報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「面会終了後」

2022-02-09 11:19:02 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月22日11:00.天候:晴 神奈川県相模原市緑区 国家公務員特別研修センター]

 高橋:「先生、取りあえず、これがメモです」
 愛原:「ありがとう」

 元ヤンだった割には、随分とメモ魔な高橋。
 私が渡したメモ帳1冊だけでは足りず、もう1冊自分のメモ帳を取り出してメモしてくれた。
 それどころか……。

 愛原:「法廷のイラストかいw」

 面会室でやり取りする母娘の様子を描いたスケッチまで。

 高橋:「アウトでしたか?」
 愛原:「全然セーフ。セーフ過ぎて、ランニングホームランだ、こりゃ」

 イラストによれば、凛さんの母親は囚人服を着ていたとされる。
 まるで本当の刑務所や拘置所の面会室のような造りになっており、向こう側には銃で武装した警備員が1人立ち会っている。
 こちら側は、普通の警備服を着て警棒だけ持った守衛さんが立っていた。

 高橋:「先生に謝りたいと言ってましたよ?」
 愛原:「まあ、今さらいいんだけどね」

 私だけなら面会してもいいのだが、リサがいるからな。
 リサには言い聞かせているが、顔を合わせたら暴れるかもしれない。

 愛原:「差し入れは渡したの?」
 凛:「はい」

 どうも品目は拘置所や刑務所の差入品と同じらしい。
 まあ、会えなくても手紙のやり取りや差入品のやり取りはできるらしいから、それで何とか……といったところか。
 人間の刑務所の場合、優遇されると電話面会も可能になるらしいが、ここではどうなのだろう?

 守衛:「お疲れ様でした」
 愛原:「ありがとうございました」

 エレベーターで地上に上がると、まるで別世界のようである。

 高橋:「裁判でも執行猶予が付くと、階段を昇るので、『天国の階段』って言うんスよねぇ……」

 高橋がポツリと言った。
 『階段を昇る』とは具体的に、どこの裁判所のことを言っているのか分からない。
 どこかの家庭裁判所辺りだろうか?

 守衛:「どうでした?地下の方は……」
 愛原:「仕事ですらキツそうなのに、あんな所に収監はされたくないですねぇ……」
 守衛:「でしょうな。人間の刑務所ですら地上にあって、日の当たる場所だというのに、こちらは地下なんですから」

 リサみたいなのが暴れ出した時、地下であれば、まだ地上に出てくるまで時間稼ぎができるというのと、大騒ぎになってもバレにくいというのがあるからだな。

 愛原:「そうですね」

 入館証を守衛所に返却し、それから閉じられた門扉を少し開けてもらって外に出る。

 高橋:「何か、自分が出所したみたいっス」
 愛原:「ハハハ。出所の場合は裏から出るんじゃなかったっけ?」
 高橋:「まあ、そうっスね」

 外に出ると、往路の時に乗ったタクシーが『迎車』表示をして待っていた。
 再び、タクシーに乗り込む。

 愛原:「それじゃ、藤野駅までお願いします」
 運転手:「分かりました」

 タクシーが走り出す。
 車内では終始無言の凛さんだったが、車が相模川の橋を渡ると、センターのある方を振り返った。
 ここからセンターの建物が見えるのかどうかは分からない。
 いずれにせよ、しばらく面会に来れないのだから、凛さんにとっては良い思い出になったのだろう。

[同日11:10.天候:晴 同区内小渕 JR藤野駅]

 再び藤野駅に戻る。
 まだ少し時間があったので、駅の横にある観光案内所に入ってみた。
 ここでは、お土産も売っている。

 愛原:「ほっほー……相模ビールねぇ……」
 高橋:「先生、買っちゃいますか?」
 リサ:「ほっほー……ビーフジャーキーねぇ……」
 高橋:「コンビニでも買えんだろ」
 凛:「絵葉書……」
 愛原:「相模ビールで今夜は一杯やるぞ」
 高橋:「お供します!」
 リサ:「お供します!」
 高橋:「オマエは飲めねーだろ!」

 まあ、私が買うだけではアレなので、リサや凛さんにもお土産を買ってあげた。

 愛原:「ちょうど中央特快があるから、それに乗ろう。これなら、乗り換え無しで行ける」
 高橋:「はい!」

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の2番線の列車は、11時31分発、中央特快、東京行きです。この列車は、4つドア、10両です。次は、相模湖に止まります。……〕

 ホームは高台に位置しており、そこから研修センターを見ることができる。
 凛さんは電車が来るまで、ずっとそっちの方を見ていた。

[同日11:31.天候:晴 JR藤野駅→中央本線1122M列車(高尾以東は1122T電車)10号車内]

〔まもなく2番線に、中央特快、東京行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。この列車は、4つドア、10両です。次は、相模湖に止まります〕

 接近放送が鳴って、電車がやってくる。
 何か、こういうローカルチックな場所に、長編成の通勤電車が来るのはミスマッチだ。
 もっとも、こういう光景は田園地帯を走る川越線の10両編成でも見られる。
 これが211系とか、ボックスシートの付いた車両であるのなら、何ら違和感は無いのだが……。

〔ふじの~、藤野~。ご乗車、ありがとうございます〕

 1番後ろの車両に乗り込む。
 休日の昼間の電車は空いているもので、ちょうど乗務員室前の4人席がまるっと空いていたので、そこに並んで腰かけた。

〔2番線、ドアが閉まります。ご注意ください〕

 首都圏ではだいたい一般的な発車メロディが流れた後、電車のドアはすぐに閉まった。
 この通勤電車にも、半自動ドアボタンは付いており、この辺りでは使用されていたのだろうが、やっぱりコロナ対策の為にそれは中止され、自動ドアとなっている。
 電車が走り出し、トンネルに入るまで凛さんは席を立ち、センターの方を見ていた。
 後ろ髪を引かれているのだろう。

〔次は、相模湖です〕
〔The next station is Sagamiko.JC25.〕

 自動放送は中央快速線内だけでなく、中央本線内でも流れる。
 往路の211系よりも旅情は無いが、乗り換え無しの特快なら1時間ちょっとで東京駅まで行ける。

 リサ:「しばらく会えなくなるな」
 凛:「また……春休みにでも会いに行きます」
 愛原:「なるほど。ちょうど、上京する辺りだな」
 凛:「はい」
 愛原:「その頃には、感染者もだいぶ減っているといいんだが……」
 高橋:「何ですか、先生?」
 愛原:「いや……。もう一度、あのやまなみ温泉に行ってみたいなぁと……」
 高橋:「ああ、そういうことっスか。いいんじゃないスか。今度、行きましょう」
 愛原:「交通の便が悪いから、車になるかな……」
 高橋:「そん時は俺が運転しますから」
 愛原:「悪いな」

 10両編成の特別快速は、一路東京へ向かう。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« “私立探偵 愛原学” 「面会... | トップ | “愛原リサの日常” 「鬼とB... »

コメントを投稿

私立探偵 愛原学シリーズ」カテゴリの最新記事