報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「愛原事務所のクリスマス」 3

2021-01-17 20:05:08 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月24日18:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。

 愛原:「ピザとローストチキンが届いたぞ」
 リサ:「おー!美味しそー!」

 私は配達されたLサイズピザとローストチキンをテーブルの上に置いた。

 高橋:「先生、ケーキは3等分ですか?」
 愛原:「そうだ。まさか、どこかの少年院みたいに、『3等分できない』なんてことはないだろうな?」
 高橋:「大丈夫ですよ。要は、ベンツマークに切ればいいんスね」
 愛原:「お、大丈夫だな。よしよし。……ケーキを3等分に切れない少年がいるって本当なのか?」
 高橋:「本当ですよ。他にも、『何でこんなこともできねーんだよ』ってツッコミ所満載のアホも何人かいましたよ」

 高橋は一応、高校を出ている。
 それから入院した時は、周囲からは学者扱いされたという。

 愛原:「まあ、本当に学歴的な問題でそういうヤツもいただろうが、中にはそこで知的障害が発覚したってパターンもあるみたいだから、一概にアホとは言えないぞ」
 高橋:「まあ、そうっスね」

 高橋はケーキを3等分切ってきた。

 愛原:「サンタクロースと『Merry Christmas』のチョコプレートはリサが食べていい」
 リサ:「おー!」

 リサは目を輝かせた。

 高橋:「先生、ビールをどうぞ!」
 愛原:「おっ、すまんな。それじゃ早速食べよう」
 リサ:「ちょっと待って」

 リサが手持ちのスマホを自分の横に立てた。

 リサ:「サイトー、映ってる?」
 斉藤絵恋:「リサさぁんバッチリ映ってるよ~40インチモニタに映してるからねぇ~」
 高橋:「パねぇな」

 リモートクリスマスパーティーか。
 コロナ禍ならではだな。

 リサ:「先生、準備OK」
 愛原:「それじゃ、メリークリスマース!」

 因みに斉藤家ではもうクリスマスパーティーは始まっているみたいである。
 時折モニタに、パーティー用のとんがり帽子を被った斉藤社長が映る。
 お茶目な所もあるものだ。
 その時、私のケータイに電話が掛かって来た。
 画面を見ると、非通知になっている。
 だが、非通知で掛けて来る者を私は1人知っている。

 愛原:「はい、もしもし?」
 ボス:「私だ」
 愛原:「ボス!どうしました?」
 ボス:「いや、なに……。かつてクリぼっちであったキミが、ようやくクリスマスパーティーを開催できる側になったことに対する祝電だよ」
 愛原:「ボス、祝電の電は電報の電であって、電話の電じゃないですよ」
 ボス:「ははは!まあ、細かい事は気にするな。それより……」
 愛原:「!?」

 その時、私はリサのスマホを見た。
 リサは画面の中の絵恋さんと会話していたが、そのモニタの向こう側に、微かに斉藤社長の姿が映った。
 微かに映っているだけなのだが、電話をしているというのは何となく分かる。
 さっきまでビール片手に盛り上がっていたようだが……。

 ボス:「……聞いているのかね?」
 愛原:「あ、いえ、すいません!もう1回お願いします」
 ボス:「年末年始は実家に帰省するのかね?」
 愛原:「まだ決めかねています。両親からはどっちでもいいと言われてますが、伯父は帰省してほしいようです」
 ボス:「コロナ禍なのに、おおらかな方々だな」
 愛原:「すいません。コロナに対する危機意識が足りないんですよ」
 ボス:「まあ、宮城は感染者も少ないからな。年末年始に帰省するのなら、その間は休業扱いにするが?」
 愛原:「ああっと……。すいません、まだ決めてませんので……」
 ボス:「まあ、決まったら教えてくれ。BOWが年末年始休むとは限らないのだからな」
 愛原:「はい」
 ボス:「それではクリスマスパーティーを楽しんでくれたまえ。良いお年を」
 愛原:「よ、良いお年を。失礼します」

 私が電話を切ると、リサのスマホの画面の向こうにいる斉藤社長も電話を切った。

 愛原:「……!?」
 高橋:「先生、どうしました?」
 愛原:「い、いや……」

 しかし絵恋さんは、自分が私に見つめられていると思ったらしい。

 絵恋:「愛原先生!ジロジロ見ないでくださいます!?気持ち悪いんですけど!」
 愛原:「あっ!ご、ゴメン!そういうつもりじゃないんだ!」

 だが、リサの姿が一気に第1形態(鬼娘)に変化する。

 リサ:「サイトー?何その先生に対する言い草?明日、学校で覚悟しとけよ?」

 リサは牙を剥き出しにし、右手に伸びた長くて鋭い爪を見せた。

 絵恋:「り、リサさん!?ち、ちちち、違うの!い、い、今のは言葉のアヤで……!」
 リサ:「いい?他の男にジロジロ見られるのは、確かにサイトーの言う通り。だけど、先生にされるのは……正に天恵、功徳、幸福」
 絵恋:「そ、そそそ、その通りよ!ごめんなさい!」
 リサ:「私のウィルスが消えかかってる?明日、もう1回濃いのを体の中に送り込んでやろうか?」
 絵恋:「ひィッ!?よ、喜んでー!!」
 愛原:「リサ、そのくらいにしとけ」
 リサ:「はーい」

 リサは私の注意を素直に聞いて、第0形態(人間の姿)に戻った。

 愛原:「それよりも……」

 私は再び自分のスマホを手に取ると、それで斉藤社長に電話した。

 斉藤秀樹:「愛原さん、こんばんは。メリークリスマス」
 愛原:「め、メリークリスマス。お疲れ様です」
 秀樹:「せっかくの水入らずなのに、うちの娘がリモートで乱入してしまって申し訳無いですね」
 愛原:「い、いえ、とんでもないです。今のうちに年末の御挨拶を、電話で不躾とは承知の上でさせて頂きたいと……」
 秀樹:「そんなの結構ですよ。この前頂いた御歳暮だけで十分です」
 愛原:「あれも本当につまらない物で申し訳ないです。それより、先ほどお電話をされておられたようですが……」

 私がそう言うと、斉藤社長はバッと娘の方を見た。
 どうやら娘を映しているカメラに、自分も映っていたとは思ってもみなかったようである。

 秀樹:「そ、そうなんです。ちょっと会社に……。部下に言い忘れていたことがありましたので……」
 愛原:「そうですか。実は先ほどお電話したのですが、話し中だったもので……」

 もちろんそれはウソだ。
 だが、先ほどの斉藤社長の動きは怪しかった。
 もしかして、ボスの正体って……。

 愛原:「社長。一応、年末までは都内にいるつもりです。年始から数日間、休みを頂戴したいと思います」
 秀樹:「そ、そうですか。それでは仕事の斡旋……依頼はそれ以降にさせて頂きますね」
 愛原:「よろしくお願い致します。休暇の期間が分かりましたら、御連絡致します。……ええ」

 私は一瞬その後、『連絡先は探偵教会事務所がいいですか?それともボスの携帯でいいですか?』と言いそうになったが、それで斉藤社長から仕事の依頼が無くなると困るので、それは喉の奥に飲み込んだ。

 愛原:「それでは今年もありがとうございました。また来年もよろしくお願い致します。では、失礼致します」

 私は電話を切った。

 愛原:「なるほどなぁ……」
 高橋:「え?何がですか?」
 愛原:「いや、何でも無い。それよりリサ、クリスマスプレゼントだぞ」
 リサ:「おー!」
 愛原:「これが頼まれてたクオカード。1万円券だぞ。それと、こっちが善場主任から。図書カードだってさ」
 リサ:「図書カード……」
 愛原:「これで本を買って読んで、より人間の知性に近づけろだってさ」
 リサ:「なるほど。分かった。ありがとう」

 図書カードも1万円券であったが、イラストはオリジナルのものだった。
 明らかにそれは、NPO法人デイライトのロゴマークである。
 陽の光に閉じた傘の絵である。
 これは、『日光(デイライト)が出れば、アンブレラ(雨傘)は要らない』という痛烈な皮肉が込められている。
 アンブレラだって、そもそもアンブレラという名前にしたのは、『世界の人々を病気の雨から守る傘でありたい』という願いを込めたものだとされているが、実態はその雨傘が病気を振り撒いているというものであった。

 愛原:「明らかに、人間に戻ったらデイライトに来てくれっていう勧誘が籠ってるな」
 リサ:「就活しなくていいね」
 愛原:「おいw」

 こうしてクリスマスパーティーは無事に終わりを迎えた。

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