報恩坊の怪しい偽作家!

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“ユタと愉快な仲間たち” 「復讐の魔道師」

2014-05-16 00:10:47 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[異世界通信社、週刊魔境GW特別増刊号の記事より]

「チェック・メイト(復讐完了)」

 今から約10年前、某国のハイスクールに通う少女は、“復讐”を遂げる度にそう言い放った。
 その顔は正に快楽殺人者であり、彼女の毒牙に掛かったスクールメイトは実に32名にも及ぶ。

 マリアンナ・ベルゼ・スカーレット、愛称マリア。
 世界を股に掛ける魔道師、クロック・ワーカーのイリーナ・レヴィア・ブリジッドの唯一の直弟子として現在、魔界から大注目の『人形使い。~人の形弄びし美女~』。
 彼女には人間だった頃、けして口外できない血塗られた歴史があった。
 ハイスクールでイジメを受けていた彼女は、『復讐』と称した血の惨劇を繰り広げるようになる。
 いかに彼女の手は血で汚れているのかと思うが、意外と彼女自身はそんなに直接手を下していない。
 謀略を張り巡らせ、直接イジメていた者はもちろん、それに加担する者、見て見ぬフリをする者、それぞれ分け隔てなく『復讐』した。

 ある者は凶悪事件に巻き込まされ、銃弾を何発も体に食らうように仕向けられた。
 ある者は自動車事故に巻き込まされ、やはり死亡した。
 ある者は毒劇物を服用され、悶絶死した。
 ある者は事故死させられた親友の死に耐えられず、後追い自殺に追い込まれた。

 これ全て、あろうことか全てマリアの謀略によるものである。
 彼女は言葉巧みに協力者を募り、自らの復讐という名の凶悪犯罪の片棒を担がせ、用済みになった者は『消した』。
 人間としてのマリアは自らの自殺未遂によって死んだも同然だが、今でも肉体的、精神的な後遺症を抱え、一生社会復帰の叶わない者も大勢いる。

 魔道師になっても、彼女の凶悪さは変わらない。
 写真は彼女の屋敷に迷い込んだ遭難者を魔術の実験に掛けるところである。
 邪悪な笑顔は師匠イリーナによって封印されているため、この画像からは想像できないが、それでもこれから人の命を奪うに当たって、薄笑いを浮かべているのが確認できる。

 そして、決定的瞬間を弊誌は捉えた。

 【中略。要は先日、仙台市内の複合施設でヤンキー3人を“狂った笑い”を浮かべて殺したことが写真付きでスッパ抜かれた】

 ……そして、多くの人間を不幸に追いやった邪悪な魔道師は、何食わぬ顔でまた人間界を歩き回る。
 何も知らぬ“対象者”の心を掴んで。

[5月5日21:00.さいたま市中央区 ユタの家 ユタ、威吹、カンジ]

 バンッ!とユタは怒り心頭で、その週刊誌をリビングの床に叩き付けた。
「何だよ、これ!まるでマリアさんが一方的に悪いみたいじゃないか!!」
 しかし威吹はさらっと言い放った。
「だから、一方的に悪いんだろ?」
「何だと!」
 ユタは威吹を睨みつけた。
「『恋は盲目』と言うが、ユタ、いい加減に目を覚ませ。確かに悪意を感じる記事ではあるが、嘘を書いているわけではないだろう?」
 威吹はいたって冷静で、週刊誌を拾い上げた。
「内容が細かく書かれている上に、ここに詳しく32人の人間がどのようにしてやられたか、御丁寧にも表にして紹介している」
「そんなの関係無い!」
「ですが稲生さん、先生の仰る事も正論です。最後の“対象者”というのは、稲生さんのことでしょう。正直、この雑誌が出るまで、オレ達は知る由も無かった。つまり、彼女らは隠ぺいを企んでいた恐れがあります。となると、やはり信用の足りる者達ではないかと」
 カンジも諭すように言った。
 威吹も続けて言う。
「そりゃあ、ボクだって昔は人間の血肉を食らっていた。そして今、キミの血肉を狙っている。でもボクはその事実をちゃんとキミに話したし、盟約の内容は厳守している。もちろん、特約(※)もね」
 ※ユタとの盟約が満了するまでは、一切人間を襲ってはならないというユタが通常の盟約に追加したオプションのこと。
「しかし奴らは過去を隠ぺいしようとしたばかりか、それでキミに近づこうとしたじゃないか。そんな奴ら信用できるか?」
「…………」
「奴らはキミの霊力に目を付けて、仲間に引き込もうと画策して近づいたに違いない」
 威吹がそう言い放つと、
「とんだイチャモンね。何の証拠も無い当て推量でユウタ君を混乱させないでくれる?」
 奥からイリーナが気配も感じさせずやってきた。
「当て推量とは何だ!図星だろうが!」
 威吹は相変わらず悠然とした態度を取るイリーナを睨みつけた。
 イリーナは微笑を浮かべて、その睨みを受け流した。
「雑誌社には明日、正式に抗議するわ。確かにマリアがハイスクール時代、ヒドいイジメを受けていたのは事実。それに立ち向かうべく、色々と策を立てて対抗したのも事実だし、同じイジメられっ子達と団結してそのリーダーとなって立ち向かったのも事実よ」
「32人も殺したというのはどういうことだ?」
「よく読んで御覧なさい。32人のスクールメイトに復讐したとは書いてあるけど、32人全員殺したとまでは書いてないから」
「確かにそうですね……」
 と、カンジ。
「実際に何人、結果的に死んだのかはその表を見ていちいち数えないと分からないようになってるでしょ?」
「本当だ……」
 パッと見た感じ、10人も行っていないような気がした。
「いくら策略だからって、それにまんまと引っ掛かって、事故や事件で死ぬのも、それはそれで間抜けだと思わない?」
「し、しかしだな……!」
 威吹が言い返せないのは、謀略を得意とする妖狐ならイリーナの言いたいことがなまじ理解できてしまうからだ。
「ユウタ君も分かるでしょう?イジメの被害者の気持ち……」
「も、もちろんです!」
 ユタもまた中学生まではイジメの被害者だった。
 威吹の封印を解き、彼が代わりに『復讐』しなければ、手首を切って自殺していたかもしれない。
「マリアはあなたと違って、誰も助けてくれなかった。最初は本当に1人で立ち向かっていたのよ?」
「素晴らしいです」
 カンジは、
(この論戦、イリーナ師の方に分がありそうだ。先生ですら、負けが込んでいる……)
 そう思った。
(まあ、確かにマリア師が何故このような凶行に及んだかの背景が詳しく書いていない時点で、中立性は無きに等しい)
 更に思う。
(何故今になって、このようなゴシップを出した?……まさか、誰かリークしたのか?誰が?何故?何の為に?)
 魔道師達の存在をウザく感じている威吹なら、メリットがあるだろう。
 しかし威吹の反応を見る限り、リーク者ではないように見えた。
 異世界通信の新聞や雑誌に、そもそも興味が薄かったこともある。

「……それで、ユウタ君。お願いがあるんだけど……」
「何でしょう?」
 威吹を完全に沈黙させてしまったイリーナは、にこやかな顔でユタを見た。
「マリアの看病をお願いできないかしら?私、これから薬を作るのに部屋を出ないといけないから」
「は、はい!分かりました!」
「ちょっと待て!何故そうなる?」
 威吹が文句を言って来た。
「マリアもずっと、うわ言でユウタ君を呼んでるから」
「……マリア師は高熱にうなされているそうですな?」
 カンジが何か考えながら、イリーナに質問した。
「そうよ。もう40度もある」
「脳がオーバーヒートして、錯乱したりはしないだろうな?いや、暴走して攻撃魔法でも使われたら、稲生さんが危ない」
「そうだ!カンジ、よく気づいた!」
 しかしイリーナはいたってにこやかに答えた。
「それなら大丈夫。今、マリアの魔力は著しく低下してるわ。恐らく今、人形1体すら操れないかもしれない。この状態で例え万が一錯乱したとしても、たかがしれてるわね」
「なるほど……。僕、マリアさんの看病します」
 ユタは席を立った。
「ユタ、危ないと思ったら、すぐにボク達を呼ぶんだよ?」
「分かってるよ」
 ユタは先頭に立って、マリアが寝ている客間へと向かった。

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