報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「上京紀行」 2

2015-04-20 02:32:46 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月19日12:15.天候:晴 JR松本駅 稲生ユウタ&マリアンナ・スカーレット]

 特急“スーパーあずさ”の時間まで、まだ時間があった。
 お昼を挟むのだが、改札の外には出ず、昼食はホームのソバ屋で取った。
「足りないようでしたら、駅弁もありますし……」
「いや、いいよ」
 0番線と1番線のホームは、更級そばである。
「エレーナさんが待ち構えていたのは意外でしたが、敵の方は何も仕掛けてきませんね」
「油断はダメだ。ややもすれば、飛行機を落とすくらいの勢いがあるから」
「まあ、そうですけどね」
 屋敷の中の書庫を探していたら、“魔の者”に対する資料があった。
 グロエロい話だが、魔道師の素質のある15歳~25歳の女性の子宮をえぐり出し、その血を啜ることで契約が成立するという。
 男性の場合は心臓をえぐり出すとされている。
(……処女とか非処女とか、妊娠の経験とかは不問なんだろうか……)
 ユタはそう思った。
 男性の場合は心臓だから、童貞・非童貞は関係無いだろう。
(年齢制限があるという時点で、何か嫌な予感が立ち込めている……)

[同日13:02.特急“スーパーあずさ”18号1号車内 ユタ&マリア]

 2人を乗せた列車は定刻通りに発車した。
 ここから新宿まで約2時間半の旅である。

〔「……終点、新宿には15時33分の到着です。電車は12両編成での運転です。【中略】次の停車駅は塩尻です」〕

「エレーナさんからもらったアイテム、指輪以外にどんなのが?」
「このグリーンハーブは体力を回復させるものだな。こっちの赤いのは、魔力を回復させるものだ」
「基本的なアイテムが多いですね」
「まあ……」
「何か、石炭みたいなものもありますよ?」
「これは“爆弾岩の破片”だね。モンスターの中に自爆を得意とする爆弾のような岩型のヤツがいて、そいつが自爆した後でも、破片はそこそこの威力があるんだそうだ」
「へえ……。どれくらいの威力なんですかね?」
「手榴弾くらいじゃない?」
「こんな掌サイズの石がですか!……これ、飛行機に持ち込めます?」
「ただの石だから、金属探知機には引っ掛からないと思うけど……」
「何だか心配ですね。まあ、手榴弾なだけに、グレネードガン(手榴弾を発射する銃)が無いだけマシか……」
「…………」
「…………」
 荷棚の上に置いたキャリーケース。
 その中に入っている人形形態のミカエラとクラリス。
 2体はユタの言葉に、ニヤリと笑っていた。

[同日13:33.同列車・2号車 ユタ]

 列車が茅野駅を発車する。

〔「……次は甲府です」〕

 甲府まで来れば、列車はだいたい行程の半分まで来ることになる。
 ユタはトイレに立った。
 連結器の踏み板を渡って、2号車へ入る。
 洋式トイレの方は塞がっていたが、男性用個室の方は空いていた。
 小用のユタは、空いている方で十分。
 個室内にある小型の洗面台で手を洗った後、誰もいないデッキに出た。
 と、同時に洋式トイレの個室からも、別の乗客が出て来た……。
「あっ!?」
 それは魔界の宿屋で会った老紳士だった。
 ユタの姿を見ると、ニヤッと笑う。
「フフフフ……。青年よ。マリアンナのエスコート、ご苦労さん。そして、よくぞ使用済み女優とわんころを撃退した」
「あ、あなたは一体……!?」
「だが、あくまで撃退しただけだ。ヤノフ城で歓迎の準備が進んでいるようじゃぞ」
「何だって!?」
「だが、もう逃げられん。大魔道師も、お前達の到着を待ちわびているからな」
「イリーナ先生が!?」
 老紳士はステッキを突きながら、2号車客室の方へ歩いて行く。
「ヨロヘー・バブヘー・ホーホケ・キョー・イーエー・アーエー・アール・ワー……」
「ちょ、ちょっと待って!」
 唖然としていたユタだったが、ふと我に返ると慌てて後を追った。
 だがそこには老紳士の姿は無く、
「ANP車内販売でございます。お弁当にお茶、冷たいお飲み物……」
 車内販売員が向こうから歩いてきた。
「消えた……?」

[同日13:45.同列車・1号車 ユタ&マリア]

 ユタが自分の座席に戻ると、マリアは座席にもたれて眠っていた。
 窓側に座る彼女だが、程良く差しこむ春の日差しに眠気を感じたのだろう。
 あの老紳士のことについて聞きたかったのだが、寝ているのではしょうがない。
 それに、魔界の宿屋で聞いた時も知らないようだった。
「すいません、ホットコーヒーください」
「ありがとうございます」
 先程の車内販売が回って来たので、ユタは眠気覚ましにコーヒーを買い求めた。
 老紳士の話ぶりでは現地に到着するまで大丈夫そうだが、それは油断させる為の罠かもしれない。
 一緒に寝てるわけにはいかなかった。
 ユタは紙コップに入ったコーヒーのプラスチックの蓋を開け、砂糖を入れた。
「おう、車販役のANPさんよ~。缶ビールと枝豆くれよ~。ヒック!」
「乗客A役のポテンヒットさん、ありがとうございます。今ならシェイクサービス付きですが、いかがでしょうか?」
「泡ばっか出てダメじゃんかよ、ああっ!?」

[同日15:33.JR新宿駅 ユタ&マリア]

〔「……本日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございました。終点、新宿に到着です」〕

 特急と並走する黄色い電車、すれ違うオレンジ色の電車が終点が近いことを教えてくれている。
 マリアは欠伸をしながら、
「何だか急に眠くなって寝込んでしまったけど、ちゃんと列車は走っていたみたいだな」
「それが鉄旅のいい所です」
 ユタは大きく頷いた。
「まあ、マリアさんが寝ている間、ちょっとあったんですけど……」
「え?なに?」
「もうすぐ降りるので、バス停に向かう間、話しましょう」
 ユタは荷棚から荷物を下ろした。
 既に列車はホームに入線している。

〔しんじゅく~、新宿~。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕

「何年も戻らないつもりだったのに、すぐ戻ってきちゃいましたねぇ……」
「まあ、事情が事情だからしょうがない。次はバスか?」
「ええ。新宿駅西口からリムジンバスが出ています。それで……」
 ユタはそう言って、まずは西口を目指した。

 その様子を柱の陰から覗き見る老紳士。
「汝、一切の望みを捨てよ、か……。くだらん」

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2 コメント

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つぶやき (作者)
2015-04-20 09:27:13
職場の上長に言われたことだが、私は人生あまり冒険せず、手堅く生きるタイプであるという。
そういう人間は顕正会みたいな団体は合わない。
そして法華講はもっと合わない。
功徳が出るのを望むからだ。
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つぶやき 2 (作者)
2015-04-20 10:06:48
雨は午後からだってのに、今から降ってくるとはなぁ……。ツいて無ェ……。
返信する

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