報恩坊の怪しい偽作家!

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“Gynoid Multitype Sisters” 「東北本線利府支線」 

2017-08-22 12:30:11 | アンドロイドマスターシリーズ
[8月11日10:14.天候:晴 JR東北本線岩切駅]

 2両編成の電車が田園地帯の中を駆け抜けて、岩切駅に接近した。
 ここで東北本線の『本線』と『支線』に分岐する。
 敷島達が行くのは支線の方だ。

〔「まもなく岩切、岩切です。1番線に入ります。お出口は、右側です。この電車は、普通、利府行きです。塩釜、松島、小牛田(こごた)方面には参りませんのでご注意ください。乗り換えのご案内です。今度の仙石東北ライン下り、快速、石巻行きは3番線から10時25分。その後、東北本線下り、普通、小牛田行きは同じく3番線から10時52分です。この電車は岩切駅に3分停車致します。発車は10時17分です。新利府、終点利府へお越しのお客様は、発車までしばらくお待ちください。……」〕

 さらっと次の本線電車が約40分後というところが、やはり地方ローカル線である。
 支線であるはずの電車が何故トップナンバーの1番線に入るのかというと、かつては利府方面が本線だったからである。
 今では利府駅で線路がぷっつり切れているが、昔はその先まで続いており、東北本線の品井沼駅で合流していた。
 塩釜、松島方面が支線扱いだったのである。
 利府方面は山線と呼ばれ、当時の蒸気機関車で登るにはキッツイ坂があった。
 列車によっては重連(機関車を2台繋ぐこと)で通行していたほどである。
 そこで当時の鉄道運営側はその手間を省く為、塩釜、松島方面に海線と呼ばれる支線を作った。
 こちらは坂が緩やかだったので、蒸気機関車1台でも難無く通行できたという。
 そうしているうちに観光地も通る松島支線の方が段々と列車本数も多くなり、利府本線の方が衰退していった。
 そしてついに1962年4月20日に利府〜品井沼間が廃止され、それまで支線だった海線が本線となり、本線だった山線が支線となり、今に至る。
 利府駅が廃止にならなかったのは、代替路線が無かった為、利府町民の交通利便を図る為である(尚、新利府駅ができたのは山線廃止の20年後)。
 普段はラッシュ時以外、2両編成の701系が支線内を行ったり来たりするだけだが、今日みたいなセキスイハイムスーパーアリーナでイベントが行われる時は臨時増発も行われるなど、如何に支線化されたとはいえ、今すぐ廃止にされるほど需要が無いわけではない。
 また、それまで1面1線だけだった利府駅のホームも2面2線化され(つまり、1番線しか無かった駅に2番線が追加された)、けして需要が低過ぎるというわけではないことを物語っている。

 敷島:「ん……?」
 シンディ:「起きました?」
 敷島:「ああ……。長閑な所を走っていたものだから、ついついうとうとしてしまった。岩切か?」
 シンディ:「はい」
 敷島:「半分まで来たな」

 駅に到着すると、あちこちからドアチャイムの音が聞こえてくる。
 JR東日本仙台支社管内では、乗降ドアは終日半自動扱いになる。
 その為、ドアボタンを押す度にチャイムが鳴るというわけである。

 敷島:「ん?」

 敷島達は後ろの車両に乗っているのだが、ふと半室構造の乗務員室に目をやると、車掌が荷物をまとめて電車を降りていた。
 別の車掌と交替するのかなと思ったが、交替要因が来る様子が無い。

〔ドアボタンを押して、お乗りください。利府行き、ワンマンカーです〕

 敷島:「はい?」

 車内がガラガラなうちに、停車時間の3分が過ぎた。

〔ピンポーン♪ この電車は東北本線下り、各駅停車の利府行きです。新利府、終点利府の順に止まります。まもなく、発車致します〕

 車掌がいない状態で、空きっ放しのドアがチャイムの後で閉まった。
 そしてVVVFインバータの音を響かせて、電車が走り出す。

〔ピンポーン♪ 今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は東北本線下り、各駅停車の利府行きワンマンカーです。これから先、新利府、終点利府の順に止まります。途中の無人駅では後ろの車両のドアは開きませんので、前の車両の運転士後ろのドアボタンを押してお降りください。【中略】次は、新利府です〕

 敷島:「ほほぉ……。“最終電車”でもワンマンだったんだよなぁ……」
 シンディ:「社長、これ最終電車じゃないです」
 敷島:「いいか、シンディ!次の駅を通過したら、非常停止スイッチを引くぞ!幸いこの電車、向かって右側がガラ空きだ!バージョン4.0の腹掻っ捌いて、乗務員室の鍵を取る必要は無い!」

 701系電車はワンマン運転対応の為、運転席部分にしか運転室が無い。
 真ん中には運賃箱が置かれ、最近では右側には強化ガラスの仕切り版が設置された車両も存在するものの、やはりワンマン非対応の車両と比べれば解放感がある。

 シンディ:「私はその場所を知らないので、社長が引いてください」
 敷島:「おっと!そうだったな」

[同日10:23.天候:晴 JR利府駅]

〔ピンポーン♪ まもなく終点、利府です。お近くのドアボタンを押して、お降りください。運賃、整理券は駅係員にお渡しください。乗車券、定期券、Suicaは自動改札機をご利用ください。どなた様も、お忘れ物の無いよう、ご注意ください。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 シンディ:「何事もありませんでしたね」
 敷島:「考え過ぎか……。やっぱり、あれは夢だったのかなぁ……」
 シンディ:「きっとそうですよ」

 電車が県道3号線の踏切を通過すると、すぐにホームに入る。
 最大8両編成まで停車できる有効長を持つが、普段からそんな列車はやってこない。
 改札口に近い前の方まで電車は進み、所定の停止位置で電車は止まった。
 尚、先ほど『1番線しか無かった駅に2番線が追加された』と述べたが、かつてはこっちのルートが本線だった頃は2番線があったので、実際には『1度廃止になった2番線が復活した』と表現する方が正しいだろう。
 尚、2番線を使用する列車で定期便はラッシュ時の1本しかなく、あとは臨時列車用である。
 Suicaに対応した自動改札機が設置されているが、そこから先はベタな地方ローカル駅の法則である。
 但し、町のコミュニティセンターが併設されている所だけが違うか。

 敷島:「どれ、タクシーで移動するか」
 シンディ:「そうですね」

 敷島達は駅前のタクシー乗り場に止まっていたタクシーに乗り込んだ。

 シンディ:「セキスイハイムスーパーアリーナまでお願いします」
 運転手:「はい」

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2 コメント

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Unknown (マイケル)
2017-08-22 17:09:10
百三さん、今晩は。
お疲れ様です。

有効長・・思わずググってしまいました。
専門知識に裏打ちされているだけあって、面白く仕上がってますね!

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マイケルさんへ (雲羽百三)
2017-08-22 19:16:51
 こんばんは。感想ありがとうございます。

 すいません、無意識のうちに専門用語を使っちゃって。
 利府駅ホームの写真はウィキペディアにも載っていますが、頭端式(車止め付きの行き止まり式)になっているのが分かります。
 改札口はその1番線の車止めの手前を左に曲がった所にあります。
 電車が入線すると、ちょうど先頭車が到着する横に改札口がある形になりますか。
 もちろん駐車場の車と違って、電車は車止めギリギリまで行くことはありません。
 利府駅の場合は、更に1両分余裕を持たせた手前が停止位置になります。
 それと同時に、後ろも1両分くらいの余裕が持たされているので、利府駅のホームの全長は実質的に200メートルほどであるというのが分かります。
 この辺は実際に鉄道で働いておられる、んっ?さんの方が詳しいかと。
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