報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「北陸新幹線“はくたか”573号」

2019-10-17 22:09:34 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月7日18:00.天候:雨 東京都千代田区丸の内 JR東日本東京駅 新幹線ホーム]

〔21番線に停車中の列車は、18時6分発、“はくたか”573号、金沢行きです。この列車は上野、大宮、軽井沢、佐久平、上田、長野、飯山、上越妙高、糸魚川、黒部宇奈月温泉、富山、新高岡、終点金沢の順に止まります。グランクラスは12号車、グリーン車は11号車、自由席は1号車から5号車です。尚、全車両禁煙です。……〕

 途中で駅弁と飲み物を買い、それでホームに上がる。
 まだ車内清掃中の為か、ドアは空いていない。
 普通車のドアの前には長蛇の列ができている。
 ほとんどが新幹線通勤の乗客達だった。
 グリーン車やグランクラスは空いていた。

 マリア:「勇太、この列車の写真撮れる?」
 稲生:「写真撮りますか?」
 マリア:「撮ってルーシーに送ってあげたい」
 稲生:「分かりました」

 稲生とマリアは列から離れ、すぐ隣の12号車へ向かった。
 そこでE7系のフロントを撮影する。
 ルーシーは地下鉄職員だった父親を爆弾テロで亡くし、自身も生死の境を彷徨った経緯がある。
 マリアの場合は飛び降り自殺を図ったことで、『人間としての生を終えた』とされたが、ルーシーの場合、それで『人間としての生を終えた』とされた。
 ルーシーの父親はイギリスのユーロスターなどの高速列車の乗務員を目指していたそうだが、爆弾テロによって強制的に断念させられたというわけである。

 稲生:「マリアさん、そのボンネットの横に立ってください」
 マリア:「私が?」
 稲生:「ええ」

 ボンネットの横に立ったマリアをスマホに収める稲生。
 ルーシーの父親は日本に来たことは無かったが、新幹線のことは知っていて、いずれは乗りに行きたかったそうだ。
 しかしその夢は断たれたが、魔道士となった娘がその遺志を継いで、ついに新幹線(N700系“こだま”とE5系“やまびこ”)への乗車を果たしている。

 稲生:「いいですよ、その笑顔」
 マリア:「カメラマンみたいなこと言って……」
 イリーナ:「マリアも自然に笑ってくれるようになったねぇ……」

 イリーナはほっこりとした顔でその様子を見ていた。

 外国人観光客:「Excuse me.」

 そこへイリーナやマリアとは人種は同じでも、恐らく民族は違うであろう家族連れの観光客が話し掛けて来た。
 日本人から見れば白人は全員英語が上手いと思うだろうが、それはとてつもない偏見である。
 多分それを言ったらロシア人辺りは怒る。

 イリーナ:「別にいいけどね」(←英語も話せる大魔道師)

 どうしてそんなことを言うのかというと、ブリティッシュ・イングリッシュを話すマリアがこの家族連れの親父さんの英語が理解できなかったからである。

 マリア:(ヒスパニック系か?訛りがひどい。エレーナ以上だ。まだそこの日本人が話す英語の方がマシだ)
 稲生:「はいはい、何でしょう?」

 稲生が応対した。
 用件は簡単なもので、自分達もついでに家族写真を新幹線車両の前で撮って欲しいというものだった。
 どうやら稲生という日本人がマリアという英語圏の国の女を連れているので、英語が得意な日本人だと思ったらしい。

 稲生:「いいですよ」
 マリア:「よく聞き取れたね?」
 稲生:「まあ、何とか……。こっちはアメリカ人の英語習ってますから」
 マリア:「そ、そう?」

 日本人が習うのはアメリカ英語。

 稲生:「何故か僕に英語を教えてくれた学校の先生は、南部訛りが酷かったので」
 マリア:「凄い学校だったんだな」

 稲生が何枚か写真を撮ってあげると、親父さんは満面の笑みを浮かべて稲生と握手した。

 少女:「お姉ちゃん、結婚して何年目?!」

 親父とはケタ違いに上手い英語でマリアに話し掛ける10歳くらいの少女。

 マリア:「まだしてないよ。まだね」
 稲生:「東北新幹線なら、あっちのホームですよ」

 なんて会話をして別れた。

 マリア:「ルーシーから聞いた話は本当だったか」
 稲生:「何がですか?」
 マリア:「日本旅行の目的の1つに『新幹線に乗る事』が含まれていることが多々あるって」
 稲生:「僕達から見たら、イギリスに行ってユーロスターに乗るようなものですか」
 マリア:「いや、あれ、国際列車だからね?イギリスオリジナルの高速列車ってわけじゃない」
 イリーナ:「勇太くーん、ロシアに行ったらシベリア鉄道に乗せてあげるねぇ」
 マリア:「師匠と一緒の時点で、リアル“シベリア超特急”になるからやめてください」
 稲生:「よく知ってますねぇ、シベ超……」

〔「21番線、お待たせ致しました。まもなくドアが開きます。乗車口までお進みください。業務連絡、573E、準備できましたらドア操作願います」〕

 車内清掃が終わって、ドアが開いた。

 稲生:「先生と御一諸だとグリーン車に乗れるからありがたいです」
 イリーナ:「帰りはアタシの引率ってことになってるからね。その場合はOKだよ」

 指定された席に座る。
 だいたい車両の真ん中辺りだった。
 イリーナはマリアの前の席に座った。

 イリーナ:「食べたら寝るから、着いたら起こしてね」
 稲生:「はい、いつもの通りですね」
 イリーナ:「そういうこと」

 テーブルを出して駅弁と飲み物を置く。
 イリーナは缶入りの赤ワインであったが、弟子達は普通に緑茶と紅茶だった。

 稲生:「この列車には車内販売があるので、食後に何かスイーツでも買えますよ」
 マリア:「久しぶりだな」

 するとそれを聞いたマリアの人形、荷棚に置かれたバッグの中からヒョイと顔を出した。

 ハク人形:「シンカンセンスゴイカタイアイス早よ!」
 ミク人形:「シンカンセンスゴイカタイアイス早よ!」
 稲生:「発車するまで待ちなさい」
 マリア:「曲芸してもダメ!」

 列車は時刻通りに発車した。
 発車すると、窓ガラスについた雨粒が後ろに流れていく。

 稲生:「早く食べちゃいましょう」
 マリア:「そうだな。さすがに私もお腹空いた」

 白人達は肉系統を所望したが、稲生は魚系統だった。
 具体的に言えば、“深川めし”である。
 屋敷に帰ると和食は殆ど出ない(キッチンメイドやコック担当メイド人形が日本食を知らない)ので、屋敷を出た時に狙って食べることが多い。

 稲生:「ルーシーはいつ来日しますか?」
 マリア:「私と違って向こうは観光ビザで来るんだ。旅費の問題もあるしなぁ……。あ、でも、あれかな。近いうち、大師匠様が来日されるわけで、それと合わせて各組の師匠達も来日するわけだから、その中にベイカー先生も含まれているとしたら、ルーシーも付き人として来るかも」
 イリーナ:「ベイカー先輩は来られるよ」

 イリーナは後ろを振り向いて弟子達に行った。
 ベイカーは同じ1期生であっても、イリーナより早く入門しており、しかも実年齢も上ということもあって、イリーナから見れば先輩なのである。
 アナスタシアとは1、2を争う実力派なのだが、アナスタシアが稼いだ金をパーッと使うタイプなのに対し、ベイカーは小金を貯め込むタイプであるという。
 確かにハイヤーに乗っても良い立場なのに、帰り際、羽田空港へはタクシーで向かっていた。

 マリア:「本当ですか」
 イリーナ:「ああ。ルーシーも来るよ」
 マリア:「師匠が仰るなら間違いないですね」

 マリアもイリーナの予知能力については素直に認めて従っている。

 稲生:「今度はこの北陸新幹線に乗せてあげたいですね」
 マリア:「その辺りは勇太に任せるよ」
 イリーナ:(……何だろう?嫌な予感がするわ……)

 秋雨降る中、3人の魔道士を乗せた北陸新幹線は北へ向かう。
 尚、夕食を終えたイリーナは長野に着くまでの間、やはり寝落ちした。
 だがその時に見た予知夢は、水没する新幹線車両基地だったという。
 その水没した車両は、今乗っているこの車両であった……。
コメント
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