報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「電子マネーが普及して、運賃の支払いは昔よりもスムーズになったが……」

2023-12-25 11:36:29 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月8日10時25分 天候:晴 埼玉県さいたま大宮区 JR高崎線3001M列車1号車内→JR大宮駅]

 私達を乗せた特急“草津”1号は、軽やかにさいたま新都心駅を通過した。
 大宮までの停車駅は、朝夕走る快速と変わらない。

〔♪♪♪♪。「まもなく大宮、大宮です。7番線到着、お出口は右側です。大宮駅進入の際、ポイント通過の為、列車が大きく揺れる場合がございます。お立ちのお客様は、お近くの手すりにお掴まり下さい。大宮を出ますと、次は熊谷に止まります。……」〕

 かつての特急は大宮以北も、快速と停車駅はそんなに変わらなかった。
 それが今や停車駅は大幅に減らされ、新幹線並みの停車数となっている。

 愛原「よし、降りるぞ」
 高橋「はい」

 列車は大宮駅上下副線ホームの7番線に到着した。
 上り列車の待避に使われることもあるし、このように、特急列車の発着に使われることもある。
 下りの特急が、高崎線下り本線ホームの8番線を使用しないのは、普通列車の乗客と分ける為である。
 自動放送が無く、ドアチャイムも無ければ、ドア開閉の際にプシューとエアーの音が響くのは、どこか懐かしい。

〔「ご乗車ありがとうございました。大宮、大宮です。7番線に到着の電車は、10時26分発、高崎線の特急“草津”1号、長野原草津口行きです。次は、熊谷に止まります」〕

 私達はここで列車を降りた。
 当たり前だが、ここでは下車客は皆無に等しく、乗車客の方が多い。

 高橋「ここから張り込みっスね?」
 愛原「いや、違うよ。新庄さんは大宮駅で客待ちをしているわけじゃない」
 高橋「え?」
 愛原「ここからその場所まで、バスで向かう」
 高橋「はあ……」

 埼玉県一のターミナル駅である大宮駅は賑わっている。
 多くの人が行き交うコンコースを進み、改札口を出て東口に向かった。
 斉藤家は大宮駅から見れば南西の方角にあり、どちらかというと、東口よりは西口の方が馴染みが深い。
 しかし、何故か新庄さんは大宮駅で客待ちではなく、もっと別の場所で客待ちをしているのだそうだ。

[同日10時36分 天候:晴 大宮駅東口バス停→国際興業バス大11系統車内]

 大宮駅の東口に移動した私達は、ロータリーの外周部にあるバス停に向かった。
 私達が来た時、まだバスは入っておらず、何人かの先客の後ろに並ぶ。
 平日の午前中ということもあり、お年寄りの利用が多いようであった。
 やってきたバスは、都営バスでもお馴染みのノンステップバス。
 但し、埼玉では後ろから乗る。
 乗り込むと、1番後ろの座席に座った。
 お年寄り達は、前の方に乗りたがるからだ。
 もっとも、運転席後ろの高い席は無理だろうが。

 高橋「先生。もしかして、新庄さんは病院のタクシー乗り場で客待ちしてるってことっスか?」
 愛原「そういうこと」

 発車時間になり、殆どの席が埋まったところで、バスはエンジンを掛けて発車した。

〔ドアが閉まります。ご注意ください〕
〔「自治医大医療センター行き、発車致します」〕

 ロータリーをゆっくりした速度で、タクシーや他のバスを交わしながら進む。

〔♪♪♪♪。毎度、国際興業バスをご利用頂きまして、ありがとうございます。このバスは、自治医大医療センター行きです。次は大宮大門町、大宮大門町でございます。……〕

 バスは県道90号線(大宮中央通り)に出た。
 あとはここから、道なりに真っ直ぐ行くだけである。
 私は窓側に座っているが、車窓を眺めていた。
 別に景色を楽しむのではなく、新庄さんのタクシーと会わないか監視する為である。
 もしも大宮駅東口のタクシー乗り場に、新庄さんと同じタクシー会社のタクシーがいたら、その車に乗って、新庄さんを呼んでもらうという手もあった。
 だが、そうは上手く行かないもので、あいにくと前の方に並んでいたのは、全く別のタクシー会社であった。
 さいたま市内では、そんなに大きなタクシー会社ではない。
 なのでその会社の車とすれ違う時は、尚更運転席を覗き込むのだった。

[同日10時45分 天候:晴 さいたま市大宮区天沼町 自治医大医療センターバス停]

〔♪♪♪♪。次は終点、自治医大医療センター、自治医大医療センターでございます。毎度、国際興業バスをご利用頂きまして、ありがとうございました〕

 バスは1つ手前のバス停を出ると、ついに県道214号線とはお別れとなる。
 医療センターの入口に向かう交差点で右折待ちをしていると、対向車線を1台のタクシーが先に左折して行った。

 愛原「!」

 そのタクシーは、新庄さんのタクシー会社と同じタクシーだった。
 やがて時差式信号の対向車線側の信号が赤になり、バスが右折する。

〔「バスが大きく揺れますので、ご注意ください」〕

 更に右折する際、センター前のロータリーが嵩上げされているということもあり、それを登る為、バスが大きく揺れる。

〔♪♪♪♪。自治医大医療センター、自治医大医療センター。終点でございます。お忘れ物の無いよう、ご注意願います。ご乗車ありがとうございました〕

 バスは多くの乗客が列を成して待っているバス停の前に停車した。
 プシューと大きなエアー音を立てて、グライドスライドドアの前扉が開く。
 私達も通路に立った。
 それからタクシー乗り場の方を見ると、そこには別のタクシーが1台客待ちをしている。
 先ほどのタクシーは、その後ろに止まって、ハザードランプを点けて止まっていた。
 リアガラス越しに見える種別表示灯は、オレンジ色のLEDで『支払』と出ている。
 どうやら、ここまで乗って来た乗客を降ろしているところのようだ。
 そして、トランクが開いて、運転席から運転手が降りて来る。
 どうやら、入院患者の荷物か何かを積んでいたようだ。
 トランクから荷物を降ろすその運転手は……。

 愛原「新庄さんだ!」

 私は列の前を見た。

 老婆「あら?おかしいわねぇ……。百円玉が無いわ~……」

 こんな時に限ってSuicaの残額が足りず、現金払いをしようとしている老婆がてこずっている。
 その間、列は止まる。
 このままでは新庄さんが走り去ってしまう。

 愛原「高橋!支払いは任せた!!」
 高橋「は、はい!」

 私は自分の分の支払いを高橋に任せた。

 運転手「じゃあ、両替してください」
 老婆「両替ね~。ハイハイ……」
 愛原「ちょちょ、ちょっと失礼!!」

 私は老婆を押しのけて、前扉からバスを飛び降りた。

 運転手「ちょ、ちょっと!」

 私はバスの運転手が止めるのも聞かず、タクシーに走り寄った。
 この時、新庄さんはトランクを閉め、運転席に乗り込んでいる。

 愛原「新庄さん!新庄さん!ちょっと待って!!」

 だがタッチの差で、新庄さんのタクシーは走り去ってしまった。

 愛原「くそっ!!」

 私は地団太踏んでしまった。

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