報恩坊の怪しい偽作家!

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“愛原リサの日常” 「悪夢からの目覚め」 5

2022-12-12 11:51:17 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[9月3日10:30.天候:曇 埼玉県川口市西川口 済生会川口総合病院]

 路線バスに乗り、病院最寄りのバス停で降りたリサ。
 バス停の目の前が、もう病院である。
 病院の中に入ると、ロビーでは既に愛原が退院の準備をしていた。

 リサ:「愛原先生!」
 愛原:「リサ……」

 愛原は頭にガーゼのようなものを当て、その上からネットを被るという状態だった。

 リサ:「先生……それ、大丈夫なの?」

 明らかに見た目完治しているのであれば、飛び掛かってハグしようと思っていたリサだったが、愛原に近づいて頭の状態を見て、それは思いとどまった。

 愛原:「今のところはな。ネットを被るのは、今日一杯でいいらしい」

 明日の夜からは洗髪もして良いとのこと。
 むしろ洗髪して、傷口を清潔に保つようにとのことだ。

 愛原:「傷の治りも案外早くて先生が驚いてたよ。来週には針も抜けるだろうとのことだ」
 リサ:「針?」
 愛原:「ホッチキスのことだ。今は縫合といっても、糸で縫うんじゃなく、医療用のホッチキスでバチンバチンと留めるんだ」
 リサ:「ううっ……!」
 善場:「愛原所長、車で事務所まで向かいますので、御同行願います」
 愛原:「分かりました。リサもいいですか?」
 善場:「もちろんです」

 善場はインカムで、車を正面エントランスに着けるよう言った。
 恐らく善場の部下が、近くに車で待機しているのだろう。

 リサ:「その前に、トイレ行っていい?」
 善場:「急いで行ってきて」
 リサ:「はーい」

 リサは病院のトイレを借りた。
 用を足し終わって個室から出た後、洗面所で手を洗っていると、鏡にエブリンの姿が映った。
 忌々しそうな顔をしている。

 リサ:「見捨てられたオマエとは違うんだよ」

 リサはエブリンの方を振り向いて言ったが、そこにエブリンの姿は無かった。
 急いでトイレから出て、正面エントランスに向かうと、既に黒塗りのクラウンが横付けされていた。
 善場達がトランクを開けて、愛原の荷物を入れたりしている。

 リサ:「血の匂い……」

 リサの空腹を促せるような匂いが、彼女の鼻を突いた。

 リサ:「先生の美味しそうな血の匂いがするよ?」
 愛原:「そりゃそうだ。俺が事故当時着ていた服とか荷物とか、あの中に入ってるんだから」
 リサ:「そうなの!?」
 善場:「リサが暴走する恐れがあるので、今回はセダンの車で来ました」
 愛原:「なるほど。セダンなら、トランクとキャブが隔離されてますからね」
 善場:「そういうことです」

 車はハイヤーにもタクシーにも、そしてパトカーにも使われるタイプであった。
 善場と部下の運転手が乗り込むと、まるで刑事達の乗っている車に見えてしまう。

 善場:「では、お2人は後ろにお乗りください」
 愛原:「すいません」

 愛原は運転席の後ろに、リサは助手席の後ろに座った。

 善場:「それでは出発します」
 愛原:「お願いします」

 車が走り出し、病院の敷地外に出る。
 まずは県道110号線を南下するが、すぐに右折する。
 車にはカーナビが装備されており、既に病院からデイライト事務所までのルートを設定しているようだ。

 リサ:「先生、仕事の時の服装と違う」
 愛原:「だから、頭を打って、血が噴き出したからな。服は血まみれになったんで、着替えたんだよ。病院の売店で揃えた」

 といっても、白いTシャツとグレーのスウェットズボンである。
 夏だからまだこの恰好で良いが、冬ならキツいだろう。

 愛原:「ワイシャツもズボンも血まみれさ。まるで、殺人事件の被害者だよ」
 リサ:「血が噴き出して……」
 愛原:「病院に警察も来て、事情聴取だのケガの写真を撮られたりとかな……」
 善場:「安全配慮義務違反且つ業務上過失致傷罪の疑いですね。それに関してましては、埼玉県警の管轄です。これに関しましては、デイライトは何もしません」
 愛原:「もちろんです。捜査協力はしますよ」
 善場:「その方が宜しいかと思います」
 リサ:「犯人は!?犯人はタイホされたの!?」
 善場:「まだ、警察の捜査中です。ただ、明らかに刑事事件として取り扱っているようです。悪質と判断された場合には、逮捕状を取って……という所まで行くでしょう」
 リサ:「悪質じゃなかったら?」
 善場:「……書類送検ということにはなりますね。ただ、逮捕も書類送検も、刑事処分を受けるという意味では同じですよ」
 リサ:「えっ?」
 善場:「少なくとも刑事的責任を公に認められるわけですから、その後の民事についても、愛原所長がかなり有利に進めることができるでしょう」

 書類送検。
 法律のことなど何も知らない加害者にとっては、一瞬、『逮捕されないんだ!ラッキー!』と思うかもしれないが、その後の民事訴訟では【お察しください】。

 善場:「それとリサ」
 リサ:「はい?」
 善場:「この事故には加害者がいますが、あなたは当然余計なことをしてはいけません。いいですね?」
 リサ:「は、はい」

 ここでリサ、初めて加害者がいることを自覚した。
 いや、知らなかったわけではない。
 ただ、1人でホテル暮らしをしなければならなかったことへの不安や寂しさの方が勝っていたのだ。

 愛原:「事故を起こした工事会社の社長が、謝罪に来たよ。もっとも、こっちは頭痛と吐き気と嘔吐で、それどころじゃなかったけどね。荷物の中に、お詫びに持って来た菓子折りがある。適当に食べてくれ」
 リサ:「……先生の血の匂いを嗅ぎながら食べる」
 愛原:「嗅がんでいい!」
 善場:「……それと、もう1つ。愛原所長が着ていた衣類や荷物は、警察から保管しておくように依頼されています。リサ、それについても勝手な取り扱いをしないように。いいですね?」
 リサ:「……はーい」
 善場:「所長、お仕事への復帰はいつなさいますか?」
 愛原:「今日明日は無理でしょうね。さすがにこの頭で、クライアントの前には出れませんし、明日もそうですし。明後日には洗髪できるということですから、そのタイミングで事務所を開けようと思います」
 善場:「分かりました」

 車は国道17号線(中山道)に出た。
 そこから南下して、東京を目指す。
 ずっと下道を行くわけではなく、途中で首都高が合流してくるので、そのタイミングで首都高に乗るという。

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