報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「幽霊より怖い者たち」

2018-05-01 10:28:03 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[魔界時間4月9日01:00.天候:晴 魔王城内コンベンションホール]

 司会者席にいるのは、あの横田。
 それでも一応、タキシードに蝶ネクタイを着けている。

 横田:「それではこれより、『ダンテ門流魔道師限定、宮中晩餐会』を開催致します。私、司会進行役を務めさせて頂きます、魔界共和党理事の横田でございます。よろしくお願い致します。先般の党大会における大感動は、未だ冷めやらぬものであります。我らが究極にして至高の女王、ルーシー・ブラッドプール陛下は……」

 稲生は横田の挨拶などどこ吹く風で、辺りを見回していた。
 少なくとも、この中に河合有紗の幽霊が混じっていることはない。
 というよりも、魔女達が放つ魔力に負けてしまって、それどころではないのだ。
 ダンテ一門に所属する魔道師の9割は女性であり、稲生は残りの1割に過ぎない。
 ましてや、日本人は稲生1人だけである。

 横田:「……それでは御臨席賜りましょう!魔界の太陰王であらせられるところのルーシー・ブラッドプール陛下のおなぁーりーーーーーーー!!」
 稲生:「最後の呼び掛け方、違くね?」

 他の党員達が伏せ拝をしながら拍手で出迎える。
 だが、魔道師達はそこまではせず、ただ単に深々とお辞儀をしたり、拍手だけをする者、初見の者はその美しさに感嘆するだけの者と千差万別であった。
 何度か会っている稲生にあっては、まるで顕正会員が浅井会長を出迎えるがの如く、伏せ拝と拍手を行った。
 要は党員達と同じというわけだ。
 恐らくこのやり方を指導したのは、顕正会でも理事の横田であろう。

 ルーシーはマリアやエレーナと同じ、白い肌に金色の髪をしていたが、その肌の色はもっと白い。
 青白いといっても良いほどだ。
 そしてその瞳の色は赤色で、その目を見ると魅入られてしまって、動けなくなるのだそうだ。
 更には……。

 

 口を開けば牙が覗く。
 これが正にルーシーの出自が吸血鬼であることの現れである。
 もっとも、妖狐の威吹とて立派な牙を持っているので、人間を捕食する妖怪は洋の東西を問わず、牙を持っているというわけだろう。
 それにしても、魔女達と違って吸血鬼は男女比がほぼ同じというから、そちらの方が安定しているのかも。

 ルーシーが玉座に座ると、そこで拍手が終わる。
 それまでルーシーを先導してきた燕尾服の首相、安倍春明がマイクの前に立つ。

 安倍:「えー、魔道師の皆さん、こんばんは。首相の安倍であります。今夜は朝までコース、是非ともお楽しみください」

 心なしかルーシーの具合が悪そうだ。
 吸血鬼というからには、今が活動時間のピークのはずなのに。
 但し、一部の吸血鬼で人間の血が混じっている者は昼間でも活動可とのこと。
 ルーシーもそのタイプである。
 魔界に来るまでは、普通にニューヨークで生活していた。

 安倍:「えー、尚、皆様の中にも既にお気づきの方がいらっしゃるようですが、女王は空腹によってテンションが下がっております。それ以上は、【お察しください】」
 稲生:(吸血鬼が空腹って、それはつまり……)

 女王としての立場が無ければ、今すぐにでも外に出て行って、人間を捕食したいということか。
 安倍は日本人の……人間であるが、安倍の血は1度も吸わないらしい。
 それは安倍がかつて魔王討伐の『勇者』という立場もあるからだろう。
 尚、会場警備と称して会場内外に魔王軍が配置されているが、その隊長としているのがレナフィール・ハリシャルマン。
 安倍とは同じパーティーの『女戦士』だった。

 稲生:(有紗より怖い人達がウヨウヨいるわけか……)

 普通ならルーシーも何か喋るところだが、機嫌が悪いせいか、それは無かった。
 尚、人間の男として横田もいるが、横田もまた血を吸われたという話を聞かない。
 ルーシーはかなりの美食家であるようだ。
 こうして、パーティーが始まった。
 ダンテ門流創始者のダンテは、早速安倍と何か喋っている。

 イリーナ:「勇太君もマリアも、気にせずパーティーを楽しみなさいな」
 稲生:「は、はい」
 マリア:「大丈夫でしょうか?」
 イリーナ:「大丈夫よ。ここは幽霊でさえもデストラップに嵌まって動けなくなるほどのギミックが仕掛けられている魔王城ですもの」

 魔王討伐隊の半分ほどのメンバーがアルカディアシティではなく、この魔王城で命を落としたとされる。
 そのアルカディアシティ内でも、魔界高速電鉄・地下鉄線のトンネルを進んだ者達が魔王城に辿り着けたという。

 マリア:「まあ、師匠がそう仰るなら……。勇太、取りあえず一杯。ビールなら行けるな?」
 稲生:「は、はい。ありがとうございます」

 稲生はマリアからビールを注いでもらった。

 稲生:「じゃあ、僕もワインを……」
 マリア:「ありがとう。何か食べよう」
 稲生:「そうですね」

 稲生が適当に飲み食いしていると、鋭い視線を感じた。
 まさか、有紗!?
 稲生は恐る恐る視線がした方向に目を向けた。

 稲生:「あれ?」

 その先にあったのは、ルーシーの玉座。
 ルーシーが玉座に座りながら、赤い瞳をギラリと光らせて稲生を見ている。
 そしてルーシーは、安倍を呼び寄せた。
 で、何か耳打ちしている。
 安倍は大きく頷いた。

 安倍:「稲生さん、ちょっといいですか?」
 稲生:「は、はい!何でしょうか?」
 安倍:「陛下があなたの血をご所望です。ご協力願えませんでしょうか?」
 稲生:「ええーっ!?ぼ、ぼぼ、僕も吸血鬼になれと……!?」
 安倍:「いえ、そういうことじゃありません。稲生さんはあくまで魔道師ですからね。しかしまだ見習で、完全な魔道師にはなりきれていない。どうか空腹のルーシーの腹を満たしてあげられないでしょうか?」
 稲生:「何だか痛そう……」
 マリア:「……私は反対です。だいいち、市民からの献血制度はどうなったんですか!?」

 ルーシーへ献血をした者には、税金全額免除などの特典があった。

 安倍:「色々あって、大っぴらにできなくなったのだよ。この魔界も、段々と人間界に似てくるようになったということかなぁ……」

 安倍は複雑な顔をした。
 ふと稲生はまた玉座に目をやったが、何故かそこにルーシーの姿は無かった。

 ルーシー:「あなたの血液型は?」
 稲生:「わあっ!?」

 いつの間にか背後に回られていた。
 ルーシーが稲生の耳元に冷たい息を吹きかける。

 ルーシー:「あなたの血液型は何?」
 稲生:「お、お、O型です」
 ルーシー:「1番甘くて美味しい型ね……」

 振り向くとルーシーは……。

 

 口を大きく開けて牙を覗かせていた。

 稲生:(これ、断ったら絶対魔王城から生きて返してくれないパティーン……)
 安倍:「こら、ルーシー!やめなさい!はしたない!」
 ルーシー:「だってぇ……」
 安倍:「だってじゃない!」
 ルーシー:「でもぉ……」
 安倍:「でもじゃない!」

 首相が女王に盾突くなどあってはならないことだが、この2人の間では『勇者』と『魔王』なのだろう。
 稲生はほぼ半強制的に献血することを了承したのである。

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