[5月5日20:00.天候:晴 アルカディアシティ6番街 ブラッドリバー家]
6番街は全体がカブキンシタウンという歓楽街ではない。
その一画を除けば、あとは普通の町である。
カブキンシタウン電停からアルカディアメトロの路面電車に乗り、6番街駅に向かう。
その途中で案内役のエリックがこう言っていた。
エリック:「カブキンシタウンはアルカディアでも随一の歓楽街だから、毎日来る客が絶えねぇんです。だから路面電車も5分に1本もの割合で運転してる。だけど見ての通り、元々の通りが狭いもんだから、軌道は単線なんですよ。そこで魔界高速電鉄は6番街支線というか、カブキンシ線みたいな地下鉄を通す工事をしてるんです。これなら、路面電車より大量の人を運べる。また、多くの荷物を運ぶことができる。だけど、あの工事にも問題があって、なかなか進まねぇらしいです」
と。
多くの荷物を運べることができるというのは、アルカディアメトロでは荷物電車や普通の電車を荷物専用として運転することもあるという意味だ。
魔界高速電鉄では、機関車や貨車を保有していない為。
6番街駅で電車を降り、そこから北の方向に歩く。
すると地下から地上に出るトンネルが現れて、そこから線路が伸びていた。
その向こうには操車場がある。
架線が無いのは、第三軌条方式の地下鉄だからである。
エリック:「分かりますかい?向こう側にでっけぇ家が建ってるのを」
稲生:「本当だ。車止めの向こう側にある」
まだ電車が運転されている時間帯だからか、電留線に電車の数は少なかった。
それでも開業当時の地下鉄銀座線の車両や丸ノ内線の車両、大阪メトロ御堂筋線の車両やニューヨークの地下鉄車両まで留置されていて、まるで世界の旧型地下鉄電車の博物館のようである。
エリック:「どうします?侵入するなら、ちょうどあの電車の屋根を昇って行けば2階から入れます」
稲生:「いや、そんなことしないよ」
マリア:「まあ、そうだな」
エリック:「え?まさか、正面突破で?」
稲生:「いや、普通にピンポン押して開けてもらうよ。エリックは外で待ってて」
エリック:「気をつけてくださいよ?」
稲生とマリアは屋敷の正面入口に回った。
確かに建物に明かりは点いていない。
マリアの屋敷でさえ、取りあえず玄関や居室には照明を点けているというのに。
稲生:「では、押してみます」
マリア:「頼むよ」
稲生は門扉の脇のインターホンを押した。
微かに館内からブザーの音がする。
どうやら、昔ながらのブザーの音が響くタイプのようだ。
何回か押すが、誰かが出てくる様子は無かった。
稲生:「やっぱりダメか?」
マリア:「シッ!」
マリアは稲生を黙らせると、屋敷の2階部分を見た。
コウモリがぶら下がっていて、こちらをジーッと見ている。
マリアはそのコウモリに向かって手を振った。
マリア:「Hello!Anybody here!?(すいませーん!誰かいますかー!?)」
するとコウモリ、屋根の向こう側に飛んで行ってしまった。
それから少し経って、玄関の照明が点灯した。
で、堅く閉ざされた門扉のロックが自動で解除し、ギィィッとやはり自動で開いた。
マリア:「入れってことだな」
マリアが先に入り、後で稲生も入る。
すると、門扉が自動で閉まった。
玄関まで行くと、そのドアが少し開いた。
男:「何か御用ですか?」
すると、中から若い男が現れた。
紺色のスーツに赤いネクタイを着けている。
日本人のように見えたが、本当に人間かどうかまでは分からない。
何しろ、ここは吸血鬼の貴族の屋敷なのだ。
マリア:「私達は魔道士の一門に所属している者でして、マリアンナ・スカーレットとユウタ・イノウと申します。こちらの御主人に話があって参りました」
男:「あいにくですが、サラ様は基本的にどなたともお会いになりません」
男はどことなく雰囲気が稲生に似ていた。
そしてマリアは、男がサラという女主人の下僕であることをすぐに見抜いた。
首元に、主従の証である犬歯の刺し傷痕があったからである。
マリア:「なるほど。しかしこうしてあなたが応対してくれたということは、まんざらでもないということではないですか?」
男:「と、言いますと?」
稲生はマリアが何も臆すること無く、屋敷の下男と会話していることに、彼女の変化を感じた。
それまでは男と会話など一切できず、ようやく稲生と話せるようになっただけでも第一歩であった。
それが今やトラウマを克服したことで、こうして交渉などをできるようにまでなっている。
マリア:「ここにいるのは私の後輩なんだけど、ルーシー陛下のお気に入りでもある。もちろん、陛下が彼の何を気に入ったかは分かるよね?」
男:「サラ様に血液を提供して下さると……?しかし、それはこの私のだけで十分であり……」
すると、コウモリが男の横に飛んで来た。
何か超音波でも使って、男に何か言っている。
男:「何と……!」
男は信じられないという顔をしたが、コウモリの言って来たことが冗談なんかではないことを知ると、マリアに向き直った。
男:「サラ様の気が変わられたそうです。どうぞ、お入りください」
マリア:「また気が変わらないうちに、会いたいものですね」
マリアと稲生は屋敷の中に入った。
館内は真っ暗であったが、2人が入ると、自動でローソクに火が灯った。
男:「こちらへどうぞ」
通された部屋は応接間だった。
稲生:「一体、どんな方なんでしょうね?まさか、いきなりボス戦になったりして……!?」
マリア:「その時はその時だ」
応接間には誰もいなかった。
もちろんだからといって、無人だと思わぬ方が良い。
ここは吸血鬼の館だ。
どこかに潜んでいるしもれない。
2人の魔道士が中に入ると、天井のシャンデリアのローソクがやっぱり自動で点灯した。
男:「サラ様を呼んで参りますので、しばらくお待ちください」
男は稲生達にソファを勧めると、応接間を出て行った。
マリア:「さあ、一体誰が来るか……」
しばらくすると、応接間のドアが開いた。
そこから入って来たのは……。
サラ:「こんばんは。魔道士の皆さん。サラ・ブラッドリバーです」
見た目、12~13歳くらいの少女であった。
稲生:「は、はっ!?」
マリア:「勇太、見た目に惑わされるな。見た目は子供でも、あれは……師匠並みの年月を生きているシニア・ヴァンパイアだ」
稲生:「ええーっ!?」
見た目は12歳かそこらなのに、実年齢は1000歳以上とはこれ如何に!?
6番街は全体がカブキンシタウンという歓楽街ではない。
その一画を除けば、あとは普通の町である。
カブキンシタウン電停からアルカディアメトロの路面電車に乗り、6番街駅に向かう。
その途中で案内役のエリックがこう言っていた。
エリック:「カブキンシタウンはアルカディアでも随一の歓楽街だから、毎日来る客が絶えねぇんです。だから路面電車も5分に1本もの割合で運転してる。だけど見ての通り、元々の通りが狭いもんだから、軌道は単線なんですよ。そこで魔界高速電鉄は6番街支線というか、カブキンシ線みたいな地下鉄を通す工事をしてるんです。これなら、路面電車より大量の人を運べる。また、多くの荷物を運ぶことができる。だけど、あの工事にも問題があって、なかなか進まねぇらしいです」
と。
多くの荷物を運べることができるというのは、アルカディアメトロでは荷物電車や普通の電車を荷物専用として運転することもあるという意味だ。
魔界高速電鉄では、機関車や貨車を保有していない為。
6番街駅で電車を降り、そこから北の方向に歩く。
すると地下から地上に出るトンネルが現れて、そこから線路が伸びていた。
その向こうには操車場がある。
架線が無いのは、第三軌条方式の地下鉄だからである。
エリック:「分かりますかい?向こう側にでっけぇ家が建ってるのを」
稲生:「本当だ。車止めの向こう側にある」
まだ電車が運転されている時間帯だからか、電留線に電車の数は少なかった。
それでも開業当時の地下鉄銀座線の車両や丸ノ内線の車両、大阪メトロ御堂筋線の車両やニューヨークの地下鉄車両まで留置されていて、まるで世界の旧型地下鉄電車の博物館のようである。
エリック:「どうします?侵入するなら、ちょうどあの電車の屋根を昇って行けば2階から入れます」
稲生:「いや、そんなことしないよ」
マリア:「まあ、そうだな」
エリック:「え?まさか、正面突破で?」
稲生:「いや、普通にピンポン押して開けてもらうよ。エリックは外で待ってて」
エリック:「気をつけてくださいよ?」
稲生とマリアは屋敷の正面入口に回った。
確かに建物に明かりは点いていない。
マリアの屋敷でさえ、取りあえず玄関や居室には照明を点けているというのに。
稲生:「では、押してみます」
マリア:「頼むよ」
稲生は門扉の脇のインターホンを押した。
微かに館内からブザーの音がする。
どうやら、昔ながらのブザーの音が響くタイプのようだ。
何回か押すが、誰かが出てくる様子は無かった。
稲生:「やっぱりダメか?」
マリア:「シッ!」
マリアは稲生を黙らせると、屋敷の2階部分を見た。
コウモリがぶら下がっていて、こちらをジーッと見ている。
マリアはそのコウモリに向かって手を振った。
マリア:「Hello!Anybody here!?(すいませーん!誰かいますかー!?)」
するとコウモリ、屋根の向こう側に飛んで行ってしまった。
それから少し経って、玄関の照明が点灯した。
で、堅く閉ざされた門扉のロックが自動で解除し、ギィィッとやはり自動で開いた。
マリア:「入れってことだな」
マリアが先に入り、後で稲生も入る。
すると、門扉が自動で閉まった。
玄関まで行くと、そのドアが少し開いた。
男:「何か御用ですか?」
すると、中から若い男が現れた。
紺色のスーツに赤いネクタイを着けている。
日本人のように見えたが、本当に人間かどうかまでは分からない。
何しろ、ここは吸血鬼の貴族の屋敷なのだ。
マリア:「私達は魔道士の一門に所属している者でして、マリアンナ・スカーレットとユウタ・イノウと申します。こちらの御主人に話があって参りました」
男:「あいにくですが、サラ様は基本的にどなたともお会いになりません」
男はどことなく雰囲気が稲生に似ていた。
そしてマリアは、男がサラという女主人の下僕であることをすぐに見抜いた。
首元に、主従の証である犬歯の刺し傷痕があったからである。
マリア:「なるほど。しかしこうしてあなたが応対してくれたということは、まんざらでもないということではないですか?」
男:「と、言いますと?」
稲生はマリアが何も臆すること無く、屋敷の下男と会話していることに、彼女の変化を感じた。
それまでは男と会話など一切できず、ようやく稲生と話せるようになっただけでも第一歩であった。
それが今やトラウマを克服したことで、こうして交渉などをできるようにまでなっている。
マリア:「ここにいるのは私の後輩なんだけど、ルーシー陛下のお気に入りでもある。もちろん、陛下が彼の何を気に入ったかは分かるよね?」
男:「サラ様に血液を提供して下さると……?しかし、それはこの私のだけで十分であり……」
すると、コウモリが男の横に飛んで来た。
何か超音波でも使って、男に何か言っている。
男:「何と……!」
男は信じられないという顔をしたが、コウモリの言って来たことが冗談なんかではないことを知ると、マリアに向き直った。
男:「サラ様の気が変わられたそうです。どうぞ、お入りください」
マリア:「また気が変わらないうちに、会いたいものですね」
マリアと稲生は屋敷の中に入った。
館内は真っ暗であったが、2人が入ると、自動でローソクに火が灯った。
男:「こちらへどうぞ」
通された部屋は応接間だった。
稲生:「一体、どんな方なんでしょうね?まさか、いきなりボス戦になったりして……!?」
マリア:「その時はその時だ」
応接間には誰もいなかった。
もちろんだからといって、無人だと思わぬ方が良い。
ここは吸血鬼の館だ。
どこかに潜んでいるしもれない。
2人の魔道士が中に入ると、天井のシャンデリアのローソクがやっぱり自動で点灯した。
男:「サラ様を呼んで参りますので、しばらくお待ちください」
男は稲生達にソファを勧めると、応接間を出て行った。
マリア:「さあ、一体誰が来るか……」
しばらくすると、応接間のドアが開いた。
そこから入って来たのは……。
サラ:「こんばんは。魔道士の皆さん。サラ・ブラッドリバーです」
見た目、12~13歳くらいの少女であった。
稲生:「は、はっ!?」
マリア:「勇太、見た目に惑わされるな。見た目は子供でも、あれは……師匠並みの年月を生きているシニア・ヴァンパイアだ」
稲生:「ええーっ!?」
見た目は12歳かそこらなのに、実年齢は1000歳以上とはこれ如何に!?
え?『非実在青少年案件』?何すか、それ?