報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“戦う社長の物語” 「急ぐとも 心静かに 手を添えて 外に漏らすな 松茸の露」

2018-03-04 22:18:59 | アンドロイドマスターシリーズ
[1月9日14:00.天候:晴 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]

 敷島:「何だか、どこかに潜んでいる気がするなぁ……」

 敷島はトイレを済ませた後、洗面台で手を洗いつつ、天井の通気ダクトを見上げた。
 格子状のグレーチングの先には闇があるだけで、もちろんそこに都合の良いタイミングで黒いロボットが潜んでいようはずがない。

 敷島:「うーん……」

 バシュー!

 敷島:Σ(゚Д゚)

 突然、小便器の1つから水が勝手に流れ出した。
 もちろん、これは最近のセンサー内蔵便器には当たり前の標準仕様。
 一定時間使用が無いと、排水溝の汚れなどを取る為に勝手に水が流れるシステムになっているのだ。
 とはいえ、静まり返ったトイレ内でいきなりのジェット水流だと、例え分かっていてもビックリするものである。
 夜中に巡回する警備員泣かせのトイレでもある。
 だからなのか、最近は『人がいなくても水が流れます』という表示が見える所にしてあることも多い。

 敷島:「何だか、ホラーチックだなぁ……」

 ザザザー!

 敷島:Σ(゚Д゚)

 今度は個室の方だ。
 こちらも最新のセンサー式ではあるのだが、これは仕様なのか、あるいはセンサーの不具合によるものなのかは不明。

 敷島:「全く。あの黒いロボットと関わってから、ロクなことが無ェ……」

 18階をワンフロア借りしている為、例え共用トイレとは言っても、殆ど敷島エージェンシーの関係者しかトイレを使わない。
 ましてや、ここに入居した当初、人間は敷島と井辺しかいなかった為に、ほとんど使用は無かったと言える。

 敷島:「うおっ!?」

 トイレの外に出ると、鏡音リンが待ち構えていた。

 敷島:「どうした、リン!?びっくりしたなぁ……」
 リン:「ねぇ、社長。リンね、『人間ってのは不便な生き物だねー』って思ってたんだ」
 敷島:「ああ。いちいちトイレに行かなきゃいけないからか?まあ、人間も生き物だからな」
 リン:「でもね、アルるんもトイレに行くことがあるから、何だかなぁ……って」
 敷島:「アルエットか。あいつは燃料電池駆動だもんな。水素を使っているから、廃水が発生するんだ。それを排水するのに、せっかくだからもっと人間に似せるという理由で、トイレに行かせる仕様にしてるんだよ」
 リン:「リンもそれに改造できない?」
 敷島:「いや、それは無理だな。そもそもマルチタイプとボーカロイドじゃ、体の中の構造が違うし……」

 というか、そもそもそのマルチタイプであっても、旧型の7号機までと新型の8号機以降では動力が違う。

 敷島:「エミリーとシンディも燃料電池駆動に改造してみるか検討したんだけど、やっぱやめた」
 リン:「どーして?」
 敷島:「今、リンが言ったセリフさ。いちいちトイレに行くことが、やっぱ面倒だからだよ。そんな不便な所まで再現することは無かろうということでな。バッテリーで動けるお前達は、そこが便利なんだよ」
 リン:「でも充電したり、バッテリー自体交換しないといけないYo〜?」
 敷島:「それでいいんだよ。人間だって、飯を食わないといけない」

 そこへシンディがやってきた。

 シンディ:「あ、ここにいたんですか、社長」
 敷島:「お、シンディ。どうした?」
 シンディ:「平賀博士から電話です。大至急お戻りください」
 敷島:「おっ、そうだった。そういうわけだから、じゃな。リン」
 リン:「うん!」

 敷島は小走りに社長室へ戻って行った。

 シンディ:「社長と何を話していたの?」
 リン:「シンディの言う『人間の下等で愚かな部分』だYo」
 シンディ:「んん?」
 リン:「それじゃリン、ボイス調整やってくるね」
 シンディ:「あ、ああ。行っといで」

 人間のアイドルならボイストレーニング、略称ボイトレだが、ボーカロイドの場合は調整となる。

 シンディ:「リンの奴、何て……?」

 敷島は社長に戻り、すぐに電話に駆け寄った。

 敷島:「もしもし!すいません、お待たせしました」
 平賀:「ああ、敷島さん。お忙しいところ、申し訳ありません」
 敷島:「いえ。何かありましたか?」
 平賀:「はい。エミリーのことなんですが……」
 敷島:「エミリーがどうかしましたか?」
 平賀:「成田営業所から連絡があって、どうも重要な部品まで交換しないといけないみたいなんです。それが営業所で調達しようとすると時間が掛かるので、仙台に移送しようと思います」
 敷島:「また仙台ですか。行ったり来たり、大変ですな。でもまあ、エミリーにはそれくらいの価値がありますからね」
 平賀:「ええ。その部品、東北工科大学で作れるので、エミリーはついでにこっちで直します」
 敷島:「そっちは雪はどうですか?」
 平賀:「何とか除雪が進んできましたね。幸いあれから雪は降っておらず、しかも1月にしては最高気温が高めですから。余計、雪が融けやすいんでしょう」
 敷島:「そうですか。雪が融けてくれるのはありがたいですが、あまり急激だと雪崩とか雪解け水による水害もあったりしますからね」
 平賀:「ええ。すいませんが、エミリーはもう少し預からせて頂きます」
 敷島:「ええ、よろしくお願いしますよ」
 平賀:「静岡には行きますか?」
 敷島:「そのつもりです。先生とエミリーが行けないのは残念ですが、シンディでも連れて行きますよ。あとは誰か、ロボットに詳しい人物がいれば……」
 平賀:「アリスでも連れて行ったらどうですか?」
 敷島:「あ、そうか……」

 敷島は、あとは吉塚広美の遺族と連絡を取った。
 遺族達は別にロボット関係には関わっておらず、しかも吉塚がロボット関係の仕事をしていることは知っていたものの、まさかKR団に所属していたことまでは知らなかったという。
 ま、そりゃそうだろう。
 『ロボットが人間の代わりに仕事をするのは大いに結構。だがしかし、“万物の霊長”たる地位まで譲る必要は無い』ことの理念の遂行を目的に、テロ活動も辞さなかった組織のことなど、話すわけが無い。
 敷島がそんな遺族と連絡を取ったのは、再び吉塚広美が住んでいた家を調査したいが為、その許可を取る必要があったからだった。
 当然ながら遺族はそんな連絡に驚きはしたものの、調査に関しては意外とあっさりOKが下った。
 何でも今その家は、空き家になっているのだという。
 最近日本で問題になりつつある空き家だが、元KR団幹部だった女性科学者の家までもその問題の波に呑まれているということか。
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“戦う社長の物語” 「更なる事実」

2018-03-04 13:31:00 | アンドロイドマスターシリーズ
[1月8日17:00.天候:晴 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]

 敷島:「……事前に収録されたテレビやラジオ番組など以外は、ほぼ全てキャンセル。こりゃ今年初めから緊縮財政かな」
 シンディ:「でも新しい仕事が続々と舞い込んでくる見込みはありますから、さほど気にする必要は無さそうですけどね」
 敷島:「お前も楽天家だな」

 事務所に戻った敷島を待ち受けていたのは、ボーカロイド達の熱烈な出迎えだった。
 シンディが追い払ってくれなかったら、敷島はなかなか社長室に辿り着くことができなかっただろう。

 敷島:「事務所にも何か雪害が出たってわけでもないようだし、そこはまあ、留守を預かってくれたロイド達のおかげかな」
 シンディ:「自分達のホームを全力で死守するという使命を、ほぼ自動的に背負うのはロイドならではでしょう」
 敷島:「それは頼もしい。……さてと、被害状況の確認も終わったし、ボカロ達の様子も確認できたから、そろそろ帰るとするか」
 シンディ:「タクシー呼びますか」
 敷島:「いや、東京駅までならバスで帰るからいいよ」
 シンディ:「ダメですよ。未だに社長の御命を狙ってるテロリストはいるんですから」

 シンディは電話を取って、タクシー会社に電話した。

 シンディ:「……1台お願いします。……はい。……そうですね。地下の車寄せは閉鎖されているので、防災センターの入口前でお願いします」
 敷島:「さすがの新幹線も、あの大雪害では運休だったか……」

 敷島、自分のスマホを見ていた。


 シンディ:「社長、タクシー予約しましたので、行きましょう」
 敷島:「ああ、分かった」

 社長室を出ると、初音ミクが奥からやってきた。
 休業日の事務所の廊下は照明が消えていて薄暗い。
 ボウッと鈍く光る両眼や手足の一部などが、人間ではないことを物語る。

 初音ミク:「社長、もうお帰りなんですか」
 敷島:「ああ、取りあえずな。イベントの仕事、全部潰れてヒマだっただろうが、雪も融けてきたし、明日からまた仕事できるようになるよ」
 ミク:「はい。頑張ります」

 エレベーターを待っていると、警備ロボットとして臨時警備に当たっているマリオとルイージがやってきた。

 マリオ:「社長、ドウカオ気ヲ付ケテ!」
 ルイージ:「事務所ノ警備ハオ任セクダサイ!」
 敷島:「ああ。黒いロボットの侵入に気をつけろ。どうも人間を襲うことは無いようだが、代わりにガイノイドにエロ攻撃するのが目的のエロロボットらしいから」
 マリオ:「ハハッ、オ任セクダサイ!」

 ピンポーン♪

 シンディ:「社長、エレベーターが来ました」
 敷島:「おう」

 スーッとドアが開く。

 黒いロボットA:「ザビ?ザビィ」

 しかしそこには既に黒いロボットが一機乗っていて、何故かエレベーターボーイをやっていた。

 黒いロボットA:「ザビ?☝ザビ?☟」
 シンディ:「何やってんだ、コラぁ!!」

 シンディが黒いロボットを吊るし上げている最中、敷島はホール内の内線電話で防災センターに掛けている。

 敷島:「ちょっと警備員さん!エレベーターに黒いロボットが乗り込んでるじゃないの!一体、どうなってるんだ!?」

 ピンポーン♪(他のエレベーターが到着する)

 黒いロボットB:「ザビ!」

 ピンポーン♪(また別のエレベーターが到着する)

 黒いロボットC:「ザビビ〜」
 敷島:「何だ何だ!いっぱいいるじゃないか!マリオ、ルイージ!排除しろ!」
 マリオ:「ハハッ!」
 ルイージ:「オ任セヲ!」

 マリオとルイージはバージョン5.0の量産機である。
 が、この2機以来、製造記録は無い。
 事実上、この兄弟機を以ってバージョンシリーズの開発・製造は打ち切りとなっている。
 だがそこは最新型機、例え開発・製造が打ち切られたシリーズであっても。
 強さに関しては、エミリーやシンディが直接部下に置きたいと思うほどの強さである。
 黒いロボット1機ずつに関しては、マリオとルイージの圧勝だった。
 もちろん、シンディも楽勝でバラバラにしてしまった。

 敷島:「よし。皆、よくやってくれた。全く。油断も隙も無い連中だ。そういうことだから、マリオとルイージは事務所の警戒強化をよろしく」
 マリオ:「ハハッ!」
 ルイージ:「オ役ニ立テテ何ヨリデス」

 しかしその後、防災センターから駆け付けた警備員達や、その通報より駆け付けた警察の捜査があったりした為、実際の退館時刻は遅くなってしまった。

[同日18:00.天候:晴 東京都江東区→中央区 タクシー車内]

 タクシーに乗った敷島とシンディ。

 敷島:「自分で体を分解してダクトなどの狭い所に潜み、また自分を組み立てて襲って来る……というシステムだったか」
 シンディ:「本当にそんなことができるんですね」

 今回の場合、黒いロボットは何らかの方法でビルに侵入。
 ダクトやエレベーターシャフトの中に体を分解した状態で潜んでおり、敷島やシンディの入館の後でまた体を復元したらしい。

 敷島:「ゲームとかではよくあるけどな」
 シンディ:「そうなんですか?」
 敷島:「あるある。ある程度のダメージを与えると体がバラバラになって倒したかと思ったら、すぐにまた体が自動的に組み立って襲って来るっていうキャラ」

 主にスケルトン(ガイコツ)やロボットなどに多い。

 シンディ:「面倒ですね」
 敷島:「まあな。それより……」

 と、そこへ電話が掛かって来た。
 敷島がスマホを取ると、平賀からであった。

 敷島:「はい、もしもし?」
 平賀:「ああ、敷島さん。平賀です」
 敷島:「どうしました、先生?」
 平賀:「エミリーの方、難しい所はだいたい終わりました。あとはDCJの社員でも大丈夫でしょう。それより、黒いロボットのデータをエミリーが持っていましたよ」
 敷島:「エミリーが?」
 平賀:「仙台で自爆する直前、エミリーは黒いロボットの信号を掴んだそうです」
 敷島:「信号を飛ばしていた所が分かったと。それはどこですか?アメリカ?」
 平賀:「いや、日本です。それも、我々が前に行った場所ですよ」
 敷島:「北海道?」
 平賀:「違います。静岡ですよ。静岡県富士宮市とまでしか分かりませんでしたが、そこで何か思いつきませんか?」
 敷島:「吉塚広美博士の家だ……」
 平賀:「黒いロボットの行動を指示する信号が、そこから飛ばされていた。気になりませんか?」
 敷島:「そりゃ気になりますよ。調査の必要ありですな。何とかしないと、また事務所に侵入されてしまう」
 平賀:「そちらもですか!いや、こっちもさっき侵入してきて大変だったんです」
 敷島:「大丈夫だったんですか!?」
 平賀:「防犯用のレーザービームに見事に引っ掛かってくれたおかげで、再び体をバラバラにした状態で捕獲できましたけどね」
 敷島:「それ、いいんですか!?逆に!」

 DCJの親本社であるDCIアーカンソー州研究所以外の別の研究所では、SFアクション映画さながらのセキュリティシステムが完備されているそうな。
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