[5月13日07:50.天候:晴 JR大宮駅]
稲生達は大宮駅までやってきた。
イリーナも一緒だということで、父親の宗一郎がタクシーを手配したからである。
イリーナ:「アタシの魔法なら、ルゥ・ラで一気にお寺まで行けるのにねぇ……」
マリア:「大騒ぎになるから、やめてください。鈴木の例もありますから」
稲生:「確かに……」
西口に着けてもらうと、そこからエスカレーターで2階に上がる。
威吹:「本当に付いて来る気か?」
イリーナ:「もちろん、都内の他の場所に行くだけだよ。終わったら連絡して。そこで待ってるから」
稲生:「分かりました」
稲生の御講が終わったら、そのままワンスターホテルに行くことになっており、威吹はそこから魔界に帰ることになる。
威吹の両手には、土産物が一杯詰まった荷物があった。
これがトランクだったりすると、江戸時代というよりは明治か大正時代といった感じなのだが、風呂敷包みな辺りがやはり江戸時代の妖怪であることを物語っている。
稲生:「池袋駅のコインロッカーにでも入れておこう。どうせ帰り際、また池袋駅に寄るからね」
威吹:「その手があるか」
威吹は大きく頷いた。
[同日07:59.天候:晴 JR埼京線742K電車10号車内]
埼京線を走るJR車両、E233系のクハ車には4人席がある。
これは衝突事故の際、運転士を保護する為に運転室を広く取った結果、客室が狭くなったものである。
〔「お待たせ致しました。7時59分発、埼京線、各駅停車、新宿行き、まもなく発車致します」〕
女性車掌の放送が車内に響いた。
JR東日本が運転士保護の為、運転室を広く取る設計をする頃、まだ女性乗務員は少なかった。
地下のホームに、発車メロディが鳴り響く。
地上の在来線ホームが発車メロディになっても、地下の埼京線ホームはしばらくの間、発車ベルだったということを覚えている者はどのくらいいるのだろうか。
稲生:「威吹にとっては、しばらく人間界の風景が見られなくなるから、目に焼き付いておいた方がいいかもね」
威吹:「それもそうだな。もっとも、今はまだ地下だが」
電車が走り出す。
なぁに、どうせ地上にはすぐに出る。
〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は埼京線、各駅停車、新宿行きです。次は北与野、北与野。お出口は、右側です〕
放送が車内に響いている間、電車は一気に坂を駆け登って地上に出た。
もっとも、ロングシートの通勤電車では、なかなか外を見るのは難しいか。
特に東日本の電車においては、ガラス代の節約の為か、戸袋窓を廃止してしまうケースが多々見られる(東武鉄道のように、最初から設ける気ゼロの鉄道会社もある。昭和30年代から運転されている8000系が好例)。
稲生:「そういえば、先生」
イリーナ:「なぁに?」
稲生:「あのカルト教団のことですけど、僕が大原班長と一緒に彼らを追った時、彼らは晴海まで逃げました。あの辺に、本部があるのかもしれません」
イリーナ:「ええ。もう調査済みよ」
稲生:「おっ、さすがですねぇ……。もしかして、潰しに掛かるとか?」
イリーナ:「いや。向こうから売って来たケンカは買うけど、アタシはこっちからケンカを売るつもりはないよ。ただ、ヤツらの状況は把握しておく必要があるけどね」
稲生:「さすがです」
この時、威吹はピンと来るものがあった。
威吹:(おおかた、コイツらが手を下さなくても、他の血気盛んな魔女達が手を下すことを期待している……ということか)
稲生:「そうだ。今のうちに、ツイートしておこう」
稲生はスマホを取り出した。
稲生:「『埼京線なう』と」
マリア:「それは何か意味あるの?」
稲生:「他の法華講員達に、僕がちゃんと向かっていることをアピールする為です。……って、それだけなんで、あんまり意味無いですか」
イリーナ:「アタシが修行していた頃は魔法だったものが、今は魔法じゃなくなってるねぇ……」
稲生:「えっ、何です?」
イリーナ:「大したことじゃないよ。……ま、寝るから着いたら起こしてね」
稲生:「僕達、途中で降りますけど?」
[同日08:45.天候:晴 東京都豊島区 日蓮正宗・正証寺]
稲生:「やっぱり僕達が降りる時、先生はすっかり寝てたね」
威吹:「相変わらず、ぶっ飛んだ魔女だ」
電車は新宿止まりで、稲生達が降りた池袋の次だから、イリーナとマリアは新宿で降りるのだろう。
作者でさえバスタ新宿に行く以外はほぼ高い確率で迷子になる新宿駅をあの2人が歩いて大丈夫なのかと、稲生は少し心配になった。
稲生:(まあ、タカシマヤタイムズスクウェア辺りなら簡単に行けるか……。って、この時間、まだ開いてない!)
藤谷:「はーい!御講に参加の方はこちらー!」
三門に行くと、藤谷が率先して案内役の任務に就いていた。
稲生:「藤谷班長、おはようございます」
藤谷:「おおっ、稲生君!おはよう!威吹君もおはよう!」
威吹:「おはようでござる」
藤谷:「ささ、稲生君、この参加票を書いてね」
稲生:「はい」
作者が脱会した頃の顕正会では、日曜勤行参加時、特に何か参加票を書くということはなかった。
今はどうしているのだろうか。
藤谷:「威吹君はこっちの入信願書を書いてね」
威吹:「おい、さりげなく勧誘すんな」
尚、日蓮正宗では、受誡できるのは人間のみであり、妖狐や鬼族などの妖怪は仏敵である為、受誡は認められない。
その仏敵たる妖狐が、今や信徒の護衛をやっている皮肉。
藤谷:「ちっ!」
稲生:「班長、誓願達成率が下がっているのが読者の皆さんにバレるからやめてください」
藤谷:「また“フェイク”と創価新報に書かれちまう……」
稲生:「うちは絶対に書かれないから大丈夫です」
威吹:「じゃ、ユタ。ボクは外で待ってるから」
稲生:「ああ、悪いね」
威吹は稲生が本堂に入って行くのを見届けると、自分は三門の外に出た。
威吹:「うむ。今日はさしもの切支丹共も、静かに祈りを捧げているようだな」
三門前の路地は、参詣にやってくる信徒達の姿しか今のところ無かった。
稲生達は大宮駅までやってきた。
イリーナも一緒だということで、父親の宗一郎がタクシーを手配したからである。
イリーナ:「アタシの魔法なら、ルゥ・ラで一気にお寺まで行けるのにねぇ……」
マリア:「大騒ぎになるから、やめてください。鈴木の例もありますから」
稲生:「確かに……」
西口に着けてもらうと、そこからエスカレーターで2階に上がる。
威吹:「本当に付いて来る気か?」
イリーナ:「もちろん、都内の他の場所に行くだけだよ。終わったら連絡して。そこで待ってるから」
稲生:「分かりました」
稲生の御講が終わったら、そのままワンスターホテルに行くことになっており、威吹はそこから魔界に帰ることになる。
威吹の両手には、土産物が一杯詰まった荷物があった。
これがトランクだったりすると、江戸時代というよりは明治か大正時代といった感じなのだが、風呂敷包みな辺りがやはり江戸時代の妖怪であることを物語っている。
稲生:「池袋駅のコインロッカーにでも入れておこう。どうせ帰り際、また池袋駅に寄るからね」
威吹:「その手があるか」
威吹は大きく頷いた。
[同日07:59.天候:晴 JR埼京線742K電車10号車内]
埼京線を走るJR車両、E233系のクハ車には4人席がある。
これは衝突事故の際、運転士を保護する為に運転室を広く取った結果、客室が狭くなったものである。
〔「お待たせ致しました。7時59分発、埼京線、各駅停車、新宿行き、まもなく発車致します」〕
女性車掌の放送が車内に響いた。
JR東日本が運転士保護の為、運転室を広く取る設計をする頃、まだ女性乗務員は少なかった。
地下のホームに、発車メロディが鳴り響く。
地上の在来線ホームが発車メロディになっても、地下の埼京線ホームはしばらくの間、発車ベルだったということを覚えている者はどのくらいいるのだろうか。
稲生:「威吹にとっては、しばらく人間界の風景が見られなくなるから、目に焼き付いておいた方がいいかもね」
威吹:「それもそうだな。もっとも、今はまだ地下だが」
電車が走り出す。
なぁに、どうせ地上にはすぐに出る。
〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は埼京線、各駅停車、新宿行きです。次は北与野、北与野。お出口は、右側です〕
放送が車内に響いている間、電車は一気に坂を駆け登って地上に出た。
もっとも、ロングシートの通勤電車では、なかなか外を見るのは難しいか。
特に東日本の電車においては、ガラス代の節約の為か、戸袋窓を廃止してしまうケースが多々見られる(東武鉄道のように、最初から設ける気ゼロの鉄道会社もある。昭和30年代から運転されている8000系が好例)。
稲生:「そういえば、先生」
イリーナ:「なぁに?」
稲生:「あのカルト教団のことですけど、僕が大原班長と一緒に彼らを追った時、彼らは晴海まで逃げました。あの辺に、本部があるのかもしれません」
イリーナ:「ええ。もう調査済みよ」
稲生:「おっ、さすがですねぇ……。もしかして、潰しに掛かるとか?」
イリーナ:「いや。向こうから売って来たケンカは買うけど、アタシはこっちからケンカを売るつもりはないよ。ただ、ヤツらの状況は把握しておく必要があるけどね」
稲生:「さすがです」
この時、威吹はピンと来るものがあった。
威吹:(おおかた、コイツらが手を下さなくても、他の血気盛んな魔女達が手を下すことを期待している……ということか)
稲生:「そうだ。今のうちに、ツイートしておこう」
稲生はスマホを取り出した。
稲生:「『埼京線なう』と」
マリア:「それは何か意味あるの?」
稲生:「他の法華講員達に、僕がちゃんと向かっていることをアピールする為です。……って、それだけなんで、あんまり意味無いですか」
イリーナ:「アタシが修行していた頃は魔法だったものが、今は魔法じゃなくなってるねぇ……」
稲生:「えっ、何です?」
イリーナ:「大したことじゃないよ。……ま、寝るから着いたら起こしてね」
稲生:「僕達、途中で降りますけど?」
[同日08:45.天候:晴 東京都豊島区 日蓮正宗・正証寺]
稲生:「やっぱり僕達が降りる時、先生はすっかり寝てたね」
威吹:「相変わらず、ぶっ飛んだ魔女だ」
電車は新宿止まりで、稲生達が降りた池袋の次だから、イリーナとマリアは新宿で降りるのだろう。
稲生:(まあ、タカシマヤタイムズスクウェア辺りなら簡単に行けるか……。って、この時間、まだ開いてない!)
藤谷:「はーい!御講に参加の方はこちらー!」
三門に行くと、藤谷が率先して案内役の任務に就いていた。
稲生:「藤谷班長、おはようございます」
藤谷:「おおっ、稲生君!おはよう!威吹君もおはよう!」
威吹:「おはようでござる」
藤谷:「ささ、稲生君、この参加票を書いてね」
稲生:「はい」
作者が脱会した頃の顕正会では、日曜勤行参加時、特に何か参加票を書くということはなかった。
今はどうしているのだろうか。
藤谷:「威吹君はこっちの入信願書を書いてね」
威吹:「おい、さりげなく勧誘すんな」
尚、日蓮正宗では、受誡できるのは人間のみであり、妖狐や鬼族などの妖怪は仏敵である為、受誡は認められない。
その仏敵たる妖狐が、今や信徒の護衛をやっている皮肉。
藤谷:「ちっ!」
稲生:「班長、誓願達成率が下がっているのが読者の皆さんにバレるからやめてください」
藤谷:「また“フェイク”と創価新報に書かれちまう……」
稲生:「うちは絶対に書かれないから大丈夫です」
威吹:「じゃ、ユタ。ボクは外で待ってるから」
稲生:「ああ、悪いね」
威吹は稲生が本堂に入って行くのを見届けると、自分は三門の外に出た。
威吹:「うむ。今日はさしもの切支丹共も、静かに祈りを捧げているようだな」
三門前の路地は、参詣にやってくる信徒達の姿しか今のところ無かった。
実際、日蓮正宗に第三布教区はありません。
名前のモデルは法華経のとある五字熟語(自我偈)からと、“となりの沖田くん”の主人公達が所属する寺院名から。
立地条件のモデルは法道院ですが、特に内装や外観に関してはモデルにしていません。
それ以外は完全にオリジナルです。
正証寺支部みたいに、信徒全員がエンジョイ勢な所だったら面白いんですがね。