報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「富士宮の事件」

2023-12-30 23:12:04 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月9日14時25分 天候:晴 静岡県富士宮市 富士宮駅バスプール→富士急静岡バスS121系統車内]

 富士宮駅近くのイオンモール内で、少し時間を潰した。
 モール内にはスタバもあるので、そこでコーヒータイムである。
 高橋としては、喫煙所で吸い溜めしたかったらしい。
 まあ、それはそれとして……。
 そこで30分ほど時間を潰した後、散歩がてら駅の方に戻ってみた。
 すると、踏切が作動しているのが分かった。
 富士宮駅からイオンモールに行く際、ルートによっては駅横の踏切を渡ることになる。
 モールに行く時は踏切は作動しておらず、ホームに電車が止まっていた状態だった。
 それがようやく事故処理が終わって、運転再開したのだろう。
 2両編成ワンマン運転の電車が、大勢の乗客を乗せて踏切を通過して行った。
 これで、路線バスが振替客で混雑せずに済むかもしれない。

〔「14時25分発、フイルム入口、青木平団地経由、上条行きです」〕

 富士宮駅バスプール5番乗り場にやってきたのは、中型のノンステップバスだった。
 バスに乗り込むと、私達は再び1番後ろの座席に座った。
 乗客は他にも数人ほど乗り込んでいる。
 但し、鉄道の振替客らしき者は見受けられなかった。
 このバスも隣の西富士宮駅経由するので、もしかしたらいるかも?と思ったのだが、本当に身延線の事故処理が終わったようである。
 私は停車中の間、主任に民宿さのやの近くまで行くバスに乗車したことをメールで伝えた。
 すると、すぐに返信が来たのだが……。

 善場「富士宮市への交通手段に路線バスを選択された愛原所長の判断は、大変素晴らしいものです」

 というお褒めの言葉があった。
 どうやら身延線の踏切事故については、善場主任の耳にも入っているらしい。
 もしかしたら、ニュースになったのかもしれないな。

 善場「ですが、油断しないでください。この踏切事故には不可解な点があります」

 私がどういうことか質問してみると、踏切で立ち往生した車には、運転手がいなかったという。
 そして、今も見つかっていないのだそうだ。
 しかも、その車は盗難車だったらしい。
 普通に考えれば、車泥棒が逃走の際、踏切で車が故障したか何かしてしまった為、慌てて乗り捨てて逃げたというどこかの外国人犯罪のようなストーリーが浮かぶのだが、善場主任はそう考えていないようだ。
 まあ、私達が来るタイミングでちょうど事故が起きたというのは凄い偶然だとは思うが……。

 愛原「分かりました。気をつけて行きます」

 そのようなやり取りをした後、発車時刻になり、バスのエンジンが掛かった。

〔「14時25分発、上条行き、発車致します」〕

 バスは中扉を閉めて発車した。
 バスプール内をグルッと回るようにして、公道に向かう。

〔ピン♪ポン♪パーン♪ 本日も富士急静岡バスにご乗車頂き、ありがとうございます。このバスはフイルム入口、富丘、青木平団地経由、上条行きです。【中略】次は富士宮駅入口、富士宮駅入口でございます。……〕

 日蓮正宗総本山大石寺のお膝元の町ということもあり、日蓮正宗寺院の近くを最も多く通るバス路線のようだ。
 もっとも、このバスではそれらしき乗客は見受けられなかったが。

 高橋「あれ、先生?どこで降りるんでしたっけ?」
 愛原「大石寺入口だね」
 高橋「なるほど。了解です」

 高橋はスマホを取り出して、何か位置情報とかの確認をしているようだ。

[同日14時50分 天候:曇 富士宮市青木平 同バス車内]

 異変の知らせが届いたのは、バスが青木平団地内を走行していた時だった。
 団地といっても、ごく普通の住宅団地。
 集合住宅が立ち並んでいるタイプではなく、一戸建ての家々が造成されたニュータウンであった。
 但し、雰囲気的には昭和のニュータウンといった感じ。
 私が子供の頃に遊びに行っていた母方の祖父母も、仙台市北部のニュータウンに住んでいたことがあったが、それと雰囲気が似ていた。
 昭和のニュータウン、高台に造成された住宅団地という所が共通点だ。
 バスはその団地居住者を降ろして行った。
 富士宮駅やその付近の市街地から乗って来た乗客達だった。
 ここから更に郊外へ向かうバスに、団地の居住者は乗ってこないらしい。
 そんな時だった。
 善場主任からメールが来た。

 善場「今、どの辺りですか?」

 とのこと。
 私達のことはGPSで追跡できるはずだが、あえてそんなことを聞くのは、本当に何かあった時だ。
 私は、『青木平団地という所です』と返信した。

 善場「すると、まだ民宿には到着していないのですね?」
 愛原「はい。何かありましたか?」
 善場「速報が入って来ました。富士宮市の下条地区で、ガス爆発からの火災が発生しています。確か、民宿の所在地でしたね?十分お気をつけください」
 愛原「分かりました」

 私の緊張感は一気に高まった。

 高橋「どうしました?」
 愛原「善場主任からメールがあったんだが、どうも民宿のある地区で、ガス爆発があったらしい」
 高橋「ガス爆発!?」
 愛原「しかも、それで火災も発生しているんだそうだ」
 高橋「ガス爆発って、そんな簡単に起こるものなんスか?」
 愛原「普通は無いだろう。ただ、あの地区は確か、都市ガスじゃなくて、プロパンガスだったと思うんだな」

 だからというわけでもないのだが……。

[同日15時00分 天候:曇 同市下条 出口バス停付近]

〔ピン♪ポン♪パーン♪ 次は出口、出口でございます。日蓮正宗大石寺へおいでの方は、大石寺入口でお降りください〕

 バスは県道184号線を走行している。
 基本的に道は狭く、1車線また1.5車線の幅くらいである。
 中型バスで運行されるのは、乗客がさほど多くないというのも去ることながら、道が狭いというのも大きいのだろう。
 そして、さっきから消防車だのパトカーだの救急車だのがバスを追い越して行く。

 愛原「んん……?」

〔「出口、通過します」〕
〔ピン♪ポン♪パーン♪ 次は下条、下条でございます。上野郵便局、上野小学校はこちらです〕

 運転手「あっ!」

 市道との分岐点に差し掛かると、警察が張り付いていて、県道を通行止めにしていた。
 そして、市道の方へと誘導している。
 だが、バスの路線は狭くなっている県道の方だ。
 警察官が駆け寄ってきて、バスの運転手と何か話している。

 警察官「この先でガス爆発と火災が発生しているので、通行規制をしています」
 運転手「そうですか」

 運転手は運転席の上にある無線機を取った。
 これで、バスの営業所と連絡を取るつもりらしい。

 運転手「……というわけで、下条~大石寺入口間は通行止めです」

 無線機からは、営業所の運行管理者からの声が聞こえて来る。
 どうやら迂回して良いとのことだった。
 この場合は仕方が無いのだが、それでも運転手の独断で迂回することは禁止されている。
 必ず、運行管理者からの許可を取らなくてはならない。

 運転手「下条でお降りのお客様、いらっしゃいますか?」

 降車ボタンが押されているので、下車客はいるのだろう。
 すると案の定、優先席に座っていた年配の女性が手を挙げた。
 運転手が前扉を開けると、警察官が乗って来て、この先の状況を説明した。

 警察官「……小学校の近くなの?」
 老婆「そう。郵便局に寄って、それから帰る所だったの」
 警察官「今ね、避難勧告が出て、小学校に避難してもらってるんだよ」
 老婆「そうなの。一体、どこで火事があったの?」

 警察官は私達の顔面を蒼白させる事を言った。

 警察官「民宿さのやさんだよ。とにかくね、警察が誘導してるから、それで一緒に小学校まで行こう」

 老婆はバスから降ろされると、警察官と一緒に歩いて行った。

 運転手「お客様方は、どちらまで?」
 愛原「えーと……実は大石寺入口で降りる予定だったんですが……」

 老婆が降りると、乗客は私と高橋を入れると数えるだけになった。
 他にも大石寺入口やら、その先のバス停、そして終点まで乗って行く乗客も1人いた。

 運転手「お急ぎのところ、恐れ入りますが、この先は通行止めで迂回することになります。大幅に遅れが生じてしまうかもしれませんが、宜しいですか?」
 中年乗客A「いいよいいよ。運休になるくらいだったら、迂回してくれた方が……」
 中年乗客B「大石寺入口から先は行けるんだよね?」
 運転手「はい。警察の話ですと、通行止め区間はここから国道の交差点までだそうです。ですので、こちらの市道で迂回して、国道に出て、それから県道に復帰すれば大丈夫だと思います」

 目的地へ行けることに安堵する乗客達。
 しかし、私達はそうも行かなかった。

 愛原「民宿が……爆発……」

 私は中扉近くの座席に倒れ込むように座り込んだ。

 高橋「先生!大丈夫っスか!?」

〔「お待たせ致しました。それでは、運転再開致します」〕

 バスは県道から逸れて、迂回路の市道に入った。
 伯母さんは無事なのだろうか?
 そして、これは仕組まれたことなのだろうか……。
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