報恩坊の怪しい偽作家!

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“魔女エレーナの日常” 「5月12日→5月13日」

2018-06-08 10:11:21 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月12日21:00.天候:雨 東京都江東区森下 ワンスターホテル1F]

 エレーナ:「はぁ……」

 誰もいないロビー。
 フロントのデスクに突っ伏すような形で、エレーナは溜め息を吐いていた。
 このくらいの時間でもチェック・インの宿泊客とか来るだろうに、エレーナは何をやっているのだろうか。
 と、そこへエントランスの自動ドアが開いた。

 宿泊客:「ふぅーっ、やっと着いた!急に降って来るなんて……!」

 1人のスーツを着た出張のビジネスマンと思しき男性客。
 しかし、エレーナは顔を上げようともしない。
 代わりに接客を行うのは……。

 マモン:「いらっしゃいませ。お足元が悪い中、ご利用ありがとうございます」

 エレーナの契約悪魔、キリスト教における7つの大罪の悪魔の一柱、強欲の悪魔マモンであった。
 青色のブレザーに身を包み、その立ち居振る舞いは、まるで高級ホテルのフロントマンのようである。

 マモン:「どうぞ。このタオルをお使いください」
 宿泊客:「おおっ!サービスいいね!……ったく!今日は絶対降らないって言ってたのに……!」
 マモン:「今夜は大気の状態が不安定のようでございますね。それでは小野瀬様、本日より2泊のご利用ということで、こちらのシートに御記入願います」

 マモンは仕事しようとしないエレーナを横目に、それを代行する。

 宿泊客:「はい、これでいい?」
 マモン:「ありがとうございます。それでは宿泊料金は前払い精算でお願いしておりまして、シングルAを2泊のご利用で……」
 宿泊客:「帰り際に領収証出してください」
 マモン:「かしこまりました。それでは、こちらがルームキーでございます。お部屋は4階の401号室になります。ごゆっくりどうぞ」

 マモンが接客を終えると、奥からオーナーが出て来た。

 オーナー:「エレーナ、いい加減にしてくれ。一体、何があったんだ?夕食から戻って来てから、何だか変だぞ?」
 マモン:「501号室の鈴木様に、愛の告白をされたようですよ」
 オーナー:「何だ、そんなことか……」
 エレーナ:「そんなことって……」

 ようやくエレーナが顔を上げた。

 マモン:「私がアスモデウス(色欲の悪魔)でしたら、すぐにその仲を取り持ってあげる所ですが、そうではありません。如何に悪魔でも、越権行為はタブーとされていますので、私にはこれ以上は……」
 エレーナ:「余計なことはしなくていいからっ!」
 オーナー:「悪い人じゃなさそうだけどね、キミは嫌いかい?」
 エレーナ:「好きとか嫌いとか、そういうんじゃないんですよぉ……」
 クロ:「あの男がエレーナのことが好きだということは、もう前々から分かっていたことだニャー」
 マモン:「何でしたら、私からアスモデウスに頼んでみてあげましょうか?あいつはまだ正式な契約者がいないので、ヒマを持て余しているはずです。……ので、2つ返事でOKしてくれるかと」
 オーナー:「告白されて、エレーナは何と答えた?」
 エレーナ:「『急に言われても困る』とだけ言っておきました……」
 マモン:「別に、急ってわけでもないですよね」
 オーナー:「まあ、恋人になってくれというのは、ちょっと拙速かもしれないね。最近の結婚相談所では、『真剣交際』の前に『普通交際』というのがあってだね……」
 エレーナ:「何ですか、それ?」
 オーナー:「つまり、『まずはお友達から始めましょう』という意味だ」
 エレーナ:「あー……」
 マモン:「でも、それって遠回しのお断わり……」
 オーナー:「シッ!」
 エレーナ:「そうか。『まずはお友達』かぁ……」
 オーナー:「その方が、そんなに気が重くないだろう?」
 エレーナ:「確かに……」
 マモン:「でも、関係がこじれたらどうしますか?その最悪パターンがストーカー殺人事件ですね。昔、よくレヴィアタン(嫉妬の悪魔)がやってましたよ。今でも常套手段じゃないかな。あいつが人間の血と魂を欲した時……」
 エレーナ:「アンナに頼んで呪殺してもらう……」
 オーナー:「おい!」
 クロ:「おい!」
 マモン:「さすがは、私の契約者だ。やっぱり、魔女はかくあるべきですね」

 オーナーとクロが激しく突っ込み、マモンだけがうんうんと頷いていた。

 オーナー:(これじゃ、キリスト教の“魔女狩り”が無くなるわけがない)

[5月13日07:50.天候:晴 同ホテル1Fフロント]

 鈴木:「お世話になりました」

 鈴木はフロントにやってくると、ルームキーを差し出した。

 エレーナ:「はい、ありがとうございます」
 鈴木:「あのレストラン、モーニングはやっぱり普通だったね」
 エレーナ:「あくまでも、魔法料理はディナータイムとパブタイムだけだから」

 モーニングタイムは鈴木の言う通り、他のホテルのレストランでもやっているバイキング。
 ランチタイムはロシア料理店と化す。
 もちろん、ディナータイムの時も表向きはロシア料理店となっているのだが……。

 鈴木:「昨日の返事なんだけど……」
 エレーナ:「あ、あれは、あの……」
 鈴木:「また泊まりに来てもいいかな?」
 エレーナ:「は、はい!お待ちしてます!」

 鈴木はチェックアウトすると、森下駅に向かった。

 鈴木:(マリアさんよりもウブだな。稲生先輩の言う通り、『自称、年下』というのは本当かな。白人は早熟で、例え日本人と歳が同じでも、どうしても年上に見えてしまうって言うからな……)

[同日08:02.天候:晴 都営地下鉄森下駅・新宿線ホーム]

〔まもなく1番ホームに、各駅停車、橋本行きが10両編成で到着します。白線の内側で、お待ちください。この電車は、新宿から京王線内快速となりますので、停車駅にご注意ください〕

 鈴木はスマホを取り出すと、それでツイッターを見てみた。

 鈴木:(やっぱりな……)

 稲生のツイッター、『埼京線なう』と書いてある。

 鈴木:(埼玉からだと大変だな)

 電車が轟音を立てて、進入してくる。
 日曜日なので平日のこの時間帯と比べれば、随分と余裕のある電車内だった。

〔1番線の電車は、各駅停車、橋本行きです。森下、森下。大江戸線は、お乗り換えです〕

 鈴木は電車に乗り込んだ。
 鉄ヲタの稲生はどうしても先頭車または最後尾狙いだが、そういう趣味の無い鈴木は中間車である。

〔1番線、ドアが閉まります〕

 都営地下鉄が所有する車両のドアチャイムはJRのそれとよく似た音なのだが、鈴木は気にしない。
 電車は中間車ならよく聞こえるインバータの音をトンネル内に響かせて発車した。

〔この電車は、各駅停車、橋本行きです。次は浜町、浜町。お出口は、右側です〕
〔This is a local train bound for Hashiomto.The next station is Hamacho.〕
〔「本日も都営地下鉄新宿線をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は京王線直通、快速の大沢……失礼しました。橋本行きでございます。新宿から先の京王線内は快速となりますので、京王線ご利用のお客様は停車駅にご注意ください。次は浜町、浜町。お出口は、右側です」〕

 鈴木はレストランで撮影した自分とエレーナのツーショット写真と、エレーナ本人の写真をスマホに保存していた。

 鈴木:(こういうコと知り合えるなんて……ほんと、顕正会から移って来て良かったなぁ!)

 鈴木のニヤけた顔が、電車の進行方向左側のドアの窓に、いつまでも映っていた。

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