報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「事後処理」

2023-12-13 20:36:03 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月3日08時00分 天候:晴 東京都中央区日本橋浜町 某診療所]

 私達は東京駅八重洲口のタクシー乗り場からタクシーに乗り、浜町のクリニックに向かった。
 オフィスビルの中にある為、ビル内に入居している他のテナント企業関係者と共にエレベーターに乗り込む。
 幸い、クリニックはその運営法人の事務所も含めてワンフロア貸切なので、他のテナント関係者と一緒にエレベーターを降りることはない。

 愛原「おはようございます。NPO法人デイライト東京事務所の関係で参りました愛原ですが……」
 受付嬢「少々お待ちください」

 クリニックの待合室には、早くも診察を受けに来た患者達が訪れていた。

 看護師「愛原さん、こちらへどうぞ」

 看護師に呼ばれ、私達はクリニックの奥へと進む。

 看護師「愛原リサさんは、こちらの検査着に着替えてください」
 リサ「はい」

 女性用なのか、ローズピンクの検査着を渡された。
 そしてリサは、女子更衣室へと向かう。

 高橋「先生。俺達はもう行っていいんでしょうか?」
 愛原「あー……そうだな……」

 とはいうものの、何かそんな雰囲気ではない。
 取りあえず、一通りの流れを確認してから行くことにした。
 しばらくして、リサが女子更衣室から出て来る。
 検査着の丸首からは、黒いインナーが覗いていた。
 黒いスポプラを着けているようだから、恐らくそれだ。

 看護師「それではこの書類を持って、レントゲン室の前でお待ちください」
 リサ「はい」

 流れ的には普通の健康診断のよう。
 最初にレントゲン検査、その次は検尿、採血、心電図。
 そして最後に、医師の問診。

 医師「はい、息を大きく吸ってー」
 リサ「スーッ!」
 医師「吐いてー」
 リサ「はーっ!」

 聴診器や甲状腺の腫れの有無などを確認する触診が行われる。
 それから、血液や尿の検査結果が出たのか、医師がパソコンのモニタを見据える。

 医師「ふーむ……」
 愛原「先生、どうですか?」
 医師「……彼女は本当に自力でここまで来たんですか?」
 愛原「えっ?ええ。まあ、私達と一緒でしたけど……何か、マズい数字でも?」
 医師「ええ、そうですね。何せ……」
 リサ「…………」
 高橋「おい!どうした!?」

 椅子に座っていたリサが、突然フッと倒れ込もうとした。
 真後ろにいた高橋がリサを支える。
 鬼としては『赤鬼』になるであろうリサの顔が、完全に青ざめている。

 医師「数値的には、完全に貧血状態なのです。ちょっと輸液が必要です。直ちに、処置室へ」

 看護師が車椅子を持って来た。

 愛原「高橋、そっち持て」
 高橋「は、はい」

 私達は意識を失ったリサを抱えて、車椅子に乗せた。
 良かった。
 一応、付き添いしてて……。
 健診センターの診察室から、秘密の処置室へとリサは運ばれた。
 普通の処置室は、もちろんこのクリニック内にもある。
 但し、リサの場合、もしもの変化・暴走を想定してのことであった。
 機械室を模した入口から、中に入る。
 機械室の扉ということもあり、頑丈な鉄扉になっている。
 中に入ると、通常の入院ベッドが1つだけあった。
 そこにリサを寝かせ、看護師が点滴のパックを持って来る。

 看護師「恐らく、2~3時間は掛かると思います」
 愛原「ちょうどお昼くらいですね。分かりました。その頃に、迎えに来ますので、どうかよろしくお願い致します」

 私はそう言って、クリニックをあとにした。
 同じフロア内のリフレッシュコーナーに向かう。
 そこには喫煙所もあるので、高橋はそこで一服した。
 私は自販機で飲み物を買い求めながら、善場主任に連絡を入れることにした。

 愛原「……そういうわけで、少し遅くなります。申し訳ありません」
 善場「いいえ。お気になさらないでください。やはり、リサはダウンしてしまいましたか……」
 愛原「今、輸液を受けています。効きますかね?」
 善場「恐らく大丈夫でしょう。首を刎ねられれば、本来は死にます。ただ、辛うじて助かったというだけですので。それ以降も、全く元気かというと、そういうわけではなかったようですね」

 そう聞いた時、私はふと不安になった。
 本当に輸液だけで大丈夫なのかと。

 善場「お疲れのこととは存じますが、新橋の事務所まで御足労願っても宜しいでしょうか?」
 愛原「あ、はい。分かりました。今から伺います」

 私は電話を切ると水分補給を終え、一服終えたタクシーを伴って、クリニックをあとにした。

[同日09時00分 天候:晴 東京都港区新橋 NPO法人デイライト東京事務所]

 

 浜町から再びタクシーに乗って、新橋に向かう。
 デイライトの事務所に到着すると、すぐに善場社員が迎えてくれた。

 善場「お疲れさまです、愛原所長。本当に御足労ありがとうございます」
 愛原「いえいえ」

 応接会議室へと案内される。

 愛原「色々ありましたが、何からお話しして良いのやら……」
 善場「やはり、栗原蓮華のことではないかと……」
 愛原「ですよねぇ……」
 善場「本当に栗原蓮華は、BOWと化したのですか?」
 愛原「そのまさかです。リサの血を使ったのか、リサと同じ、鬼型BOWです。リサと違って青白い肌をしていたので、『青鬼』になるでしょうか。高橋の発砲したマグナム弾を素手で掴んで、地面に捨てるくらいの強さです」
 善場「なるほど。実はBSAAの報告からで、明らかに食い殺された死体がいくつも見つかったのです。特異菌感染者のなれの果てであるモールデッドが大量発生したのは、そこから感染したようです」
 愛原「もちろん、リサはそんなことはしていません。少なくとも、私達が駆け付けた時、リサにそんなことをした形跡はありませんでしたし。恐らく犯人は、栗原蓮華ですね」
 善場「人食いをしてしまったからには、情状酌量の余地は無しですね。それで、彼女はどちらに?」
 愛原「分かりません。山の方へと逃走して行きましたので……」
 善場「大規模な山狩りが必要ということですね。それと、もう1つ……」

 主任は目を光らせて、私を見た。
 恐らく、BOWだった頃は赤や金色の瞳をしていたに違いない。
 今は黒い瞳に戻っているが。

 善場「“青いアンブレラ”を見ませんでしたか?」
 愛原「あはは……。御存知でしたか」

 私は苦笑するしか無かった。

 善場「正直にお話しください。有益な情報であれば、当該施設から持ち出した物については不問にしても宜しいですよ?」

 主任は高橋の荷物を見た。

 高橋「ギクッ!」
 善場「色々と隠し持っているようですが、まさか窃盗罪に相当するようなことはなさっておられないでしょうね?」
 愛原「あ、あくまでも、デイライトさんに提出する為の証拠品です。ほら高橋!さっさと出せ!」
 高橋「は、はい!」
 善場「まあまあ。まずは、“青いアンブレラ”について、お聞かせ願えますでしょうか?」

 主任はあくまでも冷静であったが、その氷のような目つきと、有無を言わさぬ雰囲気に、私は徹夜による眠気が吹き飛んでしまった。
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