報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「愛原事務所の年末」

2021-01-18 12:07:24 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月29日15:00.天候:晴 東京都港区新橋 NPO法人デイライト東京事務所]

 善場:「……というわけでありまして、年末年始もBOWの脅威には注意しなければなりません。くれぐれも油断することのないよう、お願い致します」

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は仕事納めの日。
 私と高橋は最後の打ち合わせに来ていた。
 結局今年、リサ・トレヴァー『1番』を倒すことはできず、新型BOWエブリンについてもその実体を掴むことはできなかった。
 それというのも、彼女達が全く動きを見せないからである。
 うちの『2番』のリサもそうだが、彼女達は人間に上手く化けて市井の中で暮らせる。
 それが却って捜索を困難なものにしていた。

 愛原:「分かりました。『1番』やエブリンの居場所、目星とかは付かないのですか?」
 善場:「今のところは……。聖クラリス女学院には、病気療養を理由に長期欠席をしている生徒がいまして、その生徒が『1番』である確率は高いです。しかし、療養先でもその姿を掴めず、目下のところ捜索中ということになります」

 『1番』もまた『2番』と同様、学校に通っていたので、そこまでは足が付いている。
 だが、学校にも行っていないと思われるエブリンについては全く分からない。

 善場:「とにかく、年末年始でも気を抜くことの無いようにお願いします」
 愛原:「分かりました」

 最後の打ち合わせが終わると、善場主任が話し掛けて来た。

 善場:「愛原所長は仙台に帰省されたりはしますか?」
 愛原:「年始に挨拶に行こうとは思っています。うちの伯父が用があるみたいなので」
 善場:「農学博士にして、大学の名誉教授でもある愛原公一氏ですか」
 愛原:「どうせロクでもない話でしょうがね」
 善場:「何か良い情報がありましたら、提供の方お願いしますね」
 愛原:「分かりました」

[同日18:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]

 愛原:「ただいまー」
 リサ:「お帰りなさい」

 私と高橋が事務所を閉めてマンションに帰ると、リサが留守番していた。
 リサ達も冬休みに入っている。

 愛原:「お?勉強していたのか?」
 リサ:「うん。冬休みの宿題。とっとと片付ける」
 愛原:「冬休みの宿題かぁ……。書き初めとかもあるのかな?」

 中学校だと無いか?
 いや、あるのかな。

 リサ:「あるよ。早速、下書きしてみた」
 高橋:「季節感全く無ェな。書き初めって、正月にやるもんだぞ」
 愛原:「まあ、そうだな」
 リサ:「いくつか書いたんだけど、どれがいい?提出するのは一部だけ」
 愛原:「どれどれ……」

 リサが書いた熟語は以下の通り。
 『勝訴』『不当判決』『共闘』『マル生打倒』『中出中継』『一審差戻』

 愛原:「ははは……」

 私はポンとリサの肩を叩いた。

 愛原:「もっと別なの書こうか。な?」
 リサ:「ダメ?」
 高橋:「確かにこれはちょっと……っスね。俺がいいネタ提供してやります」
 愛原:「『夜露死苦』とか『愛羅武勇』とかは無しな?」
 高橋:「何時代のゾッキーっスか!そんなんじゃないっスよ!」

 高橋がパパパッと書いたのは……。

 『少年法最強』『警察上等』『中出最高』『避妊不要』『速度無制限』『軽死庁』『都狂走』『関東連合足立支部江北地区本部』

 愛原:「……おい!」
 高橋:「ダメっスかね?」
 愛原:「ダメに決まってんだろ!」
 リサ:「先生は?先生は何かいいネタ無い?」
 高橋:「先生!是非、先生の最高のネタを!シクヨロっス!」
 愛原:「しょうがねーな」

 『出発進行』『場内中継制限』『場内進行』『運転抑止』『防護発報』『上番報告』『24勤務』

 リサ:「先生の趣味100%」
 高橋:「す、素晴らしいっス!さすが先生っス!リサ、これを学校に提出しろ!」
 リサ:「ヤだよ!」

 結局、『悪鬼滅殺』になった。
 鬼の姿になれるリサが、同じ鬼の姿になれる『1番』を倒すのが来年の目標になるからと……。
 ただこれ、後で聞いた話だが、栗原蓮華さんの書き初めとカブったらしい。
 尚、栗原家では他に、『広宣流布』『南無妙法蓮華経』『法華経』『多宝富士大日蓮華山』『破折屈伏』なんかも候補に挙がっていたという。

 高橋:「ネタも決まったところで、さっさと夕飯にしましょう」
 愛原:「頼むぞ」

 私は着替えをしに自分の部屋に行った。
 それからダイニングに戻ると、リサも部屋に戻ったようだ。
 私がテレビを点けてニュースを観ていると、コロナ禍で年末の帰省ラッシュはほぼ閑古鳥である旨が流れていた。
 これなら自由席に乗っても余裕だろう。
 JRにとっては火の車になりそうだが。

 高橋:「先生。御実家へのお土産は何にしますか?」
 愛原:「これから餅をついて、お節作るんだろ?それを持って行けばいいよ」
 高橋:「了解っス」

 高橋の人脈で杵と臼を毎年借りられる。
 これで餅をついて、年始はほぼ餅ばっかり食べるのが毎年のセオリーになってしまった。
 何でも高橋が収監中に身に付けたスキルなのだとか。

[12月31日15:00~18:00.天候:晴 愛原のマンション屋上→5F愛原の部屋]

 高橋:「でやぁーっ!」
 リサ:「ん!」
 高橋:「うぉらぁーっ!」
 リサ:「ん!」

 高橋が餅を突き、リサがこねる。
 これで来年の餅も完成だな。
 因みに外から帰って来たら、真っ先にエアコンの下に避難するリサ。
 寒さはへっちゃらのBOWのはずだが、さすがに今冬は寒いらしい。
 日本海側の方は雪害が大変みたいだしな。

 高橋:「これから年越し蕎麦を打ちますんで、期待しててください」
 愛原:「毎年スマンね。俺が1人だった頃はカップ蕎麦で済ませていたものだが……」
 高橋:「俺が弟子になったからには、先生に季節感を楽しんで頂きますよ!」
 愛原:「それはありがたい」
 リサ:「私も頑張るー」
 愛原:「うん。因みにお雑煮とかは実家で作ってくれるみたいだし、お節も実家が用意するみたいだよ」
 高橋:「まあ、確かに汁物はあれなんで、先生の御実家へのお土産はお餅とお節にしましょう」

 昨年末は斉藤絵恋さんが遊びに来て、紅白で歌われたパプリカをリサと一緒に踊っていた記憶があるが、今年はそれも無し。
 本当に自粛の年末だ。

 高橋:「明日はいつ出発しましょう?」
 愛原:「自由席で十分なくらいガラガラだからな。ましてや、元日は元々空いてるし。あれだ。東京駅まで行く都営バスの始発で行こう」
 高橋:「元日だから、特別ダイヤとかじゃ?」
 愛原:「いや、普通の休日ダイヤらしな」
 高橋:「そうですか。じゃあ、お節はそれに合わせて作っておきます」
 愛原:「頼むよ」

 こうして、私達の2020年は地味に終わろうとしていた。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« “私立探偵 愛原学” 「愛原... | トップ | “私立探偵 愛原学” 「愛原... »

コメントを投稿

私立探偵 愛原学シリーズ」カテゴリの最新記事