報恩坊の怪しい偽作家!

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“愛原リサの日常” 「リサ・トレヴァーの悪夢」 3

2022-12-07 20:26:19 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月30日17:30.天候:曇 東京都港区新橋 相鉄フレッサイン新橋日比谷口]

 荷物を纏めたリサは、善場の部下の清水という男とは別の男が運転する車で、一時滞在先のホテルに向かった。
 大きなキャリーバッグは車の後部に積み、リサは助手席後ろに座っている。
 清水は助手席に座っていた。
 マスクをしていることもあり、顔がよく見えないせいか、年齢が今一つ分からない。
 声からして20代後半のような気もするが、頭頂部が薄いせいで40代にも見える。
 また、耳が潰れているので、柔道の猛者だということも分かった。
 リサのクラスに男子柔道部員がいて、彼の耳も潰れているからだ。

 清水:「……はい。今、スペードエリアを出ました。これより、ハートエリアに向かいます」

 清水はインカムで、BSAAとやり取りをしている。
 もしかしたら、BSAAからの出向者なのかもしれない。
 リサは私服には着替えず、制服姿のままだった。

 リサ:「デイライトの事務所の近くってことは、新橋?」
 清水:「そうです。新橋駅近くのホテルです」
 リサ:「そう……」

 夕方のラッシュが始まっているということもあり、やや所要時間が伸びてしまった。

 清水:「相鉄フレッサインの本館だ」
 運転手:「分かった」
 清水:「開いている駐車スペースは無いか?」
 運転手:「えー……そこのパーキングメーターでいいか?ホテルはその向かい側だ」
 清水:「いいだろう」

 車はホテル裏手の路地にある、パーキングメーターの前で止まった。
 確か、60分300円である。

 清水:「俺が払っとく」
 運転手:「すまん」

 清水が先に降りた。
 そして、財布から300円を機械の中に入れる。
 因みに、ちゃんと領収書を発行していた。

 清水:「降りて」

 その後で、清水が外からスライドドアを開けた。
 リサはスッと車から降りる。
 清水の同僚の運転手がハッチを開けて、リサの荷物を降ろしていた。
 リサの荷物は通学鞄と、このキャリーバッグである。

 運転手:「入口はあそこだ」
 清水:「行こう」

 リサは清水と運転手に挟まれるような形で、ホテルの中に入った。
 フロントは3階。
 外階段からもアクセスできるようだが、1階から入ってエレベーターに乗った。
 3階はフロント階になっているが、広さはこぢんまりとしたものだ。
 そこのソファに、善場が腰かけて待っていた。

 善場:「リサ」
 リサ:「善場さん……」

 善場も元BOWだったから、その名残で人間離れした体力を持っている。
 その善場が、リサが見ても憔悴しているようだった。

 善場:「話は後にしましょう。まずは、チェックインを。部屋に荷物を置いてからにしましょう」
 リサ:「……はい」

 善場はフロントに行って、リサの代わりにチェックインの手続きをした。
 愛原も高橋も、いつ退院できるか分からないのだが、どうやら数日ほどの予約しかしていないようだった。

 善場:「はい、これがカードキー。あのエレベーターで行きましょう」
 リサ:「はい」

 善場は清水と運転手にロビーで待つように言い、リサと一緒にエレベーターに乗った。

 リサ:「善場さんも一緒に泊まるの?」
 善場:「いいえ。あくまで、部屋まで一緒に行くだけです」
 リサ:「そう……」

 そして、エレベーターがリサの宿泊するフロアに止まる。
 そこはスーペリアダブルという、比較的広い部屋だった。
 因みにこのホテルは、シングルルームは無い。
 ダブルとツインしか無い為、1人客もダブルルームに泊まることになる。
 確かに、安いビジネスホテルのそれよりは広いかもしれない。

 善場:「ここに荷物を置いて……そう。ベッドと壁の隙間に、何とか入れるね。勉強は、そこのライティングデスクが使えるでしょ。Wi-Fiも入るから、ネットも使い放題よ」
 リサ:「分かったよ。善場さん……」
 善場:「夕食行く?それとも、先に話を聞く?」
 リサ:「先に話だけ聞かせて」
 善場:「分かったわ」

 リサはベッドに腰かけ、善場はライティングデスクの椅子に腰かけた。

[同日09:40.天候:晴 埼玉県川口市某所]

 善場は、運転手役の部下と清水とで車で乗り付け、現地近くのコインパーキングで車を降りた。

 善場:「あなたはここで待ってて」
 運転手:「承知です」

 善場は照り付く日差しの中、清水を伴って蕨駅に向かった。
 川口市の北部に位置する為、最寄り駅は蕨駅である。

 善場:「あなたは愛原所長を迎えに行ってきて。私は工事責任者と話をするから」
 清水:「了解しました」

 善場は蕨駅近くの工事現場に向かった。

 善場:「……?」

 工事現場への出入口に向かうには、善場達から向かう方向だと、防音パネルが建てられている前を通らなくてはならない。
 善場は上を見上げて、少し嫌な予感がした。
 だが、それが何の予感なのかは分からなかった。

 善場:(気のせいか……?)

 工事現場の出入口に向かい、その入口からもっとも近い所にいる作業員に声を掛ける。
 因みにこの時、善場は表向きの所属先であるデイライトではなく、本当に所属している政府機関の名前と身分証を呈示した。
 このようにしたのは、向こうからすればワケの分からないNPO法人など相手にしていられないだろうが、さすがに政府機関からの国家公務員が来たとあらば、無碍な対応はできないと考えたからだ。
 案の定、若い作業員は慌てた様子で、現場監督の所に走っていった。
 善場は持っていたバッグの中に入れていた自前のヘルメットを被りながら、改めて現場監督に身分を明かし、そして用件を伝えた。

 善場:「……というわけで、ちょっとあの建物跡を見せて頂きたいのです。元請け会社には、既に許可を取っていますよ?」

 案の定、ここで直接作業をしているのは下請け会社であった。

 現場監督:「そうなの?まあ、確かに聞いてはいたけど、まさか今日だとは……」
 善場:「お昼休みはありますでしょう?この瓦礫が撤去されるのは、いつですか?」
 現場監督:「うーん……。その昼前には、トラックを入れて運び出そうとしているんだよねぇ……。何せ、工事が遅れてるもんで……」
 善場:「それは分かりますが、お昼休みの間だけでいいので、あの現場を見せて頂きたいのです。何とかなりませんか?」
 現場監督:「何とかって言われても……」
 善場:「元請けには許可を取っていますよ?確認してみてください」
 現場監督:「うーん……。分かりました」

 現場監督がその場を離れる。
 善場が何となく、足場の上にいる作業員を見た。
 建物は粗方取り壊されており、その作業員は防音パネルを内側から撤去する作業をしているようだった。

 作業員:「あーっ!!」
 善場:「!?」

 突然その作業員が大声を上げた。
 善場には最初、その作業員がどうして大声を上げたのか分からなかった。
 だが、防音パネルの外側から何か叩く音がしたので、善場は工事現場の外に出て、音がした方を見た。
 すると、そこには……。

 善場:「愛原さん!!」

 頭から血を流して倒れている愛原の姿があった。
 そして、そこには何故か清水の姿は無かった。

[同日18:00.天候:晴 東京都港区新橋 相鉄フレッサイン新橋駅日比谷口・客室]

 善場:「……清水は一旦、車に戻って、許可証を取りに行くつもりだったそうです。私が、ヘルメットに気を取られて、許可証を持って行くのを忘れたから……申し訳ありません……」
 リサ:「……不幸だ……」

 項垂れた善場に対し、リサはそれしか言えなかった。
 足場の上で作業をしていた作業員が、上から物を落としてしまい、それがたまたま下を歩いていた愛原の頭に当たったのだ。
 善場が許可証を持って行けば、ビシッと作業を止めさせることができた。
 清水が勝手に取りに行かなければ、落下物に気づいて、愛原を守れたかもしれない。

 リサ:「皆、不幸だ……」
 善場:「愛原所長にも、リサにも申し訳ないと思います。もちろん、高橋助手にもです」
 リサ:「……それで、先生のケガは?」
 善場:「不幸中の幸いなのは、確かに頭のケガなので、血が噴き出したのは事実です。ですが、意識さえ戻れば退院できるとのことでした。これは、高橋助手とは少し違いますね」

 高橋の場合は衰弱が激しい為、意識が戻っただけでは退院できない。

 リサ:「それって、特に脳とかにはダメージを受けていないってこと?」
 善場:「そういうことです。もっとも、頭のケガですから油断はできませんが、少なくともCTとかMRI検査では異常は無いとのことでした。リサも研究所で受けたことがあるでしょう?」
 リサ:「う、うん。そりゃあ、何度も……。先生のお見舞いはできる?」
 善場:「残念ながら、コロナ対策で、高橋助手の病院同様、面会は禁止されています。私は当事者ですし、一応保証人でもあるので、特別に許可はされていますが……」
 リサ:「そう……」
 善場:「もちろん、愛原所長の意識が戻ったら、すぐにリサにお伝えしますよ」
 リサ:「分かった。少なくとも、先生が死にそうってわけではないんだね?」
 善場:「それは確かです。担当医師も、そう言ってました」
 リサ:「良かった……」
 善場:「あとの事は、こちらに任せてください。それじゃ、夕食に行きましょうか。今夜は私がご馳走します」
 リサ:「ありがとう」

 リサと善場は、客室をあとにした。

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