報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

まもなく夏も終わるが……。

2013-08-29 00:12:33 | 日記
 “新人魔王の奮闘記”より。

「総理。皇太后様が来られてから、我が国の財政はたったの1ヶ月で黒字転換です」
「首相!魔族のレジスタンス組織、“帝国解放戦線”が解散したそうです!政府に対する不満が無くなり、メンバーが集まらなくなったからだと……」
「そ、そうか……」
 春明は首相執務室で、党員達の報告を聞いていた。
「凄い皇太后様だ……」
 どれだけ居付くつもりなのだろう。何だかんだ言って、一人娘となってしまったルーシーが心配でそのまま魔界に残った感じだったが。

「その者共の首を刎ねよ!」
 実は今でもたまに“魔王討伐”と称して、冒険者達が魔王城にやってくることがある。ブラッドプール王朝になってから、特に王都や魔王城に禍々しさが薄れてしまい、本当に魔王がいるのかと目を疑うという。王都内は電気鉄道が張り巡らされ、街灯や民家の照明も電気である(但し、蛍光灯は意外と少ない。電球が主である)。それでも強大な魔力を持ったルーシーを見つけると立ち向かって行くのだが、ここ最近は事情が違った。
(このクソババァ、裏のラスボスのくせに何でしゃしゃり出で来るのよ)
 横で処刑場に連行される哀れな冒険者達を見ながら、ルーシーは不満を募らせるのだった。
「夏のバカンスで来たんだけど、まるで仕事してるみたいね」
 キャサリンはルーシーを見て、微笑みかけた。因みに、先程の罪人達の罪状は、
『恐れ多くも、偉大にして崇高なる魔王ルーシーと皇太后キャサリンに対し、刃を向けた罪』
 とのこと。平たく言えば、反逆罪である。
「だったら、さっさとニューヨークに帰れば?」
「フフン♪もうすぐで、バカンスも終わりだからね。心配無いよ。ついでに、あなたも帰る準備をしたら?」
「やなこった!」
「失礼致します」
 そこへ侍従長のピエールがやってきた。
「安倍首相閣下が参られました」
「通して」
 ルーシーが言うと、春明が入って来た。
「なに?『悪い虫』が」
 キャサリンは露骨に嫌悪感丸出しで、春明を見据えた。
「そのつもりは無いんですが、マザーの王国に対する多大な貢献に対し、盛大な晩餐会を考えているのですが……」
 更に続ける。
「共和党代表として、マザーを歓待したいと……」
 するとキャサリンは鼻を鳴らした。
「今更遅いのよ。それに、税金の無駄遣いは良くないわね。魔界高速電鉄はまだ叩けば埃が出てくる感じだから、それでまだ各地の電気料金の値下げ要求ができるわ。そういうことを考えなさい」
「は……。失礼しました」
 春明は踵を返して、退出しようとした。
「待ちなさい」
「何でしょう?」
「あなた、ローラのお墓へは行ってるの?」
「……行ってません」
「このろくでなしが!どうせルーシーにも、いずれは手を出すつもりだったんでしょう!?」
「ママ、やめて!」
「……いけませんか?」
「人間の分際で!もしどうしてもというのなら、この私を倒してからにしなさい!!」
「ママ、いい加減にして!春明も真に受けなくていいから!」
「それはできませんね」
「今度は臆病風?」
 キャサリンは嘲笑するような顔になった。しかし春明は、目を逸らさない。
「私の冒険者時代の信条は、自分より強い者は必ず息の根を止めるというものです。日本には『武士の情け』という言葉がありますが、これは自分より弱い者あるいは互角の相手と戦って勝った時に適用するものです。なので、私とマザーが戦って私が勝ったら、あなたを殺さなくてはなりません」
 すると、キャサリンは吹き出した。
「HAHAHAHAHA!それはジャパニーズ・ジョーク?勝算はあるのかしら?お前など、私の手に掛かれば、勝つのは難しいわよ?」
「そう。難しいでしょうな。さすがは皇太后様なだけある」
「それなら……」
「難しいでしょうが、不可能ではありません」
「減らず口叩いて!それなら、この場で捻り伏せてやろうか!?」
「落ち着いてください、マザー。もしもあなたが娘に対する愛情をお持ちであるなら、どうか、振り上げた拳を収めて頂きたい。どちらが勝とうが、恐らくルーシーは泣きじゃくることでしょう」
「ルーシー……」
 目に涙を浮かべるルーシーの姿があった。
「あなたが私をお気に召さないのは分かります。ですが、私も一国の首相です。その立場に合わせた行動を取らなければなりません」
「晩餐会に出ろというのね?」
 春明はようやく険しい表情を元に戻した。
「それとは別に、一般参賀を執り行いたいと思います。国民の皆さんをバルコニー前に集めて、マザーの功績を称えたいと思います」
「……良きに計らえ。と、取りあえずそう言っておくわ」
「ありがたき幸せ。では早速、仰せのままに。失礼致します」

 後に春明は語る。あれほど手に汗握るやり取りは無かったと。

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