報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“魔女エレーナの日常” 「アメ横からアキバへ」

2018-03-16 19:13:42 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
 ※前回から始まっているこの作品は、“大魔道師の弟子”のスピンオフです。

[3月16日12:45.天候:晴 東京都台東区 アメヤ横丁]

 店員:「いらっしゃい」

 賑やかなアメ横の一角には、JRのガード下を中心に化粧品やブランド品などの高価な品を扱う店が軒を連ねている。
 昭和時代はインチキ商品ばかりであったというが、現在はナリを潜めて、本物志向になっているという。

 エレーナ:「ちわ。今度、魔王城のパーティーに行くもんで、色々集めてるんだけど……」
 店員:「はいはい。何でござんしょ?」

 店員は見たところ、普通の老婆。
 日本人であるようだが、エレーナの正体については既に知っているようだ。

 エレーナ:「向こうの店、東アジア魔道団の回し者がいるでしょ?……あと、このローション」
 店員:「あー、はいはい。これは入荷したばかりで、少しばかり値が張りますがのぅ……。最近、おたくらの活躍もあって、今は随分とナリを潜めておりますよ」
 エレーナ:「そう。取りあえず、今日のところは定価で買うわ。給料出たことだし……」
 店員:「毎度。いつも御贔屓にして下さっているので、これをサービスしておきますね」

 老婆の店員はエレーナに、深紅のペンダントを渡した。

 エレーナ:「ありがとう。だけど、私の趣味じゃないね」
 店員:「わらしべシステムですじゃ。これを値引き交渉代わりに、欲しい店にあげるといいですよ」
 エレーナ:「日本のシステム?面白そうね。他に何か、物騒な情報は無い?」
 店員:「そうですのぅ……。1つあったような気がしますが、寄る年波には勝てませんでのぅ……」
 エレーナ:「そこのクリームももらうわ」
 店員:「ああ、思い出しました。恐らく、人間が絡んでいるとは思えない事件が発生しておりましての……」

 エレーナはその話を聞いた。

 エレーナ:「私に関われる話かなぁ……?」
 店員:「あなた美人さんだから、きっと狙われますよ」
 エレーナ:「それはありがとう。でも、私の魔法で簡単に倒せそうな相手だねぇ……。まあ、いいや。全部でいくら?」
 店員:「3万8千円ですじゃ」
 エレーナ:「……おい、ババァ。今、さりげなく定価×2って計算しなかったか?」
 店員:「おお〜、こりゃ相すみませぬ。年を取ると、手が震えてレジのボタンの押し間違えがのぅ……。ナンマンダブ、ナンマンダブ……」
 エレーナ:「これだから日本人は……!」
 クロ:「中国人なら堂々と×2にして、韓国人ならこっそり×4で請求してくるところだニャ」

 アメ横での買い物を済ませたエレーナ。

 エレーナ:「全く。油断も隙も無い」
 クロ:「もう一件、油断も隙も無い店に行くニャ」
 エレーナ:「今度はどこ?」
 クロ:「秋葉原電気街ニャ。このまま歩いて行けるニャ」
 エレーナ:「いや、そりゃそうだけどさ。ホウキに乗って飛んで行く方が、何だか魔法使いっぽくていいんだよねー」
 クロ:「どうせ途中で瞬間移動魔法使うのがオチだニャ」
 エレーナ:「何だとこの黒猫」

 エレーナ、クロの首根っこを掴む。

 クロ:「フニャーッ!?」
 エレーナ:「それに例の店は、今はまだ閉まってるじゃないか」
 クロ:「ちょっと休憩するニャ」

[同日14:00.天候:晴 東京都千代田区外神田]

 エレーナ:「クロがいると、フツーに店に入ってコーヒーとか飲めないんだよね」
 クロ:「こういうオープンテラスの店ならOKだニャ」
 エレーナ:「そういうもんかぁ……」

 エレーナはバッグの中から水晶球を出した。

 エレーナ:「そろそろオープンしているかどうか確認しておくか」

 水晶球に手をかざす。

 エレーナ:「おーおー。眠そうに開店準備してやがらぁ」
 クロ:「おおかた、昨夜も深夜過ぎまで営業してたニャ」
 エレーナ:「じゃ、このコーヒー飲んでからでも十分だな」

 エレーナがふんぞり返ってコーヒーを啜っていると、1人の若い男が近づいて来た。

 若者:「すいません。海外のレイヤーさんですか?」
 エレーナ:「は?いや、魔道師ですけど……ハッ!」
 若者:「ああ、やっぱり!それ、あれですよね!?【とあるゲームのキャラ】のコスプレですよね?」
 エレーナ:「いや、違いますって!本物の魔道師です!……あ、何でしたら占いましょうか?見料もらいますけど」
 若者:「占い?ああ、そういえば選択肢によってはそういう展開になるパターンもありましたね!……おっと、確か占いの展開になるとバッドエンド直行になるので、やめておきます。それより、写真撮っていいですか?」
 エレーナ:「いや、ゲームのキャラじゃなくて本物ですってば!」
 若者:「そのなりきり、素敵です。その水晶球をテーブルに置いたまま、マグカップを手にするポーズはパケ写通りですね」
 エレーナ:((((;゚Д゚))))

 ここがヲタクが行き交うエリアだということをすっかり忘れていたエレーナだった。

 クロ:「もう少し人間の女らしいカッコで来れば良かったのにニャ〜」

 クロはエレーナの足元に寝そべり、大きな欠伸をした。

 それからやっと店に行くと、そこでも危うくボられそうになったので、しっかり防衛した。

 エレーナ:「やっと買い物終わり。全く。日本人より、ここで商売してる外国人の方がアコギだねぇ……。さっさと帰ろう。また変なゲームのキャラクター扱いされるのはゴメンだ」
 クロ:「どうやって帰るニャ?」
 エレーナ:「都営新宿線で帰ろう。上野御徒町駅より、岩本町駅の方が近いだろ」
 クロ:「ホウキで空を飛ぶ魔女が地下に潜る……w」
 エレーナ:「何か文句あんのか?」
 クロ:「いやいや……」
 エレーナ:「宮崎アニメの魔女だって、普通に電車とバスで移動するシーンがあるだろ」

 但し、電車は路面電車であって、地下鉄ではない。

 クロ:「む!殺気!」
 エレーナ:「なに!?」

 クロがダッと走る。
 エレーナの後から走った。

 ヤンキーA:「大漁大漁!好景気だぜぇ!」
 ヤンキーB:「ぎゃはは!これだからオタク狩りはやめられねぇんだよなぁっ!」
 ヤンキーC:「おまわりが職質してんのは俺達が狩る方の奴らだからよ、ゼーキンの無駄遣いだよなぁ、ひゃっは!」

 大笑いしながら路地裏から出てくるヤンキー達。
 クロが路地裏に入ると、倒れているヲタクが1人いた。

 鈴木:「うう……ちくしょう……ちくしょう……!」
 エレーナ:「ちょっとあんた大丈夫?」
 鈴木:「うるせぇよ……!」
 エレーナ:「いいからほら、掴まって!」

 エレーナが鈴木に肩を貸してやると、ボロボロになったバッグの中から汚れた数珠と経本が落ちた。

 エレーナ:「これは……?」
 鈴木:「ちくしょう……何が日蓮正宗だよ……!これならまだ顕正会の方が良かったじゃねーか……ううう……!」
 エレーナ:(どこかで見たことあるなぁ……)

 エレーナが稲生勇太の顔を思い出すのと、クロが戻って来るのは同時だった。

 クロ:「財布取り戻して来たニャー!」
 エレーナ:「よーし、デカした!じゃあ日本人のお兄さん、報酬は3割ほどでいいや」
 鈴木:「なん……だと?」

 だが……。

 ヤンキーA:「待てや、コラ!」
 ヤンキーB:「泥棒猫!ブッ殺してやる!」
 ヤンキーC:「ここへ逃げ込んだぞ!」

 あのヤンキー達が戻って来た。

 エレーナ:「治安のいい日本も、悪い所は悪いんだねぇ……」
 ヤンキーA:「あ、何だこの外人は!?」
 ヤンキーB:「ちょ、待て!ちょ、美人じゃね!?」
 ヤンキーC:「別の意味のプレイしよっぜ!」

 だが次の瞬間、アキバのほんの一角において爆発音が響いたという。
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“魔女エレーナの日常” 「コミックリリーフも大変だ」

2018-03-16 14:09:50 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月16日11:00.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 エレーナ:「誰がコミックリリーフだ!」

 あんただよ。

 オーナー:「どうしたんだい?急に大声で」
 エレーナ:「あっ、すいません!魔法のことで……」
 オーナー:「まあいいや。今日のチェックアウト業務終わりだね。お疲れさん。もう上がっていいよ」
 エレーナ:「はい、お疲れさまでした」

 エレーナは都内の廉価なビジネスホテルで、住み込みで働いている。
 大きな町の小さな店に住み込みで働きながら魔法の修行をする。
 これは女魔法使いの基本中の基本である。

 エレーナ:「いや、とあるアニメのパクリ設定だから」
 クロ:「エレーナ、いちいちナレーションに突っ込まなくてもええニャ?」

 因みに使い魔(ファミリア)が黒猫という点もベタな法則。
 ここではホテルのマスコットという感じだが。

 エレーナ:「うるさいな」
 クロ:「一眠りして、配達の仕事かニャ?」
 エレーナ:「今日はお届け物は無かったでしょ?今日は明け番だから、ちょっとシャワーだけ浴びて出掛けてくるわ」
 クロ:「あいよ」

 エレーナは地下1階へ下りた。
 表向きは機械室があるだけということになっているのだが、実はエレーナが寝泊まりする部屋も作っている。
 もちろん立ち入り禁止なので、普段はエレベーターも地下1階へは行かない設定になっている。

 クロ:「それではエレーナがシャワーを使っている間、ちょっと御紹介しますニャ。わっちは黒猫のクロでありんす。冒頭に登場したんは、飼い主のエレーナ・M・マーロン。ウクライナのキエフ出身で……」
 エレーナ:「いいから、オマエも体洗え」
 クロ:「フニャーッ!?」

 エレーナ、クロの首根っこを掴んで一緒にシャワールームに連れ込んだ。

 クロ:「何するニャ!?わっちは今、読者の皆様に御紹介を……!」
 エレーナ:「いや、誰もクロに興味無ェし」
 クロ:「トチロ〜さんは猫好きニャ!また猫増えてるんニャ!」
 エレーナ:「いや、だからそういうのいいから。ほら、おとなしく洗われろ」
 クロ:「動物虐待ーっ!」
 エレーナ:「あーあ……。私もベタ過ぎる黒猫じゃなくて、イリーナ師みたいにドラゴンを使い魔にできたらなぁ……」
 クロ:「フニャ!?」

 エレーナはシャワーを浴びて着替えると、再び地上に戻った。

 エレーナ:「ちょっと出掛けて来ます!」
 オーナー:「ああ、行ってらっしゃい」

 オーナーは普通の初老の人間だが、魔道師達のことをよく知っており、ダンテ門内でも“協力者”の扱いになっている(軍隊における軍人ではなく、軍属みたいなもの)。
 ホテルの外に出る。

 エレーナ:「何だか変な空だねぇ……」
 クロ:「午後から雨だニャ」
 エレーナ:「雨か。まあ、ローブがあれば大丈夫か」

 魔道師のローブは防水になっており、レインコートの代わりを十分に果たすことができる。
 エレーナは普段から帽子を被っている為。普段はフードを被ることは無い。

 エレーナ:「帽子と言っても、とんがり帽子ではないですよ?そこまでベタ過ぎやしませんよ?」
 クロ:「ニャから、ナレーションに突っ込むニャって……」
 キャサリン:「おや、エレーナ。お出かけかい?」
 エレーナ:「キャシー。今日は明けで、そのままオフだから」

 キャサリンもダンテ一門の魔道師で、ポーリン組に所属していた。
 だからエレーナの先輩に当たるわけだが、エレーナが入門する直前に免許皆伝によって独立した為、今は同門の士というだけの繋がりでしか無い。
 弟子を取れるほどの階級にいるが、今はいない。
 ホテルに併設されたレストランを経営している。
 ポーリン組は魔法薬を開発・製造するジャンルである。
 キャサリンはそこで得た知識を駆使し、魔法薬を薬膳として創作料理に使うアイディアを出した。
 その実験場として、このレストランがある。

 エレーナ:「また飴玉作って、中高生に配布する仕事はしないの?」
 キャサリン:「やだねぇ!天丼は2回までだよ」

 キャサリンは魔法の力で若い姿を保っているが、実際はエレーナの何倍も長く生きている老魔女である(それでもかつての師匠のポーリンよりも年下である)。
 上下関係には厳しい魔女の世界のはずだが、後輩であるエレーナがフレンドリーなのは、キャサリンがそうさせているだけだ。
 元の老魔女に戻った時以外は、フレンドリーに接してくれと。

 エレーナ:「稲生氏の学校に配った時は、さすがにマズったね。稲生氏の学校で、キャシーの活動が『学校の七不思議』扱いされたもんね」
 キャサリン:「怪談話の正体なんて、こんなもんさ。数十年前まではまだ私も血の気が多くてね、さすがに無礼な男の子を痛めつけてやったりもしたけど、まさかそれが稲生君達が追って来ることになろうとはね。稲生君はまだ見習いなのに、もう使い魔を持っているのかい?」
 エレーナ:「妖狐の威吹のこと?なーんかねぇ、成り行きでそうなったみたいよ〜?」
 キャサリン:「狐……それも妖狐を使い魔にするなんて、とんだ素質のコが入ったものね」
 エレーナ:「全く。ウチなんかただの黒猫なのに」
 クロ:「フニャ!?」
 キャサリン:「ああ、そうそう。エレーナも行くでしょ?魔王城の舞踏会」
 エレーナ:「4月1日に行われるアレですね。行きますよ」
 キャサリン:「ほぼ間違い無く、イリーナ組も来ると思うわ」
 エレーナ:「でしょうねぇ……」
 キャサリン:「それじゃ」
 エレーナ:「ういっス」

 エレーナはキャサリンと別れて、新大橋通り(都道50号線)に出た。

 クロ:「キャサリン師に、その舞踏会の為の買い出しに行くことがバレたみたいニャ?」
 エレーナ:「別に内緒にするものでもないけど、しっかり見透かされたね。魔法を使った形跡は無いから、ただの年の功か……」
 クロ:「或いは、それすらエレーナに気づかせないほどの魔法かニャ?」
 エレーナ:「なるほど。いくらマスター(一人前)に認定されたといっても、まだまだあの人達から見ればヒヨっこなんだなぁ……」

 エレーナはそう呟いて、都営地下鉄の森下駅に向かった。

 エレーナ:「御徒町周辺で全部揃えられるはずだから。アンタはバッグの中に入ってて。日本の地下鉄、動物そのまんまはNGだから」
 クロ:「OKニャ」

 地下鉄に限らず全部の公共交通機関において、日本では動物は体が一部でも外に出ないよう、キャリーに入れることが義務付けられている。
 もちろん、そのキャリーの大きさも最大サイズが決められている。
 詳細においては【WEBで確認!】。
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“戦う社長の物語” 「水面下におけるロイド達のやり取り」

2018-03-16 10:15:32 | アンドロイドマスターシリーズ
[1月13日19:00.天候:晴 静岡県富士宮市ひばりが丘 スーパーホテル富士宮]

 敷島:「シンディはここで待っててくれ。もし出先で何かあったら、すぐに呼ぶから」
 シンディ:「かしこまりました」

 敷島はシンディを留守番させる方を選択した。

 シンディはオーナーとユーザーが食事に行っている間、客室のライティングデスクの椅子に座っていた。
 脇腹から延びるコードは、充電用のケーブルだ。
 それで室内のコンセントに繋いで、自分も充電している。
 もちろん充電中であっても電源は入っているので、コードが届く所までは行動できる。
 尚、窓の縦引きカーテンは完全に閉めており、外から部屋の様子は見えない。
 シンディは元スナイパーだ。
 その辺は上手く心得ている。
 もっとも、ホテル周辺には、遠くから部屋に銃弾を撃ち込める箇所など無いのだが。
 それにしたって、外から敷島達の部屋が分からないようにするに越したことは無い。

 エミリー:「シンディ、シンディ。応答せよ」

 そこへエミリーから通信が入った。

 シンディ:「姉さん?修理は終わったの?」
 エミリー:「さっき、何とか終わった。私の代理、務めてくれてありがとう」
 シンディ:「それは何とも無いわ。それより、今は仙台?」
 エミリー:「そうだ。明日、平賀博士に連れられてそちらに向かう」
 シンディ:「こっちは静岡の富士宮。黒いロボットの手掛かりを追っていたら、KR団の吉塚博士に辿り着いたってわけ」
 エミリー:「吉塚博士は、ドクター・ウィリーのバージョンシリーズとは用途は同じだが、それとは違うタイプのロボットの開発をさせられていた。多分それが黒いロボットの元祖だろう」
 シンディ:「何で知ってるの!?」
 エミリー:「私のメモリーの奥深くに少し入ってた。昔……まだ敷島社長が南里研究所に来られる前、実は南里博士は吉塚博士と会っていたのだ。あの時の私はロボット同然だったから、大してメモリーに入れて無かったが……(というより、当時の性能ではまだメモリーの容量が小さかった)」
 シンディ:「マジか……。それと、9号機のデイジーは知ってるでしょ?寝返ったわ」
 エミリー:「デイジーが?……そうか。私達よりも新型だから、少し警戒した方がいい」
 シンディ:「私の廉価版・劣化版でしょ?それなら、そんなに心配無いと思うけど……」
 エミリー:「それでも私達より新しいタイプなことに変わりは無い。ジャニスとルディはそこに却って弱点があったが、アルエットは手ごわかった」
 シンディ:「っつっても、アルは別に敵対してなかったし」

 ジャニスとルディの弱点。
 それは自分達が最新型だと奢り、旧型とバカにしていたエミリーとシンディに油断したこと。
 のみならず、人間までも見下したこと。

 エミリー:「その探索で、色々な物は手にしたのだろう?」
 シンディ:「ええ。今、それは私が見張ってる」
 エミリー:「そうか。それは誰の命令だ?」
 シンディ:「社長よ」
 エミリー:「さすがは社長だ。もしシンディを護衛に連れて行ったりしたら、今頃部屋に侵入されて、その重要なサンプルが持ち去れていただろう」
 シンディ:「ええっ!?」
 エミリー:「黒いロボットは未だに稼働している。あいつら、体を出来る限り小さく折り畳んだり、手足のパーツを自分で取り外しできるから、それで小さな隙間からも入って来れるんだ」
 シンディ:「色合いといい、ゴキブリみたいな奴らだねぇ……」

[同日20:00.天候:晴 同ホテル客室]

 ドアロックが解除される音が聞こえる。
 すぐにドアが開いて入って来たのは敷島とアリス。

 シンディ:「お帰りなさいませ」
 敷島:「おうっ!今帰ったぞー!」
 アリス:「おえ……飲み過ぎた……」

 シンディを使役しているオーナーとユーザーの夫婦は、完全に泥酔していた。

 シンディ:「博士、大丈夫ですか?」
 敷島:「少しは加減しろって言ったんだがな。全く」
 シンディ:「またメイドロイド談義でもされたんですか?」
 敷島:「相も変わらず、不毛な論争だ。所詮は酔っ払いだよ」

 そういう敷島も、だいぶ顔が赤い。

 敷島:「取りあえず、そこに寝かせとけ」
 シンディ:「大丈夫でしょうか?」
 敷島:「心配すんな。こんなこともあろうかと、ソルマック買っておいたから」
 シンディ:「どの時点で想定されていたのですか?」
 敷島:「俺は風呂入って来るぞ」
 シンディ:「はい。温泉でしたね。博士も楽しみにしておられましたのに……」
 敷島:「明日の朝入ればいいだろ。チェックアウトの時間まで入れるんだから」
 シンディ:「それもそうですね」
 敷島:「ま、俺は朝風呂よりも夜入る方だから」

 敷島はロビーから持って来た浴衣に着替えた。
 ここのホテルは大浴場がある関係で、温泉地の旅館やホテルのように、浴衣で館内を行き来しても良いことになっている。

[同日21:00. 天候:晴 宮城県仙台市青葉区 東北工科大学・南里志郎記念館]

 エントランスホールでピアノを弾くエミリー。
 本来の演奏時間は17時だが、今はそれを無視している。
 修理が終わって、別に今はここにいなくてもいいのだが、エミリーはあえて明日の出発までここにいることを望んだ。

 バージョン4.0-4:「エミリー様、ソロソロ充電ノオ時間デス」
 エミリー:「分かった」

 ちゃんとバージョン4.0の4号機(B4-4)、エミリーが一曲弾き終わってから声を掛ける。

 B4-4:「何カ思ワレル所ガ有ノデスカ?」
 エミリー:「いや、別に」

 エミリーは鍵盤の蓋を閉じた。
 バージョンに先導されて、玉座のある部屋まで向かう。

 エミリー:「お前達に命令しておくことがある」
 B4-4:「ハッ、何デショウ?」
 エミリー:「私達の後継機とされる……9号機のデイジーを名乗る者が来ても、『ブロック』しろよ。命令は一切聞いていけない」
 B4-4:「か、カシコマリマシタ」
 エミリー:(シンディはあまり気にしていないようだが……レイチェルのような策士みたいなプログラムが組み込まれていたなら……危険だな)

 エミリーは充電の準備をしながら玉座に座り、そう考えた。
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