報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「大宮に到着」

2019-07-05 15:18:41 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月20日19:46.天候:晴 福島県福島市栄町 JR福島駅・新幹線ホーム]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、福島です。山形新幹線、山形線、阿武隈急行線と福島交通飯坂線はお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。福島の次は、郡山に止まります〕

 稲生達を乗せた各駅停車の“やまびこ”は、2つ目の停車駅に近づいた。

〔「……福島の駅で通過列車の待ち合わせを致します。5分ほど停車致します。発車までしばらくお待ちください」〕

 列車が上り副線に入線する。
 通過列車は“はやぶさ”“こまち”である為、同じ編成で各駅停車のE5系とE6系を同じ編成のE5系とE6系が追い抜くわけである。

〔福島、福島です。ご乗車ありがとうざいました。……〕

 稲生:「ちょっと家に電話して来ます」
 マリア:「うん、よろしく。ルーシー、ちょっと降りてみる?」
 ルーシー:「通過するのはそっちでしょ。ホームに降りても無理よ」
 マリア:「いや、まあ、そりゃそうだけどさ……」

 ルーシーが不機嫌なのは何も動物園に行けなかったからではなく、先ほどイリーナからベイカー組の帰国が突然伝えられたからだ。
 それも翌日なのだが、翌日も翌日。
 夜中の出発になる。
 確かに羽田空港や成田空港には深夜・早朝発着の便もあるのだが、ロンドン行きにもそういうのがあるようだ。

 稲生:「あー、父さん?僕だけど……」

 デッキに移動して電話する稲生。

 稲生:「いや、『オレオレ詐欺』じゃないから!そっちの電話機に僕の番号出てるでしょ!そうじゃなくて!……タクシーを予約しておいて欲しいんだ。いや、家から羽田空港まで。夜中に出発する人達がいて……」

 稲生は経緯を父親の宗一郎に伝えた。
 その間、“はやぶさ”と“こまち”が轟音を立てて通過して行く。
 振動と風圧で、停車中の“やまびこ”が大きく揺れる。

 稲生宗一郎:「……つまり、空港定額タクシーをその時間に予約すればいいんだな?」
 稲生勇太:「そういうこと」
 宗一郎:「その間、イリーナ先生の同僚の方とお弟子さんが家で休憩したいということなんだな?」
 勇太:「そういうこと」
 宗一郎:「そういうことなら任せてくれ」
 勇太:「よろしく」

 稲生は電話を切った。

 稲生:「マリアさん、父さんにタクシー頼んでもらうようにお願いしておきました」
 マリア:「ありがとう。多分、ベイカー先生のことだから、うちの師匠みたいにカードで支払うと思う」
 稲生:「ええ。もちろん、カードの使えるタクシー会社にほぼ100%連絡すると思いますので」
 マリア:「それなら大丈夫」

〔「お待たせ致しました。19時51分発、東北新幹線“やまびこ”220号、東京行き、まもなく発車致します」〕

 発車の時間が迫る。
 外からはオリジナルの発車メロディ、“栄冠は君に輝く”が流れて来た。

 ルーシー:「帰りたくない……」
 稲生:「えっ?」
 ルーシー:「帰りたくないよ……」

 客終合図が聞こえて来て、ドアが閉まるのが分かった。
 そして、最新型のインバータの音が響いて来て発車する。

 マリア:「ルーシー。気持ちは分かるけど、ベイカー先生の方針じゃ、しょうがないだろう」
 ルーシー:「マリアンナはいいよね。“魔の者”の眷属を倒したんだから……」
 マリア:「眷属程度じゃ、何とも……。また襲って来るかもしれないのは、日本もイギリスも同じさ」

 日本でベイカー組が襲われたわけだが、ルーシーだけが生き残り、イリーナが代わりに眷属を倒したことになっている。
 しかし、イギリスに行けば“魔の者”本体が待ち構えているかもしれないのだ。

 稲生:「どうしてこう正体が分からないものなんですかね」
 マリア:「そりゃ姿を現さないからさ。“魔の者”に関しては、あの大魔王バァルでさえも正体が分からないというよ?」
 稲生:「大師匠様と同輩の老翁がねぇ……」
 マリア:「危なくなったら、日本に避難してくればいいよ。飛行機に乗ってしまえば、こっちのものだ」

 飛行機に乗ったりして、墜落させられないかと思うが、何故か今“魔の者”はそこまでしてこない。
 以前はしてきたことがあった。
 イリーナがそれに巻き込まれたものだ。
 しかし結局その手法は魔道師には通用しないと分かったのか(墜落前に瞬間移動魔法で脱出してしまえばそれまでなので)、今ではあまり飛行機を墜落させるという手法は使って来ない。
 昔ながらの手法、才能のある者の芽を早めに摘むという手を使っているようだ。

 ルーシー:「この国にいたい……」
 マリア:「別の意味で帰りたくないのか!?」
 稲生:「沈没!?」

[同日21:14.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、大宮です。上越新幹線、北陸新幹線、高崎線、京浜東北線、埼京線、川越線、東武アーバンパークラインとニューシャトルはお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。大宮の次は、上野に止まります〕

 利根川のトラス橋を渡って埼玉県に入ると、進行方向左手にラウンドワンのボーリングのピンが見える。
 それからしばらく走ると、今度は東北自動車道と立体交差する。
 オレンジ色の街灯がズラリと並んだ区間を越える所は印象的である。
 夜だと分かりにくい上、左手に上越新幹線・北陸新幹線、更にはニューシャトルの軌道が並行するが、ちゃんと鉄道博物館の横を通るのも一応分かる。
 そこまで来れば、大宮駅はもう間近だ。
 作者は大栄橋と『カニトップ』の看板が見えたら、デッキに移動するようにしている。

〔「ご乗車ありがとうございました。おおみや〜、大宮です。車内にお忘れ物の無いよう、お降りください。14番線の電車は21時14分発、東北新幹線“やまびこ”220号、東京行きです。上野、終点東京の順に停車致します。……」〕

 ドアが開くと稲生達はホームに降り立った。

 稲生:「それじゃ一旦、僕の家まで行きましょう。そこでお時間まで御休憩ください」
 ベイカー:「お手数掛けるわねぇ……」

 大宮駅でもニューシャトル以外は発車メロディが導入されて久しいが、新幹線は相変わらずのベルである。

〔14番線から、“やまびこ”220号、東京行きが発車致します。次は、上野に止まります。黄色いブロックまで、お下がりください〕

 ベイカー:「最後に目に焼き付けておきなさい。日本にはしばらく来れないのだから」
 ルーシー:「はい……」
 マリア:(私は永住者で良かったんだなぁ……)

 ルーシーにとっては今日が最後の新幹線となる。
 それを見送ってから、改札口へと向かった。

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