[8月11日15:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]
私の名前は愛原学。
都内で探偵事務所を経営している。
マズいことになった。
ボスから提出を頼まれた書類が、どうも前の事務所が爆弾テロされた際に焼けてしまったらしいのだ。
そこまでなら、まだしょうがない面もある。
爆弾テロしてきたテロリストが悪いからだ。
それよりも、私や高野君にその書類に関する記憶一切が無いことが問題だった。
高橋君が私のLINEメッセージを読んで事務所に飛んで来たのは、案の定、午後だった。
私は高橋君にその書類について聞いてみたが、知らないという。
ただ……。
高橋:「先生がリサの人間時代の過去について、積極的に調べようとされていたのは覚えています」
とのことだった。
それなら高橋君も助手として手伝うわけだから、当然高橋君も覚えていなければならない。
だが……。
高橋:「俺は先生と一緒にリサの過去について調査した記憶はありませんね。俺、先生がいつそれをされるか楽しみにしていたんですが……」
愛原:「じゃあ、俺が健忘症なだけだったのか?」
高橋:「分かりませんが……」
何だかよく分からないな。
じゃあ、おかしいのはやっぱりボスだったのか。
と、そこへ……。
高野:「暑ーっ!疲れたでしょ?」
リサ:「大丈夫だよ!」
高野君とリサが帰って来た。
高野:「戻りましたー」
リサ:「ただいまー」
愛原:「ああ、お帰り。こりゃまた随分買い込んだな」
高野君やリサが両手に持つほどの大きな紙袋やビニール袋があった。
高野:「服とか靴とか色々買ってあげたんですよ。リサちゃん、あんまり持ってないって言うから……」
リサ:「あー……」
高橋:「男なんて替えのパンツ1つありゃ十分なんだけどな」
高野:「女の子はそういうわけにはいかないの。で、これ、エージェントさんに請求してもいいんですよね?」
愛原:「ああ。エージェントさんには話をつけてある。すぐに領収証を送ろう。高野君はこの辺りの事務作業もよろしく」
高野:「了解です!」
総務や経理は高野君に任せて安心だな。
高橋:「おい、アネゴ。この化粧品とか、どう見ても大人向けの服とかはアンタの自腹なんだよな?」
高野:「こらっ、シーッ!」
その分の領収証もしっかりあった。
愛原:「えーっと……。一応、送ってはみるけど、却下されたら諦めてくれよ」
高野:「はーい……」
まあ、多分ムリだろう。
それよりも、だ。
愛原:「高野君、さっきの書類の話なんだけど……」
高野:「ああ。高橋君は覚えてるの?」
高橋:「いや。せいぜい、先生がそれについて調査されるおつもりでいたというくらいだ。俺は先生の助手だからな、そういう探偵の仕事はちゃんと手伝わせてもらうさ」
高野:「それもそうか。じゃあ、やっぱりボスの記憶違いなんじゃないですか?」
愛原:「だろうなぁ……」
私は腕組みをして考え込んだ。
リサ:「お姉ちゃん……」
リサはビニール袋を掲げた。
高野:「あ、そうそう。コンビニでアイス買って来たんです。皆で食べましょう」
愛原:「おお、気が利くな」
高橋:「サンクス」
高野:「ファミマで買って来たのよ?」
高橋:「サークルKの方とは言ってねぇっ!」
ああ、そういうことか。
元々は菊川駅前のファミマも、かつてはサークルKサンクスだったらしいがな。
私はガリガリ君ソーダ味を頂いた。
愛原:「暑い時はこれに限るな」
高橋:「全くです」
リサ:「はーむっ!……冷たい。美味しい」
高野:「そう。良かったね」
リサはスイカバーにかじりついていた。
高橋:「おい、アネゴ」
高野:「今度は何?ちゃんと先生とお揃いのガリガリ君にしてあげたじゃない」
高橋:「違ェ!アンタだけハーゲンダッツ食ってんじゃねぇよ」
高野:「……ちっ、バレたか」
リサ:「はーげんだっつ?」
高橋:「この中で1番高いアイスのことだよ。ったく!先生より高いモン食いやがって!」
愛原:「まあまあ。俺はガリガリ君の方が好きだよ」
高野:「ほら、先生もそう言ってるよ?」
高橋:「アンタが言うな!」
それにしても困ったものだ。
いや、別に高橋君と高野君のやり取りのことではない。
これはこれで楽しくて良い。
そうじゃなくて、書類のことだ。
リサは知ってるわけないしなぁ……。
私がガリガリ君を食べ終えると……。
愛原:「おっ、当たりだ。後でもう一本だな」
高橋:「先生、俺が引き替えてきましょうか?」
愛原:「いや、いいよ。また後でで」
高橋:「はあ……」
と、そこへ電話が掛かって来た。
高野:「はい、愛原学探偵事務所です」
ボス:「私だ」
高野:「私田様ですね。少々お待ちください」
高野君、わざわざ保留ボタンを押す。
高野:「先生、私田さんから電話です」
愛原:「ああ」
私は受話器を取った。
愛原:「お電話代わりました。愛原です」
ボス:「私だ」
もはやボス、高橋君や高野君のイジりはスルーすることにしたようだ。
愛原:「ボス。例の書類のことなんですが……」
ボス:「どうあっても記憶に無いというのかね?」
愛原:「はい。高野君や高橋君に聞いてもダメでした。それに、仮にその書類があったとしても、前の事務所が爆弾テロされた時に……」
ボス:「ああ、分かっている。その件については一旦忘れてくれ」
愛原:「え?」
ボス:「どうも、大事になりそうだ。実は先ほどBSAAから連絡があった。とある外国のテロ組織を鎮圧したらしい。後で調査をした所、キミの事務所に関する情報が出て来たそうだ」
愛原:「は!?」
ボス:「そのテロ組織はバイオテロも行っていた所だ。それも、国連組織BSAAに摘発されるような大組織だぞ?それがキミの個人事務所に目を付けていたなんておかしいと思わないかね?」
愛原:「た、確かに。な、何ででしょう?」
ボス:「まだBSAAが調査中ではあるが、もしかしたらキミの前の事務所をテロしたのはその組織だったのかもな。その組織なんだが、リサ・トレヴァーを追っていたしらい」
愛原:「リサを!?」
ボス:「その組織は先ほどBSAAに壊滅させられたから、今更リサを狙うとは思わんが、一応注意していてくれ。一応な」
愛原:「でも、まだそれとこれとは繋がってせんよ?私の記憶とボスの記憶に違いがある件について」
ボス:「もしかしたら、後の調査でその理由が分かるかもしれん。とにかく今BSAAが動いているところであるということをキミの耳に入れておく。もし今後、何か思い出したことがあったら、すぐに私の耳に入れてくれ」
愛原:「といっても、こちらからボスに掛けることはできませんが?」
ボス:「キミのPCに私のケータイ番号を送っておいた。確認次第、そのメールは削除しておくように」
愛原:「分かりました。……それじゃ失礼します」
私は電話を切った。
そして今の内容を高橋君達に話した。
高橋:「何だかよく分かりませんね」
高野:「先生が実際にその書類を持っていて、それをボスの言ってたテロ組織が狙う為に前の事務所を爆破したというのなら分かるんですけどねぇ……」
てことは、ボスの記憶の方が正しいのか?
何しろ、テロ組織が嗅ぎ付けるくらいだからな。
ダメだ。
これ以上考えても、思い出せそうにない。
どうやらボスの言う通り、一旦忘れた方が良さそうだな。
私の名前は愛原学。
都内で探偵事務所を経営している。
マズいことになった。
ボスから提出を頼まれた書類が、どうも前の事務所が爆弾テロされた際に焼けてしまったらしいのだ。
そこまでなら、まだしょうがない面もある。
爆弾テロしてきたテロリストが悪いからだ。
それよりも、私や高野君にその書類に関する記憶一切が無いことが問題だった。
高橋君が私のLINEメッセージを読んで事務所に飛んで来たのは、案の定、午後だった。
私は高橋君にその書類について聞いてみたが、知らないという。
ただ……。
高橋:「先生がリサの人間時代の過去について、積極的に調べようとされていたのは覚えています」
とのことだった。
それなら高橋君も助手として手伝うわけだから、当然高橋君も覚えていなければならない。
だが……。
高橋:「俺は先生と一緒にリサの過去について調査した記憶はありませんね。俺、先生がいつそれをされるか楽しみにしていたんですが……」
愛原:「じゃあ、俺が健忘症なだけだったのか?」
高橋:「分かりませんが……」
何だかよく分からないな。
じゃあ、おかしいのはやっぱりボスだったのか。
と、そこへ……。
高野:「暑ーっ!疲れたでしょ?」
リサ:「大丈夫だよ!」
高野君とリサが帰って来た。
高野:「戻りましたー」
リサ:「ただいまー」
愛原:「ああ、お帰り。こりゃまた随分買い込んだな」
高野君やリサが両手に持つほどの大きな紙袋やビニール袋があった。
高野:「服とか靴とか色々買ってあげたんですよ。リサちゃん、あんまり持ってないって言うから……」
リサ:「あー……」
高橋:「男なんて替えのパンツ1つありゃ十分なんだけどな」
高野:「女の子はそういうわけにはいかないの。で、これ、エージェントさんに請求してもいいんですよね?」
愛原:「ああ。エージェントさんには話をつけてある。すぐに領収証を送ろう。高野君はこの辺りの事務作業もよろしく」
高野:「了解です!」
総務や経理は高野君に任せて安心だな。
高橋:「おい、アネゴ。この化粧品とか、どう見ても大人向けの服とかはアンタの自腹なんだよな?」
高野:「こらっ、シーッ!」
その分の領収証もしっかりあった。
愛原:「えーっと……。一応、送ってはみるけど、却下されたら諦めてくれよ」
高野:「はーい……」
まあ、多分ムリだろう。
それよりも、だ。
愛原:「高野君、さっきの書類の話なんだけど……」
高野:「ああ。高橋君は覚えてるの?」
高橋:「いや。せいぜい、先生がそれについて調査されるおつもりでいたというくらいだ。俺は先生の助手だからな、そういう探偵の仕事はちゃんと手伝わせてもらうさ」
高野:「それもそうか。じゃあ、やっぱりボスの記憶違いなんじゃないですか?」
愛原:「だろうなぁ……」
私は腕組みをして考え込んだ。
リサ:「お姉ちゃん……」
リサはビニール袋を掲げた。
高野:「あ、そうそう。コンビニでアイス買って来たんです。皆で食べましょう」
愛原:「おお、気が利くな」
高橋:「サンクス」
高野:「ファミマで買って来たのよ?」
高橋:「サークルKの方とは言ってねぇっ!」
ああ、そういうことか。
元々は菊川駅前のファミマも、かつてはサークルKサンクスだったらしいがな。
私はガリガリ君ソーダ味を頂いた。
愛原:「暑い時はこれに限るな」
高橋:「全くです」
リサ:「はーむっ!……冷たい。美味しい」
高野:「そう。良かったね」
リサはスイカバーにかじりついていた。
高橋:「おい、アネゴ」
高野:「今度は何?ちゃんと先生とお揃いのガリガリ君にしてあげたじゃない」
高橋:「違ェ!アンタだけハーゲンダッツ食ってんじゃねぇよ」
高野:「……ちっ、バレたか」
リサ:「はーげんだっつ?」
高橋:「この中で1番高いアイスのことだよ。ったく!先生より高いモン食いやがって!」
愛原:「まあまあ。俺はガリガリ君の方が好きだよ」
高野:「ほら、先生もそう言ってるよ?」
高橋:「アンタが言うな!」
それにしても困ったものだ。
いや、別に高橋君と高野君のやり取りのことではない。
これはこれで楽しくて良い。
そうじゃなくて、書類のことだ。
リサは知ってるわけないしなぁ……。
私がガリガリ君を食べ終えると……。
愛原:「おっ、当たりだ。後でもう一本だな」
高橋:「先生、俺が引き替えてきましょうか?」
愛原:「いや、いいよ。また後でで」
高橋:「はあ……」
と、そこへ電話が掛かって来た。
高野:「はい、愛原学探偵事務所です」
ボス:「私だ」
高野:「私田様ですね。少々お待ちください」
高野君、わざわざ保留ボタンを押す。
高野:「先生、私田さんから電話です」
愛原:「ああ」
私は受話器を取った。
愛原:「お電話代わりました。愛原です」
ボス:「私だ」
もはやボス、高橋君や高野君のイジりはスルーすることにしたようだ。
愛原:「ボス。例の書類のことなんですが……」
ボス:「どうあっても記憶に無いというのかね?」
愛原:「はい。高野君や高橋君に聞いてもダメでした。それに、仮にその書類があったとしても、前の事務所が爆弾テロされた時に……」
ボス:「ああ、分かっている。その件については一旦忘れてくれ」
愛原:「え?」
ボス:「どうも、大事になりそうだ。実は先ほどBSAAから連絡があった。とある外国のテロ組織を鎮圧したらしい。後で調査をした所、キミの事務所に関する情報が出て来たそうだ」
愛原:「は!?」
ボス:「そのテロ組織はバイオテロも行っていた所だ。それも、国連組織BSAAに摘発されるような大組織だぞ?それがキミの個人事務所に目を付けていたなんておかしいと思わないかね?」
愛原:「た、確かに。な、何ででしょう?」
ボス:「まだBSAAが調査中ではあるが、もしかしたらキミの前の事務所をテロしたのはその組織だったのかもな。その組織なんだが、リサ・トレヴァーを追っていたしらい」
愛原:「リサを!?」
ボス:「その組織は先ほどBSAAに壊滅させられたから、今更リサを狙うとは思わんが、一応注意していてくれ。一応な」
愛原:「でも、まだそれとこれとは繋がってせんよ?私の記憶とボスの記憶に違いがある件について」
ボス:「もしかしたら、後の調査でその理由が分かるかもしれん。とにかく今BSAAが動いているところであるということをキミの耳に入れておく。もし今後、何か思い出したことがあったら、すぐに私の耳に入れてくれ」
愛原:「といっても、こちらからボスに掛けることはできませんが?」
ボス:「キミのPCに私のケータイ番号を送っておいた。確認次第、そのメールは削除しておくように」
愛原:「分かりました。……それじゃ失礼します」
私は電話を切った。
そして今の内容を高橋君達に話した。
高橋:「何だかよく分かりませんね」
高野:「先生が実際にその書類を持っていて、それをボスの言ってたテロ組織が狙う為に前の事務所を爆破したというのなら分かるんですけどねぇ……」
てことは、ボスの記憶の方が正しいのか?
何しろ、テロ組織が嗅ぎ付けるくらいだからな。
ダメだ。
これ以上考えても、思い出せそうにない。
どうやらボスの言う通り、一旦忘れた方が良さそうだな。