報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“魔女エレーナの日常” 「メイガスナイト」

2019-10-10 19:14:51 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月29日17:25.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅八重洲中央口→日本交通タクシー車内]

 鈴木:「俺はエレーナと一緒にタクシーで帰りますんで」

 東京駅に到着した鈴木とエレーナは、八重洲中央口改札を出ると、稲生とマリアと別れた。
 鈴木との身体的接触を避けるエレーナであるが、行動を共にすること自体は吝かではないらしい。
 八重洲南口の高速バス乗り場の北隣にタクシー乗り場はある。
 尚、日本橋口でもタクシーが発着している光景が見受けられるが、本来正式な乗降場所にはなっていないことに注意である。
 本来は高速バスの到着専用ターミナルであり、他の車が勝手に入って来ているという扱いである。
 その為か、正式な乗り場である八重洲側には係員が乗客誘導をしている(24時間ではない)。

 稲生:「さあ、乗って乗って」
 エレーナ:「おー、料金の支払い、よろしくだぜ」
 稲生:「任しとけー!」

 先頭に並んでいるタクシーに乗り込んだ。

 鈴木:「江東区森下のワンスターホテルまでお願いします」
 運転手:「江東区森下ですね?」

 運転手はピッピッと運転席横のナビを操作する。
 すると、ワンスターホテルが登録されていた。
 個人営業の小さなホテルでも、カーナビのホテル一覧の中には入れているらしい。

 運転手:「それではナビの通りに走りますんで、希望のルートがあったら教えてください」
 鈴木:「分かりました」

 タクシーが走り出す。
 八重洲口もまた高速バスと一緒に大通りに出る。

 エレーナ:「ん?鈴木は私を送ってくれるだけだろう?」
 鈴木:「女の子を1人で帰すわけにはいかないからね」
 エレーナ:「こう見えても私は元ストリートチルドレンだ。日本の治安レベルなら、1人で帰っても大丈夫だぜ。タクシー代だけくれれば」
 鈴木:「そうは行くか。『協力者』の本分、とくと発揮させてもらうぞ?」
 エレーナ:「それはよろしくだぜ」

 エレーナは小さく溜め息をついて、リアシートの背もたれに体を預けた。

[同日17:45.天候:雨 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 ホテルに着く頃、雨が降り出して来た。

 エレーナ:「雨が降って来たか?」
 鈴木:「秋雨前線が活発化してきているらしいな。あと、南太平洋で台風が……」
 エレーナ:「なるほど。ま、本格的に降り出す前に着いて良かったぜ」

 タクシーがホテルの前に止まる。

 運転手:「ありがとうございます。それでは料金が……」
 鈴木:「Suicaで払います」
 運転手:「かしこまりました」

 料金の支払いが終わると、エレーナは先に降りてホテルの中に入った。

 エレーナ:「ただいまですー」
 オーナー:「エレーナ、お帰り」

 フロントには50代くらいのオーナーがいた。
 丸いレンズの眼鏡を押し上げてエレーナを見る。

 エレーナ:「これ、お土産です。奥様と御一緒に食べてください」
 オーナー:「おっ、ありがたい。『後でスタッフが美味しく頂』くよ」
 鈴木:「こちゃーっす!」

 東京駅から乗って来たタクシーが走り去ったと思いきや、鈴木もホテルに入って来た。

 エレーナ:「鈴木、送ってくれたのはありがたいが、もう十分だぜ。雨が本降りになる前に帰るんだぜ」
 鈴木:「え?なに言ってんの?」
 エレーナ:「あ?」
 鈴木:「予約していた鈴木です」
 オーナー:「いつもありがとうございます。月並みですが、こちらのシートにご記入を……」

 ズッコケるエレーナ。

 エレーナ:「いつの間に予約してたんだぜ!?」
 鈴木:「フフフ……。ネットユーザー、ナメんな。いやー、このホテルもネットで予約できるようになったんですね」
 オーナー:「そうなんですよ。鈴木さんが、うちの公式サイトの大幅リニューアルを手掛けてくれましたでしょう?やはりそこまで行ったら、うちもネット予約の受付もしないとと思いまして」
 鈴木:「英断です」
 オーナー:「エレーナは?静岡のホテルに泊まった時、色々と参考になったものはあったかい?」
 エレーナ:「ええ、まあ、色々と……」
 オーナー:「後で、エレーナなりのアイディアを聞こうじゃないか」
 鈴木:「あ、支払いはいつもの通り、カードでお願いします」
 オーナー:「はい、ありがとうございます」
 エレーナ:「まさか部屋が空いているとは……」
 鈴木:「こういうホテルは、翌日平日の休日が1番空くんでしょ?だからホテルによっては、今日みたいな日が料金も安くなってる」
 エレーナ:「まあ、それはそうだが……」
 オーナー:「それじゃ、これが鍵です。今日は3階の313号室です」
 鈴木:「313。どこかで聞いた数字だなぁ……。あ、東海道線と身延線で乗った電車か」

 JR東海313系。
 鈴木達が乗ったのはロングシート、非ワンマン仕様の2500番台である。

 オーナー:「あ、そうそう。因みにお得な長期滞在プランもありますので、もしよろしければ……」
 鈴木:「可及的速やか且つ前向きに検討させて頂きます」
 エレーナ:「オーナー、余計なことを……!」
 オーナー:「ん?何か言ったかい?」
 エレーナ:「なな、何でもないです!」
 オーナー:「常連さんにお得なプランを紹介することは、客商売のホテルとして当然だと思うがね?」
 エレーナ:「は、はい!その通りでございますぅ……!」
 鈴木:「それではまたお世話なります」
 オーナー:「ごゆっくりどうぞ。……ほら、エレーナも早く荷物置いて来い。明日から、また仕事してもらうぞ」
 エレーナ:「わ、分かってますよ」
 オーナー:「それにしても、わざわざ鈴木さんを待ってあげるとは、エレーナも律儀になったな」
 鈴木:「何ですと?」
 エレーナ:「お、オーナー、違います!冗談はやめてください!」

 と、そこへエレベーターのドアが開く。

 リリアンヌ:「エレーナ先輩、お帰りなさい!ムッシュ鈴木、ボンソワール!」
 エレーナ:「ああ、ただいま。リリィにもお土産あるぜ」
 リリアンヌ:「ムッシュ鈴木!げ、ゲーム!まだ、クリアできない所ある!」
 鈴木:「よし、俺に任せろ」
 エレーナ:「あんたは自分の部屋に行け!」
 鈴木:「リリィちゃんに御指名されたとあらばなぁ……」
 エレーナ:「何が御指名だ、この野郎!ホストか!」
 鈴木:「御指名ありがとうございます。ヒロです」
 エレーナ:「オマエぶっころ!」
 鈴木:「まあまあ」

 3人賑やかにエレベーターに乗り込む姿を、オーナーはホッコリした顔で見ていた。
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“大魔道師の弟子” 「最も澄みわたる空と海」

2019-10-10 15:09:43 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月29日17:16.天候:曇 東京都千代田区丸の内 JR東海・東京駅]

〔ピン♪ポン♪パン♪ポーン♪ 新幹線をご利用頂きまして、ありがとうございます。まもなく14番線に、“こだま”660号が到着致します。安全柵の内側まで、お下がりください。この後、折り返し、17時47分発、“のぞみ”339号、新大阪行きとなります。車内の整備が終わるまで、お待ちください〕

 第7ホームに接近放送が響き渡る。
 外国人旅行客も多々見受けられる中、まだ自動放送にあっては英語放送を行っていない。
 元々マルチリンガルなエレーナや、自動通訳魔法具を所持しているマリアなら苦労は無いが。

〔「14番線、お下がりください。“こだま”660号が到着致します。安全柵に寄り掛かったり、体を乗り出したリしないでください。この後、臨時の“のぞみ”339号、新大阪行きとなります。……」〕

 プワァァァンと列車が新幹線車両独特の警笛を鳴らして入線した。
 1号車より更に先のホーム先端で、子供が手を振っていたからだろう。
 駅担当の警備員はホームの監視を、防災センター担当の警備員はそれを横目に巡回を続けている。
 列車がホームに停車すると、可動式の鉄柵が“乙女の祈り”のメロディを鳴らしながら開いていく。

〔東京、東京です。東京、東京です。ご乗車ありがとうございました。……〕

 ドアが開くと先頭の16号車からは、ぞろぞろと修学旅行の中高生達が降りて来る。
 女子生徒のスカートの長さからして見た感じは中学生達だろうか。
 最近は京都や大阪ではなく、名古屋も国内修学旅行の行き先の候補になっていると聞く。
 これは恐らく、京都における外国人観光客の急増に伴う対策ではないかと思われるが……。

 稲生:「? どうしました、マリアさん?」
 マリア:「いや、何でも無い」

 12号車から降りたマリアが16号車の方を見ていた。

 エレーナ:「修学旅行か。都内でも大勢見かけるぜ。さすがにうちのホテルには泊まりに来ないがな」
 稲生:「そりゃあね……」
 エレーナ:「フム。中には魔力の素質がありそうなヤツもいそうだな。今のうちに勧誘しに行くか?他門が勧誘しに行く前に」
 鈴木:「折伏しに行くの!?」
 稲生:「うちのお寺、また誓願未達成なんだよなぁ……」
 マリア:「あ、いや、ついでに宗教の勧誘しそうなヤツらがいるから、今日はやめておくわ」
 エレーナ:「それもそうだな」
 稲生&鈴木:「誰が宗教の勧誘だ!」
 エレーナ:「いや、オマエらだぜ、オマエら」

 世間一般のイメージでは、『折伏』=『勧誘』という構図が未だに根強い。
 てか、折伏する気はあるのに誓願未達成30ヶ月連続の正証寺支部は、そろそろ講中解散の危機に晒されているのかも……。

 稲生:「じゃあ、ここで解散だな」
 鈴木:「お疲れさまでした」
 エレーナ:「おつおつ〜だぜ」
 鈴木:「俺はエレーナと一緒にタクシーで帰りますんで」

 八重洲中央改札口を出たところで解散する。
 鈴木はエレーナの肩を抱こうとしたが、エレーナは軽やかに身をよじってそれをかわした。
 でもタクシーには一緒に乗る気があるらしく、そのままタクシー乗り場まで一緒に歩いて行った。

 稲生:「鈴木君とエレーナ、相変わらずですね」
 マリア:「鈴木のヤツ、本来ならエレーナを抱いてもいいんだよ。面白いから教えないけど」
 稲生:「そうなんですか?ん?そういう契約に……」
 マリア:「多分明文化はされていないし、エレーナが嫌がるだろうけど、普通あそこまで『協力』したら、求める権利が発生し、そしてそれに応じる義務が発生すると考えられてるんだ」
 稲生:「へえー!」
 マリア:「だから誰でも彼でも『協力』を申し出られるわけじゃないし、それを受けるわけでもない。にも関わらず、エレーナがそれを受けているということは……」
 稲生:「僕から教えてあげましょうか?」
 マリア:「いや、余計なことはしなくていい。あの2人で解決すればいいと思う」
 稲生:「分かりました」
 マリア:「それで、勇太のダディは何て?」
 稲生:「あ、そうだった。やっぱり大宮で食べようということです。早く行かないと……」
 マリア:「よし、分かった」

 新幹線のキップは東京駅までなので、既にそれは回収されてしまっている。
 今度はSuicaでもって、JR東日本の改札口に入った。

[同日17:31.天候:曇 JR東日本・東京駅→山手線1762G電車11号車内]

〔とうきょう〜、東京〜。ご乗車ありがとうございます〕

 山手線ホームに移動すると、ちょうど電車が入って来たところであった。
 平日の同じ時間帯と比べると、明らかに乗客の数も客層も違う。
 2人の魔道士が電車に乗り込むと、賑やかな発車メロディが鳴り響いた。

〔4番線の山手線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 東京駅にはホームドアが無い為、電車側のドアが閉まるとすぐに発車する。
 上野東京ラインではなく、あえて従来通りの上野乗り換えで中距離電車に乗り換えるコースを稲生は選択した。
 そして、それにマリアが乗っているわけである。

〔この電車は山手線内回り、上野、池袋方面行きです。次は神田、神田。お出口は、左側です。中央線と地下鉄銀座線はお乗り換えです〕
〔This is the Yamanote line train bound for Ueno and Ikebukuro.The next station is Kanda(JY02).The doors on the left side will open.Please change here for the Cyuo line and the Ginza subway line.〕

 稲生:「それにしても、マリアさんも魔力が高まってますか?」
 マリア:「そう見える?」

 先頭車のドアの前に2人立っている。

 稲生:「ええ。さっき、修学旅行生達の中に素質のあるコを見つけたとか……」
 マリア:「だいたい15歳前後の女が狙い目なんだ。勇太みたいに男もいることはいるんだけど……」
 稲生:「そういえば、“クロックタワー”シリーズの主人公なんかもそうだったな……」
 マリア:「もちろん素質だけあればいいってものじゃない。素質があることが大前提なんだけど……」
 稲生:「分かります」

 その能力に関して多大なストレスが掛かっていれば尚良しという残酷な基準がある。
 “クロックタワー3”の主人公など、その素質のせいで敵に狙われることとなったが、それが却って才能を開花させるきっかけとなっている。
 マリアは迫害による恒常的な集団暴行(性的なものも含む)、エレーナはストリートチルドレン、リリアンヌは児童虐待(性的なものも含む)、ルーシーは爆弾テロ被害(両親死亡・自身も意識不明の重体)などが例である。

 マリア:「日本は平和だからエレーナやルーシーみたいなヤツはいないだろう。私みたいな者か、リリィみたいな者ならいるかな」
 稲生:「いるでしょうねぇ……」

 稲生自身も、かつては自殺未遂を起こすほどのイジメの被害者であった。
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