報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「イリーナの仕事」

2020-07-16 15:29:38 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月5日10:30.東京都千代田区丸の内 JR東京駅 視点:稲生勇太]

 東京駅に到着した稲生達は東京駅の構内に入った。
 そして、そのままJR東海の『JR全線きっぷ売り場』に向かおうとした。
 実はJR東日本の“みどりの窓口”よりも近い所にあり、機能的にはJR東海版“みどりの窓口”(というか、まんまそれ)なので、そこでもJR東日本のキップは買えるからだ。
 しかしそこで、稲生達は思わぬ歓迎を受けた。

 政治家秘書:「イリーナ先生の御一行様ですね!?」

 30代ほどのスーツを着た男が前に現れた。
 名刺を両手に、恭しくロシア語で挨拶してくる。
 男は、とある政権与党に所属する国会議員の秘書を名乗った。

 政治家秘書:「先生の御噂はかねがね伺っております!」

 男は自分が秘書を務める国会議員から、是非ともイリーナと会いたい旨を伝えるよう命令されてここに来たことを申し出た。

 イリーナ:「英語で結構」
 秘書:「で、では!?」
 イリーナ:「あなたの『先生』はどこにいらっしゃるの?」
 マリア:「師匠、私達はこれから……」
 イリーナ:「ついでにちょっと稼いでから帰りましょうよ」
 稲生:(プラチナカード使い過ぎた?まさかね……)
 秘書:「ありがとうございます!日本橋口に車を待たせてありますので、ご案内させて頂きます!」
 イリーナ:「このコ達もいい?私の弟子なんだけど……」
 秘書:「はい、もちろんです!」

 イリーナ達を待ち構えていた以上、稲生やマリアも同行していることは把握済みなのだろう。

 稲生:「先生、もう一泊されるんですか?それとも、夕方の新幹線とか?」
 イリーナ:「夕方の新幹線でいいわ」
 稲生:「分かりました」

 稲生はスマホを取り出した。

 マリア:「勇太、歩きスマホはダメだよ」
 稲生:「おっと、そうでした。先に帰りの新幹線を予約したいんですけど、いいですか?」
 秘書:「後で私共の方で御用意させて頂きます」
 イリーナ:「グランクラス以外でお願いね」
 秘書:「グランクラス以外ですか」
 イリーナ:「ファーストクラスは、私の先生が乗るの」
 秘書:「あの大先生も御来日で!?」
 イリーナ:「コロナ禍でそんなのムリに決まってるじゃない」
 秘書:「し、失礼しました!」
 稲生:(大師匠様ならそんなの関係無いと思うけど……)

 因みにイリーナ、マリア、エレーナは国籍がそれぞれ違う為、いかに永住者の資格を持っているにせよ、一度帰国してしまったら、コロナ禍が終わるまで再入国できない。
 もちろん帰国する理由が無いので、そのまま滞在している。

 イリーナ:「まずは報酬の話からさせてもらうわね」
 秘書:「それはうちの先生に……」
 イリーナ:「分かってる」
 稲生:(こういう恩を売り付けて、マリアの永住権を確保したのかな?)

[同日12:00.東京都千代田区丸の内 JR東京駅 視点:稲生勇太]

 タクシーが赤レンガ造りの外観で有名な東京駅丸の内口に到着する。
 そこから降りて来たのは稲生とマリアだけ。
 タクシーチケットで料金を払う。
 霞ケ関から乗って来たので、大した額の料金ではなかった。

 マリア:「私達の出る幕、無かったね」
 稲生:「議員会館に行ったまでは良かったんだけどね」

 タクシーを降りて、東京駅構内へ入る。
 イリーナの噂を聞きつけた他の議員からも依頼が殺到し、稲生達はしばらくその対応に忙殺された。
 このコロナ禍、どのような政策を取れば良いのかの内容が殆どだったが、中にはまだ立場的には一般人に近い稲生が聞いてはダメな政治の闇について占って欲しいという依頼もあった。
 そして、午後には総理官邸や都庁にまで行かないといけなくなり、さすがに稲生とマリアは離脱することにした。

 稲生:「総理官邸って、なに?こっちの安倍総理だよね?向こうの安倍総理じゃなくて」
 マリア:「いや、そりゃそうでしょ」
 稲生:「僕達はちょっとこの辺りで時間でも潰してましょ。幸い、八重洲地下街とか営業再開したみたいなんで」
 マリア:「師匠から借りたカードで、ちょっとした買い物ならできるしね」
 稲生:「そうそう」
 マリア:「その前にランチにしたい」
 稲生:「何にしようかな?何が食べたい?」
 マリア:「今のうちに日本食にしたら?明日から、また食べられなくなるよ?」
 稲生:「あー、そうか」

 屋敷では、どうしてもイリーナやマリアの好みに合わせた食事になってしまうので、日本食がなかなか出て来ない。
 たまに稲生専属メイドを買って出ているメイド人形のダニエラが、夜食におにぎりを作ってくれることがあるくらいだ。
 あとはたまに買い出しに行った時、インタスタントの味噌汁を買うとか……。

[同日12:30.東京駅一番街B1F 仙台牛タン炭火焼「杜」 視点:稲生勇太]

 店員:「お待たせしました。2名様のお待ちの稲生様!」
 稲生:「あ、はい」
 店員:「お待たせしました。こちらへどうぞ」

 昼時なので少し混んでいた。
 それでもコロナ禍前は大混雑だったことを考えると、だいぶ空いている。
 で、店内を見ると満席ではない。
 コロナ対策でソーシャルディスタンスが取られていた。
 それでも2人はテーブル席へ案内された。

 マリア:「まさかの牛タンとはね」

 緑色の布マスクを着けていたマリアが笑みを浮かべ、椅子に座ってマスクを外す。

 稲生:「さすがに屋敷ではどうあっても食べれないから」
 マリア:「いいアイディアだね。うん、いいアイディアだ」

 マリアもニッと笑いながら、出された冷水を口に運んだ。

 稲生:「先生に内緒でって思うけど、カードの履歴で分かっちゃうか」
 マリア:「いいんじゃないの?師匠はきっと接待で、これよりもっといい物御馳走されてるよ」
 稲生:「なるほど」

 イリーナがその気になればもう一泊するところなのだろうが、そこまでの気は起きなかったようだ。
 イリーナが1回の占いに掛ける時間は20分前後。
 街角や『占いの館』にいる占い師だと、その時間でだいたい見料5000円くらいが相場。
 しかしイリーナの場合は本当に当たる為、そんな安値ではない。
 いや、依頼料そのものは相場の10倍程度なのだが、それ以外の経費で更にもらう。
 例えば先ほどのタクシー代。
 それと……。

 稲生:「いいのかな?僕達もグリーン車に乗っちゃって……」
 マリア:「その方が師匠を起こしやすいし、だいいち、この場合の費用はクライアントが出してくれてるんでしょ?だったら問題ない。師匠が出すのなら、私達はエコノミークラスに乗らないといけないけどね」

 稲生は秘書から帰りの新幹線のキップをもらった。
 イリーナの依頼通り、グランクラスではなく、グリーン車であったが、それは稲生とマリアの分も含まれていた。
 弟子の身分であれば、師匠より下のランクの席に座らなくてはならないのは常。
 但し、国際線の場合、プレミアムエコノミーが設定されている場合、こちらを充ててくれる場合もある(イリーナ組のように、弟子の一部にマスタークラスがいる場合など)。

 稲生:「この辺、上下関係を感じるね。えーと……何がいいかな。やっぱり定番の定食かな」
 マリア:「仙台に行った時に食べたヤツだね」
 稲生:「そうそう」
 マリア:「どれがお勧めなの?」
 稲生:「僕は味噌味がいいかな。こっちは塩味ね」
 マリア:「分かった。じゃあ、私は塩味」
 稲生:「了解」

 稲生は定食を2つ注文した。

 稲生:「先生はどれくらい稼いで来られるんだろうね」
 マリア:「さあね」
 稲生:「アメリカのトランプ大統領も、占いとか受けてるのかな?」
 マリア:「アメリカを拠点にしている組が依頼を受けたことがあるって言ってたよ」
 稲生:「マジか。もしかして、イギリスも?」
 マリア:「ルーシーから、ベイカー先生がロンドンに何度も足を運んだって聞いた」
 稲生:「このコロナ禍、どんな対策が正解なのか分からないからねぇ……」

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