって通ってキップを取る」
 リサ:「おお〜」

 恐らく普通の人間の少女だった頃は、電車に乗ったことくらいあるだろうに、BOWとして改造されてからはそういう機会も無くなった上、人間だった頃の記憶も消されて、新鮮味のあるものとなっているのだろう。

 高橋:「先生、保安検査場はこの先ですか?」
 愛原:「キミは真人間だった頃の記憶はちゃんとあるよね?」

 高橋が真顔で聞いているのは、彼が比較的表情に乏しい者であり、今の質問は冗談で聞いているものと信じたい。
 私達はエスカレーターで更にホームへと向かった。
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“私立探偵 愛原学” 「まあ、夜の病院って言ったらホラーだしね」

2018-07-25 10:18:27 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月11日02:00.天候:雷雨 宮城県仙台市内某所 とある大病院]

 私の名前は愛原学。
 都内で探偵事務所を経営している。

 愛原:「ん……」

 私はふと夜中に目が覚めた。
 2人用の病室。
 隣のベッドでは高橋君が寝ている。

 愛原:「トイレ……」

 私は高橋君を起こさないよう、そっとベッドから出た。
 そして、廊下に出るのだが……。
 うん、まるであの時の、廃校地下の秘密研究所のような雰囲気だ。
 もっとも、ここは廃病院ではなく、れっきとした現役の病院。
 ゾンビが歩いていたり、リサの元仲間のボスクラスのクリーチャーが歩いていようはずがない。
 いや、当のリサはいるのだが、普段は人間の姿をしている。
 そしてこの時間だから、スヤスヤ寝ていることだろう。
 私は暗い廊下をトイレに向かって進んだ。

 愛原:「ん?真っ暗だ……」

 トイレの中も真っ暗だったので、スイッチはどこだろうかと一瞬探してしまったが何のことはない。
 カチッという音がして、眩しいほどの照明が点いた。
 まあ、人感センサー式のトイレというわけだ。
 私は急いで奥の便器に走った。

 高橋:「先生……」
 愛原:「わっ、びっくりした!」

 突然、トイレの入口の方から声を掛けられた。
 振り向くと、そこには眠そうな顔の高橋がいた。

 愛原:「何だ、高橋君か。びっくりさせるな」
 高橋:「ヒドいじゃないですか。俺は先生と地獄の果てまでもお供しますと言ったはずですよ」
 愛原:「いや、覚えてないし!てか、地獄までは付いてきても、夜中のトイレまで付いて来るな!」
 高橋:「いいえ、先生。あの船の中で俺は言いましたよ」
 愛原:「だから船の中の記憶が無いんだって!」

 いま高橋、さりげなく夜中のトイレまで付いて来るなという私の指示を否定しなかったか?
 まあいい。

 愛原:「早く用を足して戻るぞ」
 高橋:「はい」

 私は便器から離れると洗面所に向かった。
 バシューという音を立てて、センサー水洗式の水が流れる。
 他の誰もいない便器からも、だ……!

 愛原:「知っててもびっくりするんだよなぁ。いきなり流れられると」
 高橋:「ああ、分かります」

 センサー水洗式小便器の場合、長時間使用が無くても勝手に水が流れることがある。
 便器によってはその旨表示していることもあるのだが、何しろ流れ方が盛大な為、こういうシンと静まり返っている中で流れ出すと、そういう仕様であると分かっていてもびっくりするものである。

 高橋:「そっちの大便器でも勝手に水が流れることがありましたよ」
 愛原:「ほお?」
 高橋:「センサー式は便利ですけど、その分、ちょっと不気味な所もありますよね」

 だが、そこで私はあることに気づいた。

 愛原:「……おい、高橋」
 高橋:「何でしょうか?」
 愛原:「個室の大便器のは……ボタン式だぞ?」
 高橋:「ええっ!?」
 愛原:「……お前、寝ぼけてたんじゃないのか?」
 高橋:「ですかねぇ……」

 その時だった!
 ザザザーッと音がして、誰もいないはずの大便器の水が流れた。

 愛原:Σ(゚Д゚)
 高橋:(゚Д゚;)

 1番奥の便器だ。
 私達はそーっと個室を覗いてみた。
 ……当然ながら、誰もいない。
 そして、やはりそこの便器も壁のボタンを押して水を流すタイプだった。

 高橋:「せ、先生……?」
 愛原:「さ、病室に戻ろうか。高橋君」

 私は極めて平静を装い、高橋の肩をポンと叩いた。

 高橋:「そ、そうですね」

 ゾンビやクリーチャー相手ならもう慣れているのだが、さすがにこういう目に見えない不可解な現象は慣れていない。
 私達は再び薄暗い廊下に出た。
 と、その時だった。
 近くの階段の上から、男の叫び声がした。

 愛原:「何だ!?」
 高橋:「他のフロアでも、何か出たんじゃないですか?」
 愛原:「ここでは何も出なかった!何も無かったぞ!いいな?高橋君!」
 高橋:「は、はい!」

 ところが止せばいいのに、私と来たら……。

 愛原:「ちょっと見に行ってみようか?」
 高橋:「マジですか?」
 愛原:「もちろん、高橋君も来るよな?『地獄の果てまでもお供する』んだろ?」
 高橋:「た、確かに……」

 私と高橋君は階段を上った。
 この病院は6階建てで、私達がいるのは5階だ。
 だから、最上階で何かあったと見える。
 私達が階段を上り、最初の踊り場まで行こうとした時だった。

 高橋:「!?」

 突然、背後の廊下をサーッと行く者がいたような気がした。

 愛原:「どうした、高橋君?」
 高橋:「気のせいですかね。今、そこの廊下をサーッと何かが行ったような気がするんです」
 愛原:「おいおい、やめてくれよ。もしクリーチャーがいたとしても、叫び声は上から聞こえたんだぞ?」
 高橋:「まあ、そうですよね」
 愛原:「だから早く上に行き……」

 ところが、そんな私達の困惑をよそに、ザッザッザッと廊下を横切って行く者がいた。

 愛原:(・.・;)
 高橋:(・。・)

 しばらく目を点にしていた私達。

 愛原:「今の……何だと思う?」
 高橋:「クリーチャー……ですよね?」
 愛原:「追うぞ!」
 高橋:「はい!」

 幽霊には免疫が無いのでどうしようも無い私達だが、クリーチャー系なら任せとけ!
 当然のことながら、クリーチャーなど見たことも無い人達を次々に驚かせていく。
 だが、そのクリーチャーは脅かすだけで何もしない。

 高橋:「! 先生、あいつ、もしかして……!?」
 愛原:「多分な……」

 色々な姿へと変化していく。
 4足方向のトリケラトプスだの、コモドオオトカゲみたいな形態になったりだの、何だか暴走しているようにも見えるが……。
 最後は病室へと戻って行く。
 部屋に入る直前、リサ・トレヴァーは人間の姿に戻っていた。

 高橋:「テメ、寝てんじゃねぇぞ、コラ!」

 高橋君はリサの病室の前で伸びている黒服の胸倉を掴んで引き起こした。

 愛原:「高橋君。もしかして、リサは夢遊病だったのか?色々と変化しながら廊下を歩き回るとは……」

 ホラーの正体なんて、案外地味なものだよ、うん。
 ……いや、BOWとして改造されたリサを地味だと思う私がおかしいのか?
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“私立探偵 愛原学” 「入院中の迷探偵」 2

2018-07-23 19:11:36 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月10日15:00.天候:晴 宮城県仙台市内某所 とある大病院]

 BSAA職員からの事情聴取は、およそ2時間に渡って行われた。
 そこで、私が高橋君と別れてからの行動も明らかになった。
 高橋君達はトラップにはまって地下に落ちたが、すぐにあの部屋に入ったわけではないらしい。
 研究施設内の他のトラップ、センサーに引っ掛かると天井に仕掛けられたマシンガンが発砲してくるというものに攻撃された。
 映画などではよくある仕掛けだが、まさか研究施設にも仕掛けられているとは……。
 佐藤君と共に逃げ回り、あの部屋に飛び込んだはいいが、今度はハンターに襲われた。
 それで佐藤君はハンターの即死攻撃『首狩り』に遭って死亡、高橋君は室内にあったハンドガンを拾い、それでハンターを倒した。
 高橋君の持っていたハンドガンはマグナムだった為、ハンターでも簡単に倒せる殺傷能力を持ち合わせていたらしい。
 それからしばらくして、リサの仲間だった『4番』が現れた。
 マグナムを撃ち込んでも、彼女は倒れなかったらしいな。
 うん、そうだそうだ。
 よくよく思い出してみると、確かにあの発砲音は『ドゴン』という重い音だった。

 BSAA職員:「ふむ……。派遣隊の証言と食い違う所は無いな」
 愛原:「ウソをついてもしょうがないでしょう。ヘタすりゃ、私達が逮捕されるんですから」

 私は肩を竦めた。

 愛原:「でも、実際どうなんですか?銃を手に入れてバンバンやっていたから、逮捕ですか?」
 BSAA職員:「いえ、BSAAはあくまでバイオテロの予防、鎮静、そしてその関係者に対する逮捕権はありますが、それ以外の捜査権はありませんので。派遣隊が、あなた達が銃を持っていたことは現認しましたが、それを警察に通報する義務は無いのです」

 さすがBSAAだ。
 国連直轄機関である彼らの活動は、国内法に縛られることはないという噂は本当のようだ。

 BSAA職員:「もしもあったところで、霧生市の英雄さん達をどうこうするつもりはありませんがね」
 高橋:「さすがだな」
 愛原:「大したことはないですよ。たまたま私達は生き残っただけのことで。……因みに今回の事件、BSAAはどのように処理するつもりですか?」
 BSAA職員:「ヘタに隠すようなことはしません。素直に旧アンブレラ日本支部の秘密研究所に隠されていたウィルスが漏れ出し、近隣の人間に感染してゾンビ化させた。その犯人たる『リサ・トレヴァー4号』はBSAAが始末したと発表します」
 高橋:「幸い、街の方は大丈夫だったんですね」
 BSAA職員:「ええ。幸いなことです」

 BSAA職員は大きく頷いた。

 愛原:「あれだけBSAAが捜査したのに、まだ秘密研究所の全てを見つけられていなかったとは……」
 BSAA職員:「どうも、日本支部とて全てを知っていたわけではないようですな」
 愛原:「ええっ?」
 BSAA職員:「旧アンブレラが表の顔と裏の顔とを使い分けていたことは御存知ですね?」
 愛原:「ええ。『世界の人々を病の雨から守る傘でありたい』という正義の製薬会社としての顔と、その実、『生物兵器を開発して他国政府やテロ組織に売り捌いてウハウハの生活』という悪の製薬会社と……」
 BSAA職員:「日本支部は表の顔を出す為に設立されたそうです。そういう場合は現地法人として設立する場合が殆どでした」
 愛原:「アンブレラ・コーポレーション・ジャパンでしたね。にも関わらず、秘密の研究所が造られた理由は?」
 BSAA職員:「もちろん、アメリカ本部が使う為ですよ。現地への業務指導という体裁でね」
 愛原:「怖い怖い」
 BSAA職員:「とにかく、捜査協力に感謝します。この病院の入院費用などは全てBSAAで持たせて頂きますので……」
 高橋:「そりゃ当然だろ」
 愛原:「高橋君。……リサはどうなりますか?あの、『2番』の方です。彼女は悪いコでは無いようですが……」
 BSAA職員:「日本政府が目を付けているようですね。恐らく、将来はエージェントにでもするんじゃないでしょうか。残念です。もしも彼女が備え付けられた力を完璧に制御できるというのなら、むしろBSAAで働いてもらいたいものですが……」
 高橋:「ヒャハハハッ!化け物を倒すのが仕事のBSAA様が、化け物を味方にすんのかよ!」
 愛原:「高橋君、やめなさい。それじゃ、退院したらまたお別れかな。まだ年齢的には12〜13歳くらいだってのに、住む所とかどうするんだろ?」
 高橋:「また研究所で暮らすんじゃないですか」
 愛原:「日本政府としては研究自体は終わったんだろう?」
 高橋:「俺達には知ったこっちゃないですよ」
 BSAA職員:「…………」

 BSAAの事情聴取が終わると、主治医の先生の回診があった。
 検査結果には問題無いということで、予定通り、明日には退院できるだろうとのこと。
 もっとも、これでいきなりゾンビ化しようものなら、一体どうなることやら。

 この後は夕食までヒマなので、私達は再びリサの所に行くことにした。
 個室ではあったが、あえて病棟内のホールまで行き、そこで話すことにした。

 愛原:「コーヒーでも飲むか」
 高橋:「ゴチです!」
 リサ:「ゴチです」
 愛原:「高橋君、リサがマネするから言葉遣いには気を付けなさい」
 高橋:「さ、サーセン!……いや、すいません」

 紙コップの自販機なので、1人1人入れることになる。

 リサ:「私、オレンジジュースがいいです」
 愛原:「分かった」
 高橋:「キサマ……!先生はコーヒーを奢って下さると仰っているというのに、それを否定するとは……!」
 リサ:「でも、オレンジジュースの方が安いよ、お兄ちゃん?」
 高橋:「う……それなら許す」

 ほお、珍しい。
 あの高橋君が言い負かされるとは……。
 彼を言い負かすことができるのは、高野君だけだと思っていたのに。
 もっとも、10代前半とはいえ、この頃の女の子は結構しっかりしてるからな。

 愛原:「リサの方も何とも無いみたいだな。俺達は明日には退院できるみたいだ」
 リサ:「私はどうなるのかなぁ……?」
 愛原:「日本政府がキミをエージェントとして雇いたいらしいぞ?それでなくても、BSAAで働いてもらいたいみたいな話もある。だから君の将来については、何も心配しなくても大丈夫だぞ」
 リサ:「私も、先生みたいに探偵のお仕事やってみたいなぁ……」
 高橋:「ガキにゃ無理だよ」
 愛原:「まあまあ。まだキミは中学生くらいだからね、取りあえずは勉強してからってことになるかな」

 リサには恐らく普通の少女だった頃があったはずだ。
 だが、その記憶を消されてしまっているらしい。
 彼女の記憶にあるのは、自分がBOWとして造られたというもの。
 だが、霧生市で私達が手に入れた情報とは、少し違う。
 そのことには触れず、私達はリサに外の世界の話をしてやり、リサは将来のことを話した。
 そんなことをしているうちに夕食の時間が迫って来たので、私達はまた部屋に戻ることにした。
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“私立探偵 愛原学” 「病院内で」

2018-07-23 10:25:28 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月10日08:15.天候:晴 宮城県仙台市内某所 とある大病院]

 私と高橋君は、別の病室に入院しているリサを訪ねて行った。
 どういうわけだか、病室の入口の名札には『匿名希望』と書かれていた。
 こういうことは、たまにあることだ。
 例えば、患者がヤクザ関係者で、抗争のケガで入院した場合とか……。
 リサの場合は、多分本名が明らかではないからだろう。
 リサ・トレヴァーというのは、アンブレラ・コーポレーションが全盛期だった頃、強制的に被験者にされたアメリカ人の少女のことを言う。
 日本でも彼女と似た運命を辿ったコがいて、今正に私達がこれから入る病室の中に彼女がいる。
 アメリカ人のリサは最終的には研究所の爆発に巻き込まれて死亡したとされるが、こちら、日本人のリサはちゃんと生きている。
 前者はウィルスの力を半ば制御できずに暴走したが、私が見ている限り、こっちのリサはほぼ制御できているようだ。

 愛原:「おはよう」

 私はガラガラとドアを開けると、そこにいたのは……。

 リサ:「先生、おはよう!」

 仮面を外し、上半身裸で着替え中のリサだった。
 膨らみかけの胸が視界に飛び込んでくる。

 高橋:「オマエ、何やってるんだ!胸を隠せ!」
 リサ:「ええ〜?」

 もしかして、そういう恥じらいを知らないまま過ごしたのか?
 それともウィルスの影響だろうか?

 高橋:「先生も中坊ガキの裸くらいで赤くならないでください!」
 愛原:「いや、そりゃビックリするだろ!」
 リサ:「先生達も元気で良かったね!」

 取りあえず掛布団で胸を隠しているリサ。

 高橋:「いいからオマエは服を着ろ!先生が目のやり場に困ってるだろ!」

 高橋君は布団の上に置かれた服をリサに手渡した。
 何だか高橋君が頼もしいなぁ。

 愛原:「高橋君、面倒見がいいな」

 リサがようやく寝巻を持たない入院患者用のそれを着始めると、ようやく私は顔を元に戻した。

 高橋:「妹がいましたのでね、よく俺が面倒を見させられたものです」
 愛原:「へえ……って、お前、妹さんがいたんだ?」

 すると高橋君はハッとなった。

 高橋:「まあ、一応は……」

 ん?どうやら、あまり深入りした質問はしない方が良さそうだぞ?

 リサ:「先生達はいつ退院するの?」
 愛原:「予定だと明日だよ。やっと東京に帰れるな」
 高橋:「きっと帰る頃には、仕事の依頼が山ほど来ていますよ」
 愛原:「……だといいんだけどねぇ……」

 私は遠い目をして答えた。

 愛原:「リサはどうなるんだ?また、政府直轄の研究施設にでも戻るのか?」
 リサ:「あ……うん……」

 どうも反応が悪い。
 やはり、戻る事になるのかな?
 と、そこへドアがノックされた。

 愛原:「はい?」

 ガラガラとドアが開けられると、先ほどの黒服の男が入ってきた。

 男:「失礼ですが、面会はこの辺で。まもなく検査室へ向かう時間ですので」
 愛原:「あ、はい。俺達も9時からだっていうし、そろそろ戻るか」
 高橋:「ええ」
 愛原:「じゃあな。時間があったら、また来るから」
 リサ:「うん!」

 私はリサの右肩をポンポンと叩いた。
 昨夜、研究施設で変化した時とは打って変わり、ちゃんとした人間の感触である。
 アメリカのリサ・トレヴァーは暴走して変化したということだが、こちらのリサは変化も自在にできるのだろうか。

 愛原:「9時から何をやるんだ?」
 高橋:「別の実験でしょう」
 愛原:「実験かよ。検査だろ?」
 高橋:「どうせ霧生市の生き残りは、全員が被験体みたいなものですよ」
 愛原:「全く。いいモルモットだな。キミの場合は、ケガの治療もあるだろ」
 高橋:「まあ、そうなんですけどね」

 自分達の病室に戻りがてら、そんなことを話す。

 愛原:「それにしても、素顔は可愛いコだったな。おかっぱ頭がよく似合う」
 高橋:「先生は、ああいうのがタイプなんですか?アネゴだって、似たような髪型ですよ?」
 愛原:「高野君のはちゃんとセットされたショートだろうが。しかし、ああいうナチュラルな感じが通用するのも、10代ならではだろう。きっと将来は美人になるぞ」
 高橋:「将来……ですか。本当に、あいつにそれがあるんですかねぇ……」
 愛原:「おいおい。何か不吉な予言をするんじゃないだろうな?」
 高橋:「いえ……失礼しました」

[同日12:00.天候:晴 愛原と高橋の病室]

 昼食が運ばれてくる。
 何の食事制限も食らっていない私達には、普通の給食が出る。

 愛原:「普通に採血をしたり、CTスキャン取ったりと、何だか人間ドック受けてるみたいだな」
 高橋:「まあ、検査というなら、こんなものでしょう。抗体があるかどうかなんて、昨夜、処置室に入った時にやったことで十分分かるでしょうし」
 愛原:「そうだな」

 そこへ誰かが入ってきた。
 黒いスーツの男であるが、リサの部屋の前で警備をしている者とはまた違う者であった。
 リサの部屋の者と違って、サングラスは掛けていない。

 BSAA職員:「お食事中失礼します。私はBSAAの者です。昼食後は事情聴取を行いますので、このままこの部屋で待機していてください」
 愛原:「食べてすぐかい?」
 BSAA職員:「もちろん、食後の一服の後でで結構です。昨夜のことを詳しく伺いたいので」
 愛原:「ああ、なるほど。いいですよ」

 まあ、BSAAから見れば、私達は不審者だからな。
 因みに昨夜、既に病院で待ち受けていた別のBSAA職員には私の名刺を渡し、霧生市のバイオハザードの生き残りであることは伝えていたのだが……。

 BSAA職員:「それではよろしくお願いします」

 職員はそう言うと、病室を出て行った。

 愛原:「あの特殊部隊の隊長さんと比べて、比較的柔らかい態度だったな」
 高橋:「昨夜ここに収容されてから、少し時間が経ちましたからね。先生が名刺を渡されたことが、功を奏したのでしょう。先生のことを調べているうちに、俺達が不審者ではないということくらいは分かったのかもしれません」
 愛原:「なるほどな」

 私は頷いて食を進めた。
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