報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“愛原リサの日常” 「鬼とBOW」

2022-02-09 14:12:15 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月22日11:30.天候:晴 東京都港区新橋 NPO法人デイライト東京事務所]

 善場優菜:「…………」

 善場は自分のデスクに座っていた。
 愛原からの定時連絡メールが、業務用のスマホに届く。

 善場:(帰りは中央特快ですか。乗り換えの手間は確かに無いですね)

 善場はPCでリサの位置情報を確認した。
 愛原の報告と、リサの位置情報に食い違いは無かった。
 愛原達が乗った電車の時刻表を見ると、昼過ぎに東京駅に着くという。
 予定では、東京駅から東北新幹線に乗り換える上野凛を見送り、帰宅するようだ。
 もっとも、昼食時で空腹のリサを宥める為、途中で昼食は取るだろう。

 所長:「善場さん」

 そこへ所長がやってきた。

 所長:「私はそろそろ帰りますが、あなたはまだ残りますか?」
 善場:「所長。委託先の探偵業者が、いま業務に当たっています。それが終了するまでは、ここにいようかと思います」
 所長:「そうですか。あなたの残業時間は、まもなく既定の上限に達しようとしています。それだけは気を付けてください」
 善場:「分かりました」
 所長:「……『鬼』を人工的に造り出そうとは……。全く、とんでもない話です」
 善場:「所長。白井伝三郎の情報につきましては、公安調査庁との連携もあり……」
 所長:「分かっています。しかし、これ以上『鬼』を増やされても困りますし、その材料として、善良な市民が犠牲になるのは阻止したいですね」
 善場:「無論です」
 所長:「あなたみたいに、国家の役に立てるようなら申し分ないのですが……。では、お先に」
 善場:「お疲れ様でした」

 善場は上司を見送った。
 そして、再び机に向き直ると、引き出しを開けた。
 その中から爪切りを取り出す。
 それで、自分の伸びた爪を切り始めた。

 善場:(私は……本当に人間に戻れたんでしょうか……)

 未だ後遺症は残っており、その1つが、毎日切らなければならないほどに伸びが早い爪である。
 また、傷の回復速度にあっては、今だに人外である。
 爪の伸びは早いのに、髪の伸びは人並みである。
 このアンバランスさは、正にGウィルスの後遺症と言える。
 そして、この後遺症を治す手段は未だに見つかっていない。
 遺伝子に深く食い込んだGウィルスを、完全に除去するのは容易ではない。
 それは、特異菌も同じである。
 Gウィルスでさえ、殺せば死ぬのというのに、100%適合すれば死んだ人間が生き返るほどの特異菌は……恐ろしいとGウィルス保菌者の善場は思う。

 善場:(幸いあの母親は収容できたし、特異菌について調査するチャンスだわ)

[同日12:42.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]

〔まもなく終点、東京、東京。お出口は、右側です。新幹線、東海道本線、上野東京ライン、山手線、京浜東北線、横須賀線、総武快速線、京葉線と地下鉄丸ノ内線はお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 リサ達を乗せた中央特快は、無事に東京駅に到着しようとしていた。

 愛原:「やっと着くか。遠かったなぁ……」
 高橋:「案外、距離ありますよね」
 愛原:「この電車、大月始発なんだよ。さすがにキツいなぁ。クロスシート大好きの18きっぱー涙目だよ」

 ロングシート車を長距離運用させる考え、JR西日本や九州には無いであろう。

〔とうきょう~、東京~。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕

 東京駅に着いて、電車を降りるリサ達。
 凛が乗り換える新幹線の発車まで、残り30分である。

 愛原:「キップは買ってあるの?」
 凛:「あ、はい。自由席ですけど……」

 “なすの”はそんなに混まないだろうから、自由席で十分であろう。
 リサ達は一旦、改札口を出た。
 凛を見送る為に、今度は入場券を買わないといけない。
 これは愛原が券売機で3枚分買って来た。
 尚、入場券の料金は、場所によっても違う。
 多くは、その駅が所属する線区の初乗り運賃に合せていることが多い。
 入場券を設定していない鉄道会社にあっては、初乗り運賃の乗車券を入場券代わりに使用させる所もあるようだ。
 JR東京駅の場合、140円である。
 これは東日本・東海共通である。
 却って鉄道の知識があると陥りやすい罠があるのだが、JR東日本の券売機で買った入場券は、東海道新幹線の改札口でも使用できる(鉄道の知識が中途半端にあると、『JRが違うのだから使えないのでは?』なんて考えてしまう)。
 もっとも、今回は東北新幹線なので、そもそも憂慮自体発生しない。

 愛原:「お昼時だから、駅弁買って食べるだろ?」
 凛:「あ、はい」
 リサ:「わたしもお腹空いた」
 愛原:「凛さんを見送ったら、帰る前にお昼食べよう」
 リサ:「おー!」
 高橋:「ヤエチカの旭川ラーメンにします?」
 愛原:「おっ、いいね。八王子ラーメンの次は旭川ラーメンってか。リサもそれでいいか?」
 リサ:「大盛りチャーシュー麺頼んでいい?」
 愛原:「いいよ」
 リサ:「おー!」

 東北新幹線のコンコースに移動した後、愛原は凛に駅弁を買い与えた。

 愛原:「肉系の弁当がいいでしょ?紐を引っ張ると温かくなる“牛タン弁当”」
 凛:「あ、ありがとうございます」
 リサ:「いいなぁ……」
 愛原:「大盛りチャーシュー麺食べさせてやるから」
 リサ:「ゴクッ……!」

 尚、この牛タン弁当、JR東海側でも売られているという(ソースは作者。御登山の際、東京駅東海道新幹線ラチ内コンコースで発見した)。
 そして、ホームに移動する。

〔「今度の20番線の電車は、13時12分発、“なすの”259号、郡山行きです。10両編成で参ります。足元、10両編成乗車位置でお待ちください」〕

 最高尾となる1号車に引率する愛原。

 高橋:「先生、一服してきます」
 愛原:「行ってらっしゃい」

 ホームの先端部分には、喫煙所がある。
 東北新幹線ホームには喫煙所が2ヶ所ずつあり、1ヶ所は1号車の前。
 もう1ヶ所は、山形新幹線や秋田新幹線が停車する辺りにある。

〔20番線に、13時12分発、“なすの”259号、郡山行きが10両編成で参ります。この電車は、各駅に止まります。グランクラスは10号車、グリーン車は9号車、自由席は1号車から5号車です。尚、全車両禁煙です。……〕

 高橋が喫煙所でのんびりタバコを吸っている間、接近放送がホームに鳴り響いた。

〔「20番線、ご注意ください。当駅始発、“なすの”259号、郡山行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックの内側をお歩きください」〕

 JR東日本の新幹線ホームには、それぞれ規格の違う車両が発着する為、それが統一されている東海道新幹線ホームと違い、ホームドアが設置されていない。
 なので、列車発着時、立ち番の駅員は気を使うのだろう。
 しかしその割には、東海道新幹線ホームの方が賑やかのような……?

 リサ:「来た来た」

 E5系電車がやってきた。
 既に座席は下り方向向きになっており、どうやらそのまますぐに乗れそうだ。

 愛原:「凛さん、座席を確保したら、一旦降りてきてくれない?」
 凛:「分かりました」

 案の定、ホームで待機していた車掌が乗り込むと、すぐにドアが開いた。
 凛は車内に入ると、2人席の窓側を確保した。
 それから降りて来る。

 愛原:「ちょっと写真撮るから、凛さんそこに立って」
 凛:「はい」

 凛はE2系よりも大きく、かつフルカラーLEDの行き先表示板の前に立った。
 愛原はそのLED表示板が、『なすの259号 郡山』という表示になるのを見計らってシャッターを切った。

 凛:「ありがとうございました」
 愛原:「ああ。合格しているといいな」

 合格発表は明日。
 学園の公式サイトで確認できるし、郵送で合格通知も来る(不合格者には通知は来ない)。

 凛:「はい!」
 愛原:「合格通知が来たら、教えてね。教えてあげたメールアドレスに」
 凛:「分かりました」

[同日13:12.天候:晴 JR東京駅]

 発車の時間になり、ホームに発車ベルが鳴り響く。
 東海道新幹線ホームでは、かつて“のぞみ”の車内チャイムで使用されたものを発車メロディに使用しているが、東日本の方では未だにベルである。

〔20番線から、“なすの”259号、郡山行きが発車致します。次は、上野に止まります。黄色い点字ブロックまで、お下がりください〕
〔「20番線、ドアが閉まります。ご注意ください」〕

 そして、甲高い客終合図のブザーが鳴り響き、ドアが閉まった。
 リサと高橋は軽く凛に手を振り、愛原は挙手をした。
 凛は手を振ったり、愛原に御辞儀をしたり。
 そして、列車は発車していった。

 愛原:「これで、業務終了だな」
 高橋:「お疲れ様でした!」

 凛は那須塩原駅から、路線バスに乗って家まで帰る。
 とても本数が少なく、土休日ダイヤにあっては、今の新幹線が最終バスに接続するのである。
 なので、面会時間も開始時間すぐだったり、帰るのも昼過ぎの早い時間だったりしたのだ。

 愛原:「どれ、善場主任に終了の報告をして……と」
 リサ:「お昼お昼!ラーメンラーメン!」
 愛原:「分かった分かった。……メール送信、と。よし、それじゃ行こう」

 3人は新幹線乗り場をあとにし、八重洲地下街へと向かった。

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