報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「早朝の出発」

2015-08-25 19:26:20 | アンドロイドマスターシリーズ
[8月29日05:04.都営新宿線・菊川駅 井辺翔太、3号機のシンディ、MEGAbyte(結月ゆかり、Lily、未夢)]

 敷島エージェンシーのプロデューサーとボディガード、新人ユニットは早朝の最寄り駅で始発電車を待っていた。

〔まもなく1番ホームに、各駅停車、笹塚行きが短い8両編成で到着します。白線の内側まで、お下がりください〕

 井辺は錦糸町のマンションから自転車で事務所に行くと、そこでロイド達と合流した。
 本八幡方向から眩いヘッドライトが接近してくる。

〔1番線の電車は、各駅停車、笹塚行きです。菊川、菊川〕

 緑の塗装が事務所のトップアイドル、初音ミクを彷彿とさせ、座席脇の仕切り板も淡い緑色だった。
「プロデューサーは座って」
 シンディは井辺を着席させた。
「座ったら寝てしまいそうで……」
「その時は起こしてあげるわよ」

〔1番線、ドアが閉まります〕

 朝一の始発電車はインバータの音を響かせて発車した。

〔次は森下、森下。都営大江戸線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕

「シンディさん、本当にあなたのルートでよろしいんですね?」
「ええ。確かに見た目は遠回りっぽいけど、実は乗り換え1回でいいし、電車の待ち時間も短くて済むわ」
 シンディには乗換案内などのアプリが搭載されていて、それでルート検索をしたようだ。
 因みにそのアプリは、ボーカロイド達にも標準装備となっている。
「アタシも気になってたんだけど……」
「何ですか?」
「7月の時のイベントは前日入りしていたけど、今回は朝早くとはいえ当日ね」
「ああ。主催者の意向で、基本的には7月の通りに行うことになりました。シンディさん達のやることも、7月とあまり変わらないそうです。つまりノウハウはその時のものを踏襲すれば良いということで、皆さんは当日入りで構わないとのことです」
「そうなんだ。ライブにしたって、メンバーが違うだけだもんね」
「はい」
「社長とアルは?」
「社長は埼玉の御自宅に、アルエットさんは同じさいたま市内の研究所にいるので、大宮駅から乗ります」
「なるほど。分かったわ」
 ゆかりが質問があるかのように手を挙げた。
「シンディさんは社長さんについていなくていいんですか?」
「社長が家にいる時はね。アタシよりかは弱いけど、でもそこそこ強いマリオとルイージがいるしね」
「あの、バージョン・シリーズ最新モデルの?」
「そう」
 敷島夫妻の家の警備に当たっているのは、ウィリーが設計し、アリスがそれに独自のアレンジを加えて製造したバージョン5.0モデル。
 それまでの4.0のフルモデルチェンジであり、身長が高くなって体型もスマートになった。
 当然動きも速く、人間が走るのと同じ速さである。
 赤く塗装された方が1号機、黄緑色に塗装された方が2号機で、それが任天堂のスーパーマリオブラザーズを彷彿とさせるので、赤い1号機をマリオと呼び、黄緑色の2号機をルイージと呼ぶ愛称が付けられた。
 警備の片手間でキノコ栽培なんか始める辺りがもう……。
「確か、社長さんの家の警備を務める傍らで、植物の栽培をしているとか……」
「おっ、ゆかり。よく知ってるわねぇ」
 シンディが感心したように笑みを浮かべた。
「えーと……確か、サツマイモでしたっけ?」

 ズコーッ!

「芋掘りロボット、ゴ◯スケじゃないのよ?」
 シンディも一緒にズッコケたが、ゆかりに対するツッコミは忘れなかった。

[同日05:30.埼玉県さいたま市西区・デイライトコーポレーション・ジャパン埼玉研究所 8号機のアルエット]

 タイマーでキチンと“起床”するアルエット。
 この辺、タイマー設定をミスらない限り、絶対寝坊しないのがロイドの特長だ。
 充電が終わっても、タイマー設定でスリープ状態になっている。
 アルエットが寝泊まりしている部屋は、研究所の地下であった。
 元々は警備員の仮眠室だった部屋だ。
 タイルカーペットは敷かれているが、広さは三畳ほどしかない。
 ドンチャン氏の掲示板にたまに出て来るドヤ街の簡易宿所の一室みたいだ。
 室内にはパイプベッドとステンレス製のロッカーがあるだけ。
 照明は電球型蛍光灯(ダウンライト)が2つと、枕の上に電球スポットライトがあるだけだ。
 で、監視だけはちゃんとされていて、黒いスモークカバーに覆われたカメラが天井に付いている。
 これは何も、アルエットが冷遇されているというわけではない。
 研究所が7号機のレイチェル率いるKR団に半壊状態にされ、鋭意復旧工事中なのと、これを機に研究所としての機能は終了させ、D.C.Inc.がそれまでに手掛けてきた研究成果を一般公開するロボット科学館にリニューアルする為、大掛かりな工事をしている状態でもある。
 で、それが為に実はアルエットに住んでもらう部屋が用意できなかったのである。
 元々は人間の警備員が詰めていた西館部分は完全に機械警備化し、その人間の警備員が休憩室や仮眠室に使っていた部屋をアルエットが使うようにした。
 損壊の大きかった東館部分こそ機械警備化できない為、そこだけは仮設の建物を建てたり、何とか生き残った部屋を使って工事や警備の拠点にしたりしている。
 アルエットは自分の体とコンセントを繋いでいるプラグを自分で外すと、服に着替え始めた。
(始発の新幹線で仙台だっけ。社長さん、起きてるかなぁ……?)
 エミリーやシンディがスリットの深いロングスカート、ノースリーブの衣装を着るのに対し、アルエットは制服ファッションでいることが多い。
 ボーカロイドでも、そういう撮影の仕事でも無い限りはなかなか着ない。
 地下の仮眠室から無機質な螺旋階段を登って1階に上がると、元々は人間の警備員が休憩室として使っていた部屋に着く。
 その時の道具は殆ど運び出された上、復旧・リニューアル工事に使う機材の保管庫になっていた。
 整理整頓はされているが、カラーコーンにトラバー、トラロープ、ブルーシートなどが置かれている様は、確かにどこかの工事事務所をイメージさせる。
 制服ファッションに身を包んだ少女がいるような場所ではない。
 だけど、彼女はそこにいる。
 洗面台やシャワールームはあって、そこは彼女が専用で使っている。
 洗面台の前に立っていると、外の窓から、陽気な歌声が聞こえた。
「あーあ、またやってる……」
 窓の外を覗いて、アルエットは呆れた顔をした。
 確かにそこには、とあるロボットが実験として“畑”を作っていた。
 2足歩行のロボットだが、マルチタイプなどと違って、全く人間とは似ても似つかない。
 “オズの魔法使い”のブリキ男よりは、まだ性能は良いのだろうか。
 それとも、“スターウォーズ”のよく喋る2足歩行ロボットか。
「あっ、お嬢様〜!おはようございま〜ス」
 既に工事区域に指定され、サツマイモ栽培が禁止された場所で耕作をしているロボットは、アルエットの姿を見ると、作業の手を休めて手を振って来た。
 アルエットはここのロボット達からは概ね歓待され、今の芋掘りロボットのように『お嬢様』と呼ばれることが多い。
「そこで畑耕してたら、また怒られるよ〜!」
 と、一応アルエットは応えておく。
 あの芋掘りロボットも、プログラムに従って動いているだけなのだ。
 そのプログラムを解除する研究員なのだが、バージョン4.0が発砲した銃弾に被弾し、今もなお市内の病院に入院しているため、それができないのである。
 従って、芋掘りロボットは賽の河原のように、耕しては工事用重機に踏み潰され、また耕しては潰されるを繰り返しているのである。

 最後に白いブラウスの襟元に緩く赤いリボンを着けると、室内のインターホンが鳴った。
「はい」
{「東棟臨時警備室です。敷島エージェンシーの敷島社長がお迎えに来られてます」}
 と、復旧工事中の東棟に詰めている人間の警備員から連絡があった。
「あ、はい!今、行きます!」
 まさか迎えに来るとは思っていなかった。
 アルエットは自分の荷物を入れたキャリーバッグと、通学用バッグに似たそれを右肩から掛けると急いで東棟に向かった。
「い〜しやァ〜きィイモ〜♪おイモ♪おイモ♪おイモ♪おイモ♪おイモだよォ〜♪」
「ちょっとゴメンね!」
 アルエットは機嫌良く歌う芋掘りロボットの頭上をジャンプで飛び越えて、敷島の待つ東棟へ走っていったのだった。
「今度の研究所の紅一点は、元気なお嬢さんで」
 芋掘りロボットはアルエットが走り去って行った方に向かって手を振ると、再び鍬を手に耕作を始めたのだった。

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