報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“魔女エレーナの日常” 「鈴木が見た悪夢」

2018-08-20 19:03:26 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月12日02:00.天候:(都合良く)雷雨 東京都墨田区菊川 鈴木のマンション]

 鈴木はエレーナの拠点であるワンスターホテルの近くいたい為、わざわざ首都圏内にある実家を出て一人暮らしをしている。
 エレーナにコミケのサークル運営を手伝ってもらったのはいいのだが、肝心の報酬を渡すのを忘れてしまった。
 次の日に渡せば良いと高を括り、この日は眠ってしまった。
 しかし、それが鈴木にとってバッドエンドにも等しい悪夢の始まりだった。

 鈴木:「うう……ん……」

 ……ふと寝苦しくて鈴木は目が覚めた。
 胸が重い。
 胸をグッと押されているような感じがする。
 何か、いる。
 鈴木の部屋に、誰かがいる。
 しかし、鈴木は怖くて目が開けられなかった。
 と、鈴木の顔に生暖かい息が吹き掛けられる。
 何だか酒の臭いがする。
 誰だ?
 誰が、鈴木の胸に乗っかっている?
 体が動かない。
 金縛りである!
 まるで蛇の舌が稲生の顔をなめるように、生暖かい息が万遍なく鈴木の顔に吹きかけられる。
 その息は、鈴木の耳元で動きが止まった。
 何か、呟いている。
 ぼそぼそとよく聞き取れない声が、鈴木の耳に忍び込んでくる。
 その声は、次第に大きくなっていった。

 ???:「殺してやる……殺してやる……!」

 生暖かく、酒の臭いの混じった息が吐かれるたびに、呪いの言葉が鈴木の耳をなでまわす。

 鈴木:「うわあっ!」

 鈴木は、あまりの怖さに目を見開いた。
 そこに、彼女はいた。
 ナイフを手にしたリリアンヌが、鈴木の胸の上に乗っていた。
 その姿は覚醒している時のものだ。
 稲生を見据える目の瞳孔は収縮し、瞳全体が灰色で中央に黒い点が入っている。

 リリアンヌ:「フヒヒヒヒヒヒ……ヒック!お、お前は……エレーナ先輩をタダ働きさせた……!これは大きな罪だ……!」
 鈴木:「せ、先輩!?き、キミはエレーナの後輩なのか!?」
 リリアンヌ:「エレーナ先輩が大嫌いなタダ働きさせる男なんて大嫌い……!だ、だから、お、おおオマエを殺す……!」
 鈴木:「ま、待ってくれ!俺はタダ働きさせるつもりなんて無い!ただ、渡すのを忘れてしまったんだ!明日、渡しに行くはずだったんだよ!」

 小柄な魔女っ娘とも言えるリリアンヌ。
 だから力任せに跳ね除ければ、そうできそうなものだ。
 だが、何故ができなかった。
 まるでリリアンヌが巨漢のように重く感じられた。

 リリアンヌ:「ヒャーッハッハッハッハッハー!死ねぇぇぇぇぇっ!!」

 リリアンヌは手持ちのウィスキーボトルを一気飲みすると、高笑いして大型ナイフを鈴木の胸や喉に何度も突き刺した。

[同日同時刻 天候:曇 同じく鈴木の部屋]

 鈴木:「わあーっ!」

 鈴木は絶叫を上げて飛び起きた。

 鈴木:「ゆ、夢……!?」

 鈴木は自分が悪夢を見ていたことに気づいた。
 試しにリリアンヌに刺された額や首、胸を触ってみるが、傷痕1つ無かったし、血の一滴も出た痕跡も無い。

 鈴木:「はぁ……!びっくりした……!」

 鈴木はホッとすると同時に、言い知れぬ不安に襲われた。

 鈴木:(でも何であんな夢を見たんだろう?あれはもしかして、報酬を受け取っていないことに気づいたエレーナが怒ってるってことなんだろうか?やっぱり明日は朝一で報酬を持って行こう)

 鈴木はそう自分に言い聞かせると、再び布団を頭から被って寝入ろうとした。
 が、そこでまた何か違和感を覚える。
 何だろうと思って布団から顔を出して部屋を見回してみると、窓が開いていたことに気づいた。

 鈴木:「?」

 いつの間に窓を開けたのだろうか?
 確か部屋はエアコンを入れているから、窓など開けないのに……。
 いや、もしかしたら空気の入れ替えで開けたのかもしれない。
 なるほど。
 その時の記憶が頭の片隅に残って、リリアンヌという最凶魔女の侵入を許してしまったのか。
 鈴木はそう考えて、窓を閉めようと起き上がろうとした。

 鈴木:「!?」

 だがその時、部屋の中に誰かがいることに気づいた。
 机の上に座り、足を組んでこちらを見ている者がいた。
 それは……。

 エレーナ:「お目覚めだね」
 鈴木:「え、エレーナ!?どうして!?」
 エレーナ:「あら?あなたがこのマンションに住んでると教えたんじゃない」
 鈴木:「そ、そりゃそうだけど……」

 それにしても様子がおかしいと鈴木は思った。
 報酬の取り立てに来たのだろうか。

 エレーナ:「それにしてもいくらマンションの5階だからって、鍵を掛けないなんて油断し過ぎるわね」

 エレーナは闇に光る目を更に光らせながら、クスクスと笑った。
 そして、黒いスカートのポケットの中に手を突っ込む。
 そこから出て来たのは折り畳み式のナイフ!
 近眼の鈴木の夜目にも、キラリと光る刃が目に入る。

 エレーナ:「あなたは約束を破ったね。魔女というものはね、契約や約束を破られるのが大嫌いなの」
 鈴木:「ほ、報酬のことなら謝る!あれは踏み倒そうとしたんじゃない!キミに渡すのを忘れただけなんだ!」
 エレーナ:「もう日付が変わってるわ。あなたは契約を守らなかった。私も魔道師の端くれ。悪いけど死んでもらうよ。私は契約を守らないヤツを許さない」

 エレーナは不気味な笑みを浮かべたままナイフを振り上げた。
 鈴木は一か八か、枕元に置いたスマホをエレーナに投げつけた。
 それはエレーナの顔面に飛んで行く。

 エレーナ:「きゃっ!?」

 鈴木はエレーナの横をすり抜け、部屋から飛び出そうとした。
 しかしその時、首に熱い衝撃が走った。
 鈴木は目だけで見下ろす。
 彼の首に突き立っている、折り畳みナイフ。

 エレーナ:「危ないところだったわ。でも、私の勝ちだね……」

 嬉しそうなエレーナの声が聞こえる。
 鈴木は血をまき散らし、冷たい床に転がった。

[同日05:02.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 ガーッという音がして、正面エントランスの自動ドアが開く。

 オーナー:「いらっしゃ……おや?あなたは……」

 そこには、まるで戦場などから九死に一生を得た生還者のように疲弊した鈴木の姿があった。

 鈴木:「す……すいません……こんな朝早くに……。エレーナと、会えませんでしょうか?」
 オーナー:「あ、ああ……そうですね……。エレーナから話は聞いております。エレーナに何か渡す物はお持ちでしょうか?」
 鈴木:「これです……」

 鈴木はエレーナに昨日渡すはずだった報酬の入った封筒をオーナーに差し出した。

 オーナー:「これはお預かりしておきます。必ずエレーナにお渡ししておきますので……」
 鈴木:「よ、よろしくお願いします……」
 オーナー:「ああ、あとこれを……」

 オーナーは鈴木に手紙の入った封筒を渡した。

 オーナー:「エレーナから預かったものです」
 鈴木:「はあ……」

 鈴木はエレーナからの手紙を受け取ると、中を開けた。
 すると、『魔道師をナメるな』とか、『報酬支払遅延は、契約不履行以外の何物でもない』とか、『今回は悪夢を見せさせてやるだけで勘弁してやるが、実際はこれがリアルに行われるものと思え』とか、『これに懲りたら2度と魔女に纏わりつくことの無いように』という警告文が書かれていた。

 鈴木:「ふ……ふふ……うふふふふふふふ……」
 オーナー:「エレーナの機嫌を損ねるようなことをなさったのでしょうが、今後はお気をつけて。他の魔女さんは本当に首を狙って来るそうです」
 鈴木:「とんでもない、オーナー……。エレーナに、今後ともよろしくとお伝えください。それじゃ……」

 鈴木も鈴木で不気味な笑みを浮かべながら、ふらつく足取りでホテルをあとにしたのだった。
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“魔女エレーナの日常” 「強欲の悪魔と契約した魔女にタダ働きさせてはならない」

2018-08-20 10:19:57 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月11日21:30.天候:曇 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 森下駅で電車を降りた鈴木とエレーナは、途中まで一緒に帰った。
 そして、ホテルの入口で別れたのだった。

 エレーナ:「た、だいまぁ……ヒック!」
 オーナー:「お帰り。だいぶ盛り上がったみたいだな」
 エレーナ:「おかげさまで……」
 オーナー:「あ、そうそう。キミの後輩さんが来てるよ」
 エレーナ:「リリアンヌが?そうですか」
 オーナー:「キミの部屋に通しておいたよ」
 エレーナ:「あ、どうもです。じゃ私、早めに休ませてもらいます」
 オーナー:「ああ、お疲れ」

 エレーナは鍵を差し込んで、エレベーターを地下1階まで行けるようにした。
 これは表向き、地下1階は機械室や倉庫があるフロアということになっており、一般客が下りないようにする為、普段はボタンを押しても反応しないようになっている。
 その地下室の一画に、エレーナの部屋がある。
 元々はボイラー技士が泊まり込んでいた部屋だったらしいが、今はもうボイラーなんかも自動化されてその必要も無くなり、空き部屋となっていた。
 そこを改築して、今はエレーナが泊まり込んでいる。
 “魔女の宅急便”の主人公が屋根裏部屋住まいだったのに対し、こちらは地下室住まいである。
 魔女っ娘は日の当たる所でOKなのに対し、魔道師は日の当たらない所というわけか。

 エレーナ:「お、まだ起きてる」

 エレベーターを降りると、無機質な機械室の光景が目に入る。
 部屋のドアには小窓が付いていて、そこから室内の明かりが漏れ出していた。

 エレーナ:「よっス」

 エレーナがいきなりドアを開けるのと、リリアンヌがシャワー室から真っ裸で出て来たのは同時だった。

 リリアンヌ:「は、はわわわ!え、え、エレーナ先輩!いい、いきなり開けないでくださいぃぃ」
 エレーナ:「ここ、私の部屋!オマエこそバスタオルくらい巻いて出てこい!」
 リリアンヌ:「は、はいぃぃぃ」

 まだ15歳になったかなってないかの年齢なので、体付きはまだ幼い所が散見される。

 エレーナ:「疲れたから、私はさっさと寝させてもらうよ。シャワー浴びてからな」
 リリアンヌ:「わ、私もそうします……」
 エレーナ:「何の用で来たんだ?」

 エレーナもまた着ていた服を脱ぎながらエレーナに話し掛けた。
 反対にリリアンヌは、バッグの中から替えの下着やらパジャマやらを着込んでいる。

 エレーナ:「リリアンヌみたいな見習(と書いて、『ヒヨッ子』と読む)は、夏休みナシだろ?」

 その為稲生も、鈴木にコミケ参戦に誘われたものの、断らざるを得なかったようだ。
 てか、ダンテ一門の見習達、何かあったのか?
 この作品は本編ではなく、スピンオフであるので、詳細の描写に関しては【お察しください】。

 リリアンヌ:「ぽ、ポーリン先生が……忙しい……エレーナ先輩が忙しいので、ホテルの仕事……私もホテルの仕事を手伝えないかって……」
 エレーナ:「いや、別にいいよ。コミケはあくまでも1日だけだし」

 コミケは3日間開催されるのだが、同じサークルが3日間通して参加するわけではない。

 エレーナ:「そんなにポーリン先生に御心配お掛けしちゃったかなぁ……?」
 リリアンヌ:「せ、先輩、これを……」

 リリアンヌは水晶球に手を翳した。

 エレーナ:「ん?」

 するとそこにはコミケ会場にて、カメラ小僧達に囲まれるエレーナの姿があった。
 最初は困惑していたエレーナだったが、次第にノリノリで撮影に応じていた。

 リリアンヌ:「ご、ごご、御心配お掛けしたよう……です……」
 エレーナ:「あっちゃー……!見られたか……!」
 リリアンヌ:「ど、どど、どうしましょう……?」
 エレーナ:「うーむ……。これは何とも、申し開きのしようがない。幸い明日は夜勤だから、昼のうちにポーリン先生の所に行って弁明してこよう……」

 申し開きのしようがないと言っておきながら、弁明に行こうするエレーナ。
 そして、全裸になるとタオルを持ってシャワールームに入った。

 リリアンヌ:「フフフ……」

 先輩たるエレーナの脱いだ服を畳む後輩のリリアンヌ。

 リリアンヌ:「下着はネットに入れて洗う……」

 と、そこへエレーナの机の上の水晶球が光った。

 リリアンヌ:「フヒッ!?……ど、どど、どちら様で……?」
 横田:「ハァハァ……(*´Д`) ち、違いますよ、リリアンヌさん。使用済みの下着はネットに入れて洗うのではなく、ネットに出して売るのです。……も、もしよろしければ……あなたの……JCたるあなたの下着も売って下さいませんか?(*´Д`) た、高く買いますよ……ハァハァ……」

 リリアンヌ、水晶球に手を翳して通信を強制的に切断した。

 リリアンヌ:「これは先輩のブラウス。白い物と柄物は分けて洗う……」

 掃除や洗濯の仕方から教わる魔女の見習。
 幼少の頃は不幸な生い立ちをした者がこの一門には多く、その為、一般常識が全くと言って良いほど身に付いていない状態で入門してくる者も多いのだ。
 その為、稲生のような者が『新卒採用』と揶揄されるのである。
 リリアンヌが先輩の服を畳み、洗い物は部屋の外にある洗濯機に持って行った。
 洗濯機と乾燥機があるのだが、これはエレーナ専用。
 このホテルには長期宿泊客用にコインランドリーがあるのだが、そこで使っていたものを流用した中古品である。
 すると、エレーナが慌ててシャワー室から出て来た。
 後輩に注意しておきながら、自分も真っ裸である。

 エレーナ:「リリィ!」
 リリアンヌ:「フヒッ!?どうしました、先輩!?」
 エレーナ:「私は大変なことを忘れていた!」
 リリアンヌ:「な、何ですか!?」
 エレーナ:「鈴木から報酬をまだもらってない!タダ働きさせられた!」
 リリアンヌ:「フヒッ!?な……そそ、それは何という侮辱!?エレーナ先輩をタダ働きさせるなんてっ!」

[同日23:00.天候:曇 東京都墨田区菊川 鈴木のマンション]

 鈴木:「あちゃー、しまった……」

 鈴木は寝る前に鞄の中を整理していた。
 すると、その中からエレーナに渡すはずの報酬が出てきたのだ。

 鈴木:「エレーナに渡すの忘れてた……。今からだと……もう遅いもんな。明日、夜勤だって言ってたな。明日、渡しに行こう」

 特盛とエリちゃんには報酬前払いだった為、後払いのエレーナにも渡したものとすっかり勘違いしていたのだ。

 鈴木:「さて、今日はもう寝るか……」

 鈴木はベッドに入ると眼鏡を外し、リモコンで照明を消灯したのだった。
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