報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「『魔王様の肖像画』制作中」

2022-12-12 20:35:38 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[9月3日18:00.天候:雨 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 雨風が強くなってきた。
 これでもまだ、台風の強風圏内だというから、暴風圏内に入ったら【お察しください】。
 都内は夜半過ぎに暴風圏内に入るという。
 そして、台風の目が通過するのが、翌朝。
 大型で非常に強い台風は、速度もゆっくりである。
 嫌味なことにこの台風、関東を通過したらガクンと勢力を落として、その分速度も速まり、東北地方は一気に通過していって、北海道に到達する頃には低気圧に変わるだろうとのこと。
 まあ、“ベタな台風の法則”通りの台風なのかもしれない。
 私は自室で、保険関係の書類とかをまとめていた。
 相手方の保険会社から送られてくる書類などがあるので、それを作成しなければならない。
 私の方は過失割合は0なのだが、それでも書類関係は面倒臭い。
 それはそうと、隣のリサの部屋だが、絵画の制作をしていることもあり、結構静かである。
 取り掛かる時に何だか盛り上がっていたようだが、いざ取り掛かれば静かなものである。
 聞こえて来るのは、時折強く吹いて来る風の音くらい。
 今回の台風は風台風なのか、風が強くて、まだそんなに雨は強くない。
 いや、降ってはいるのだが。
 と、その時、玄関のインターホンが鳴った。
 どうやら、注文したピザが届いたらしい。

 愛原:「はい、愛原です」
 配達員:「ドミノピザでーす!」
 愛原:「はいはい」

 私は玄関のドアを開けた。
 支払いは既にカードで済ませている。

 愛原:「こんな天気の悪い中、すいませんね」
 配達員:「いえ、ありがとうございました」

 私が受け取ったのは、ピザが3枚。
 うち1枚はLサイズである。

 愛原:「おーい、ピザが届いたよ。夕食にしよう」

 私はリサの部屋に向かって言った。

 リサ:「はーい!」

 中からリサの声がする。
 といっても、キリの良い所でないとやめられないだろうから、少しは時間が掛かるか。
 私はそれを見越し、テーブルにピザの入った箱を置き、皿を並べた。
 冷蔵庫からは2リットルペットボトル入りの麦茶とオレンジジュースを置く。
 因みに、私は缶ビール。
 特に、飲酒は制限されていないため。
 しばらくして、リサの部屋から2人の少女が出て来た。
 リサは紺色のブルマを穿いていたが、一方の桜谷さんも東京中央学園の体操服とブルマを穿いていた。

 
(東京中央学園の体操服と、『事実上の廃止』前に着用されていたブルマはこんな感じ)

 愛原:「何で桜谷さんもブルマなの?」
 桜谷:「そ、その……」

 桜谷さんは恥ずかしそうに、体操服の裾を引っ張って、ブルマを隠そうとした。

 桜谷:「リサ様が、『この家では体操服にブルマが制服!協力しないと、私も絵のモデルにならない!』と……」
 リサ:「むふー!」
 愛原:「むふーじゃねーよ!桜谷さん、無理しなくていいからね!何なら、俺からリサに言っておくから!」
 リサ:「い、いいんです!画家は、モデルさんの機嫌を損ねてはいけません!なるべく、モデルさんの希望に沿うようにしなければいけないんです!」
 愛原:「そういうもんなの!?」
 リサ:「そういうもの!」

 リサが偉そうに言う。
 私はそれを窘めながら……。

 愛原:「でも、絵の制作は終わったんだろ?だったら、着替えてもいいんじゃない?」
 桜谷:「いえ、まだ夜も描こうと思っていますので」
 愛原:「熱心なのはいいけど、徹夜はダメだよ?」
 リサ:「大丈夫。わたしかサクラヤのどちらかが眠くなったら、そこで終了にする」
 愛原:「まあ、そういうことなら……」

 桜谷さんは絵具が付かないよう、エプロンを着けていた。
 体操服の上にエプロンは、何だかシュールである。
 一応、エプロンだけは外した。

 愛原:「まあ、とにかく夕食にしよう。コンビニで買ったもので良ければ、冷蔵庫にデザートもあるから」
 リサ:「おー!サクラヤ、食べよう!甘い物は脳に良い!」
 桜谷:「そうですね。頂きます」

 『甘い物は脳に良い』という論法は理系の者が言いそうなイメージなのだが、『左脳限定』とは聞かないので、右脳にも良いのだろう。
 ということは、右脳の方を良く使う芸術関係者でも良いわけだ。
 ガタガタと窓が揺れる音がする。

 リサ:「台風、近づいてる?」
 愛原:「ああ。まさかとは思うが、停電になったら大変だな」
 桜谷:「そうなったら、制作ができなくなります」
 愛原:「一応このマンション、各部屋に蓄電池が備わっているんだ。外部からの電気が遮断されても、それで数時間は持つらしいが……」
 桜谷:「そうですか」
 愛原:「停電になったら、もう寝た方がいいかもな」
 リサ:「エアコンも止まるから、暑くて寝れないよ」
 愛原:「オマエ、暑いの平気じゃなかったのか?」
 リサ:「ううん。サクラヤが」
 愛原:「ああ。まあ、大丈夫だとは思うがな」

[同日21:00.天候:雨 同マンション]

 更に雨風が強くなってくる。
 さすがに強風が窓を揺らすだけでなく、大粒の雨がバチバチと窓ガラスに叩き付ける音も聞こえて来た。
 夕食の後、デザートやコーヒーを飲み食いした後、少女達は絵画制作の続きを始めた。
 何か……たまに変な会話が聞こえて来るのが気になったが。
 いや、『絵の具の中に、わたしの血を混ぜるといい色合いが出る』とか、『わたしの寄生虫をすり潰して、抽出した体液を絵具に混ぜると良い』とか……。
 絵の中のリサが、そこから飛び出して新たなBOWとなったら、大騒ぎである。

〔♪♪(湯沸完了チャイム)♪♪。お風呂が、沸きました〕

 風呂が沸いたようだ。
 先に、少女達に入ってもらおう。

 愛原:「おーい。風呂が沸いたぞ。先に入ってこい」

 今度はリサ達、すぐに出て来た。

 リサ:「いいの、一番風呂で?わたしは先生の残り湯に浸かりたいのに」
 愛原:「オマエは良くても、桜谷さんが嫌だろう。こんなオッサンの残り湯なんて……」
 リサ:「ほお?本当か、サクラヤ?答えろ!」

 リサはいきなり第1形態に戻ると、瞳を赤く光らせて桜谷さんを睨み付けた。

 桜谷:「ひぅ……!」
 愛原:「やめなさい、リサ!とにかく、桜谷さんに先に入ってもらうんだ。いいな?」
 リサ:「先生の命令なら……。そうだ、サクラヤ。だったら、一緒に入ろう」
 桜谷:「いいんですか?」
 リサ:「その方が先生を待たせなくていい」
 愛原:「俺は別にいいんだがな。ゆっくり入っていいぞ。仲良くしろよ?」
 リサ:「分かってる。サクラヤ、そういうことだから」
 桜谷:「は、はい。お供します」

 2人の少女は、浴室に向かった。

 リサ:「あ、そうだ、先生」
 愛原:「何だ?絵なら触ったりしないよ」
 リサ:「ううん。いつでも覗いていいからね?
 桜谷:「ええーっ!?」
 愛原:「そこは、『覗かないでね』だろ!?」

 このままでは、桜谷さんに誤解されてしまう。
 台風直撃よりも、そっちの方が怖かった。
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“愛原リサの日常” 「『魔王様の肖像画』制作開始前」

2022-12-12 15:53:28 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[9月3日14:00.天候:曇 東京都港区新橋 NPO法人デイライト東京事務所]

 愛原は善場と話をしている。
 その間、リサはヒマだった。
 お昼は弁当が出たので、それだけが唯一の楽しみだった。
 事務所内のWi-Fiを借りて、『魔王軍』やその他の知り合いとLINEをしたり、Twitterをしたりして過ごした。
 その中で話題になったのが……。

 リサ:「今日明日も取り掛かるの?台風来るから、学校行けないよ?」

 尚、普通の会話のようだが、これはLINEでの会話である。

 桜谷:「来月の絵画コンクールに出したいんです!私からリサ先輩の家に行くから、お願いします!」

 因みにリサの全体像をモデルに描くから、サイズはA0版くらいある。
 リサは絵画のことなど全く分からないが、キャンバスのサイズを見た時に、「デカッ!」と、思ったものだ。
 もちろん、キャンバスにはキャンバスのサイズの規格があって、一応リサはそれを聞いたのだが、全く分からなかった。
 ただ、かなり大きなサイズで、美術部にあるイーゼルでも、最大の物を貸与されたとか言っていた。

 リサ:「いや、そんな大きなサイズ、家に持って来られてもねぇ……」
 桜谷:「サイズ的に、平日の放課後だけやってるんじゃ間に合わないんです!」

 ということだった。

 リサ:(『魔王様の肖像画』って、こんなに面倒なのか……)

 リサはRPGでしか見たことなかったので……。

 リサ:「わたしの保護者に聞いてみるから、ちょっと待ってて」

 と、返事は保留にしておいた。
 すると、リサが待機している応接室に、愛原と善場がやってきた。

 愛原:「リサ、話が終わった。帰るぞ」
 リサ:「あ、はーい」
 善場:「マンションまで、車でお送りします」
 愛原:「ありがとうございます」

 今度は善場は付いてこなかった。
 善場の部下の運転手だけである。
 リサと愛原は、病院から出た時のように、リアシートに座った。

 運転手:「それでは出発します」
 愛原:「お願いします」

 風が強まっている中、リサ達を乗せた車が出発した。

 愛原:「今日明日は安静だな。まあ、土日で良かった」
 リサ:「先生。お兄ちゃんは、どのくらいで退院できるの?」
 愛原:「一応、順調に治療が続けば、来週には退院できるらしいな。ちょうど俺、頭のホッチキスを抜くのが来週だから、そのタイミングで迎えに行けるかもしれない」
 リサ:「わたしも行っていい!?」
 愛原:「だけどオマエ、学校だろ?金曜日の話だ」
 リサ:「あー……そうか……」

 リサは残念そうに項垂れた。

 愛原:「俺は来週、病院には朝一で行く。その後で高橋の迎えだとすると……。まあ、昼には完結するだろう。そういうことだ」
 リサ:「分かった……。その代わり、先生に1つお願いがある」
 愛原:「何だ?」
 リサ:「美術部の後輩が、わたしをモデルに絵を描きたいんだって」
 愛原:「そうなのか。オリジナルのリサ・トレヴァーも、ステンドグラスに描かれていたっていうし、それはいいんじゃないか」
 リサ:「かなり大きいサイズで、それなのに制作期間1ヶ月なんだって」
 愛原:「……美術のことは、俺はよく知らないが、それってかなりの無茶ぶりってことか?」
 リサ:「そうみたい。だから、平日の放課後にちょこちょこやってたんじゃ、間に合わないんだって」
 愛原:「部活動の一環なら、それでできるものを描けばいいだろう?」
 リサ:「わたしのはコンクールに出すんだって」
 愛原:「そ、そうなのか?」
 リサ:「それに間に合わせたいんだって」
 愛原:「おいおい。困っているのは分かるが、探偵の俺にできそうなことは無さそうだぞ?」
 リサ:「そのコ、今日明日家に来て描きたいんだって」
 愛原:「ええっ!?だって、台風来てるぞ!?」
 リサ:「台風さえ来なかったら、わたしとそのコ、学校に行けばいいだけの話。台風でそれが無理だから、そのコが家に来るんだって」
 愛原:「そのコ、家の近所なのか?」
 リサ:「ううん。中目黒」
 愛原:「マジか!いい所住んでるな!」
 リサ:「うん。日比谷線1本で通学できるから便利!」
 愛原:「いや、通学の利便性もそうだけど、場所的にもね……」
 リサ:「わたし達と同じ、マンション住まいだって」
 愛原:「いや、まあ、あそこ、一戸建てが建っているようなイメージは無いなぁ……。すると、菊川に行くには……」
 リサ:「六本木で降りて、そこから都営大江戸線で森下駅まで行くって言ってた」
 愛原:「なるほど。森下か。確かに、俺達の住んでる菊川1丁目なら、森下駅からも徒歩アクセス可能だな」

 菊川駅よりは歩くが。
 台風が来る中、なるべく地上での徒歩連絡は可能な限り、避けた方が良いと思われるが……。

 リサ:「どう、先生?」
 愛原:「泊まるのは、この土日だけなんだな?」
 リサ:「そう言ってた」
 愛原:「分かったよ。まあ、絵描きなら、そんなにうるさくもならないだろう」
 リサ:「もちろん。先生の療養の邪魔はさせない」
 愛原:「そういうことならいいよ」
 リサ:「ありがとう!」

 リサはスマホを取り出し、早速、桜谷にLINEした。
 ただ単に来訪の許可を与えるだけなのだが、何故かリサは長めにLINEをした。
 それこそ、愛原のマンションに到着する直前まで……。

[同日16:00.天候:雨 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]

 夏場のこの時間帯など、まだまだ昼間の明るさである。
 ところが、今は台風の雲が上空に迫って来て、冬場のこの時間帯といった薄暗さを見せていた。

 桜谷:「こんにちは!」

 そして、大きなキャリーバッグを持った桜谷がやってきた。
 それこそ、海外旅行に行くのかと思うくらいの大きなキャリーバッグである。

 リサ:「おっ、来たか。入れ」
 桜谷:「お邪魔します!」

 桜谷はTシャツにジーンズといった格好をしていた。
 リサと同じくらいのおかっぱ頭だが、リサがウェーブが掛かっているのに対し、こちらは直毛。
 ただ、上野凛と違って、こちらは栗色の髪であった。
 因みにリサの髪、色が抜けてしまったが、また黒に戻っている。
 但し、毛先1~2cm部分だけは色が抜けたままになっていた。

 リサ:「サクラヤ、まずは愛原先生に御挨拶」
 桜谷:「ど、どうも。今日は厚かましいお願いを、ありがとうございます!」
 愛原:「いいよ。今夜、泊まって行くんだろ?ベッドは簡易的なものになるけど、いいかな?」
 桜谷:「は、はい!大丈夫です!……あの、早速、セッティングの方を……」
 リサ:「分かった。わたしの部屋に案内する。……あ、先生」
 愛原:「何だ?」
 リサ:「今日の夕食は?」
 愛原:「今のうちにピザ予約しておいた。桜谷さんも、それでいいかな?」
 桜谷:「あ、はい。私は何でも……」

 恐らく学内では小柄な体型になるのだろうが、それでもまだ中学生に間違われるリサと比べれば、高校生に見える桜谷である。
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“愛原リサの日常” 「悪夢からの目覚め」 5

2022-12-12 11:51:17 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[9月3日10:30.天候:曇 埼玉県川口市西川口 済生会川口総合病院]

 路線バスに乗り、病院最寄りのバス停で降りたリサ。
 バス停の目の前が、もう病院である。
 病院の中に入ると、ロビーでは既に愛原が退院の準備をしていた。

 リサ:「愛原先生!」
 愛原:「リサ……」

 愛原は頭にガーゼのようなものを当て、その上からネットを被るという状態だった。

 リサ:「先生……それ、大丈夫なの?」

 明らかに見た目完治しているのであれば、飛び掛かってハグしようと思っていたリサだったが、愛原に近づいて頭の状態を見て、それは思いとどまった。

 愛原:「今のところはな。ネットを被るのは、今日一杯でいいらしい」

 明日の夜からは洗髪もして良いとのこと。
 むしろ洗髪して、傷口を清潔に保つようにとのことだ。

 愛原:「傷の治りも案外早くて先生が驚いてたよ。来週には針も抜けるだろうとのことだ」
 リサ:「針?」
 愛原:「ホッチキスのことだ。今は縫合といっても、糸で縫うんじゃなく、医療用のホッチキスでバチンバチンと留めるんだ」
 リサ:「ううっ……!」
 善場:「愛原所長、車で事務所まで向かいますので、御同行願います」
 愛原:「分かりました。リサもいいですか?」
 善場:「もちろんです」

 善場はインカムで、車を正面エントランスに着けるよう言った。
 恐らく善場の部下が、近くに車で待機しているのだろう。

 リサ:「その前に、トイレ行っていい?」
 善場:「急いで行ってきて」
 リサ:「はーい」

 リサは病院のトイレを借りた。
 用を足し終わって個室から出た後、洗面所で手を洗っていると、鏡にエブリンの姿が映った。
 忌々しそうな顔をしている。

 リサ:「見捨てられたオマエとは違うんだよ」

 リサはエブリンの方を振り向いて言ったが、そこにエブリンの姿は無かった。
 急いでトイレから出て、正面エントランスに向かうと、既に黒塗りのクラウンが横付けされていた。
 善場達がトランクを開けて、愛原の荷物を入れたりしている。

 リサ:「血の匂い……」

 リサの空腹を促せるような匂いが、彼女の鼻を突いた。

 リサ:「先生の美味しそうな血の匂いがするよ?」
 愛原:「そりゃそうだ。俺が事故当時着ていた服とか荷物とか、あの中に入ってるんだから」
 リサ:「そうなの!?」
 善場:「リサが暴走する恐れがあるので、今回はセダンの車で来ました」
 愛原:「なるほど。セダンなら、トランクとキャブが隔離されてますからね」
 善場:「そういうことです」

 車はハイヤーにもタクシーにも、そしてパトカーにも使われるタイプであった。
 善場と部下の運転手が乗り込むと、まるで刑事達の乗っている車に見えてしまう。

 善場:「では、お2人は後ろにお乗りください」
 愛原:「すいません」

 愛原は運転席の後ろに、リサは助手席の後ろに座った。

 善場:「それでは出発します」
 愛原:「お願いします」

 車が走り出し、病院の敷地外に出る。
 まずは県道110号線を南下するが、すぐに右折する。
 車にはカーナビが装備されており、既に病院からデイライト事務所までのルートを設定しているようだ。

 リサ:「先生、仕事の時の服装と違う」
 愛原:「だから、頭を打って、血が噴き出したからな。服は血まみれになったんで、着替えたんだよ。病院の売店で揃えた」

 といっても、白いTシャツとグレーのスウェットズボンである。
 夏だからまだこの恰好で良いが、冬ならキツいだろう。

 愛原:「ワイシャツもズボンも血まみれさ。まるで、殺人事件の被害者だよ」
 リサ:「血が噴き出して……」
 愛原:「病院に警察も来て、事情聴取だのケガの写真を撮られたりとかな……」
 善場:「安全配慮義務違反且つ業務上過失致傷罪の疑いですね。それに関してましては、埼玉県警の管轄です。これに関しましては、デイライトは何もしません」
 愛原:「もちろんです。捜査協力はしますよ」
 善場:「その方が宜しいかと思います」
 リサ:「犯人は!?犯人はタイホされたの!?」
 善場:「まだ、警察の捜査中です。ただ、明らかに刑事事件として取り扱っているようです。悪質と判断された場合には、逮捕状を取って……という所まで行くでしょう」
 リサ:「悪質じゃなかったら?」
 善場:「……書類送検ということにはなりますね。ただ、逮捕も書類送検も、刑事処分を受けるという意味では同じですよ」
 リサ:「えっ?」
 善場:「少なくとも刑事的責任を公に認められるわけですから、その後の民事についても、愛原所長がかなり有利に進めることができるでしょう」

 書類送検。
 法律のことなど何も知らない加害者にとっては、一瞬、『逮捕されないんだ!ラッキー!』と思うかもしれないが、その後の民事訴訟では【お察しください】。

 善場:「それとリサ」
 リサ:「はい?」
 善場:「この事故には加害者がいますが、あなたは当然余計なことをしてはいけません。いいですね?」
 リサ:「は、はい」

 ここでリサ、初めて加害者がいることを自覚した。
 いや、知らなかったわけではない。
 ただ、1人でホテル暮らしをしなければならなかったことへの不安や寂しさの方が勝っていたのだ。

 愛原:「事故を起こした工事会社の社長が、謝罪に来たよ。もっとも、こっちは頭痛と吐き気と嘔吐で、それどころじゃなかったけどね。荷物の中に、お詫びに持って来た菓子折りがある。適当に食べてくれ」
 リサ:「……先生の血の匂いを嗅ぎながら食べる」
 愛原:「嗅がんでいい!」
 善場:「……それと、もう1つ。愛原所長が着ていた衣類や荷物は、警察から保管しておくように依頼されています。リサ、それについても勝手な取り扱いをしないように。いいですね?」
 リサ:「……はーい」
 善場:「所長、お仕事への復帰はいつなさいますか?」
 愛原:「今日明日は無理でしょうね。さすがにこの頭で、クライアントの前には出れませんし、明日もそうですし。明後日には洗髪できるということですから、そのタイミングで事務所を開けようと思います」
 善場:「分かりました」

 車は国道17号線(中山道)に出た。
 そこから南下して、東京を目指す。
 ずっと下道を行くわけではなく、途中で首都高が合流してくるので、そのタイミングで首都高に乗るという。
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