[2月8日10時25分 天候:晴 埼玉県さいたま大宮区 JR高崎線3001M列車1号車内→JR大宮駅]
私達を乗せた特急“草津”1号は、軽やかにさいたま新都心駅を通過した。
大宮までの停車駅は、朝夕走る快速と変わらない。
〔♪♪♪♪。「まもなく大宮、大宮です。7番線到着、お出口は右側です。大宮駅進入の際、ポイント通過の為、列車が大きく揺れる場合がございます。お立ちのお客様は、お近くの手すりにお掴まり下さい。大宮を出ますと、次は熊谷に止まります。……」〕
かつての特急は大宮以北も、快速と停車駅はそんなに変わらなかった。
それが今や停車駅は大幅に減らされ、新幹線並みの停車数となっている。
愛原「よし、降りるぞ」
高橋「はい」
列車は大宮駅上下副線ホームの7番線に到着した。
上り列車の待避に使われることもあるし、このように、特急列車の発着に使われることもある。
下りの特急が、高崎線下り本線ホームの8番線を使用しないのは、普通列車の乗客と分ける為である。
自動放送が無く、ドアチャイムも無ければ、ドア開閉の際にプシューとエアーの音が響くのは、どこか懐かしい。
〔「ご乗車ありがとうございました。大宮、大宮です。7番線に到着の電車は、10時26分発、高崎線の特急“草津”1号、長野原草津口行きです。次は、熊谷に止まります」〕
私達はここで列車を降りた。
当たり前だが、ここでは下車客は皆無に等しく、乗車客の方が多い。
高橋「ここから張り込みっスね?」
愛原「いや、違うよ。新庄さんは大宮駅で客待ちをしているわけじゃない」
高橋「え?」
愛原「ここからその場所まで、バスで向かう」
高橋「はあ……」
埼玉県一のターミナル駅である大宮駅は賑わっている。
多くの人が行き交うコンコースを進み、改札口を出て東口に向かった。
斉藤家は大宮駅から見れば南西の方角にあり、どちらかというと、東口よりは西口の方が馴染みが深い。
しかし、何故か新庄さんは大宮駅で客待ちではなく、もっと別の場所で客待ちをしているのだそうだ。
[同日10時36分 天候:晴 大宮駅東口バス停→国際興業バス大11系統車内]
大宮駅の東口に移動した私達は、ロータリーの外周部にあるバス停に向かった。
私達が来た時、まだバスは入っておらず、何人かの先客の後ろに並ぶ。
平日の午前中ということもあり、お年寄りの利用が多いようであった。
やってきたバスは、都営バスでもお馴染みのノンステップバス。
但し、埼玉では後ろから乗る。
乗り込むと、1番後ろの座席に座った。
お年寄り達は、前の方に乗りたがるからだ。
もっとも、運転席後ろの高い席は無理だろうが。
高橋「先生。もしかして、新庄さんは病院のタクシー乗り場で客待ちしてるってことっスか?」
愛原「そういうこと」
発車時間になり、殆どの席が埋まったところで、バスはエンジンを掛けて発車した。
〔ドアが閉まります。ご注意ください〕
〔「自治医大医療センター行き、発車致します」〕
ロータリーをゆっくりした速度で、タクシーや他のバスを交わしながら進む。
〔♪♪♪♪。毎度、国際興業バスをご利用頂きまして、ありがとうございます。このバスは、自治医大医療センター行きです。次は大宮大門町、大宮大門町でございます。……〕
バスは県道90号線(大宮中央通り)に出た。
あとはここから、道なりに真っ直ぐ行くだけである。
私は窓側に座っているが、車窓を眺めていた。
別に景色を楽しむのではなく、新庄さんのタクシーと会わないか監視する為である。
もしも大宮駅東口のタクシー乗り場に、新庄さんと同じタクシー会社のタクシーがいたら、その車に乗って、新庄さんを呼んでもらうという手もあった。
だが、そうは上手く行かないもので、あいにくと前の方に並んでいたのは、全く別のタクシー会社であった。
さいたま市内では、そんなに大きなタクシー会社ではない。
なのでその会社の車とすれ違う時は、尚更運転席を覗き込むのだった。
[同日10時45分 天候:晴 さいたま市大宮区天沼町 自治医大医療センターバス停]
〔♪♪♪♪。次は終点、自治医大医療センター、自治医大医療センターでございます。毎度、国際興業バスをご利用頂きまして、ありがとうございました〕
バスは1つ手前のバス停を出ると、ついに県道214号線とはお別れとなる。
医療センターの入口に向かう交差点で右折待ちをしていると、対向車線を1台のタクシーが先に左折して行った。
愛原「!」
そのタクシーは、新庄さんのタクシー会社と同じタクシーだった。
やがて時差式信号の対向車線側の信号が赤になり、バスが右折する。
〔「バスが大きく揺れますので、ご注意ください」〕
更に右折する際、センター前のロータリーが嵩上げされているということもあり、それを登る為、バスが大きく揺れる。
〔♪♪♪♪。自治医大医療センター、自治医大医療センター。終点でございます。お忘れ物の無いよう、ご注意願います。ご乗車ありがとうございました〕
バスは多くの乗客が列を成して待っているバス停の前に停車した。
プシューと大きなエアー音を立てて、グライドスライドドアの前扉が開く。
私達も通路に立った。
それからタクシー乗り場の方を見ると、そこには別のタクシーが1台客待ちをしている。
先ほどのタクシーは、その後ろに止まって、ハザードランプを点けて止まっていた。
リアガラス越しに見える種別表示灯は、オレンジ色のLEDで『支払』と出ている。
どうやら、ここまで乗って来た乗客を降ろしているところのようだ。
そして、トランクが開いて、運転席から運転手が降りて来る。
どうやら、入院患者の荷物か何かを積んでいたようだ。
トランクから荷物を降ろすその運転手は……。
愛原「新庄さんだ!」
私は列の前を見た。
老婆「あら?おかしいわねぇ……。百円玉が無いわ~……」
こんな時に限ってSuicaの残額が足りず、現金払いをしようとしている老婆がてこずっている。
その間、列は止まる。
このままでは新庄さんが走り去ってしまう。
愛原「高橋!支払いは任せた!!」
高橋「は、はい!」
私は自分の分の支払いを高橋に任せた。
運転手「じゃあ、両替してください」
老婆「両替ね~。ハイハイ……」
愛原「ちょちょ、ちょっと失礼!!」
私は老婆を押しのけて、前扉からバスを飛び降りた。
運転手「ちょ、ちょっと!」
私はバスの運転手が止めるのも聞かず、タクシーに走り寄った。
この時、新庄さんはトランクを閉め、運転席に乗り込んでいる。
愛原「新庄さん!新庄さん!ちょっと待って!!」
だがタッチの差で、新庄さんのタクシーは走り去ってしまった。
愛原「くそっ!!」
私は地団太踏んでしまった。
私達を乗せた特急“草津”1号は、軽やかにさいたま新都心駅を通過した。
大宮までの停車駅は、朝夕走る快速と変わらない。
〔♪♪♪♪。「まもなく大宮、大宮です。7番線到着、お出口は右側です。大宮駅進入の際、ポイント通過の為、列車が大きく揺れる場合がございます。お立ちのお客様は、お近くの手すりにお掴まり下さい。大宮を出ますと、次は熊谷に止まります。……」〕
かつての特急は大宮以北も、快速と停車駅はそんなに変わらなかった。
それが今や停車駅は大幅に減らされ、新幹線並みの停車数となっている。
愛原「よし、降りるぞ」
高橋「はい」
列車は大宮駅上下副線ホームの7番線に到着した。
上り列車の待避に使われることもあるし、このように、特急列車の発着に使われることもある。
下りの特急が、高崎線下り本線ホームの8番線を使用しないのは、普通列車の乗客と分ける為である。
自動放送が無く、ドアチャイムも無ければ、ドア開閉の際にプシューとエアーの音が響くのは、どこか懐かしい。
〔「ご乗車ありがとうございました。大宮、大宮です。7番線に到着の電車は、10時26分発、高崎線の特急“草津”1号、長野原草津口行きです。次は、熊谷に止まります」〕
私達はここで列車を降りた。
当たり前だが、ここでは下車客は皆無に等しく、乗車客の方が多い。
高橋「ここから張り込みっスね?」
愛原「いや、違うよ。新庄さんは大宮駅で客待ちをしているわけじゃない」
高橋「え?」
愛原「ここからその場所まで、バスで向かう」
高橋「はあ……」
埼玉県一のターミナル駅である大宮駅は賑わっている。
多くの人が行き交うコンコースを進み、改札口を出て東口に向かった。
斉藤家は大宮駅から見れば南西の方角にあり、どちらかというと、東口よりは西口の方が馴染みが深い。
しかし、何故か新庄さんは大宮駅で客待ちではなく、もっと別の場所で客待ちをしているのだそうだ。
[同日10時36分 天候:晴 大宮駅東口バス停→国際興業バス大11系統車内]
大宮駅の東口に移動した私達は、ロータリーの外周部にあるバス停に向かった。
私達が来た時、まだバスは入っておらず、何人かの先客の後ろに並ぶ。
平日の午前中ということもあり、お年寄りの利用が多いようであった。
やってきたバスは、都営バスでもお馴染みのノンステップバス。
但し、埼玉では後ろから乗る。
乗り込むと、1番後ろの座席に座った。
お年寄り達は、前の方に乗りたがるからだ。
もっとも、運転席後ろの高い席は無理だろうが。
高橋「先生。もしかして、新庄さんは病院のタクシー乗り場で客待ちしてるってことっスか?」
愛原「そういうこと」
発車時間になり、殆どの席が埋まったところで、バスはエンジンを掛けて発車した。
〔ドアが閉まります。ご注意ください〕
〔「自治医大医療センター行き、発車致します」〕
ロータリーをゆっくりした速度で、タクシーや他のバスを交わしながら進む。
〔♪♪♪♪。毎度、国際興業バスをご利用頂きまして、ありがとうございます。このバスは、自治医大医療センター行きです。次は大宮大門町、大宮大門町でございます。……〕
バスは県道90号線(大宮中央通り)に出た。
あとはここから、道なりに真っ直ぐ行くだけである。
私は窓側に座っているが、車窓を眺めていた。
別に景色を楽しむのではなく、新庄さんのタクシーと会わないか監視する為である。
もしも大宮駅東口のタクシー乗り場に、新庄さんと同じタクシー会社のタクシーがいたら、その車に乗って、新庄さんを呼んでもらうという手もあった。
だが、そうは上手く行かないもので、あいにくと前の方に並んでいたのは、全く別のタクシー会社であった。
さいたま市内では、そんなに大きなタクシー会社ではない。
なのでその会社の車とすれ違う時は、尚更運転席を覗き込むのだった。
[同日10時45分 天候:晴 さいたま市大宮区天沼町 自治医大医療センターバス停]
〔♪♪♪♪。次は終点、自治医大医療センター、自治医大医療センターでございます。毎度、国際興業バスをご利用頂きまして、ありがとうございました〕
バスは1つ手前のバス停を出ると、ついに県道214号線とはお別れとなる。
医療センターの入口に向かう交差点で右折待ちをしていると、対向車線を1台のタクシーが先に左折して行った。
愛原「!」
そのタクシーは、新庄さんのタクシー会社と同じタクシーだった。
やがて時差式信号の対向車線側の信号が赤になり、バスが右折する。
〔「バスが大きく揺れますので、ご注意ください」〕
更に右折する際、センター前のロータリーが嵩上げされているということもあり、それを登る為、バスが大きく揺れる。
〔♪♪♪♪。自治医大医療センター、自治医大医療センター。終点でございます。お忘れ物の無いよう、ご注意願います。ご乗車ありがとうございました〕
バスは多くの乗客が列を成して待っているバス停の前に停車した。
プシューと大きなエアー音を立てて、グライドスライドドアの前扉が開く。
私達も通路に立った。
それからタクシー乗り場の方を見ると、そこには別のタクシーが1台客待ちをしている。
先ほどのタクシーは、その後ろに止まって、ハザードランプを点けて止まっていた。
リアガラス越しに見える種別表示灯は、オレンジ色のLEDで『支払』と出ている。
どうやら、ここまで乗って来た乗客を降ろしているところのようだ。
そして、トランクが開いて、運転席から運転手が降りて来る。
どうやら、入院患者の荷物か何かを積んでいたようだ。
トランクから荷物を降ろすその運転手は……。
愛原「新庄さんだ!」
私は列の前を見た。
老婆「あら?おかしいわねぇ……。百円玉が無いわ~……」
こんな時に限ってSuicaの残額が足りず、現金払いをしようとしている老婆がてこずっている。
その間、列は止まる。
このままでは新庄さんが走り去ってしまう。
愛原「高橋!支払いは任せた!!」
高橋「は、はい!」
私は自分の分の支払いを高橋に任せた。
運転手「じゃあ、両替してください」
老婆「両替ね~。ハイハイ……」
愛原「ちょちょ、ちょっと失礼!!」
私は老婆を押しのけて、前扉からバスを飛び降りた。
運転手「ちょ、ちょっと!」
私はバスの運転手が止めるのも聞かず、タクシーに走り寄った。
この時、新庄さんはトランクを閉め、運転席に乗り込んでいる。
愛原「新庄さん!新庄さん!ちょっと待って!!」
だがタッチの差で、新庄さんのタクシーは走り去ってしまった。
愛原「くそっ!!」
私は地団太踏んでしまった。
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