報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「死せる南里、生ける弟子達を走らす」

2016-11-23 21:01:36 | アンドロイドマスターシリーズ
[20◯×年5月11日早朝 天候:晴 宮城県仙台市泉区 南里ロボット研究所]

 南里:「うおおおおおっ!?」
 敷島:「どうしました、所長!?」

 敷島が出勤すると、ダイニングから南里の叫び声が聞こえて来た。
 急いでダイニングへ向かうと、南里が青い顔をしてダイニングに出るドアを固く閉じて、そこに立ち尽くしていた。

 南里:「し、敷島君。ワシはとんでもない化け物を作り出してしまった……!」
 敷島:「ええっ!?」
 南里:「あれはきっとフランケン・シュタインの怪物ですら、妖精のようであろう」
 敷島:「そ、そんなにおぞましいものをいつの間に!?」
 南里:「今朝方……」
 敷島:「今朝方!?そんな早くから何の実験やってたんですか!?……てか、この奥に?」
 南里:「う、うむ……」
 敷島:「み、見ていいですか?」
 南里:「ま、待て!ここは危険だ。エミリーを起動させてからの方が良い。ま、待っておれ。ワシが今、エミリーを起動してくる。いいか?キミはここでヤツがダイニングから脱走しないように見張っててくれ」
 敷島:「わ、分かりました」

 南里が研究所の奥の方へ立ち去る。
 因みに当時、エミリーは24時間稼働ではなく、夜間はシャットダウンをしていた。
 当時はバッテリーが貧弱で、連続8時間しか稼働できなかったからである。

 敷島:「ちょ、ちょっとだけ覗いてみよう……」

 敷島はまずはドアに耳を押し当ててみた。
 しかし、中からは呻き声も唸り声もしない。
 本当に中にクリーチャーがいるだろうか?
 無論、こうして背後をお留守にしていると、いつの間にか件の化け物は背後に回っていて、いざドアを開けようとした時に襲われる死亡フラグでもあるのだが。
 敷島はそっとドアを開けてみた。

 敷島:「!!!」

 そして敷島、確かにダイニングテーブルの上に緑色をしたゴソゴソと蠢くモノを見てしまったのである。
 慌ててドアを閉める敷島。

 敷島:「あ、ありゃ……!」

 しばらくして南里がエミリーを連れて戻って来た。

 南里:「敷島君!中を見たのかね!?え?見たんじゃな!?」
 敷島:「えっ?ええ……。何か、とても気持ちの悪い生物のような……ん?生物?」
 南里:「良いか、エミリー?ワシがドアを開ける。そしたらお前は化け物を取り押さえるんじゃぞ?いいな?」
 エミリー:「イエス!ドクター南里」

 当時のエミリーは『博士』の英訳を『ドクター』としていた。
 今は翻訳ソフトの更新により、『ドクター』から『プロフェッサー』に変わっている。

 敷島:「ちょ、ちょっと待ってください、所長!」
 南里:「何かね!?今、化け物対策をするところじゃぞ!?」
 敷島:「所長はロボット博士でしょう!?どうして生物の化け物が作り出せるんですか!?一瞬、“バイオハザード”的なノリになっちゃったけど……」
 南里:「だまらっしゃい!あれを化け物と呼ばずして何と呼ぶ!?できたものは仕方なかろう!」
 敷島:「でも……!」
 南里:「ええい!デモもストもあるか!エミリー、行けっ!」
 エミリー:「イエス!ドクター南里!」

 エミリーは右手をショットガンに変形させ、ダイニングに飛び込んだ。
 その後ろから続く敷島。

 敷島:「こ、これは……!?」
 エミリー:「分析・します」
 敷島:「いや、分析しなくても分かる!これは乾燥ワカメを戻し過ぎたワカメだ!!」
 南里:「や、やはり、そうか……。いや、実はな……」
 敷島:「実は?一体何の実験をしようとしていたんですか?」
 南里:「実験というか……朝食に好物のワカメスープを作ろうとしていたんじゃが、どうも加減を知らんでな。目分量でやった結果だったのじゃ」

 ズコーッ!!

 敷島:「いやいやいや!好きなら加減を覚えましょうよ!」
 南里:「う、うむ……。それでモノは相談なんじゃが、これ、元に戻せんかね?」
 敷島:「どうしてあなたはそういうことしか思いつかんのですか!」

 この時、敷島は確信した。
 バカと天才は紙一重である、と。

[2016年11月22日07:00.天候:曇 東京都江東区東雲・某マンスリーマンション]

 シンディ:「社長、社長。起きてください。朝ですよ」
 敷島:「……ん?おお、もうそんな時間か」

 敷島はシンディに起こされた。
 だが起き上がってみると、何故か手に醤油を持っているシンディがいた。

 敷島:「おまっ、その醤油……?!」
 シンディ:「何でも、メイドロイドの間では、マスターのモーニングコールに醤油を使うと聞いたもので」
 敷島:「それは稼働実験中の七海のことだろ!?」

 恐らくこのまま敷島が起きなかったら、きっとシンディは敷島の口の中に醤油を流し込んでいたことだろう。

 シンディ:「朝食の支度はできていますので、早く起きてくださいね」
 敷島:「分かってるよ」

 シンディが部屋を出て行くと、敷島はベッドから起き上がって洗面台に向かった。

 敷島:(昔のことが夢に出てくるなんてな……。あの頃はまさか、ミク達を引き連れて会社を興すなんて考えもしなかったな……)

 バシャバシャと顔を洗う。

 敷島:(そして、殺戮ロイドのシンディが今や俺の秘書兼護衛ロイドになっているとは、夢にも思っていなかった。鉄屑になっているくらいは想定していたんだが……)

 前期型のシンディはその通り、スクラップ処分にされた。
 そこで一旦は、シンディの存在がこの世から消え去ることになる。

 朝の身支度を終えた敷島は、ダイニングテーブルに向かった。

 シンディ:「マスターからメールがありまして、『先に仙台に行く』とのことでした」
 敷島:「ん?トニーはどうするんだ?」
 シンディ:「奥様が連れて行かれるそうです。社長は私と一緒に後で来るようにと……」
 敷島:「ふーん……?」
 シンディ:「来年度からDCJ仙台支社ができますので、その関係ではないかと思います」
 敷島:「本家本元のDCアメリカ本部は、ジャニスとルディ絡みのせいで業務停止処分食らったのにねぇ……。こりゃ多分、DCJさんはきっとアメリカから独立するつもりだぞ」
 シンディ:「そこまでは分かりませんが……」

 本社が業務停止中なのに、現地法人たる日本では逆に業務拡大をしているという不思議。

 敷島:「ま、外資系のことはよく分からんよ」

 その外資系企業に、一番最初に就職した会社を乗っ取られた敷島であった。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「廃銃令」 6

2016-11-22 21:04:50 | アンドロイドマスターシリーズ
[11月8日04:46.天候:曇 埼玉県さいたま市大宮区内某所 敷島達の入居しているマンション]

 敷島達の住んでいるマンション。
 そこには納戸がある。
 間取りでSと呼ばれる場所だ。
 Sとはサービスルームの略で、本来は居室に適さないデッドスペースとしての空間を指す。
 このマンションとしては3帖ほどの広さで、フローリング床の洋室なのだが、多くは物入れとして使われていることが多い。
 畳を3枚縦に並べてちょうど良い、細長い空間だ。
 その中間辺りには、隣の部屋の収納スペースの関係上、高さ1メートルほどの窪みがあり、そこはまるで14系客車のB寝台車にある下段寝台のようである。
 敷島家では物入れというよりも、メイドロイドの控え室のような感じにしていた。
 このマンションでは、物置が別にあるからである。
 で、週末はシンディも使っている。
 シンディは敷島エージェンシーでは社長秘書兼ボディガード(兼浮気防止監視役)だが、敷島家ではメイドロイドである。
 マルチタイプはその場面に応じて、様々な用途に使えるのが特長というわけだ。
 で、このマルチタイプ、他にもこんな用途がある。
 シンディとメイドロイドの動力は基本、バッテリーである。
 大抵は深夜電力で充電を行う。
 それも朝にならないうちに充電は終了するのだが、タイマーでもって朝までスリープ状態になっていることが多い。
 で、それが自動的に解除される場合がある。

 シンディはカッと目を開いた。

 シンディ:「緊急地震速報受信!」

 納戸を出ると同時に起こる大きな揺れ。
 で!

 シンディ:「お坊ちゃま!?」

 何故か敷島夫妻の一人息子のトニーが廊下をハイハイしていた。
 直後、本棚から大きな本がトニーの上に落ちる!

 シンディ:「ロケット・アーム!」

 左手から有線ロケットアームを飛ばし、本を殴り飛ばした。
 その後で、急いでトニーを抱き抱える。

 敷島:「何だ何だ!?」

 直後に敷島がトイレから出てくる。

 シンディ:「社長!お坊ちゃまが大変だったのよ!」
 敷島:「!!!」

[同日07:00.天候:晴 敷島家]

〔「……今日午前4時46分頃、埼玉県南部を震源とするマグニチュード5.3の地震が発生し、最大震度はさいたま市大宮区で震度5弱……」〕

 このくらいの揺れでもライフラインは止まっていなかった。
 メイドロイドとマルチタイプは、主人達の為に朝食の支度をしている。

 シンディ:「マスター、お先にトーストをどうぞ」
 アリス:「Thank you.それにしてもタカオ、どうしてトニーを廊下に置いとくの!?」
 敷島:「何度も聞くなよ!トニーがトイレに行きたいって言うから、一緒についてったんだよ。で、ついでに俺も用を足そうと思って、その間、トニーには外で待っててもらったわけだ」
 アリス:「だからそれが間違いだっての!トニーはまだ1歳よ!?」
 敷島:「まさか、あのタイミングで大きい地震が来るなんてさぁ……」
 アリス:「シンディ、あなたは優秀よ。さすがは、じー様が設計した最高傑作ね」
 シンディ:「お役に立てて何よりです」

[同日10:00.天候:晴 東京都江東区豊洲 豊洲アルカディアビル18F 敷島エージェンシー]

 敷島:「あー、今朝はエラい目に遭った」
 井辺:「おはようございます、社長。今朝は埼玉で大きな地震があったようですが、大丈夫でしたか?」
 敷島:「トニーが広辞苑に押し潰されるところだった」
 井辺:「ええっ!?御子息が!?」
 敷島:「シンディが広辞苑を殴り飛ばしてくれたおかげで助かった」
 井辺:「さすがシンディさんですね」
 シンディ:「銃で撃ち抜くという手もあったけど、まあロケット・アームで何とかなったわ」
 井辺:「さすがです」
 敷島:「しかし、これでますます銃は要らないってことになってしまうな」
 一海:「社長、平賀博士からお電話です」
 敷島:「おっ、分かった」

 敷島は社長室に入ると、すぐにその机の電話を取った。

 敷島:「はい、お電話代わりました。敷島です」
 平賀:「ああ、敷島さん。今朝、埼玉で大きな地震があったようですが、大丈夫でしたか?」
 敷島:「ええ。シンディが上手く活躍してくれました」
 平賀:「さすがは『マルチタイプを世界一使いこなす男』ですね」
 敷島:「私は命令を出しているだけですよ。きっとエミリーも動いてくれますよ」
 平賀:「エミリーねぇ……」
 敷島:「うちでは週末限定で二海とシンディを置いているわけですから、平賀先生も週末限定でエミリーを置いてみてはいかがでしょうか?」
 平賀:「南里先生の御遺作を私物化するにはいきませんからねぇ……」
 敷島:「その御遺作を全て受け継いだのが平賀先生です。エミリーを今更どうしようが、南里所長は何も言いませんよ」
 平賀:「いや、扱いが悪いと夢枕に出てきて叱られそうだ。『平賀君!エミリーをもっと大事に扱わんかい!エミリーはワシの生涯最高の傑作であるぞ!』ってね」
 敷島:「はははは!そういえば俺も、随分怒られてたっけなぁ……」

 その時、何故かつーっと敷島の目に一筋の涙が零れた。

 敷島:「……そうか。先生、もうすぐ南里所長の命日なんですね」
 平賀:「そうですよ。嫌だなぁ、忘れたんですか?勤労感謝の日ですよ。今年で七回忌です。忘れずに来るんですよ」
 敷島:「分かってますって。予定はちゃんと空けてあります」
 平賀:「シンディも連れて来てくださいよ」
 敷島:「分かってますって」

 平賀が唯一、敷島とシンディを許せない所がある。
 それは敷島が大日本電機に籍を置いていた頃、敷島はそこから出向という形で南里研究所の事務職兼ボーカロイドプロデューサーをやっていた。
 しかしそれは表向きで、実際は南里の研究成果を大日本電機に横流しする産業スパイとしての役割であった。
 大企業からの圧力を受けた南里の心労が寿命を縮めた原因であると、平賀は信じて疑わない。
 また、当時対立していたドクター・ウィリーの手先として、シンディ(前期型)の攻撃もあった。
 これもまた南里の寿命を縮めた原因であると平賀は思っている。
 ましてや、葬式に御祝儀を持ってきたその行為は許しがたいものであった。
 後期型として再稼働したシンディは深く謝罪したが、あくまでウィリーの命令に従っただけだからという言動に怒りが収まらなかったのだった。
 ようやく養孫であるアリスも一緒に謝って、何とか許してもらっている。

 敷島:「……ええ、では失礼します」

 敷島は電話を切った。
 その間、シンディが入れていたコーヒーを持って来る。

 敷島:「そういえばお前が南里所長の葬式に御祝儀を持っていった件について、平賀先生は分かりやすく怒っていたけど、エミリーはもっと怖かったな?」
 シンディ:「ええ。今でも忘れないわよ」

 エミリーは無表情で怒っていて、無表情でシンディの胸倉を掴み、無言の圧力を加えていた。
 口数は少なく、表情もシンディよりおとなしいエミリーであるが、感情は豊かであり、それに伴って本来は表情も豊かである。
 怒りの表情もできるのだが、あえてシンディには無表情で怒った。
 それが今でもシンディのトラウマになっている。
 その為、エミリーが無表情で近づいてくると、今でも警戒してしまうのである。

 シンディ:「マルチタイプ、トップナンバーの座はダテじゃないわ……」
 敷島:「本当になぁ……」

 敷島はズズズとコーヒーを啜った。

 敷島:「“御霊前”に、大日本電機の名刺でも添えてみるか?まだ持ってるぞ」
 シンディ:「今度こそ本当に姉さんがブチ切れるから止めてもらえます?」

 尚、大日本電機は突然のM&Aにより外資系企業に吸収されてしまい、閑職だった敷島の部署は潰されて、敷島は完全に失職してしまった。
 罰と言わずして何であろうか。
 その後、平賀の計らいにより、新設された日本アンドロイド研究開発財団(略称、JARA)の事務職に収まっている。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「廃銃令」 5

2016-11-21 19:47:36 | アンドロイドマスターシリーズ
[11月7日15:00.天候:晴 宮城県仙台市青葉区 東北工科大学・南里志郎記念館]

 平賀:「……これで行くしかないな」

 平賀もまたエミリーの右腕を封印した。
 銃火器の取り外しはできなので、腕ごと交換することになる。
 銃弾を全て取り除き、右腕は銃に変形できないようにした。

 ゼミ生A:「エミリーさんの能力が1つ失われて、残念ですね」
 ゼミ生B:「あんな命令を出す国家公安委員会は横暴ですよ」

 見学していたゼミ生達が口を開いた。

 平賀:「だが、確かに必要性の弱まっていたものではある。KR団は正式には崩壊した。その後のロボットテロがほぼ鎮静化した以上、マルチタイプの銃火器は要らないだろうという見方だからな」
 ゼミ生C:「それで先生、エミリーさんは今後どうなるんですか?」
 平賀:「案ずるな。こんなこともあろうかと、実は新しい腕は製作中なんだ。本当はできてから、キミ達に見せたかったんだけど……」
 ゼミ生D:「……何だか、メイドロイドの腕に似てますね」
 平賀:「そうだろう。だが、中身は銃火器なんかよりも驚くものを仕込んである。完成したら、まず真っ先にゼミ生のキミ達に見せることを約束しよう」
 ゼミ生A:「是非、よろしくお願いします」

 エミリーは学術的、シンディは商業的な立場で活躍している。
 その後、平賀は科学雑誌の取材を受けた。

 平賀:「……確かに国家公安委員会の通達は急なものではありますが、しかし予め想定できたことでもあります。その為、こちらの対応策として、予め法規制に則った新しい腕を製作することができました」
 記者:「でも、まだ完成していないんですね?」
 平賀:「ええ。ですので正直、急な話だったというわけです。でもそれは公安委も想定済みなのか、ある程度長い猶予期間を設けてくれましたが」
 記者:「段階を踏ませることで、実質長い猶予期間ですね」
 平賀:「そうです。まず、通達内容に対する異議申し立てをする期間が2週間ありました」

 異議申し立てをする場合は2週間以内に申し出よ、というものだ。
 敷島の場合、次の日には異議申し立てをしたわけだが、もっと冷静になれば、あえて期限ギリギリに異議申し立てを行い、2週間儲けることができたわけだ。
 平賀の場合は異議申し立てをするつもりが無かったので、何も回答する必要は無い。
 返答無きは認めたも同様だからだ。
 つまり現時点においてはまだ通告を受けただけの段階なので、まだエミリーは銃火器を装備できるし、当然発砲もできる。

 平賀:「認める場合はどのような対応策をするのかの案を提出しなければなりませんが、それとて2週間の期間が設けられています。つまり、実質的に約1ヶ月の猶予があるわけですね」
 記者:「それなら何も、まだ封印する必要は無いんじゃないでしょうか?」
 平賀:「封印はしましたが、それは解除しようと思えばいつでも解除できる状態です。封印をすることにより、こちらの意思を示すつもりです」
 記者:「なるほど。平賀教授としましては、どのような腕を取り付けるつもりですか?」
 平賀:「まだ開発途中なので言及できませんが、それまでの銃火器と比べれば、見た目にも物騒なものではないことはお約束できますよ」
 記者:「それは殺傷能力のあるものですか?」
 平賀:「KR団が崩壊したとはいえ、あいにくとまだロボットテロの脅威が無くなったけではありません。また、テロは何もロボットが起こすものだけではありません。これまで通り、人間が起こすテロの方がまだ圧倒的に数が多いわけですね。で、そんなテロリスト達は当然ながら殺傷能力のある武器を持っているわけです。それに対抗する為には、あいにくとこちらもそれなりの能力を持たせたものを装備しておかないと、太刀打ちできないのが現状です。公安委の通告には従いつつも、テロの脅威に対抗しうるものを開発するつもりです」

 そう答えた平賀の眼鏡が光った。
 いや、眼鏡ではなく、目が光ったのか。

[同日17:00.天候:曇 東北工科大学・南里志郎記念館]

 https://www.youtube.com/watch?v=sneVLQ7ju7I
 https://www.youtube.com/watch?v=KYWd8f6qsAo

 いつもの時間になり、エミリーは記念館のエントランスホールにあるグランドピアノを弾いていた。
 何故か今日の曲は暗いものが多い。

 https://www.youtube.com/watch?v=vJHO0EYS8-s

 エミリー:「…………」

 エミリーは弾き終わると、鍵盤の蓋を閉めた。

 平賀:「エミリー、今日は3曲だけか。もっと弾いてもいいんだぞ」
 エミリー:「プロフェッサー平賀」
 平賀:「右腕の銃は封印したが、それ以外は通常使用できるはずだ。何か、異常があるか?」
 エミリー:「ノー。通常使用に・問題は・ありません」
 平賀:「それならいいじゃないか」
 エミリー:「ただ……」
 平賀:「?」
 エミリー:「物凄く・違和感・あります。それまで・使えていた・機能が・急に・使えなくなった・こと……」
 平賀:「まあ、そうだろうな。だが、短い間だけ。ほんの暫定的な間だけだ。今に、それまでの腕が嘘みたいに、いいものを取り付けてやるぞ。お前は南里先生の最高傑作だ。最後まで師事していた自分が、それに恥じない物を今作っているからな」
 エミリー:「楽しみに・しております」
 平賀:「取りあえず、火炎放射器はそのままでいい」

 そう言った後で、

 平賀:(もっとも、火炎放射器自体、使い勝手は良くないように見えるがな)

 と思った。
 なので、新しい腕になったら火炎放射器も無くすつもりである。

 エミリー:「シンディは・どうなのでしょうか?」
 平賀:「まあ通告内容は同じだし、お前もシンディも同型機だから、行き着く所は同じだと思うがな。アリスのことだから、何か物騒なものを取り付けそうな気がするが、そこは敷島さんが阻止してくれるだろう」
 エミリー:「了解・しました」

 平賀は記念館を出た後で思った。

 平賀:(まあ、銃火器も結構重い物だし、これを機に更にエミリーの軽量化もできるってもんだ)
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“Gynoid Multitype Cindy” 「廃銃令」 4

2016-11-21 12:37:55 | アンドロイドマスターシリーズ
[11月4日13:00.天候:晴 埼玉県秩父市 DCJ秩父研究所]

 敷島:「シンディの腕について、ここまで来なきゃいけないとは……」

 DCJにある研究所の1つ。
 関東の山奥にあることから、まるで本当の秘密の研究所だ。

 敷島:「ジャニスとルディの件については、非常に残念なことでした。もしまた奴らが国内に入り込もうとしたなら、シンディがバラバラにしてやりますので……」

 敷島は所内の関係者達に言った。
 ここはジャニスとルディを保管してした所だったが、恐らくKR団残党の関係者のしわざであろうが、復元中に暴走して脱走している。
 その際、この研究所は半壊の憂き目に遭った。
 今も尚、一部が工事中である。

 アリス:「シンディ、準備ができたからこっちに来て」
 シンディ:「はい」
 敷島:「科学館の方でできなかったのか?」
 アリス:「あっちはパビリオンだからね、修理関係の設備しか無いのよ。小さなパーツだったら何とかなるけど、シンディの場合は腕2本だから」
 敷島:「ふーん……って、何で腕2本?銃火器仕込んであるの、右腕だけだろう?」
 アリス:「バカだね。銃火器だけで重量があるのよ?それを軽い普通の腕に交換したら、左右の重さのバランスが崩れるに決まってるじゃない。だから、左腕もそれに合わせたものに交換しなきゃいけないわけ。Understand?」
 敷島:「なるほど。分かったよ」
 アリス:「設計データさえ揃えば、あとは部品などを調達して、科学館でも作れるからね」
 敷島:「設計に1番カネと手間が掛かるとは、よく言ったもんだ」

 取りあえず今日としては、銃火器を封印するしか無いようだ。
 具体的には銃弾を全て回収し、普通の腕形態から銃形態への変形ができないようにする。
 何か、これだけでも良いような気がするが、どうせ使えないというのなら、そのまま取り外そうという考えだ。
 普通の腕はどのようなものにするか、メイドロイドの腕が1番良いのだろうが、せっかくマルチタイプの持ち味をそのまま使わないのも勿体無いので、オリジナルのものを開発するという。

 敷島:「ああ、平賀先生。私です。今、電話よろしいですか?ああ、どうも。実は今、DCJさんの秩父研究所にいるんですが、うちでもシンディの腕交換を行うことにしましたよ」
 平賀:「そうですか。自分の予想では、腕2本を交換することになりそうですね」
 敷島:「実はそうなんです。エミリーもやっぱりそうですか」
 平賀:「ま、そこは同型機ですから」
 敷島:「エミリーの新しい腕というのは、メイドロイドに近いものですか?」
 平賀:「どちらかというと、そうでしょうね。でも自分的に、それは南里先生の御遺志に反すると思いますので、もっと違うものを取り付けようと思っています」
 敷島:「もっと違うもの?」
 平賀:「ええ。これ以上はまだ開発途中なので、何とも言えませんが……」
 敷島:「分かりました」

 敷島は電話を切った後で、

 敷島:(最終的にはシンディと仕様が被りそうだなぁ……)

 と思った。
 同型機のパーツを同じ理由で交換するのだから、交換するパーツも似通うのも仕方ないことであるが。

[同日21:30.天候:晴 DCJ秩父研究所]

 アリス:「タカオ!シンディの新しい腕の設計データが取れたわ!これで、あとは……」

 アリスが敷島の待機している応接室に飛び込んで来た。

 敷島:「クカー……」(←ソファに寝転がって居眠りしている)
 アリス:「っ……!

 スバーンと丸めた紙束で何かを引っ叩く音が室内に響き渡った。

 アリス:「シンディの新しい腕の設計データが取れたから、あとはこれを科学館に持って行って、パーツとツールを用意すれば作れるわ」
 敷島:「そ、そりゃおめでとさん……」

 何故か頬を腫らして鼻血を垂らしている敷島がいた。

 敷島:「それじゃ、今からでもホテルに入って一泊するか」
 アリス:「何言ってるの。金曜日の夜は、家に帰って土日を一緒に過ごす約束でしょお?」
 敷島:「おいおい、今から行って電車あるのか?」

[同日22:46.天候:晴 東飯能駅]

〔まもなく東飯能、東飯能。お出口は、右側です。JR八高線は、御乗り換えです〕

 シンディ:「ここから八高線の川越行きに乗り換えてください」
 敷島:「ジャニスとルディが暴れた時のルートと、逆方向か。まだ電車あったんだな……」

 敷島達が乗っている電車は西武4000系という、2ドア・セミクロスシートの車両である。
 向かい側に座るアリスは、すっかり寝込んでいた。

 敷島:「おい、アリス。降りるぞ。起きろ」
 アリス:「Uu……」
 シンディ:「マスター、起きてください」
 敷島:「アリスには電気流して起こさないのか?」
 シンディ:「しませんよ」
 敷島:「七海は昔、平賀先生を起こすのに、醤油を注ぎ込んだらしいぞ?あー?」
 シンディ:「だから、しませんって!」
 アリス:「うるさいわねぇ……!分かってるよ……!」
 敷島:「分かってるんなら、早く起きろよ」
 アリス:「クカー……」
 敷島:「……って、寝言かい!」

 因みに七海がその稼働テスト中、平賀を起こす為に醤油を飲ませたというのは事実である。
 メイドロイドの間では伝説となっており、主人を起こすのに流行ったとか流行らなかったとか。

[同日22:54.天候:晴 東飯能駅]

 東飯能駅は西武秩父線とJR八高線が乗り入れているが、ホーム番線は連番になっている。
 西武秩父線が1番線(単線なので上下線が共用)、2番線と3番線がJR八高線である。
 八高線も単線であるが、行き違いができるようになっている。

〔まもなく2番線に、各駅停車、川越行きが参ります。危ないですから、黄色い線の内側までお下がりください〕

 この辺は4両編成の電車が走っている。
 西武秩父線も普段の普通電車は4両編成であることから、この辺りの輸送量がうかがえる。
 元は山手線で運転されていた205系を改造したものがやってきた。
 八高線と川越線では、ドアボタン式の半自動ドア方式を通年行っている為、ドア開けは乗客で行う。

 敷島:「満席だから立っとけよ。この方が寝過ごさないで済む」
 アリス:「立ち寝するからヨロシク」
 敷島:「アホか!」

 4両編成の電車は、深夜の鉄路を走り出した。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「廃銃令」 3

2016-11-20 22:13:21 | アンドロイドマスターシリーズ
[11月2日13:00.天候:雨 東京都千代田区 警視庁]

 鷲田:「社長さんは、今頃、国家公安委員会の中か……」

 鷲田は午後からの業務を開始するべく、自分の所属する部署の1番奥にある自分の机に座っていた。
 ロボットテロ対策課とはいえ、今となってはそうそうロボットテロがあるわけではない。
 KR団が崩壊して以降、この部署は事実上の閑職となってしまった。
 今追っているのは多摩地区の工場に忍び込んでフランケンを暴走させたり、“ゆりかもめ”を暴走させた犯人である。
 フランケンを使って宝石泥棒や銀行の金庫破りなどをしていたギャング団達の中に、KR団のメンバーはいなかった。
 ボスを締め上げて吐かせたところ、ボスに近づいた男がいたという。
 それがKR団の元メンバーである可能性は高かったが、いくらボスに問うてもKR団の名前は出てこなかったし、特徴もこれといって無い地味なスーツの男だったという。
 単なる模倣犯にしては上手く行き過ぎていることから、鷲田達はKR団関係者と見て行方を追っている。
 が、未だに足取りが掴めない。

 鷲田:「ん?」

 そこへ鷲田の携帯電話が鳴った。

 鷲田:「こちら鷲田。……ん?おう、村中君か。どうした?……なにぃっ!?本庁の玄関にバスが突っ込んだだぁ!?」

 鷲田は廊下を見た。
 慌てて下に走って行く職員達の姿が見える。

 鷲田:「もしかすると、あの社長がヤケになったんで、バスをパクッて特攻したか!」

 鷲田も急いで下に降りた。

[同日13:15.天候:雨 警視庁1Fエントランス]

〔「聖師様はテロなど行っていないぞォ!警察の不当な宗教弾圧を許すな〜っ!!」〕

 1Fに辿り着いた鷲田が見たのは、エントランスの自動ドアがメチャクチャに壊れ、そこに古めかしい型式のバスが突っ込んでいた姿だった。
 そのエントラスには白い服や紫色の服を着た異様な集団の姿。
 もちろん、外からも駆け付けた警察官達によって取り押さえられようとしている。

 鷲田:「な、何だ……。新興宗教のテロだったか……」
 村中:「どうします?」
 鷲田:「フン。宗教に頼るような弱い人間になど用は無い。制服達が検挙するだろう」

 信者達は大きく騒いで、
「聖師様を直ちに釈放しろ!」
 だとか、
「宗教弾圧だ!」
 だとか、警察官が取り押さえようとすると、
「触るな!悪魔の手先が!汚らわしい!!」
 とか抵抗しているが、当然すぐ逮捕されていた。

 河童風信者:「怨嫉謗法はやめなさい!それより御書読みましょうね!」
 んっ?巡査長:「はいはい、河童さん、こんにちは!いいからこっちに来て!病欠でスキーに行っちゃダメだよ!」
 河童風信者:「怨嫉謗法すると功徳が無くなりますよ!御書にはこう書いてあります。あーーーーーーっ!!」
 チキンジョージ巡査:「最後の1名確保!70代くらいの男性信者!総髪だが頭頂部が禿げ上がっているもよう!……サンサンパークの件について、事情を聞かせてもらうからな!」

 村中:「警視、今のは……?」
 鷲田:「う、うむ……。私から、んっ?氏とチキンジョージ氏に友情出演の礼を言っておこう」

 と、その時、エントランスに突っ込んだバスが引きずり出されようとしている。
 その時まだ喚く信者達。

 信者A:「悪魔の人形!それに触るな!」
 信者B:「汚らわしい!」
 シンディ:「あいにくと、敷島社長の御命令でございますのよ」

 シンディは1人でバスを引きずり出した。

 敷島:「いいぞ、シンディ!そのまま道路まで押してけ!」
 シンディ:「分かりました!」
 鷲田:「いやいや、あんなもの公道に出されたら邪魔でしょうがない。入口脇にでも置いておいてくれ」
 敷島:「シンディ、命令変更。入口の脇でいい」
 シンディ:「了解!」
 鷲田:「公安委員会との話はどうなった?」
 敷島:「銃火器の装備については、けんもほろろに断られましたよ」
 鷲田:「私の言った通りだろう?」
 敷島:「でも、それ以外の装備については、別途相談に応じるとのことです」
 鷲田:「何だそりゃ?」

[同日15:00.天候:曇 東京都千代田区九段下・とあるカフェ]

 敷島とシンディがカフェの中に入る。
 昼間はカフェだが、夜はバー営業を行うと思われる佇まいだ。

 鷲田:「よお、ここだここだ」

 鷲田と村中が既にテーブル席に座っていて、入店してきた敷島達を見つけて手を振った。
 すぐに敷島とシンディもそこに向かう。

 鷲田:「事情聴取は終わったのか?」
 敷島:「ええ。いい加減、そろそろ警視総監賞を頂きたいものですが?」
 鷲田:「うちの親分さん(警視総監)も、ロボットが警察に代わって事件解決してしまうことを良くは思っていないんでな」
 敷島:「捜査協力しただけじゃないですか、もう……」

 敷島がむくれ顔をすると、マスターがグラスに入った水を持ってきた。

 マスター:「いらっしゃいませ。ご注文は?」
 敷島:「えー、キリマンジャロブレンドを」
 マスター:「かしこまりました」
 敷島:「シンディは?」
 シンディ:「カルピスソーダの甘酢あんかけ
 敷島:「こらぁーっ!」
 鷲田:「よろしい。では、本当に飲んでみたまえ」
 村中:「警視、ここで爆発されても困りますって!」
 敷島:「取りあえず水だけでいいです」
 マスター:「か、かしこまりました……」
 シンディ:「ラジエーターの水代わりに飲めって?」
 敷島:「ああ、そうしてくれ」
 シンディ:「科学館のカフェだと、オイルも置いてるのにねぇ……」
 敷島:「あれはネタだろ?」
 鷲田:「あー、コホン。そろそろ本題に入っていいかな?」
 敷島:「どうぞどうぞ」
 鷲田:「公安委との話はどうなったかを単刀直入に聞きたいのだが」
 敷島:「結論から言いますと、けんもほろろに断られました」
 村中:「それはさっき聞いたよ。でも、その話には続きがあるんだろう?それを聞きたいんだ」
 鷲田:「他の装備は応相談ということは、ほぼ了承であるというのと同じことだ。一体それが何なのかを聞きたい」
 敷島:「大したことは無いですよ。それまで装備している高圧電流と、エミリーが装備している火炎放射器。前者は護身用のスタンガンが流通しているわけですから、一概に規制することはできないし、後者にあっては民間用にも出回っているわけですから、やはりこれをロボットが持ってはいけないという法律は無いわけですから」
 鷲田:「上手く法の網を掻い潜ったわけだな。他には?」
 敷島:「応相談ということですので、まだそれだけです。銃がダメなら、それ以外の物を代用するしか無いわけですね。アリスは思いっ切り嫌がってますけど、お上の命令ですから」
 鷲田:「そうか。ま、私としては、ロボットは荷物運びだけしていてもらいたいものだがな」
 村中:「今のを要約すると、『テロ組織のお荷物、KR団残党狩りへの協力よろしく』だって」
 敷島:「分かりました」
 鷲田:「村中、余計なこと言うなっ!」
コメント
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