[2月3日05時47分 天候:晴 栃木県宇都宮市川向町 JR日光線822M列車最後尾→JR宇都宮駅]
3両編成のワンマン列車は、ほぼダイヤ通りに走行していた。
始発電車と言えども、そこは平日の上り電車。
乗客を増やしていき、宇都宮駅に接近する頃には座席は全て埋まり、ドア付近に立つ乗客や吊り革に掴まる乗客も出ている。
なるほど。
始発電車でこれでは、朝ラッシュのピーク時は満員電車と化すかもしれない。
〔まもなく終点、宇都宮、宇都宮。お出口は、左側です。新幹線、宇都宮線と烏山線はお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
リサは私に寄り掛かるようにして眠っている。
幸い、黒いマスクをしている為、牙が周りの乗客に見えることはない。
電車は宇都宮駅5番線ホームに入線した。
ここは日光線専用ホームである。
愛原「リサ、起きろ。そろそろ降りるぞ」
リサ「うーん……」
リサは目を擦った。
やはりどうしても、爪は尖っているし、瞳は赤いままだ。
角は引っ込めているし、耳も人間と同じ形だから、本当に中途半端だ。
リサ「お腹空いた……」
リサが呟いた。
愛原「そうだな。宇都宮駅なら、何か買えるかもしれない」
電車がホームに停車する。
〔うつのみや、宇都宮。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕
ローカル用ワンマン列車であることを除けば、殆どが首都圏で使用されている電車とほぼ同じ。
地方ならではの特色というものが、無くなりつつあるのは時代の流れか。
愛原「降りられるか?」
リサ「うん……。大丈夫」
やっぱり具合が悪そうだなぁ……。
空腹を訴えるということは、食欲はありそうだが……。
それとも、腹が一杯になれば、元気になるだろうか?
エスカレーターを上がって、在来線コンコースに向かう。
新幹線に乗り換えるには、そこから新幹線乗換改札を通過する必要がある。
だが、その前に……。
愛原「高橋、ちょっといいか?」
高橋「は?」
私は新幹線改札口横の券売機に向かった。
在来線から新幹線に乗り換えようとする客が、まだ特急券を持っていない時などはここで買う他、手持ちの特急券の変更なんかもできる。
愛原「ちょっと新幹線特急券を貸してくれ」
高橋「は、はい」
愛原「リサのも」
リサ「?」
私は指定席券売機のタッチパネルを操作した。
愛原「まあ、やっぱり空いてるか。まあ、この方が確実だからな。……で、当然差額が発生すると……」
私の操作で、追加料金が発生した。
事情を話せば、これもデイライトから支給してもらえるだろうか?
まあ、ダメならしょうがない。
事務所の経費で落としてみよう。
愛原「はい、これ」
高橋「何スか、これ?」
愛原「『指定席』に変更したから」
高橋「指定席?これから俺達が乗る新幹線は、自由席しかないはずじゃ?」
愛原「宇都宮始発で確実に座れるならいいんだけどね。いや、多分大丈夫だと思うんだけど、リサが具合悪いからさ」
リサ「ゴメン……」
愛原「どれ、まだ時間があるし、そこのベンチで休んでいよう」
高橋「新幹線乗り場に行かないんスか?」
愛原「オマエは先に行ってていいよ。タバコ吸うだろ?喫煙所は新幹線ホームにしか無いから」
高橋「先生達は後から行くと」
愛原「そういうことだ。改札内のNewDaysで、1番早くオープンするのは、在来線コンコースの店なんだ。そこでリサが食べたい物を買ってやって、それから新幹線ホームに行く。結構ギリギリになりそうだから、それでさ……」
高橋「はあ……分かりました」
愛原「オマエも何か食いたい物があれば、ついでに買って行くぞ」
高橋「あざっス。まあ、パンとかで大丈夫っス」
愛原「分かった。適当に買って行くぞ」
高橋「了解です」
愛原「“なすの”254号な?後ろの秋田新幹線の方、赤い車両の方だ」
高橋「分かりました」
そう言って、高橋は新幹線改札口の方に歩いて行った。
まだ、外は暗い。
愛原「ちょっと缶コーヒー買って来る。リサも飲むか?」
リサ「うん。わたしはブラックじゃないヤツ」
愛原「分かった」
私は待合所のベンチの後ろにある自販機で、缶コーヒーを2つ購入した。
取りあえずはこれで目覚ましと、腹の虫を誤魔化す。
愛原「ん?」
その時、善場主任からメール着信があった。
画面を見ると、東京駅に着いてからの私達の行動に対する指示だった。
善場「東京駅に着きましたら、そのまま浜町の診療所までお越しください」
とのことである。
どうやらここで、リサの治療や検査をするらしい。
案の定、リサは今日は学校を休むようにとのことだ。
まあ、しょうがないな。
私は承知の旨と、これから新幹線に乗車するに当たって、車両を指定したいことと、その理由についても返信した。
それに対しては、『愛原所長が必要と判断したのであれば、了承とします』ということだった。
[同日06時15分 天候:晴 JR宇都宮線・在来線コンコース→東北新幹線ホーム]
6時15分になり、在来線コンコースのNewDaysがオープンした。
6時を過ぎると、多くの通勤客が宇都宮線上りホームに向かっている。
愛原「よし、リサ。パパッと買っちゃうぞ」
リサ「うん!」
お土産などは売っているが、駅弁までは売っていない。
駅弁はもっと遅くにオープンする、別の売店で販売されるからだ。
私は高橋の分のパンやサンドイッチを購入した。
あとはお茶。
リサはサンドイッチはカツサンドで、他にはビーフジャーキーなどを購入した。
愛原「よし、行こう」
購入すると、私達は高橋を追って新幹線乗り場に向かった。
新幹線乗り場の方も、新幹線通勤客で賑わっている。
それからエスカレーターで新幹線上りホームに上がると、始発列車を待つ客が列を成して待っていた。
高橋「先生!」
そして、ホーム上で高橋と合流。
愛原「ほら、お前の分の朝飯。ランチパックとアンパンでいいか?」
高橋「あざっス!」
愛原「飲み物は、そこの自販機で適当に買ってくれ」
高橋「分かりました。……てか先生、このキップってもしかして……?」
愛原「そうだよ。リサの具合が悪いから、今回だけ特別にグリーン車だ。何しろ、普通車の指定席が無いもんだから、グリーン車しか無いんだ」
高橋「よく善場のねーちゃん、許可しましたね?」
愛原「まあ、今回だけ特別だろう。料金の安い在来線のグリーン車くらいだったら、2つ返事で了承してくれるんだがな」
〔ピン♪ポン♪パン♪ポン♪ 4番線に、6時27分発、“なすの”254号、東京行きが、17両編成で参ります。この電車は、各駅に止まります。グランクラスは、10号車。グリーン車は9号車、11号車です。尚、全車両禁煙です。まもなく4番線に、“なすの”254号、東京行きが参ります。黄色い点字ブロックまで、お下がりください〕
愛原「おっ、そろそろ列車が来るぞ。行こう」
高橋「はい」
自由席の方は長蛇の列ができていたが、グリーン車には僅か2~3人しか先客がいなかった。
グランクラスに至っては、誰も待っていない。
乗車時間も短いから、そこまで贅沢するほどではないのかもしれない。
そもそもが、新幹線通勤というだけで十分な贅沢だと思うが。
愛原「善場主任から、連絡があった。東京駅に着いたら、浜町まで来てくれってさ」
高橋「あの病院っスね。分かりました」
東北新幹線と秋田新幹線の車両を併結した長編成の列車、その11号車に私達は乗り込んだ。
3両編成のワンマン列車は、ほぼダイヤ通りに走行していた。
始発電車と言えども、そこは平日の上り電車。
乗客を増やしていき、宇都宮駅に接近する頃には座席は全て埋まり、ドア付近に立つ乗客や吊り革に掴まる乗客も出ている。
なるほど。
始発電車でこれでは、朝ラッシュのピーク時は満員電車と化すかもしれない。
〔まもなく終点、宇都宮、宇都宮。お出口は、左側です。新幹線、宇都宮線と烏山線はお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
リサは私に寄り掛かるようにして眠っている。
幸い、黒いマスクをしている為、牙が周りの乗客に見えることはない。
電車は宇都宮駅5番線ホームに入線した。
ここは日光線専用ホームである。
愛原「リサ、起きろ。そろそろ降りるぞ」
リサ「うーん……」
リサは目を擦った。
やはりどうしても、爪は尖っているし、瞳は赤いままだ。
角は引っ込めているし、耳も人間と同じ形だから、本当に中途半端だ。
リサ「お腹空いた……」
リサが呟いた。
愛原「そうだな。宇都宮駅なら、何か買えるかもしれない」
電車がホームに停車する。
〔うつのみや、宇都宮。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕
ローカル用ワンマン列車であることを除けば、殆どが首都圏で使用されている電車とほぼ同じ。
地方ならではの特色というものが、無くなりつつあるのは時代の流れか。
愛原「降りられるか?」
リサ「うん……。大丈夫」
やっぱり具合が悪そうだなぁ……。
空腹を訴えるということは、食欲はありそうだが……。
それとも、腹が一杯になれば、元気になるだろうか?
エスカレーターを上がって、在来線コンコースに向かう。
新幹線に乗り換えるには、そこから新幹線乗換改札を通過する必要がある。
だが、その前に……。
愛原「高橋、ちょっといいか?」
高橋「は?」
私は新幹線改札口横の券売機に向かった。
在来線から新幹線に乗り換えようとする客が、まだ特急券を持っていない時などはここで買う他、手持ちの特急券の変更なんかもできる。
愛原「ちょっと新幹線特急券を貸してくれ」
高橋「は、はい」
愛原「リサのも」
リサ「?」
私は指定席券売機のタッチパネルを操作した。
愛原「まあ、やっぱり空いてるか。まあ、この方が確実だからな。……で、当然差額が発生すると……」
私の操作で、追加料金が発生した。
事情を話せば、これもデイライトから支給してもらえるだろうか?
まあ、ダメならしょうがない。
事務所の経費で落としてみよう。
愛原「はい、これ」
高橋「何スか、これ?」
愛原「『指定席』に変更したから」
高橋「指定席?これから俺達が乗る新幹線は、自由席しかないはずじゃ?」
愛原「宇都宮始発で確実に座れるならいいんだけどね。いや、多分大丈夫だと思うんだけど、リサが具合悪いからさ」
リサ「ゴメン……」
愛原「どれ、まだ時間があるし、そこのベンチで休んでいよう」
高橋「新幹線乗り場に行かないんスか?」
愛原「オマエは先に行ってていいよ。タバコ吸うだろ?喫煙所は新幹線ホームにしか無いから」
高橋「先生達は後から行くと」
愛原「そういうことだ。改札内のNewDaysで、1番早くオープンするのは、在来線コンコースの店なんだ。そこでリサが食べたい物を買ってやって、それから新幹線ホームに行く。結構ギリギリになりそうだから、それでさ……」
高橋「はあ……分かりました」
愛原「オマエも何か食いたい物があれば、ついでに買って行くぞ」
高橋「あざっス。まあ、パンとかで大丈夫っス」
愛原「分かった。適当に買って行くぞ」
高橋「了解です」
愛原「“なすの”254号な?後ろの秋田新幹線の方、赤い車両の方だ」
高橋「分かりました」
そう言って、高橋は新幹線改札口の方に歩いて行った。
まだ、外は暗い。
愛原「ちょっと缶コーヒー買って来る。リサも飲むか?」
リサ「うん。わたしはブラックじゃないヤツ」
愛原「分かった」
私は待合所のベンチの後ろにある自販機で、缶コーヒーを2つ購入した。
取りあえずはこれで目覚ましと、腹の虫を誤魔化す。
愛原「ん?」
その時、善場主任からメール着信があった。
画面を見ると、東京駅に着いてからの私達の行動に対する指示だった。
善場「東京駅に着きましたら、そのまま浜町の診療所までお越しください」
とのことである。
どうやらここで、リサの治療や検査をするらしい。
案の定、リサは今日は学校を休むようにとのことだ。
まあ、しょうがないな。
私は承知の旨と、これから新幹線に乗車するに当たって、車両を指定したいことと、その理由についても返信した。
それに対しては、『愛原所長が必要と判断したのであれば、了承とします』ということだった。
[同日06時15分 天候:晴 JR宇都宮線・在来線コンコース→東北新幹線ホーム]
6時15分になり、在来線コンコースのNewDaysがオープンした。
6時を過ぎると、多くの通勤客が宇都宮線上りホームに向かっている。
愛原「よし、リサ。パパッと買っちゃうぞ」
リサ「うん!」
お土産などは売っているが、駅弁までは売っていない。
駅弁はもっと遅くにオープンする、別の売店で販売されるからだ。
私は高橋の分のパンやサンドイッチを購入した。
あとはお茶。
リサはサンドイッチはカツサンドで、他にはビーフジャーキーなどを購入した。
愛原「よし、行こう」
購入すると、私達は高橋を追って新幹線乗り場に向かった。
新幹線乗り場の方も、新幹線通勤客で賑わっている。
それからエスカレーターで新幹線上りホームに上がると、始発列車を待つ客が列を成して待っていた。
高橋「先生!」
そして、ホーム上で高橋と合流。
愛原「ほら、お前の分の朝飯。ランチパックとアンパンでいいか?」
高橋「あざっス!」
愛原「飲み物は、そこの自販機で適当に買ってくれ」
高橋「分かりました。……てか先生、このキップってもしかして……?」
愛原「そうだよ。リサの具合が悪いから、今回だけ特別にグリーン車だ。何しろ、普通車の指定席が無いもんだから、グリーン車しか無いんだ」
高橋「よく善場のねーちゃん、許可しましたね?」
愛原「まあ、今回だけ特別だろう。料金の安い在来線のグリーン車くらいだったら、2つ返事で了承してくれるんだがな」
〔ピン♪ポン♪パン♪ポン♪ 4番線に、6時27分発、“なすの”254号、東京行きが、17両編成で参ります。この電車は、各駅に止まります。グランクラスは、10号車。グリーン車は9号車、11号車です。尚、全車両禁煙です。まもなく4番線に、“なすの”254号、東京行きが参ります。黄色い点字ブロックまで、お下がりください〕
愛原「おっ、そろそろ列車が来るぞ。行こう」
高橋「はい」
自由席の方は長蛇の列ができていたが、グリーン車には僅か2~3人しか先客がいなかった。
グランクラスに至っては、誰も待っていない。
乗車時間も短いから、そこまで贅沢するほどではないのかもしれない。
そもそもが、新幹線通勤というだけで十分な贅沢だと思うが。
愛原「善場主任から、連絡があった。東京駅に着いたら、浜町まで来てくれってさ」
高橋「あの病院っスね。分かりました」
東北新幹線と秋田新幹線の車両を併結した長編成の列車、その11号車に私達は乗り込んだ。