報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「復興の途上、アルカディアシティ」

2022-07-26 21:38:20 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[魔界時間7月14日11:00.天候:晴 アルカディアシティ・デビルピーターズバーグ駅→環状線内回り急行電車先頭車内]

 地下鉄乗り場から高架鉄道乗り場へ移動中の魔道士2人。
 駅の造りは、まるで戦前の駅のようだ。
 レンガ造りだったり、石造りだったりする。
 木造の駅舎は、少なくともアルカディアシティ内には無いようだ。
 戦前の日本の駅も、行き交う人々の装いは洋の東西ごちゃ混ぜであった。
 ここではそれにプラスして、PRGの世界の装いをした者も散見される。
 恐らく現実世界では、コスプレイベントでしか見られないであろう装いだ。
 それを言うなら、マリアも似たようなものである。
 現実世界で、堂々とローブを羽織る者はそうそういないだろう。
 しかし、その下は制服ファッションという、ちぐはぐさだ。
 これはマリアが、現実世界と魔界のどちらに住むかを迷っているのではと思われた。

 

 女戦士:「ちょいと失礼、そこの魔法使いさん達」

 高架鉄道の駅に向かって歩いていると、後ろからビキニアーマーの女戦士に話し掛けられた。

 勇太:「な、何でしょう?」
 女戦士:「この駅の近くに、傭兵ギルドがあるって聞いたんだけど、知ってるかい?」
 マリア:「それなら、あの地下鉄の駅の裏だ。入口はバーになってるから、すぐに分かると思う」
 女戦士:「地下鉄の裏ね。分かった。ありがとう」

 女戦士は手持ちの剣を隠そうもせず、マリアの言われた通りの道を向かった。

 勇太:「あー、ビックリした……」
 マリア:「どうせサーシャで慣らされたんだろ?何を今さら……」
 勇太:「そんなこと言われたって……。あんな、露出の激しい姿を見せられたら……」
 マリア:「このスケベ!」
 勇太:「いやだって、現実世界でそうそうあんなに露出の高い人は……」
 マリア:「ビーチじゃそうだろ」
 勇太:「そりゃ、海水浴場では当たり前でしょ!日常的にさ……」
 マリア:「女子陸上競技の選手のユニフォームは、結構露出が高いと思うけど?」
 勇太:「それだ!」
 マリア:「彼女らは実用的な理由で、ああいうユニフォームを着てるんだ。あの戦士達も同じさ」
 勇太:「でも陸上競技と格闘技は違くない?」
 マリア:「いや、似たようなものだろう」
 勇太:(いや、絶対違うと思う)

 高架鉄道の駅に行くと、そこではキップを買う。

 駅員:「サウスエンドまで、大人2人ですね。はい」

 窓口でキップを買うと、硬券を渡された。
 地下鉄の駅は自動改札機が設置されているが、高架鉄道の方は自動化されていない。
 改札口のブースに立っている駅員にキップを渡して、入鋏してもらう形となる。
 それから階段を上がって、ホームに向かう。
 すると、ちょうど電車がやってくるところだった。

 勇太:「これは何だ?」

 焦げ茶色の電車、6両編成がやってきた。
 恐らく、戦前に製造された旧型国電だと思われる。

 勇太:「モハ30系……かな?」

 片開きのドアが片側に3つ付いている。
 それが開いた。

〔「環状線内回り、急行電車です。サウスエンドまで急行、サウスエンドから先、各駅停車となります」〕

 乗り込むと、木張りの床だった。

〔「環状線内回り急行です。まもなく発車致します」〕

 旧型国電には放送設備は無かったと思うが、魔界高速電鉄で運用される時に取り付けられたのだろうか。
 発車ベルのジリジリ音がホームに響き、それから車掌の笛の音が聞こえて来る。
 それから、大きなエアー音がしてドアが閉まる。
 そして電車は、釣り掛け駆動の旧式のモーター音を響かせて発車した。

〔「本日もアルカディアメトロ環状線をご利用頂き、ありがとうございます。環状線内回り、急行電車です。次はドワーフバレー、ドワーフバレーです。中央線と冥鉄線はお乗り換えです」〕

 霧の町アルカディア。
 時折電車は、霧に包まれることがある。
 緑色の座席に腰かけている2人が、車窓からアルカディアシティの街並みを見てみた。
 所々、瓦礫が散乱している所はあるものの、住民総出で復旧活動を行っている様子も見て取れる。
 電車の中吊り広告には、だいぶ前のアルカディアタイムス号外が掲示されている。
 それは、アルカディア王国とミッドガード共和国との間で停戦が合意されたというものだった。
 今やミッドガード共和国も一党独裁制であるが、その独裁している一党というのが、アルカディア王国との政争に負けて国外逃亡した魔界民主党の面々だったのである。
 そこから大統領を輩出し、現在に至る。
 電車内の乗客は地下鉄と違い、人間が多い。
 人魔一体の王国であるが、どうしても妖怪などは地下鉄に多く、人間は高架鉄道に多い。
 乗務員の構成も、そういった傾向がある。

 勇太:「一応、威吹の家に連絡した方がいいかもしれないな」
 マリア:「それもそうか。アポ無しで行ったりしたら、また襲われるかもしれんね」

 威吹を慕って、今や大勢の弟子が住み込みで修行をしている。
 その中でも一番弟子の坂吹という者は警戒心が強く、勇太が威吹のかつての盟友だと聞いているはずなのに、追い出そうとしたくらいである。

 勇太:「駅に着いたら電話してみよう」

[同日11:30.天候:晴 アルカディアシティ・サウスエンド駅]

〔「まもなくサウスエンド、サウスエンド、南端村、日本人街です。お出口は、左側です。サウスエンドまで急行で参りましたが、サウスエンドから先は各駅に止まります」〕

 電車が高架駅に進入する。

〔「サウスエンド~、サウスエンド~」〕

 サウスエンドが正しい地名なのだが、ここに異世界転生などで住み着いた日本人達が、それを直訳した『南端村』と呼ぶようになり、今や副駅名として『南端村』が定着している。
 電車を降りた2人は、駅の公衆電話に向かった。

 勇太:「これ、1ゴッズと10円と、どっちが安いんだろうなぁ……」

 今や現実世界の日本でさえ、公衆電話は過去の遺物になろうとしている。
 だが、この魔界ではまだまだ一般的。
 というか、先ほどデビルピーターズバーグ駅で話し掛けて来た女戦士は使ったことがあるのだろうかと思うくらい。
 何しろ、こちらの電話は、テレホンカード式ですらない。

 勇太:「あ、もしもし。威吹?僕だけど……覚えてる?」

 すると電話口の向こうから、大歓喜の声が聞こえて来た。

 勇太:「突然で悪いんだけど、実は今、サウスエンド駅にいるんだ。ちょっと聞きたいことがあるから、そっちに行ってもいい?」

 勇太は左手で受話器を持ちながら、マリアに向かって右手でマルを作った。

 勇太:「それじゃ、後ほど……」

 勇太は電話を切った。

 マリア:「そうと決まれば、タクシーで行こう」

 もっとも、魔界には自動車は無い。
 タクシーといえば辻馬車である。

 勇太:「ちょっと待って。その前に、お土産買っていこう」

 勇太は駅前商店街に立ち寄ると、そこで油揚げの詰め合わせセットを購入した。
 威吹は妖狐。
 妖狐と言えば稲荷。
 稲荷と言えば油揚げだからである。
 それを手に、駅前で客待ちしていた辻馬車に乗り込んだ。

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