報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「新庄運転手と再会」

2023-12-25 14:51:16 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月8日10時50分 天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区天沼町 自治医科大学付属埼玉医療センター・タクシー乗り場]

 新庄さんのタクシーを見つけたはいいものの、タッチの差で逃してしまった。
 私はダッシュで後を追った。
 もしかしたら県道の交差点で、赤信号で止まってくれるかもしれないと思ったからだ。
 しかし、タクシーは医療センターの敷地外に出ることはなかった。
 タクシー乗り場には、タクシーが1台しか付け待ちできない。
 そこでタクシーが出ない限り、後から来た空車は、タクシープールで待機しなくてはならないのだ。
 別のタクシーがまだ付け待ちをしているということもあり、新庄さんのタクシーは待機場の中に入って行った。
 そして、その先頭スペースで止まる。

 高橋「先生、大丈夫ですか!?」

 ようやくバスを降りた高橋が走ってきた。

 愛原「だ、大丈夫だ」
 高橋「たく、あのお婆ちゃん!」
 愛原「まあまあ。病院発着の路線バスあるあるだ。それより、新庄さんだ!」

 私達は再びバス停の方へと向かった。
 タクシープールの先頭部分は、ちょうどバス停の辺りにあるからだ。

 愛原「んっ!?」

 と、そこへ付け待ちしていた別のタクシーが、乗客を乗せて出発して行った。
 そして、新庄さんのタクシーが空車表示を掲げてやってきた。

 愛原「こ、これだ!」

 私達が乗客だと思っているようで、すぐにセダンタイプのタクシーのドアを開ける。

 新庄「はい、どうぞー!」
 愛原「お願いします!」

 私と高橋はリアシートに乗り込んだ。
 そして、新庄さんはドアを閉める。

 新庄「どちらまで行かれますかー?」
 愛原「さいたま市中央区上落合○丁目△-□までお願いします」

 私が斉藤家の住所を言った。

 新庄「上落合ですね。かしこまりました。えー、○丁目△-□……。!?」

 新庄さんは聞き覚えのある住所と番地を言われたので、バッとルームミラーで私達を見た。

 新庄「えっ!?えっ、えっ!?」

 そして、今度は直接後ろを振り向いて私達を見る。

 愛原「やあ、どうも、新庄さん。お久しぶりです」
 高橋「どもっス」
 新庄「ややや!これはこれは!愛原さん!どうも、しばらくでございます!」
 愛原「いや、本当に」
 新庄「どうしてここへ!?」
 愛原「それは追々話しますので、まずは今の住所、つまり斉藤家まで行ってもらえますか?もちろん、料金は払います」
 新庄「か、かしこまりました!」

 新庄さんは料金メーターを作動させると、タクシーを走らせた。
 すぐにセンターの敷地外に出て、まずは県道との交差点の赤信号で止まる。

 愛原「実はお願いがありまして、家の中に入らせて欲しいんです。家の鍵を持っているのは新庄さんだと、絵恋さんから聞きましてね」
 新庄「御嬢様が……。はい、確かに私は鍵を預からせて頂いております。旦那様からは、ハウスキーパーとしての御役目も賜ってございますので」
 愛原「やっぱりですか。で、家の中を見せて頂くことは?」
 新庄「それは何故ですか?」
 愛原「家の中にエレベーターがありますでしょう?メーカーが三菱日立ホームエレベーターの」
 新庄「あ、はい。ございますが……」
 愛原「その鍵、絵恋さんが持っていたんですよ」
 新庄「お嬢様でしたか……。いえ、実はエレベーターの鍵、何本かメーカーさんから頂いてはいたんですが、どうも1本足りないような気がしていたんです。それがどうかしましたか?」
 愛原「絵恋さんは何の気無しにその鍵を持っていたようだったので、本当にエレベーターの鍵かどうか分からないそうです。ただ、エレベーターの中に落ちていたというだけで」
 新庄「こ、これは私としたことが……。もしかしたら、紛失したのは私の方だったのかもしれません。それを御嬢様がお預かりされていたということだったのですね」
 愛原「その経緯はちょっとよく分からないんですが……。ただ、本当にこの鍵でエレベーターが作動するか、それを確認したいんですよ」
 新庄「わざわざ旦那様の御宅で、ですか?」
 愛原「他に同じエレベーターを導入している所に、なかなか心当たりが無くて……」
 新庄「まあ、愛原さんの頼みですし、なるべくならお応えしたいところですが……」
 愛原「私の頼みというだけでは難しいですか?」
 新庄「申し訳ございません。愛原さんを疑っているわけではないのですが……」

 信号が青になり、車が走り出す。
 来た道を引き返すように、まずは大宮駅の方に向かって走る。
 そして、また途中の赤信号に引っ掛かった。

 愛原「それなら、これはどうです?」

 私は鞄の中から、絵恋の手紙を取り出した。
 それを新庄さんに渡す。
 これで信じてくれなかったら、あのブルマを出すしかないが……。

 新庄「確かにこれは御嬢様の字です。うーむ……。分かりました。御嬢様の御命令とあらば、承りましょう」
 高橋「いいのか?証拠ならもっとあるぞ」

 と、高橋が余計なことを言う。

 新庄「結構です。逆に、今の高橋さんの言葉で確信が更に持てました。御嬢様のお手紙以外にも証拠がおありということは、けして愛原さんの仰ることが嘘ではないと……」
 愛原「もちろんです。新庄さんにウソを付く為に、わざわざ東京から来たりしませんよ」
 新庄「それもそうですね。それでは、御嬢様の御宅へ向かわせて頂きます」
 愛原「よろしくお願いします」

[同日11時10分 天候:晴 さいたま市中央区上落合某所]

 医療センターからだいたい15分ちょっとで、タクシーは閑静な住宅街へやってきた。
 マンションも建っているが、一軒家も多く建っている。
 建売住宅とかはともかく、それ以外の一軒家については庭付き・車庫付きであった。
 そして、中には豪邸とも言える大きな家も散見される。
 さいたま市の中では、高級住宅街とも言える場所であった。
 そんな豪邸の中に、斉藤家も含まれているというわけだ。
 但し、斉藤家の場合、敷地面積そのものは狭いが故に、縦に広く作らなくてはならなかった。
 地上4階建ての屋上付き、そして地下室付きであった。
 当然階段の上り下りは大変なので、ホームエレベーターが設置されている。
 高級住宅街にしては、道は1車線分だけと狭いので、タクシーが路駐できない。
 そこで新庄さんは、ガレージのシャッターを開け、その中にタクシーを入れた。

 愛原「一旦、料金払いますね」
 新庄「かしこまりました」
 愛原「領収証をお願いします」

 私はまず、ここまでの料金を支払った。
 その為、タクシーはここで『空車』表示となる。

 新庄「それでは、中をご案内させて頂きます」

 新庄さんはガレージ奥のドアを、持っていた鍵で開けた。
 私の記憶では玄関前の廊下に出るはずであり、玄関とは反対方向に歩いて行くと、突き当りにエレベーターがあるはずである。

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