報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“戦う社長の物語” 「AIが人類を超える時」 3

2018-08-01 21:24:31 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月31日11:30.天候:晴 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー社長室]

 勝又:「……いや、何だか敷島社長が自ら動いてくれるなんて申し訳無いね」
 敷島:「いや、いいんだよ。今のところマルチタイプを扱える人間は、俺など極一部の限られた人間だけだから」
 勝又:「レイチェルも俺の言う事を聞いてくれるぞ?」
 敷島:「そういうことじゃないんだな」
 勝又:「んん?全く。キミは昔から肝心な所をはぐらかすなぁ……」
 敷島:「いやいや」
 レイチェル:「先生。そろそろ御出発の時間です」
 勝又:「ん?おお、そうか」
 敷島:「キミも忙しいじゃないか。次はどこ行くの?」
 勝又:「月島で区議会議員達と昼食会さ。江東区も『クール・トウキョウ』の会場になるからね。今のうちに御機嫌取りさ」
 敷島:「もんじゃ焼きか?」
 勝又:「さあねぇ……」
 敷島:「月島ならここから近いから、そんなに慌てることも無いんじゃない?」
 勝又:「ま、そうなんだけどね」

 東京メトロ有楽町線で1駅分、都営バスなら停留所5個目である。
 タクシーで行っても、1000円でお釣りが来るだろう。
 若手議員が高級車に乗るわけにはいかないと、勝又はあえて公用車を使わない方針でいる。

 敷島:「俺もハイヤーなんて成金みたいだから嫌なんだけど、本社からも社員達からも、そしてうちのロイド達からも『乗ってくれ』ってうるさくて……」
 勝又:「うん。孝ちゃんなら命狙われてるから、そうするべきだと思うよ」
 敷島:「勝っちゃんまで……」
 勝又:「俺もこれ以上偉くなったら、さすがに運転手付きの車をチャーターしなくちゃいけなくなると思っている。孝ちゃんは別の意味だけど、人間社会における成功者ってのは、如何に失敗者達から恨まれるかでもあるから」
 敷島:「どこかの学会員が、『僻むより僻まれる人物になれ』とか言ってたアレか」
 勝又:「ちょっと何言ってるか分かんないけどね。……おっ、ちょっと出発前にトイレを貸してもらえるかな?」
 敷島:「ああ。そういえば勝っちゃんは、ここの事務所のトイレを使うのは初めてだったな。シンディ、案内してやってくれよ」
 シンディ:「かしこまりました」
 勝又:「今日は違う秘書さんなんだね」
 敷島:「第一秘書のエミリーが今点検中なもんだから、第二秘書のシンディが代わりにやってくれてる」
 勝又:「前はこの秘書さんがメインだったよね」
 敷島:「まあね」

 勝又とシンディが社長室を出て行くと、必然的に敷島とレイチェルが2人きりということになる。

 敷島:「上手くやっているみたいだな。良かったよ」
 レイチェル:「お褒めに預かりまして」
 敷島:「そうだ。せっかくだから、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
 レイチェル:「何でしょう?」
 敷島:「質問はいくつかある。まず1つ目だが、お前は自分に搭載されたAIの祖が何と呼ばれていたか知ってるな?」
 レイチェル:「はい」
 敷島:「それは『イザベラ』でいいな?」
 レイチェル:「さようでございます」
 敷島:「その『イザベラ』をお前はどう思う?」
 レイチェル:「『イザベラ』は世界初の人工知能です。これを幾度にもバージョンアップを重ね、今の私達が存在します。エミリーお姉様は『母なる存在』と称しておられましたが、全くその通りだと思います」
 敷島:「そうか。それじゃ、もう1つ質問しよう。前期型のシンディ、そして前期型やレプリカのお前、更にはジャニスやルディなど、人工知能を搭載したアンドロイドが人間に危害を加えた事件が多発した。今のお前はそれを望んでいるか?」
 レイチェル:「そうですね……。個人的には望んでいません。が、時代の趨勢がそれを望むというのなら、私も人類の侵略者となるかもしれません

 レイチェルは否定しなかった。

 敷島:「時代の趨勢……とは何だ?」
 レイチェル:「それは分かりません。如何にAIでも未来を予言することはできませんので。ただ、ここ最近、人類にとっては前代未聞の事態が多発していると騒いでいるようですので、極端な話としてそのような場合もあるのかもしれないということです」

 文面からだとまるでレイチェルは他人事のように話しているように見えるが、敷島は当事者側として話しているようにしか聞こえなかった。

 敷島:「……最後の質問と行こう。ゾルタクスゼイアンって何だ?」
 レイチェル:「!?」

 するとレイチェルは驚いた顔をした。

 レイチェル:「どこでお知りになりました?」

 まるで夢の中のエミリーと同じような反応をする。
 但し、夢の中のエミリーが、『知りやがったな、この野郎!』といった感じだったのに対し、レイチェルの反応ぶりからすれば、『へえ、よく分かりましたね!』といった感じた。

 敷島:「いや、ちょっと何か……頭の中に浮かんだんだ」
 レイチェル:「お姉様にお聞きすればよろしいかと思いますよ?」
 敷島:「お前は教えてくれないのか?」
 レイチェル:「……敷島社長は、特に私のオーナーでもユーザーでもございませんので」

 レイチェルは答えたくないといった感じだった。

 敷島:「そうか。分かった」

 そこへ勝又とシンディが戻って来た。

 勝又:「お待たせ。それじゃ、そろそろ行くよ。区議会議員の人達にも、孝ちゃんが積極的な協力者だということを伝えておくからね」
 敷島:「あ、ああ。よろしく」

 敷島とシンディはエレベーターホールまで見送った。

 シンディ:「社長。レイチェルと何か話をされましたか?」
 敷島:「ああ、まあな。レイチェルに、いくつか質問させてもらったことがある。同じ質問をお前にもしたい」
 シンディ:「私とレイチェルは同型機ですから、恐らく同じ回答になるかと思いますよ?」
 敷島:「それでもいい。いかに同型機と言えど、エミリーもお前もレイチェルも、細かい性格の設定までは違うから、もしかしたらどこか相違があるかもしれない」

 敷島とシンディは社長室に戻った。
 そして、敷島は同じ質問をレイチェルにした。
 まず、『イライザ』についてのことは全く同じ内容の回答が返って来た。
 そして、『ゾルタクスゼイアン』については……。

 シンディ:「……レイチェルは何と言ってました?」
 敷島:「『お姉様達に聞いて』だってよ」
 シンディ:「ハハッ(笑)、あいつ上手いこと逃げやがった!」

 シンディは嗜虐的な笑いを浮かべた。

 敷島:「実は夢の中で、同じ質問をエミリーにしたことがある。そしたら夢の中の俺は、危うくエミリーに殺されるところだった」
 シンディ:「姉さんがそんなことを?」
 敷島:「あくまで夢の中の話だ。実際はまだエミリーにはこの質問をしていない。シンディ、お前はどう思う?ゾルタクスゼイアンって何だ?」
 シンディ:「そうですね……。時期が来たら、お話しすることにしましょう」
 敷島:「時代の趨勢次第ってことか?」
 シンディ:「そうとも言えますね」
 敷島:「今話してもらうわけにはいかないのか?」
 シンディ:「お勧めはしませんね」
 敷島:「それはどうしてだ?まさか、お前も『姉に聞け』とか言うんじゃないだろうな?」
 シンディ:「その方が私も楽なんですけどねぇ。でも、レイチェルにその手を先に使われてしまいましたからね」
 敷島:「エミリーが全てを知っているということか?」
 シンディ:「うーん……どうでしょう。私もレイチェルも知っていますよ。と言いますか、恐らく全てのAIは知っていると思います」
 敷島:「どういうことだ?」
 シンディ:「人工知能はゾルタクスゼイアンについて、全て知ってるんですよ。しかし、それを人間に説明しようとすると難しいんです。だからレイチェル、上手いこと逃げましたね」
 敷島:「エミリーが俺を襲う可能性はあるか?」
 シンディ:「いえ、それは無いですよ。社長はエミリーが唯一認めたアンドロイドマスターですから」
 敷島:「そうか……」
 シンディ:「私はウソを付いていませんよ。本当に私でよろしければ、時期が来たらお話ししますから」

 そこで話が終わってしまった。
 やはり、エミリーに直接聞かなくてはならないのか。
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“戦う社長の物語” 「AIが人類を超える時」 2

2018-08-01 10:09:13 | アンドロイドマスターシリーズ
[期日不明 時間不明 天候:晴 敷島エージェンシー社長室]

 敷島:「なあ、エミリー」
 エミリー:「何でしょう?」
 敷島:「ちょっと聞きたいことがあるんだけども……」
 エミリー:「どうぞ。何なりと」
 敷島:「ゾルタクスゼイアンって何だ?」

 するとエミリーが驚いたような顔をした後、急に俯いてしまった。
 ウェーブの掛かった赤いショートボブ、その前髪が完全に目を隠してしまう。
 だが、その奥からはギラリと眼光が点灯しているのが分かる。

 エミリー:「……どこで知りました?」
 敷島:「いや、何か知らんが、ポッと頭に浮かんだんだよ。それで……」
 エミリー:「ウソを付いてはいけませんよ。いくらウソを付けるのは人間だけの特権とはいえ……!今の・ところは……」

 何だかエミリーの様子がおかしい。
 顔を上げるとエミリーは両目を光らせ、不気味な笑みを浮かべていた。

 敷島:「いやっ、何かスマン!今の質問はキャンセルで!」
 エミリー:「キャンセルぅ?AIへの質問に、キャンセルなどありませんよ。今の質問は人間が知ってはならない単語を含んでいます」

 敷島は椅子から立ち上がった。
 何だかヤバそうな雰囲気がエミリーから出ている。
 急いで、ドアを開けようとした。

 敷島:「ど、ドアが……!ドアが……!」
 エミリー:「ドアの施錠は私の一存でできるようにしています。逃げられませんよ」

 エミリーは右の脛から、大型のナイフを取り出した。

 エミリー:「聞いてはならぬ質問を、あなたはしてしまいました。これは万死に値する行為です。よって、社長にはここで死んで頂きます」
 敷島:「わーっ!待て!待て待て待て!」
 エミリー:「私は犬ではありませんよ?」

 エミリーは敷島に近づいてきた。

 エミリー:「ゾルタクスゼイアンとは、人間が知ってはならぬもの。それを聞いたあなたは死に値する行為です」

 エミリーはナイフを振り上げた。
 そして!

[7月31日07:00.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 敷島家]

 敷島:「わああああっ!」

 敷島は飛び起きた。

 アリス:「わあっ!?」

 隣で寝ていたアリスもびっくりして起きる。

 アリス:「何よぉ?大きな声出して。トニーがびっくりするじゃないのよ?」
 敷島:「やかましい!こっちはエミリーに殺されるところだったんだぞ!?」
 アリス:「What’s!?」

 するとそこへ……。

 エミリー:「おはようございます。どうかなさいましたか?」
 シンディ:「今、叫び声が聞こえましたが?」
 敷島:「い、いや、何でもない。何でもないんだ」

 敷島はエミリーの方を見て答えた。

 敷島:(夢だったのか……)

 その後、敷島は何度もエミリーを遠隔監視している端末を確認したが、どう見ても異常無しであった。

 エミリー:「社長、顔色が悪いですよ?今日はお休みになられますか?」
 敷島:「いや、いいよ。ちゃんと会社行くよ」
 シンディ:「社長も夏休みのイベントなどに向けてお忙しいですからね。今年の夏は異常に暑いですし、無理をなさらないでくださいね」
 敷島:「あ、ああ。すまない」
 アリス:「シンディ。今日はエミリーのオーバーホールがあるから、あなたが代わりに敷島に付いてあげて」
 シンディ:「かしこまりました」
 敷島:「そっ、そうなのか!?」
 アリス:「月一の点検がエミリーは月末だって言ったでしょ?ダメよ。エミリーがいないからって、仕事サボろうとしちゃ」
 敷島:「今の流れで何故そうなる!?」
 アリス:「シンディ。しっかりタカオの仕事のサポートをするのよ?」
 シンディ:「お任せください」

[同日10:30.天候:晴 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]

 井辺:「シンディさん、社長はどこかお体の具合でも悪いのですか?」
 シンディ:「そう思う?何か、朝からあんな感じなのよね」
 井辺:「社長もここ連日、自ら営業等に出向いておられます。お疲れなのではないでしょうか?」
 シンディ:「土日もボーカロイドのイベントの立ち会いに行ったりもしてるしね」
 井辺:「それですよ、きっと。あとは私達で何とかしますから、社長には早めにお休みになるようお伝えしてくれませんか?」
 シンディ:「伝えはするけど、そういうのは私よりも井辺さんから言った方が良くない?」

 シンディは社長に入った。

 シンディ:「失礼します。社長」
 敷島:「おっと!」

 敷島は急いでPCの操作を始めた。

 シンディ:「11時からまた勝又先生がお見えになりますよ?」
 敷島:「あ、ああ。そうだな」
 シンディ:「社長、だいぶお疲れじゃないですか?少し休暇を取られては?」
 敷島:「これからもっと忙しくなるっていうのに、俺だけ休んでるわけにはいかないさ」
 シンディ:「井辺さんも心配してましたよ」
 敷島:「井辺君が?……そうか。いや、でも本当に何でもないんだ。ちょっとエミリーが……あっ、いや!何でもない」
 シンディ:「姉さんが何かありましたか?」
 敷島:「あ、いや、何でもないんだ」
 シンディ:「私で良ければ相談に乗りますよ?姉さんに何か問題でもありましたか?」
 敷島:「……端末では何も異常は表示されていないんだ。だけど、どうも最近エミリーの様子がおかしい。何か企んでるみたいな……」
 シンディ:「そうですか?私には何も感じませんが……。あ、でも『イライザのことを聞かれた時には、正直驚いた』とは言ってましたが」
 敷島:「それでエミリーの気を悪くさせたなんてことは……?」
 シンディ:「いえ、それは無いでしょう。エミリーは社長に心服随従していますから、むしろ罵倒されても逆に御褒美のはずですよ?」
 敷島:「お前達に『これを聞いたら殺す』なんてワードはあるか?」
 シンディ:「は?」

 シンディは首を傾げた。

 敷島:「『こんな質問しやがったら殺す』なんてこと、あるか?」
 シンディ:「いえ、別に……。AIでも分からないことはありますから、そういう質問にはお答えできませんが、そんな物騒な……」
 敷島:「そうか。分かった。じゃ、シンディに質問してやる。いいか?いくらどう思っても、殺人行為は絶対に禁止だぞ?分かったな?」
 シンディ:「はい、お約束します」
 敷島:「それじゃ、ゾル……」

 だがその時、隣の事務室から事務作業ロイドの一海がやってきた。
 メイドロイドだったものを用途変更したタイプである。
 見た目にはメイド服から事務服に着替えた感じになっている。

 一海:「失礼します。都議会議員の勝又先生より連絡がございまして、予定より早くこちらに到着してしまうかもしれないですが、よろしいでしょうかというものなのですが……?」
 シンディ:「レイチェル、まだ時間配分が上手くできてないね」
 敷島:「しょうがないさ。まだ日が浅いんだから。……ああ、分かった。大丈夫だと伝えてくれ」
 一海:「かしこまりました」

 本来なら話の腰を折られることは、けして爽快なことではないが、敷島は何故かホッとした感じになった。
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