報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「台風19号通過」

2019-10-20 19:18:51 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月13日03:00.天候:暴風雨 長野県北部山中 マリアの屋敷2F東側・稲生の部屋]

 ビュー!ガタガタガタガタ!(暴風で窓がシャッターごとガタガタ言ってる)

 稲生:「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」

 暴風雨の音で夜中に起こされた稲生はその後全く寝付けず、仕方ないので『なんちゃって丑寅勤行』を行うことにした。
 『なんちゃって』というのは、本来の丑寅勤行というのは大石寺客殿において、御法主上人猊下の大導師の元で行われるものであり、それを同じ時間帯とはいえ、一信徒が遥拝で行うものではないからだ。

 稲生:「(どうか無事に台風が通り過ぎてくれますように!)南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」

 気象学が今ほど発達していなかった数百年前も台風は発生し、日本に到来していたはずだ。
 そしてその頃の信徒達も、全く概要の分からぬ台風の直撃に恐怖し、稲生と同じように唱題で乗り切ろうとしたのかもしれない。
 しばらくすると外が静かになり始めたので、稲生はホッとした。
 が、その直後、彼は意識を失った。

[同日同時刻 同屋敷1Fメインホール]

 マリア:「マジか!?浸水して来てるって!?」
 ミカエラ:「今、総出で土嚢を積んでおりますので……」
 ジェーン:「メイド長、勝手口からも浸水しました!」
 クラリス:「早く土嚢を持ってって!」

 バチン!(また停電した)

 マリア:「あのBBA!何が『停電の心配は無い』だよ!のんきにグースカ寝てやがって!」
 ミカエラ:「ゾイは地下室見て来て!」
 ゾイ:「了解しました!」
 マリア:「地下室が浸水したらヤバいから、頼むぞ!」
 ゾイ:「はい!」
 マリア:「今度のTyphoonはとんでもないな!」
 クラリス:「長野はコースから外れてるはずですが……」
 ミカエラ:「あまりにも暴風円が大きいから、直撃は免れても暴風雨が凄いのよ」

 人間態のミク人形とハク人形。
 人形態の時はコミカルな行動や言動を見せてくれるが、人間態の時は優秀なメイド人形として活動する。

 パッ!(また復電した)

 マリア:「忙しいな」
 ミカエラ:「どうやら地下室に浸水して停電したわけではないみたいですね」
 マリア:「うん。しかし、あなた達がいてくれて助かったよ。師匠と勇太だけじゃ、とてもこの大きな屋敷は維持できない」
 クラリス:「お役に立てて何よりです。何でもお申し付けください」
 ミカエラ:「私も頑張ります」
 マリア:「うん」

[同日07:00.天候:曇 稲生の部屋]

 稲生のスマホが発車メロディを鳴らす。
 JR大宮駅宇都宮線ホームのものだ。

 稲生:「う……ん……」

 稲生は無意識に手を伸ばした。
 が、いつもの場所にスマホが無い。
 訂正!いつもの場所にスマホは置いてあるのだが、稲生自身の位置がいつもの場所ではなかった。

 稲生:「あれ?」

 稲生は数珠を手にしたまま寝落ちしてしまったようだった。

 稲生:「し、しまった!丑寅勤行の途中で寝てしまった」

 急いでスマホのアラームを止める。

 稲生:「ど、どこまでやったっけ!?」

 椅子の上に置かれた御経本を見ると、どうやら唱題の所で寝てしまったのを思い出した。
 あまりにも唱題の時間を長く取り過ぎたことを思い出す。

 稲生:「勤行の途中で寝てしまうなんて、僕も信心が足りない!」

 稲生は急いで御経本を手に取ると、大石寺の方向に向き直り、立ったまま勤行の続きを始めた。
 そしてようやく朝の勤行を終えると、部屋の窓を開けてみた。

 稲生:「ううっ!」

 ビュウッ!と、お世辞にも弱いとは言えない風が部屋の中に吹き込んでくる。
 空は曇っているが、しかし雨は止んでいた。
 しかもよく見ると、所々に青空が見えている。
 たまたま太陽の位置に雲が掛かっているので、薄暗かったのだ。
 しかし、風はまだ強い。
 もちろん、夜中に起こされるほどの暴風ではないが。
 稲生はシャッターを開けた。
 シャッターは開けても大丈夫だと思うほど、風は弱くはなっている。
 スマホの天気予報を見ると、台風は東北地方北部に去ったものの、未だ黄色い強風円の中にいた。
 赤い暴風円から出ただけでも、取りあえず危険は脱したか。

 稲生:「そうだ!屋敷はどうなったんだろう!?」

 部屋の明かりを点けてみると、照明が……点かなかった。

 稲生:「う……!停電してる?!」

 急いで部屋の外に出てみる。
 2階は見た目、何でも無さそうだった。
 小走りに、まずはメインホールに向かってみる。
 そこに出るドアを開けると……。

 稲生:「何たるちゃあ……」

 土嚢から染み出した水が結局ホールの1階部分を水浸しにし、メイド人形達が排水と清掃作業に追われていた。

 稲生:「おはよう!マリアさんはどこ?」
 エリー:「そういえば、いつの間にかいらっしゃらなくなりましたね。もしかしたら、お部屋に戻られたのかもしれません」
 稲生:「部屋に戻ったって、さっきまでここにいたの?」
 エリー:「夜中はここにいらっしゃいました」
 稲生:「マジか……」

 稲生は申し訳無い気持ちになると、大食堂を通って屋敷西側のマリアの部屋に向かった。

 稲生:「マリアさん、マリアさん」

 稲生は部屋のドアをノックした。
 しかし、中からは全く何の反応も無い。

 稲生:「寝てるのかな……?マリアさん、勇太です。ちょっと失礼します」

 稲生はドアノブに手を掛けた。
 すると、鍵は掛かっていなかった。
 屋敷が停電している上、雨戸も閉まっているので、室内は真っ暗だ。
 稲生は持っていた懐中電灯で室内を照らした。
 幸い室内は浸水などの被害は無かった。
 ベッドの方を照らすと、誰もいなさそうだった。
 つまり、この部屋にマリアはいない。

 稲生:「んん?するとどこだ?」
 ダニエラ:「……!」
 稲生:「……って、うぉっ!?ダニさん、いつの間にそこに!?」
 ダニエラ:「……西村寿行の小説のように、マスターに夜這いを掛けに行く稲生様……」
 稲生:「こんな朝っぱらから夜這いはないだろ!てか、西村寿行ってアンタ……」

 すると、室内の机の上に置かれた西洋風の古めかしい電話機が鳴る。

 稲生:「はい、もしもし?」
 横田:「おはようございます。横田です。先般の授賞式における大感動は、未だ冷めやらぬものであります」
 稲生:「横田理事!」
 横田:「西村寿行先生の御作を御存知無い様子。それなら、私からご説明申し上げましょう」
 稲生:「別にいいよ。後でウィキペディアでも見るよ」
 横田:「まあまあ。夜這いのシーンは格別なものがあります。AVの夜這いモノでさえ、せいぜいパンティはズラしハメするのが常識化されておりますところ、西村先生の御作ではそれをわざわざカミソリで切り裂くのです。嗚呼、あの生々しい描写は他の作家の追随を許さぬ……」

 ガチャン!(稲生、思いっ切り電話を切る)

 稲生:「早くマリアさんを捜さないと!」
 ダニエラ:「マスターでしたら、映写室におられますよ。室内のソファでお休みです」
 稲生:「そうだったのか!」

 映写室は元プレイルームだった部屋で、大食堂とは背中合わせの位置にある。
 プレイルームだった名残でミニ・バーカウンターやビリヤード台もあった。
 今ではそこに秋葉原で買ったホームシアターを設置し、ソファとテーブルを置いて映画鑑賞できるようにしてある。

 稲生:「マリアさん!」
 マリア:「勇太か……」
 稲生:「マリアさん、無事で良かった!」
 マリア:「そりゃあ、無事だよ」

 マリアは大きな欠伸をした。

 稲生:「屋敷内が停電してるんです。どうしましょう?」
 マリア:「どうもこうもない。もう1度再起動しに行くぞ。今すぐに」
 稲生:「は、はい」

 稲生は起き掛けのマリアと一緒に、再び地下室へ向かった。
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“魔女エレーナの日常” 「台風19号接近」

2019-10-20 10:19:39 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月12日18:00.天候:雨 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 鈴木:「おーい、戻ったよー」
 エレーナ:「早いな。飯食いに行ったんじゃないのか?」

 鈴木は両手にレジ袋を手にホテルに戻って来た。
 もちろん今日も宿泊しているのである。

 鈴木:「食い終わる頃には暴風雨で戻れなくなっていると困るから、テイクアウトにしてきた」

 鈴木は“ほっともっと”の袋を手にしていた。

 鈴木:「今日はレストランも休みみたいだしな」
 エレーナ:「ああ、それは申し訳無い。台風のせいでカラス達が怖がって働いてくれないんだとよ」
 鈴木:「確かに、いくらカラスでも台風の時は飛んでないなぁ」

 ワンスターホテル1F奥にある創作料理レストラン“マジックスター”は、ポーリン組に所属していたキャサリンが経営する店舗である。
 エレーナの先輩に当たるが、今では弟子を取れる魔道師となった為、ポーリン組を独立している。
 創作料理ではあるが、実際は魔法料理である。
 といってもハーブやキノコなど、魔法薬の材料としても料理の材料としても成り立つものを使って客に出しているので、決して危険ではない。
 口コミでは、『西洋の薬膳料理が出る店』などと噂されている。
 で、接客するホールスタッフ達は全てキャサリンの使い魔。
 エレーナのそれが黒猫なら、キャサリンは烏である。
 エレーナの魔力ではまだ黒猫のクロを擬人化させることはできないが、キャサリンほどの魔道師になればそれは可能。
 黒髪に褐色の肌をした人間態のカラス達が接客している。
 とはいえ、元はカラス。
 こういう災害発生フラグが立っていると、真っ先に身を隠すのである。
 尚、料理の中にチキンが入っているが、カラス達にとっては平気。
 だってカラス、他の鳥を襲って食べるくらいだから。
 同じカラスでも、弱った同類を共食いするほどである。

 エレーナ:「この分だと明日もモーニングは休みかもしれないぜ」
 鈴木:「だろうな。だから一応、明日の朝の分も買って来た」
 エレーナ:「さすがだな」
 鈴木:「何事も備えが大事なんだよ、備えが」

 そんなことを話していると、奥からオーナーが出て来た。

 オーナー:「鈴木さん、いつもありがとうございます」
 鈴木:「いえいえ、お世話になっております」
 オーナー:「エレーナ、裏口には一応土嚢は置いといた。そこのエントランスも、道路が冠水しそうになったら土嚢を置いてくれ」
 エレーナ:「了解しました」
 鈴木:「江東区は浸水地域がありますからね。……この辺も?」
 オーナー:「そうなんです。鈴木さんも、今夜は御自宅にお戻りになられた方が良かったかもしれませんよ?」
 鈴木:「そこのマンションだから、結局同じですよ」
 オーナー:「あ、いえ、そうじゃなくて御実家の方です」
 鈴木:「実家の方が危ないと思いますよ。世田谷の川沿いなんで」
 エレーナ:「思いっ切り死亡フラグ立ってんな、おい」
 鈴木:「だから俺は、ここに避難させてもらっているというわけさ」
 オーナー:「御両親はもう避難なさっておられるのですか?」
 鈴木:「親父は霞ヶ関の議員会館に避難しているでしょうし、オフクロは韓国に避難しています。あのバ韓流BBAが
 オーナー:「なるほど」

 バチバチバチバチ!(窓ガラスに大粒の雨が叩き付けられる音)

 鈴木:「おっと!」
 オーナー:「こりゃ早めに土嚢を準備した方がいいかもしれないな。ロビーに置いておくから、エレーナ、あとは頼む」
 エレーナ:「了解です」
 鈴木:「地下は大丈夫なの?浸水被害が発生したら、真っ先に地下がやられると思うけど……」
 エレーナ:「今夜はリリィを泊まらせてある。何かあったら、すぐ私の所に連絡するよう言ってある」

 このホテルの地下には魔界に繋がる出入口があり、エレーナはその番人という顔も持っているのだ。
 浸水したらその出入口にも被害が及ぶのは言うまでもない。

 鈴木:「土嚢を置く時、手伝おうか?」
 エレーナ:「余計な心配だぜ、鈴木?お客に土嚢積みを手伝わせるホテルがどこにあるんだぜ?」
 鈴木:「いや、まあ、そりゃそうだけど……」
 オーナー:「エレーナ、早く鈴木さんに鍵を渡しなさい」
 エレーナ:「おっと!こりゃ失礼!」

 エレーナは鈴木に鍵を渡した。

 鈴木:「もしかしたら停電があるかもしれませんね」
 オーナー:「その時は室内に非常灯がありますし、あと机の下に懐中電灯が備え付けられておりますので、真っ暗になる心配はございません」
 鈴木:「それは助かります」

 鈴木は客室フロアに上がる前に、自販機コーナーで飲み物を何本か購入した。

 鈴木:「停電したら水道も止まるからな、今のうちに水でも買っておくか」

 その足でエレベーターに乗り込んだ。

 オーナー:「稲生さんの所、長野県の山奥だろう?あそこは大丈夫なのかね?」
 エレーナ:「立地条件的に死亡フラグが立ちまくっているような場所ですが、今夜はイリーナ先生も泊まり込むとのことで、恐らく大丈夫でしょう」
 オーナー:「そうか。それなら……」

 バチン!(停電した音)

 オーナー:「ありゃ!?もう停電した!?」
 エレーナ:「オーナー、ちょっと地下見て来ますね!浸水してたらヤバい!」
 オーナー:「う、うむ!」

 エレーナは地下室への鍵を手にすると、非常階段から地下へ向かった。
 階段から行こうとすると、階段室のドアには鍵が掛かっているので、鍵を持って行かなくてはならない。

 エレーナ:「リリィ、大丈夫か!?」

 元々地下の機械室は薄暗い空間ではあるのだが、その薄暗い照明も消えていて、今は非常灯の明かりや非常口誘導灯、それに消火栓の赤いランプが点灯しているだけだった。

 リリアンヌ:「フヒヒヒヒ……!暗闇こそ、我がパラダーイス!」
 エレーナ:「オマエは、そういうヤツだったな。魔女の中では珍しいタイプたぜ」

 リリィが人間時代、唯一恐怖から逃れられた場所が暗闇であったことから、リリィは今でも暗い所を好む傾向である。
 エレーナの部屋でも照明を点けずに真っ暗な地下室で過ごしているほどだ。
 しかし鈴木からテレビゲームを融通され、それをプレイする時だけは照明を点けるようにエレーナから言われたので、それは守っている。
 いかに魔女とはいえど、真っ暗闇の中でゲームをするのは目に悪いからだ。

 エレーナ:「それより浸水は……してないな」
 リリアンヌ:「フヒヒヒ。もし、してたら、すぐ先輩にお知らせする約束です」
 エレーナ:「それもそうか。てことは、このホテルがやられたんじゃなく、もっと向こうの方がやられたか。サイアクだぜ」
 リリアンヌ:「私にとってはパラダーイス」
 エレーナ:「でもゲームはできねーぜ?」
 リリアンヌ:「フヒッ!?そ、そそ、それは困ります!せっかくもう少しでエンディングだったのに!」
 エレーナ:「もうクリアするのか。今夜は鈴木が泊まっているから、また新しいゲーム融通してもらいな……って!」

 エレーナはバッとエレベーターの方を見た。
 停電したということは、エレベーターも止まったということだ。

 エレーナ:「あ゛、ヤベっ。多分、鈴木、エレベーターん中だ」
 リリアンヌ:「フヒッ!?閉じ込め!?」
 エレーナ:「いつもならキモヲタはそのまんまにしてやるところだが、さすがに今は客として泊まっているわけだから、スタッフとしてそれもマズいな」
 リリアンヌ:「それにムッシュ鈴木はこのホテルの常連、つまり上客です」
 エレーナ:「た、確かに。しゃあねぇ、助けてやっか」

 パッ!(復電した)

 エレーナ:「おっ、点いた」
 リリアンヌ:「フヒッ!?ぱ、パラダイスが……」
 エレーナ:「でもゲームはできるぜ?」
 リリアンヌ:「フヒッ、そうでした!」
 エレーナ:「とにかく、地下室は異常無しと……。エレベーターは……うん、再起動したな。全く。ガチで停電するとは、今夜は一睡もできそうにないぜ」

 エレーナはボヤきながら、再び1階へと戻っていった。
コメント (1)
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