報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“愛原リサの日常” 「暴れる鬼」

2023-07-16 21:51:51 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月1日12時30分 天候:曇 栃木県宇都宮市某所 東北新幹線線路内]

 背後からはもうパトカーのサイレンの音も聞こえなくなっている。
 鬼の跳躍力には、人間など追いつけるわけが無いということだ。
 そして、逃げることも……。
 東海道新幹線と違い、殆ど高架線になっている東北新幹線でさえも、鬼の跳躍力でいとも簡単に侵入することができた。

 鬼の男「この辺りだ、鬼の妖術の匂いがしたのは……。一体、どこへ行った?……向こうへ行ったな!」

 鬼の男は上り線を指さした。
 そして、下り線の線路から上り線へ移動しようとした時だった。

 鬼の男「!?」

 宇都宮駅を出発し、グングン速度を上げてやってきた“やまびこ”が接近してきて……。

 運転士「わあーっ!?」

 運転士が左手のブレーキハンドルと鈍い衝撃音がしたのは、ほぼ同時であった。

[同日12時33分 天候:曇 栃木県小山市城山町 JR小山駅]

 リサ達を乗せた東北新幹線“なすの”274号は、小山駅に到着していた。
 この駅を出れば、新幹線の駅としては栃木県をやっと出れることになる。
 だが、発車の時刻になっても、ホームから発車ベルの音が聞こえてはこなかった。

〔「お客様にお知らせ致します」〕

 と、そこへ女性車掌の肉声放送が流れて来た。

〔「先ほど入りました情報によりますと、東北新幹線、宇都宮~那須塩原間におきまして、人身事故が発生しました。その為、この電車も運転を見合わせます。新しい情報が入り次第、お伝え致します。お急ぎのところ、電車遅れまして、ご迷惑をお掛け致します。申し訳ございません」〕

 愛原「ファッ!?」
 リサ「え……?」

 小山駅は東北新幹線の中でも、閑散とした駅である。

 愛原「マジかよ。人身事故って……新幹線で!?」
 リサ「お腹空いた……。この駅、駅弁売ってない?」
 愛原「小山駅は小さいから売ってないんだ」

 しかも、NewDaysも改札内には無いという……。
 あるのは自販機だけだ。

 愛原「もうしばらく我慢してくれ。宇都宮~那須塩原間なら、上り列車のこれはギリギリ運転できるだろうから」

 愛原は、最低でも次の大宮駅までは運転できるだろうと言った。
 大宮駅まで行ければ、あとはどうにでもなると。
 と、そこへ、愛原のスマホが震えた。

 愛原「あっ、ちょっと着信だ。電話してくるから」

 愛原はスマホ片手に、席を立って行った。
 他にも、通話しながら同じように席を立つ乗客も……。

 絵恋「リサさん、大丈夫?」
 リサ「大丈夫じゃない」
 絵恋「愛原先生が戻ってきたら、自販機で何か買って来ようか?」
 リサ「せめてパンやお菓子の自販機があればなぁ……」
 絵恋「探せばあるかもしれないわねぇ……」

 しかし、愛原からは無断で列車を降りないように言われている。

 絵恋「……ねえ、リサさん。一体、何が起こってるんだろうね?鬼の男とか……」
 リサ「分かんない。白井のやったことは、今でも続いてるってことだと思う」
 絵恋「お父さんなら、何か分からないかしら……」
 リサ「エレンのお父さん、結局、アンブレラと繋がってたことがバレて国際指名手配だろ?……まあ、事情は知ってるか。おとなしく逮捕されればいいのに」
 絵恋「……ごめんなさい」

 愛原が戻ってきたら、許可を取ってホームの自販機に行こうと思った。
 ホームにいれば、例え列車が運転再開したとしても、乗り遅れることはないだろう。
 いくら何でも、発車ベルも鳴らさずに発車するとは思えなかったからだ。
 発車ベルが鳴ってから乗り込めばいい。
 なかなか、愛原は戻ってこなかった。

 リサ「うゥゥ……!」

 リサが苛立ちの唸り声を上げていると……。

〔「繰り返し、お客様にお知らせ致します。東北新幹線、宇都宮~那須塩原間におきまして、下り列車に人身事故が発生しました。現在、安全の確認を行っております。尚、この列車におきましては、まもなく運転再開できる見込みです。発車まで、もうしばらくお待ちください。……」〕

 運行情報の続報が入ってきて、それから愛原が戻って来た。

 愛原「お待たせ」
 リサ「遅いよー!」
 愛原「悪い悪い。どうも、この列車の外で、大変なことが起きてるみたいだ」
 絵恋「愛原先生、ホームの自販機で、ジュース買ってきてもいいですか?」
 愛原「あー、そうだな。ダッシュで行ってこい」
 リサ「了解!」

 リサは急いでホームに降りた。

〔「4番線に停車中の“やまびこ”274号ですが、まもなく運転再開となります。ご利用のお客様は、ご乗車になりまして、お待ちください。本日、東北新幹線、宇都宮~那須塩原間におきまして、人身事故が発生しております。下り線につきましては、現在も安全の確認を行っております。……」〕

 リサはなるべく腹の足しになるようなジュースを買った。
 と、同時に、ホームに発車ベルが鳴り響く。

〔4番線から、“なすの”274号、東京行きが発車致します。次は、大宮に止まります。黄色い線まで、お下がりください〕

 リサ「おっとっと!」

 リサはジュースのペットボトル片手に、車内へと戻った。

 リサ「戻りました」
 愛原「よしよし、早く席に座れ」

 リサが座席に座ると同時に、列車が走り出した。
 時計を見ると、およそ15分遅れであった。

 絵恋「電話、何だったんですか?」
 愛原「善場主任からだったよ。鬼の男がどこにいるのかが分かったよ」
 リサ「どこにいるの!?」
 愛原「宇都宮市内だよ」
 絵恋「ここは小山市だから……」
 愛原「少なくとも、市内ではないね。高橋からのLINEにもあったんだが、東北道の上河内サービスエリアが封鎖されていたのは、そこで鬼の男が暴れてたかららしい」
 リサ「ええっ?」
 愛原「で、そいつは何を思ったか、そこから逃げ出して、東北新幹線の線路に飛び込んだそうだ。もしかしたら、リサの気配を感じ取ったのかもしれない」
 リサ「わたしより感が鋭い……」
 愛原「そうだな」
 絵恋「! もしかして、今の人身事故って……?」
 愛原「その鬼の男なんだってよ。新幹線に轢かれて、あの世行きってわけだ。……多分。あわよくば」
 リサ「うーん……どうだろう?」
 愛原「普通の電車だったら、死なないだろうさ。ゾンビくらいだったら死ぬだろうがね」

 2013年、香港で起こったバイオハザードでは、香港市内を走る都市鉄道の電車にBOWが跳ね飛ばされる光景が目撃されているが、その後も普通にエージェント達との戦闘をしていたことから、普通の電車に跳ねられたくらいでは死なないと思われる。
 尚、同じ年にアメリカのトールオークス市内で発生したバイオハザード事件においては、地下鉄トンネル内を徘徊していたゾンビが電車に轢き殺された所が同じエージェント達に目撃されている。

 愛原「でね、もしも鬼の男がリサの気配を感じ取って新幹線の線路に入った上、実は新幹線に轢かれても死なず、更にこの列車の運転再開がまだだったら、在来線に乗り換えてもらうつもりだったんだ」
 リサ「どういうこと?」
 愛原「リサを追い掛けてくるってことだろ。もしも追いつかれたら、この列車が大変なことになるぞ」
 リサ「そ、それもそうか」
 愛原「今、列車はグングン速度を上げている。いくら鬼でも、新幹線のスピードに追い付けると思うか?」
 リサ「それは大丈夫だと思う。私も新幹線の線路には上がれるけど、さすがに新幹線のスピードで走ったり飛んだりできないよ」
 愛原「そうか」

 本来、“なすの”の最高速度は時速275kmであるが、場合よっては遅延回復の為に更に加速することがあるという。
 なので、リサの言う通り、追いつけないはずである。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« “愛原リサの日常” 「栃木か... | トップ | “愛原リサの日常” 「暴れる... »

コメントを投稿

私立探偵 愛原学シリーズ」カテゴリの最新記事