報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「東海旅客鉄道東海鉄道事業本部管内」

2023-08-24 21:44:42 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月9日10時42分 天候:晴 静岡県富士宮市 JR身延線3544G列車先頭車内]

〔「お待たせ致しました。10時42分発、普通列車の富士行き、まもなく発車致します」〕

 

 発車の時間になり、運転士が肉声放送を行う。
 2両編成ワンマン列車である為、運転士が放送を行う。
 運転士がホームからを顔を出し、ピイッと笛を吹いてドアを閉めた。
 ドアチャイムが鳴るが、その音色は都営地下鉄新宿線に乗り入れて来る京王電車と酷似している。
 ドアが全て閉まったことを確認し、運転席に移ってハンドルを操作して、ようやく出発する。
 始発駅ではそのようなことをしているのだと思うが、何だか大変だ。

〔お待たせ致しました。次は富士宮、富士宮です。富士宮では、全てのドアから降りられます。……〕

 ボックス席に4人固まって座っているが、足の長い高橋やパールには、やや窮屈のようである。
 案外、シートピッチは首都圏を走る中距離電車のそれと変わらないのかもしれない。
 モタレが付いている所は、東日本よりマシだが……。
 リサは飲み物を窓の桟の所に置いている。

 リサ「富士山かぁ……。富士山、研究所にいた頃は絵でしか見たことなかったね」
 愛原「絵なんか飾ってあったんだ」
 リサ「うん。何か、物凄い噴火している富士山の絵」
 愛原「んん?」
 リサ「確か皆が、『地獄にも富士山はあるんだ』って……」
 愛原「地獄のような生活をしていたからかな?」
 リサ「そうかもね。でも、こっちの富士山はきれいだよ」
 愛原「富士山は雪を被っていてナンボだな」

[同日11時05分 天候:晴 静岡県富士市本町 JR富士駅→東海道本線428M列車・先頭車内]

 私は途中でトイレに向かった。
 この313系電車には、トイレがある。
 トイレで用を足した後で、私は皆に今のうちにトイレに行くように勧めておいた。
 何故なら、東海道本線を走る211系にはトイレが無いからである。
 JR東日本にはあるのに、東海には無いことで、鉄オタからは敬遠されているのだ。
 たまに国鉄時代に製造された古いタイプも充当されるのだが、JR東海所属の物は漏れなくトイレ無しのロングシート車である。
 私のアドバイスに従い、リサはトイレに行った。
 まあ、私の後で使いたいというのもあったのかもしれない。
 一応、新型車両ということもあり、トイレは洋式である。
 富士駅に向かう度に乗客は増えて行き、終点に着く頃には立ち客も出ているほどだった。
 振り袖姿の若い女性の姿が見られたが、今日が成人式であったことを思い出した。
 ……リサにも、3年後には着てもらうのかな。

〔ご利用頂きまして、ありがとうございました。まもなく、終点の富士、富士に到着します。お降りのお客様は、運賃、乗車券、回数券は整理券と一緒に駅係員にお渡しください。トイカなどのICカードは駅改札機へタッチしてください。尚、甲府よりご乗車、または甲府でお乗り換えの方はお客様はICカードをご利用になれません。お手数ですが、駅係員にお申し出ください。東海道線は、お乗り換えです。整理券のみのお客様は、お降りになる駅で、駅係員にお渡しください。どなた様も、お忘れ物の無いようにお支度ください。まもなく終点の富士、富士です。富士では、全てのドアから降りられます〕

 身延線は基本的に全線がJR東海の路線であるが、北の終点、甲府駅だけはJR東日本の所有である。
 身延線のホームは駅構内でも外れた所にあり、専用のキップ売り場や改札口は無い。
 その為、身延線利用者はJR東日本のキップ売り場でキップを買い、JR東日本の改札口を通ることになる。
 何が起こるかというと、JR東日本の改札機を通ったところで、JR東海のエリアに行けないのである。
 とんでもない分割だ。
 なので、甲府駅から乗る場合はICカードは使っちゃダメという……。
 鉄オタでも初見では騙されるよ、これ。
 私達は途中駅乗車の、それも紙のキップで乗っているので、何の問題も無い。

 愛原「よし。ここてで乗り換えだ」
 高橋「ハイ」

 

 電車は無事に富士駅身延線ホームに到着した。

 愛原「次は、東海道本線だ」

 電車を降りると、階段を上って東海道本線上りホームへ向かう。
 接続をしているのかどうかは不明だが、乗り換え時間5分という好条件である。
 但し……。

 愛原「たったの3両かよ。嫌な予感するなぁ……」

 今度の電車の発車票を見ると、3両編成だけという短編成であった。

 高橋「混んでますかね……」
 愛原「いや、そういうことはあまり気にしてないんだ。西村京太郎が昭和50年代に書いた小説の時代よりも、乗客数は減っているだろうし」

 西村京太郎先生が執筆した“ミステリー列車が消えた”は、昭和50年代の作品だが、東海道本線のことを、『日本で最も賑わう路線』と書かれている。
 私は首都圏の国電の方が最も賑わっているだろうがと思ったのだが、営業列車が運転されない時間帯が明確に存在する国電路線より、夜間も多くの夜行列車や貨物列車が往来し、実質的に24時間運行である東海道本線の方が賑わっていると思われたのだろう。
 今は夜行列車で定期運転されているのは、“サンライズ”のみであり、あとは貨物列車くらいしか無い。
 そして、普通列車はたったの3両編成と。
 5両編成や6両編成の時間帯もあるのだが、この程度である。

 愛原「うわ……」

 そして、やってきた電車は211系であった。

 愛原「俺の言った通り、トイレ無しだから熱海まで我慢してくれ」
 リサ「わたしはさっきトイレ行ったから……」
 パール「私はまだ大丈夫です」
 高橋「俺もです。それより、一服したいっスね」
 愛原「熱海駅で少し時間作るよ。……はい、すいませんね」

 当然ながらロングシート。
 3ドアのロングシート車だから、なかなか長い座席である。
 満席ではなかったが、歯抜け状態で席が少し空いているという状態だったので、少し詰めてもらい、そこにリサと共々に着席した。
 高橋とパールは立っている。
 何でも、先ほどのボックスシートに体を折り曲げて座っている状態だったので、逆に今は立っていたいのだそうだ。
 今度は、後ろの車両からピイッと笛が聞こえて来る。
 身延線もそうだったが、始発駅や主要駅のみ、笛を吹いているという感じだった。
 東海道本線ではワンマン運転は行われておらず、車掌が乗務している。
 この線区では旧型車両に相当する211系だが、後付けでドアチャイムが取り付けられていた。
 音色は先ほどの313系と同じ。
 しかし、プシューッとドアエンジンのエアーの音がするところが、確かに国鉄車両っぽいかなとも思う。
 とにかく、ここでも電車は予定通りに発車した。

〔「ご乗車ありがとうございます。東海道線、普通列車の熱海行きです。終点、熱海まで各駅に止まります。次は吉原、吉原です」〕

 東海道本線は線形も良く、身延線よりは明らかに速度を出して走行する。
 身延線よりは旅心は無いが、それでも多少の旅情を感じられるのは、車窓に富士山が見えるからか、或いは末期とはいえ、国鉄時代に製造された車両だからだろうか。

〔「尚、電車は3両編成で運転致しております。お手洗いはございません。予め、ご了承ください」〕

 愛原「な?トイレ無いってよ」
 リサ「本当だ……。まあ、いかにも通勤電車って感じだから、そうなのかもしれないけど」
 愛原「いやいや。これと色違いの電車で、やっぱりこういうロングシートのヤツが走っている、中央本線な。あの、藤野に行く電車」
 リサ「うん」
 愛原「あれはトイレあるんだよ」
 リサ「……確か、和式でしょ?和式トイレ使わされるくらいなら、この電車みたいに無い方がいいや」
 愛原「そ、そういうもんか」

 それぞれ、考えが違うものだ。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« “私立探偵 愛原学” 「東京... | トップ | “私立探偵 愛原学” 「JR... »

コメントを投稿

私立探偵 愛原学シリーズ」カテゴリの最新記事