報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「東京駅」

2019-10-16 19:08:28 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月7日15:30.天候:雨 東京都千代田区丸の内 JR東京駅八重洲中央口→大丸東京]

 稲生達を乗せたタクシーが都心に向かうと、途中で雨が降って来た。
 大原タクシーの白塗りゼロ・クラウンが、ワイパーを規則正しく動かす。

 稲生:「本当に雨が降って来ましたねぇ……」
 イリーナ:「お天気占いは基本中の基本」
 マリア:「……ですね」

 そして、タクシーは東京駅八重洲中央口のタクシー降り場に到着した。

 稲生:「そうか。グランルーフがあるから、雨に濡れないんだ」
 大原:「そういうこと。だからこの場合、日本橋口はハズレね。それでは料金の方が……」

 するとイリーナがブラックカードを取り出した。

 イリーナ:「カード使える?」
 大原:「はい。大丈夫です」
 イリーナ:「チップもプラスしておくわね」
 大原:「チップですか?ありがとうござ……」

 この後、大原は嬉し過ぎる悲鳴を上げることになった。

 イリーナ:「うちのコ達を助ける協力をしてくれた御礼がまだだったからね。私からしておいたよ。そこはナスっちもポーリン姉さんもスルーしてたから」

 最後に降りたイリーナが目を細めたままで言った。

 マリア:「アナスタシア組のメンバーは助かりませんでしたし、エレーナは攻撃側で、リリィはまだ正式入門してませんでしたからね。ルーシーはまだイギリスにいたし……」

 要するに魔女狩りの被害に遭ったのは、マリアが一応顔と名前だけは知っている程度の仲の者だけだったということだ。
 稲生が魔女狩り軍団を追い掛けたのだって、その軍団員が魔女狩りしている所を目撃した稲生に対し、口止め料を出してきて、それを受け取ってしまったからだった。
 それを目撃した大原班長が、『邪教徒から御供養をもらうなんて謗法だ!』と指摘したことから、慌てた稲生がその大原タクシーに乗って追い掛けたというのが真相だった。
 つまりは元々稲生は同門とはいえ、顔も名前も知らぬ魔女を助けるつもりで追い掛けたわけではないということだ。
 あの時はダンテ門流見習魔道士ではなく、日蓮正宗信徒として行動していた為である。

 稲生:「というか、アナスタシア先生は加害者側では?」
 マリア:「まあね!」

 その被害者がマリアだったりする。

 イリーナ:「まあまあ。ナスっちはダンテ先生からしっかり怒られたし、結果的に弟子も数人失う罰を受けたわ。そこは稲生君の言う通り、ホトケ様の賞罰かしら?」

 大原班長の今頃の功徳は、稲生の謗法行為を清算する手助けをしたことに対してか。
 タクシーの運転手は仕事とはいえ謗法行為を手助けしやすく、しかしその清算もしやすい職業でもあるようだ。
 そこはバスや電車の運転士も同じか。

 稲生:「それで先生、ここからどうされますか?まだ新幹線に乗る時間は少し先ですが……」
 イリーナ:「そこのデパートで買い物があるの。そこへ寄らせてくれる?」
 稲生:「分かりました。ちょっと荷物だけ先に、コインロッカーに入れて来ます」
 イリーナ:「いいよ。マリアも荷物は一緒に入れてもらいなさい」
 マリア:「はい」

 大丸東京店入口近くのコインロッカーに荷物を入れる稲生とマリア。
 今はSuicaやPasmoで支払いができる上、解錠もそれでできる。
 緑色のランプが赤に変わったら、ロックされた証。

 イリーナ:「勇太君はアルカディア政府から表彰されたけど、マリアにも内助の功があるからね。そこは私が評価してあげるよ」
 マリア:「ありがとうございます」
 イリーナ:「一緒にいらっしゃい。……勇太君も来る?」
 勇太:「え?ええ、よろしければ……」

 一瞬嫌な予感がした稲生だったが、イリーナはマリアに新しい服を買ってあげただけだった。

 イリーナ:「いつもそのブレザーだけだとアレだからね。一応、私服も持っておきなさい」
 稲生:「意外と服装って皆してバラバラですよね」

 基本的に魔道士として動く場合はスーツであることが多い稲生。
 しかしそれは稲生だけではなく、例えばアナスタシア組の男性魔道士も同じだ。
 服装が統一されているのはアナスタシア組くらいのものである。
 エレーナもまた黒いベストにスカート、白いブラウスに青いリボンタイを着けているが、これはホテルで働く為の服装。
 リリアンヌに至っては人間界ですることは無い為か、Tシャツにショートパンツというラフな格好である。
 ルーシーも旅先で動きやすい服装をする為か、ラフな服装であった。
 そして1期生達はドレスコートなど、如何にも魔法使いの師匠的な服装をしている。

 イリーナ:「特に決められているわけじゃないしね。マリアの今の服装だって、勇太君の為に着ているようなものだから」
 稲生:「僕の為に本っ当すいません!」
 マリア:「私が好きで着ているだけだから。この服装をするとハイスクール時代を思い出して、魔女の本分を忘れずに済むからね。たまたま勇太の学校の制服を見て、それをモチーフにしただけ」
 イリーナ:「私としては、そろそろ卒業してもらいたいところだけど……」
 稲生:「えっ?」
 イリーナ:「ま、そこは時間が解決してくれるかしら」

 因みにまだ時間が余っていたせいか、イリーナはマリアを連れてトリンプの店舗に行った。
 当然ながら稲生は、外で待ち惚け。
 先に出て来たマリアが、

 マリア:「勇太、師匠に文句言っていいからね?」

 と、自分も新しい下着を買ってもらって何だがという顔で言って来た。

 稲生:「どうかしたんですか?」
 マリア:「服はともかく、下着まで師匠が買いたがった理由が分かった」
 稲生:「何ですか?」
 マリア:「今度、大師匠様が来日されるらしい。それで察してもらいたいんだけど……」
 稲生:「あー……。つまり、『大師匠様を囲む会』が間違い無く開催されるでしょう、と。僕達は弟子として会場運営でもしていればいいんでしょうけど、二次会が別の意味で盛り上がるというわけですね」
 マリア:「そう、別の意味で。それで新しい下着を買ったというわけ。私にもついでに買ってくれたのは、文句言わせない為だな」
 稲生:「でしょうねぇ……」

 今のところイリーナに直接文句言える下の者はマリアだけである。

 イリーナ:「さぁさ、お待たせ。そろそろ新幹線の時間かい?乗り場へ行こうかね」
 稲生:「わ、分かりました」
 マリア:「あとは勇太がアテンドしてくれますから」

 マリアは師匠にそれだけ言うと、稲生の手を握って一緒に歩いた。
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“大魔道師の弟子” 「再び東京へ」

2019-10-16 15:26:49 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[日本時間10月7日15:00.天候:曇 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 金杯の入った箱を手に、再びワンスターホテルに戻る稲生達。
 式典の後はささやかな昼食会が行われ、そこでも稲生は献血を求められた。
 次に登城する日が分からない為、どうやら保存用としての献血であるようだ。
 アナスタシア組は魔界にも拠点を持っており、そこでは組織的な冒険の補助を請け負っている。
 その報告会もあったようで、結構早めに帰れるかと思ったのだが、イリーナ組はイリーナ組で安倍春明と話す機会があった。
 もっとも、話をしたのはイリーナの方で、稲生とマリアはただ横に座っていたというのが現実だったが。

 稲生:「1週間のタイムラグが……」
 イリーナ:「世界が違うからね、私らの力で持ってしても1週間時差が発生するのよ」
 マリア:「それもう時差って言いませんよ?」

 もっとタイムラグを縮める為の研究は続けられていて、今ではこれが限界。
 人間界から魔界へ行く際のラグは無くすことができたが、戻る時にそれが発生しており、それも無くす為の研究が続いている。

 イリーナ:「まあまあ。稲生君のおかげで金杯と金一封をもらうことができたし、これでしばらくは安泰だわ」
 稲生:「ありがとうございます」

 ホテルのロビーに向かうと、既にアナスタシア組の面々が帰り支度を始めていた。
 ホテルの前の道には、黒塗りの高級乗用車が並んでいる。
 バックパッカーがよく泊まりに来る安ホテルにはおよそ似つかわしくない光景だ。

 稲生:「あのクラウンがアナスタシア先生専用車ですか。弟子の皆さんが共用で乗る車も、ヴェルファイアだったりエルグランドだったり、高級ですね」
 マリア:「日本車で固めている辺り、明らかに日本を超エンジョイしているのが分かる」
 稲生:「海外ではどうしてるんですか?」
 マリア:「現地のディーラーで購入した車を使っているらしい。前に水晶球で、アメリカでキャデラックに乗っているのを見たことがある」
 稲生:「大統領専用車と同じ車種ですか。さすがですねぇ……」
 マリア:「いや、エレーナの話じゃ、だいぶ型の古いタイプだったらしいぞ?」
 アナスタシア:「悪かったわね。向こうで調達した車が故障したもので、代車を頼んでいたのよ」
 稲生:「ピェッ!?」
 マリア:「アナスタシア先生!」

 アナスタシアは肩の所で切り揃えた黒い髪を靡かせながら、緑色の瞳を稲生とマリアに向けて来た。
 弟子達同様、黒で固めたドレスとローブを羽織っている。
 違うのは魔法具に使っている宝石の色だけ。
 魔法の杖の先端に取り付けられている魔法石も黒である。

 アナスタシア:「あなた達も弟子なら、早くイリーナに専用車を導入してあげることね」
 稲生:「す、すいません」
 マリア:「免許が無いんですよー……」

 マリアはそう言ってチラッと稲生を見た。
 イリーナ組で唯一の車の免許持ちであるが……。

 アナスタシア:「だったら早く、タクシーでもハイヤーでも手配してあげなさい。そこでイリーナが退屈して寝てるわよ」
 イリーナ:「ここ最近、眠くてねぇ……。『秋眠暁を覚えず』だよぉ……」
 アナスタシア:「また変な言葉作って!師匠のあなたがそんなんだから、このコ達も気が利かなくなるのよ!」
 稲生:「す、すいません!すぐに手配しますので!」

 稲生は急いでタクシーを拾いに通りに出た。

 イリーナ:「あのコ達は優秀だから、自習だけでも少しずつ上達して……」
 アナスタシア:「そういう問題じゃないし!てか、それじゃ先生の意味無いし!」
 男性弟子:「先生、お車の用意ができました」
 アナスタシア:「ああ、ありがとう。とにかく、私はあなたと違って忙しいんだから、先に帰らせてもらうわよ。あなたは安いタクシーで帰りなさい」
 イリーナ:「あいよ、気をつけて。今度はモルジブ辺りにでも行くの?」
 アナスタシア:「韓国で文大統領を脅かしに行ってくるわ」
 イリーナ:「東アジア魔道団にケンカ売るつもりかい?アタシゃお断わりだよ……」
 アナスタシア:「そいつらがよそ見してる隙に、コッソリとね」

 アナスタシア達がホテルの外に出るのと、アナスタシア専用車の前にそれと同じ車種の個人タクシーが止まるのは同時だった。

 稲生:「先生!タクシー捕まえました!」
 イリーナ:「うちの見習も有望だよ。まさか、ナスっちと同じ車を用意するなんてねぇ……」
 アナスタシア:「あ、くくく……!!」

 アナスタシアのとは色違いなだけ。
 あとは屋根に個人タクシーを示す提灯が乗っかっているだけだ。
 こちらは白塗りである。

 稲生:「大原班長、助かります!」
 大原:「いや、まさか、新大橋通りを流していたら稲生君が手を挙げていたからびっくりしたよ」
 アナスタシア:「しかも稲生君の知り合い?!」
 稲生:「僕と同じ、日蓮正宗正証寺の信徒さんで、個人タクシー運転手の大原班長です」

 日蓮正宗信徒にも個人タクシーの運転手は散見される。
 何か大石寺に行事があったりすると、駐車場に東京のナンバーの個人タクシーを見かけるほどだ。
 表示機には『自家使用』という個人タクシーならではの表示がされているのが特徴。

 稲生:「先生、どうぞこの車で」
 イリーナ:「ありがとう」
 アナスタシア:「今度はセンチュリーでも導入しようかしら?いや、意表をついてホンダのレジェンドでも……」

 アナスタシアはぶつぶつ独り言を言いながら、自分専用車のリアシートに乗り込んだ。
 そしてイリーナ組より先に出発して行ったのだった。

 稲生:「先生、アナスタシア先生はどこへ行かれるんですか?」
 アナスタシア:「韓国だって。あそこの政権ヤバいから、今のうちにタカるんじゃない?」
 マリア:「凄い人だ……」
 大原:「それで、どこまで参りましょう?」
 稲生:「先生?」

 助手席に座った稲生が、運転席後ろに座ったイリーナを向いた。

 イリーナ:「稲生君、私達はどこから新幹線に乗るの?」
 稲生:「! 東京駅までお願いします!」
 大原:「はい、毎度。新幹線ということは、日本橋口か八重洲口かってところですね」
 イリーナ:「雨が降るから、屋根のある方にしてくれる?」
 大原:「雨ですか?……あー、何か降りそうですねぇ。分かりました。それじゃ、八重洲側に着けましょう」

 大原は東京駅に舵を切った。
 尚この大原タクシー、ダンテ門内の魔女達がキリスト教系カルト教団の魔女狩り隊に狙われた際、その軍団を追尾するのに活躍した輝かしい功績がある。
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