[10月13日03:00.天候:暴風雨 長野県北部山中 マリアの屋敷2F東側・稲生の部屋]
ビュー!ガタガタガタガタ!(暴風で窓がシャッターごとガタガタ言ってる)
稲生:「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」
暴風雨の音で夜中に起こされた稲生はその後全く寝付けず、仕方ないので『なんちゃって丑寅勤行』を行うことにした。
『なんちゃって』というのは、本来の丑寅勤行というのは大石寺客殿において、御法主上人猊下の大導師の元で行われるものであり、それを同じ時間帯とはいえ、一信徒が遥拝で行うものではないからだ。
稲生:「(どうか無事に台風が通り過ぎてくれますように!)南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」
気象学が今ほど発達していなかった数百年前も台風は発生し、日本に到来していたはずだ。
そしてその頃の信徒達も、全く概要の分からぬ台風の直撃に恐怖し、稲生と同じように唱題で乗り切ろうとしたのかもしれない。
しばらくすると外が静かになり始めたので、稲生はホッとした。
が、その直後、彼は意識を失った。
[同日同時刻 同屋敷1Fメインホール]
マリア:「マジか!?浸水して来てるって!?」
ミカエラ:「今、総出で土嚢を積んでおりますので……」
ジェーン:「メイド長、勝手口からも浸水しました!」
クラリス:「早く土嚢を持ってって!」
バチン!(また停電した)
マリア:「あのBBA!何が『停電の心配は無い』だよ!のんきにグースカ寝てやがって!」
ミカエラ:「ゾイは地下室見て来て!」
ゾイ:「了解しました!」
マリア:「地下室が浸水したらヤバいから、頼むぞ!」
ゾイ:「はい!」
マリア:「今度のTyphoonはとんでもないな!」
クラリス:「長野はコースから外れてるはずですが……」
ミカエラ:「あまりにも暴風円が大きいから、直撃は免れても暴風雨が凄いのよ」
人間態のミク人形とハク人形。
人形態の時はコミカルな行動や言動を見せてくれるが、人間態の時は優秀なメイド人形として活動する。
パッ!(また復電した)
マリア:「忙しいな」
ミカエラ:「どうやら地下室に浸水して停電したわけではないみたいですね」
マリア:「うん。しかし、あなた達がいてくれて助かったよ。師匠と勇太だけじゃ、とてもこの大きな屋敷は維持できない」
クラリス:「お役に立てて何よりです。何でもお申し付けください」
ミカエラ:「私も頑張ります」
マリア:「うん」
[同日07:00.天候:曇 稲生の部屋]
稲生のスマホが発車メロディを鳴らす。
JR大宮駅宇都宮線ホームのものだ。
稲生:「う……ん……」
稲生は無意識に手を伸ばした。
が、いつもの場所にスマホが無い。
訂正!いつもの場所にスマホは置いてあるのだが、稲生自身の位置がいつもの場所ではなかった。
稲生:「あれ?」
稲生は数珠を手にしたまま寝落ちしてしまったようだった。
稲生:「し、しまった!丑寅勤行の途中で寝てしまった」
急いでスマホのアラームを止める。
稲生:「ど、どこまでやったっけ!?」
椅子の上に置かれた御経本を見ると、どうやら唱題の所で寝てしまったのを思い出した。
あまりにも唱題の時間を長く取り過ぎたことを思い出す。
稲生:「勤行の途中で寝てしまうなんて、僕も信心が足りない!」
稲生は急いで御経本を手に取ると、大石寺の方向に向き直り、立ったまま勤行の続きを始めた。
そしてようやく朝の勤行を終えると、部屋の窓を開けてみた。
稲生:「ううっ!」
ビュウッ!と、お世辞にも弱いとは言えない風が部屋の中に吹き込んでくる。
空は曇っているが、しかし雨は止んでいた。
しかもよく見ると、所々に青空が見えている。
たまたま太陽の位置に雲が掛かっているので、薄暗かったのだ。
しかし、風はまだ強い。
もちろん、夜中に起こされるほどの暴風ではないが。
稲生はシャッターを開けた。
シャッターは開けても大丈夫だと思うほど、風は弱くはなっている。
スマホの天気予報を見ると、台風は東北地方北部に去ったものの、未だ黄色い強風円の中にいた。
赤い暴風円から出ただけでも、取りあえず危険は脱したか。
稲生:「そうだ!屋敷はどうなったんだろう!?」
部屋の明かりを点けてみると、照明が……点かなかった。
稲生:「う……!停電してる?!」
急いで部屋の外に出てみる。
2階は見た目、何でも無さそうだった。
小走りに、まずはメインホールに向かってみる。
そこに出るドアを開けると……。
稲生:「何たるちゃあ……」
土嚢から染み出した水が結局ホールの1階部分を水浸しにし、メイド人形達が排水と清掃作業に追われていた。
稲生:「おはよう!マリアさんはどこ?」
エリー:「そういえば、いつの間にかいらっしゃらなくなりましたね。もしかしたら、お部屋に戻られたのかもしれません」
稲生:「部屋に戻ったって、さっきまでここにいたの?」
エリー:「夜中はここにいらっしゃいました」
稲生:「マジか……」
稲生は申し訳無い気持ちになると、大食堂を通って屋敷西側のマリアの部屋に向かった。
稲生:「マリアさん、マリアさん」
稲生は部屋のドアをノックした。
しかし、中からは全く何の反応も無い。
稲生:「寝てるのかな……?マリアさん、勇太です。ちょっと失礼します」
稲生はドアノブに手を掛けた。
すると、鍵は掛かっていなかった。
屋敷が停電している上、雨戸も閉まっているので、室内は真っ暗だ。
稲生は持っていた懐中電灯で室内を照らした。
幸い室内は浸水などの被害は無かった。
ベッドの方を照らすと、誰もいなさそうだった。
つまり、この部屋にマリアはいない。
稲生:「んん?するとどこだ?」
ダニエラ:「……!」
稲生:「……って、うぉっ!?ダニさん、いつの間にそこに!?」
ダニエラ:「……西村寿行の小説のように、マスターに夜這いを掛けに行く稲生様……」
稲生:「こんな朝っぱらから夜這いはないだろ!てか、西村寿行ってアンタ……」
すると、室内の机の上に置かれた西洋風の古めかしい電話機が鳴る。
稲生:「はい、もしもし?」
横田:「おはようございます。横田です。先般の授賞式における大感動は、未だ冷めやらぬものであります」
稲生:「横田理事!」
横田:「西村寿行先生の御作を御存知無い様子。それなら、私からご説明申し上げましょう」
稲生:「別にいいよ。後でウィキペディアでも見るよ」
横田:「まあまあ。夜這いのシーンは格別なものがあります。AVの夜這いモノでさえ、せいぜいパンティはズラしハメするのが常識化されておりますところ、西村先生の御作ではそれをわざわざカミソリで切り裂くのです。嗚呼、あの生々しい描写は他の作家の追随を許さぬ……」
ガチャン!(稲生、思いっ切り電話を切る)
稲生:「早くマリアさんを捜さないと!」
ダニエラ:「マスターでしたら、映写室におられますよ。室内のソファでお休みです」
稲生:「そうだったのか!」
映写室は元プレイルームだった部屋で、大食堂とは背中合わせの位置にある。
プレイルームだった名残でミニ・バーカウンターやビリヤード台もあった。
今ではそこに秋葉原で買ったホームシアターを設置し、ソファとテーブルを置いて映画鑑賞できるようにしてある。
稲生:「マリアさん!」
マリア:「勇太か……」
稲生:「マリアさん、無事で良かった!」
マリア:「そりゃあ、無事だよ」
マリアは大きな欠伸をした。
稲生:「屋敷内が停電してるんです。どうしましょう?」
マリア:「どうもこうもない。もう1度再起動しに行くぞ。今すぐに」
稲生:「は、はい」
稲生は起き掛けのマリアと一緒に、再び地下室へ向かった。
ビュー!ガタガタガタガタ!(暴風で窓がシャッターごとガタガタ言ってる)
稲生:「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」
暴風雨の音で夜中に起こされた稲生はその後全く寝付けず、仕方ないので『なんちゃって丑寅勤行』を行うことにした。
『なんちゃって』というのは、本来の丑寅勤行というのは大石寺客殿において、御法主上人猊下の大導師の元で行われるものであり、それを同じ時間帯とはいえ、一信徒が遥拝で行うものではないからだ。
稲生:「(どうか無事に台風が通り過ぎてくれますように!)南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」
気象学が今ほど発達していなかった数百年前も台風は発生し、日本に到来していたはずだ。
そしてその頃の信徒達も、全く概要の分からぬ台風の直撃に恐怖し、稲生と同じように唱題で乗り切ろうとしたのかもしれない。
しばらくすると外が静かになり始めたので、稲生はホッとした。
が、その直後、彼は意識を失った。
[同日同時刻 同屋敷1Fメインホール]
マリア:「マジか!?浸水して来てるって!?」
ミカエラ:「今、総出で土嚢を積んでおりますので……」
ジェーン:「メイド長、勝手口からも浸水しました!」
クラリス:「早く土嚢を持ってって!」
バチン!(また停電した)
マリア:「あのBBA!何が『停電の心配は無い』だよ!のんきにグースカ寝てやがって!」
ミカエラ:「ゾイは地下室見て来て!」
ゾイ:「了解しました!」
マリア:「地下室が浸水したらヤバいから、頼むぞ!」
ゾイ:「はい!」
マリア:「今度のTyphoonはとんでもないな!」
クラリス:「長野はコースから外れてるはずですが……」
ミカエラ:「あまりにも暴風円が大きいから、直撃は免れても暴風雨が凄いのよ」
人間態のミク人形とハク人形。
人形態の時はコミカルな行動や言動を見せてくれるが、人間態の時は優秀なメイド人形として活動する。
パッ!(また復電した)
マリア:「忙しいな」
ミカエラ:「どうやら地下室に浸水して停電したわけではないみたいですね」
マリア:「うん。しかし、あなた達がいてくれて助かったよ。師匠と勇太だけじゃ、とてもこの大きな屋敷は維持できない」
クラリス:「お役に立てて何よりです。何でもお申し付けください」
ミカエラ:「私も頑張ります」
マリア:「うん」
[同日07:00.天候:曇 稲生の部屋]
稲生のスマホが発車メロディを鳴らす。
JR大宮駅宇都宮線ホームのものだ。
稲生:「う……ん……」
稲生は無意識に手を伸ばした。
が、いつもの場所にスマホが無い。
訂正!いつもの場所にスマホは置いてあるのだが、稲生自身の位置がいつもの場所ではなかった。
稲生:「あれ?」
稲生は数珠を手にしたまま寝落ちしてしまったようだった。
稲生:「し、しまった!丑寅勤行の途中で寝てしまった」
急いでスマホのアラームを止める。
稲生:「ど、どこまでやったっけ!?」
椅子の上に置かれた御経本を見ると、どうやら唱題の所で寝てしまったのを思い出した。
あまりにも唱題の時間を長く取り過ぎたことを思い出す。
稲生:「勤行の途中で寝てしまうなんて、僕も信心が足りない!」
稲生は急いで御経本を手に取ると、大石寺の方向に向き直り、立ったまま勤行の続きを始めた。
そしてようやく朝の勤行を終えると、部屋の窓を開けてみた。
稲生:「ううっ!」
ビュウッ!と、お世辞にも弱いとは言えない風が部屋の中に吹き込んでくる。
空は曇っているが、しかし雨は止んでいた。
しかもよく見ると、所々に青空が見えている。
たまたま太陽の位置に雲が掛かっているので、薄暗かったのだ。
しかし、風はまだ強い。
もちろん、夜中に起こされるほどの暴風ではないが。
稲生はシャッターを開けた。
シャッターは開けても大丈夫だと思うほど、風は弱くはなっている。
スマホの天気予報を見ると、台風は東北地方北部に去ったものの、未だ黄色い強風円の中にいた。
赤い暴風円から出ただけでも、取りあえず危険は脱したか。
稲生:「そうだ!屋敷はどうなったんだろう!?」
部屋の明かりを点けてみると、照明が……点かなかった。
稲生:「う……!停電してる?!」
急いで部屋の外に出てみる。
2階は見た目、何でも無さそうだった。
小走りに、まずはメインホールに向かってみる。
そこに出るドアを開けると……。
稲生:「何たるちゃあ……」
土嚢から染み出した水が結局ホールの1階部分を水浸しにし、メイド人形達が排水と清掃作業に追われていた。
稲生:「おはよう!マリアさんはどこ?」
エリー:「そういえば、いつの間にかいらっしゃらなくなりましたね。もしかしたら、お部屋に戻られたのかもしれません」
稲生:「部屋に戻ったって、さっきまでここにいたの?」
エリー:「夜中はここにいらっしゃいました」
稲生:「マジか……」
稲生は申し訳無い気持ちになると、大食堂を通って屋敷西側のマリアの部屋に向かった。
稲生:「マリアさん、マリアさん」
稲生は部屋のドアをノックした。
しかし、中からは全く何の反応も無い。
稲生:「寝てるのかな……?マリアさん、勇太です。ちょっと失礼します」
稲生はドアノブに手を掛けた。
すると、鍵は掛かっていなかった。
屋敷が停電している上、雨戸も閉まっているので、室内は真っ暗だ。
稲生は持っていた懐中電灯で室内を照らした。
幸い室内は浸水などの被害は無かった。
ベッドの方を照らすと、誰もいなさそうだった。
つまり、この部屋にマリアはいない。
稲生:「んん?するとどこだ?」
ダニエラ:「……!」
稲生:「……って、うぉっ!?ダニさん、いつの間にそこに!?」
ダニエラ:「……西村寿行の小説のように、マスターに夜這いを掛けに行く稲生様……」
稲生:「こんな朝っぱらから夜這いはないだろ!てか、西村寿行ってアンタ……」
すると、室内の机の上に置かれた西洋風の古めかしい電話機が鳴る。
稲生:「はい、もしもし?」
横田:「おはようございます。横田です。先般の授賞式における大感動は、未だ冷めやらぬものであります」
稲生:「横田理事!」
横田:「西村寿行先生の御作を御存知無い様子。それなら、私からご説明申し上げましょう」
稲生:「別にいいよ。後でウィキペディアでも見るよ」
横田:「まあまあ。夜這いのシーンは格別なものがあります。AVの夜這いモノでさえ、せいぜいパンティはズラしハメするのが常識化されておりますところ、西村先生の御作ではそれをわざわざカミソリで切り裂くのです。嗚呼、あの生々しい描写は他の作家の追随を許さぬ……」
ガチャン!(稲生、思いっ切り電話を切る)
稲生:「早くマリアさんを捜さないと!」
ダニエラ:「マスターでしたら、映写室におられますよ。室内のソファでお休みです」
稲生:「そうだったのか!」
映写室は元プレイルームだった部屋で、大食堂とは背中合わせの位置にある。
プレイルームだった名残でミニ・バーカウンターやビリヤード台もあった。
今ではそこに秋葉原で買ったホームシアターを設置し、ソファとテーブルを置いて映画鑑賞できるようにしてある。
稲生:「マリアさん!」
マリア:「勇太か……」
稲生:「マリアさん、無事で良かった!」
マリア:「そりゃあ、無事だよ」
マリアは大きな欠伸をした。
稲生:「屋敷内が停電してるんです。どうしましょう?」
マリア:「どうもこうもない。もう1度再起動しに行くぞ。今すぐに」
稲生:「は、はい」
稲生は起き掛けのマリアと一緒に、再び地下室へ向かった。
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