[11月5日07:00.天候:晴 埼玉県さいたま市 稲生家]
イリーナ:「そう。2人ともそんな夢を見たのね」
起床して朝食を取っている間、稲生とマリアは夢の内容を報告した。
稲生:「先生は見なかったんですか?」
イリーナ:「いや、私は見てないねぇ……」
マリア:「“魔の者”からのメッセージか何かでしょうか?」
イリーナ:「まだ分からないわ。ただ、2人とも似たような夢を見たってことで、ただの偶然で片付けられるものでもないわね」
稲生:「ですよねぇ……」
稲生はズズズと味噌汁を啜った。
マリアの屋敷ではどうしても食事は洋食になりがちなので(食事を作るメイド人形達がイリーナやマリアの好みに合わせる為。稲生専属メイド人形と化したダニエラが唯一、夜食にお握りを作ってくれるくらい)、こういう時に日本食を食べる稲生だった。
イリーナ:「ところで2人とも、今日は今朝ここで初めて会ったのに、どうして同じ夢を見たって知ってるの?」
稲生:「ええっ!?」
マリア:「!!!(しまった!ヤブヘビ……!)」
イリーナ:「今の話だと、2人で廃屋を探索したっていう感じには聞こえなかったけどォ……」
稲生:「え、えっとぉ……」
マリア:「…………」
イリーナ:「マリア、あなたがお姉さんなんだから、あなたが答えなさい」
マリア:「は、はい。実は……」
マリアは仕方なく、昨夜の出来事を話した。
齢1000年強の大魔道師に、ヘタな誤魔化しは聞かない。
マリアは正直に話した。
イリーナ:「(・_・D フムフム。それでシャワーの後は稲生君の部屋に同衾したわけか」
稲生:「し、してません!」
マリア:「閲覧者が誤解するからやめてください!」
イリーナ:「なーんだ。つまんないの。そのままベッドインすれば良かったのに……。ほら、日本の諺で『旅の恥は掻き捨て』って言うでしょお?」
稲生:「せ、先生、多分それ、意味違うと思います」
イリーナ:「そーお?」
マリア:「師匠、そこは指導者として、私達を咎めるべきじゃ?」
イリーナ:「えっ、何で?ダンテ一門の綱領を忘れたの?『仲良きことは美しき哉』『君は君、我は我なり。されど仲良き』でしょ?」
稲生:(きっと大師匠様、武者小路実篤とも親交があったんだろうなぁ……)
マリア:「それに、避妊具も無いのに、その……ソレはマズいですよ」
稲生:「そう、それ!僕達はちゃんと弟子の本分として、節度ある行動を……」
するとイリーナ、椅子に掛けてあるローブの中からある物を取り出した。
イリーナ:「取りい出したるコンドーム」
マリア:「あるんかい!」
稲生:「あったんですかい!」
イリーナ:「ゴメーン。渡すの忘れてたお♪」
稲生:「渡す気あったんですか……」
マリア:(てか絶対、今どこかから魔法で持ってきただろ。ったく……!)
[同日08:15.天候:曇 JR大宮駅]
大宮駅西口のタクシー乗り場に、1台のタクシーが到着する。
運転手:「はい、ありがとうございます。ちょうど1000円です」
稲生:「おー、本当にちょうどだ」
稲生は財布から1000円札を取り出した。
これは今朝、家を出る時に母親からもらったもの。
元はと言えば父親の宗一郎が、これで駅までタクシーに乗って行けと置いて行ったものである。
その宗一郎は会社役員よろしく、早朝から他の役員と共にゴルフに行ってしまっている。
イリーナの占いで、今日ゴルフに行くと良いことがあるらしい。
助手席に座っていた稲生は、すぐに1000円札を渡した。
あとはトランクに積んでいる荷物を降ろすだけである。
イリーナ:「荷物運び、大変だね。少し、送った方が良かったかねぇ……」
稲生:「いえ、弟子として当然です」
イリーナ:「まあ、頼もしい……」
稲生はキャリーケースをゴロゴロと引いた。
稲生:(それにしても、先生の荷物の中って何なんだろう?)
そう思ったが、それは詮索しないのもまた弟子の本分である。
おおかた、着替えなどの旅行道具の他、魔道書や魔法具などが入っていることは想像できたが……。
タクシー乗り場のすぐ前にはエレベーターやエスカレーターがある。
稲生は慣れた感じで、エスカレーターに乗り込んだ。
ついついそのまま改札口へ行ってしまう勢いだったが、
マリア:「勇太、チケットは?」
稲生:「おっと!失礼しました!」
乗車券はこの大宮駅からとなっている。
思わずSuicaで乗ろうとした稲生だった。
稲生:「新宿まで埼京線で行きます。大宮始発なので、確実に座れます」
イリーナ:「それはありがたいね。日本の電車は安心して寝れるからねぇ」
マリア:「勇太、池袋駅を出たらすぐに師匠を起こすんだよ?」
稲生:「もちろんです」
新宿止まりの電車なら、折り返しでしばらく停車するので、イリーナを起こすのに手こずっても降り遅れの心配は無い。
改札口を通ると、再び下りエスカレーターで地下ホームを目指す。
〔まもなく19番線に、当駅止まりの電車が参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。この電車は折り返し、8時29分発、各駅停車、新宿行きとなります〕
まるで地下鉄のように轟音と強風を起こして、電車がゆっくりと入線してきた。
緑色の帯がよく目立つE233系である。
〔おおみや、大宮。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕
3打点チャイムのドアが開くと、ここまで乗って来た乗客達がぞろぞろ降りてくる。
稲生:「よいしょっと」
稲生達は先頭車に乗り込んだ。
平日の朝方は女性専用車となる車両だが、土曜日のこの日は対象外である。
稲生は進行方向左側の座席横にキャリーバッグを置いた。
稲生:「じゃあ、先生はここに」
イリーナ:「悪いねぇ。じゃ、着いたらまた起こしてもらおうかねぇ……」
イリーナはそう言うと、白い仕切り板にもたれ掛ってローブのフードを被った。
マリア:「池袋駅の時点で私が起こす」
稲生:「お願いします」
イリーナの隣にマリアが座っているので。
〔この電車は埼京線、各駅停車、新宿行きです〕
〔This is the Saikyo line train for Shinjyuku.〕
マリアは赤い縁の眼鏡を掛けると、自分のバッグの中から魔道書を取り出した。
魔道書に文庫本サイズのものは無く、小さくてもA4サイズである。
マリア:「乗り換えは1回だけなんでしょ?そこは上手く考えたって感じ?」
稲生:「いや、大したこと無いですよ。やっぱり、アルカディアメトロよりは乗りやすいんで」
このE233系も、いずれは魔界高速電鉄の線路の上を走ることになるのだろうか。
イリーナ:「そう。2人ともそんな夢を見たのね」
起床して朝食を取っている間、稲生とマリアは夢の内容を報告した。
稲生:「先生は見なかったんですか?」
イリーナ:「いや、私は見てないねぇ……」
マリア:「“魔の者”からのメッセージか何かでしょうか?」
イリーナ:「まだ分からないわ。ただ、2人とも似たような夢を見たってことで、ただの偶然で片付けられるものでもないわね」
稲生:「ですよねぇ……」
稲生はズズズと味噌汁を啜った。
マリアの屋敷ではどうしても食事は洋食になりがちなので(食事を作るメイド人形達がイリーナやマリアの好みに合わせる為。稲生専属メイド人形と化したダニエラが唯一、夜食にお握りを作ってくれるくらい)、こういう時に日本食を食べる稲生だった。
イリーナ:「ところで2人とも、今日は今朝ここで初めて会ったのに、どうして同じ夢を見たって知ってるの?」
稲生:「ええっ!?」
マリア:「!!!(しまった!ヤブヘビ……!)」
イリーナ:「今の話だと、2人で廃屋を探索したっていう感じには聞こえなかったけどォ……」
稲生:「え、えっとぉ……」
マリア:「…………」
イリーナ:「マリア、あなたがお姉さんなんだから、あなたが答えなさい」
マリア:「は、はい。実は……」
マリアは仕方なく、昨夜の出来事を話した。
齢1000年強の大魔道師に、ヘタな誤魔化しは聞かない。
マリアは正直に話した。
イリーナ:「(・_・D フムフム。それでシャワーの後は稲生君の部屋に同衾したわけか」
稲生:「し、してません!」
マリア:「閲覧者が誤解するからやめてください!」
イリーナ:「なーんだ。つまんないの。そのままベッドインすれば良かったのに……。ほら、日本の諺で『旅の恥は掻き捨て』って言うでしょお?」
稲生:「せ、先生、多分それ、意味違うと思います」
イリーナ:「そーお?」
マリア:「師匠、そこは指導者として、私達を咎めるべきじゃ?」
イリーナ:「えっ、何で?ダンテ一門の綱領を忘れたの?『仲良きことは美しき哉』『君は君、我は我なり。されど仲良き』でしょ?」
稲生:(きっと大師匠様、武者小路実篤とも親交があったんだろうなぁ……)
マリア:「それに、避妊具も無いのに、その……ソレはマズいですよ」
稲生:「そう、それ!僕達はちゃんと弟子の本分として、節度ある行動を……」
するとイリーナ、椅子に掛けてあるローブの中からある物を取り出した。
イリーナ:「取りい出したるコンドーム」
マリア:「あるんかい!」
稲生:「あったんですかい!」
イリーナ:「ゴメーン。渡すの忘れてたお♪」
稲生:「渡す気あったんですか……」
マリア:(てか絶対、今どこかから魔法で持ってきただろ。ったく……!)
[同日08:15.天候:曇 JR大宮駅]
大宮駅西口のタクシー乗り場に、1台のタクシーが到着する。
運転手:「はい、ありがとうございます。ちょうど1000円です」
稲生:「おー、本当にちょうどだ」
稲生は財布から1000円札を取り出した。
これは今朝、家を出る時に母親からもらったもの。
元はと言えば父親の宗一郎が、これで駅までタクシーに乗って行けと置いて行ったものである。
その宗一郎は会社役員よろしく、早朝から他の役員と共にゴルフに行ってしまっている。
イリーナの占いで、今日ゴルフに行くと良いことがあるらしい。
助手席に座っていた稲生は、すぐに1000円札を渡した。
あとはトランクに積んでいる荷物を降ろすだけである。
イリーナ:「荷物運び、大変だね。少し、送った方が良かったかねぇ……」
稲生:「いえ、弟子として当然です」
イリーナ:「まあ、頼もしい……」
稲生はキャリーケースをゴロゴロと引いた。
稲生:(それにしても、先生の荷物の中って何なんだろう?)
そう思ったが、それは詮索しないのもまた弟子の本分である。
おおかた、着替えなどの旅行道具の他、魔道書や魔法具などが入っていることは想像できたが……。
タクシー乗り場のすぐ前にはエレベーターやエスカレーターがある。
稲生は慣れた感じで、エスカレーターに乗り込んだ。
ついついそのまま改札口へ行ってしまう勢いだったが、
マリア:「勇太、チケットは?」
稲生:「おっと!失礼しました!」
乗車券はこの大宮駅からとなっている。
思わずSuicaで乗ろうとした稲生だった。
稲生:「新宿まで埼京線で行きます。大宮始発なので、確実に座れます」
イリーナ:「それはありがたいね。日本の電車は安心して寝れるからねぇ」
マリア:「勇太、池袋駅を出たらすぐに師匠を起こすんだよ?」
稲生:「もちろんです」
新宿止まりの電車なら、折り返しでしばらく停車するので、イリーナを起こすのに手こずっても降り遅れの心配は無い。
改札口を通ると、再び下りエスカレーターで地下ホームを目指す。
〔まもなく19番線に、当駅止まりの電車が参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。この電車は折り返し、8時29分発、各駅停車、新宿行きとなります〕
まるで地下鉄のように轟音と強風を起こして、電車がゆっくりと入線してきた。
緑色の帯がよく目立つE233系である。
〔おおみや、大宮。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕
3打点チャイムのドアが開くと、ここまで乗って来た乗客達がぞろぞろ降りてくる。
稲生:「よいしょっと」
稲生達は先頭車に乗り込んだ。
平日の朝方は女性専用車となる車両だが、土曜日のこの日は対象外である。
稲生は進行方向左側の座席横にキャリーバッグを置いた。
稲生:「じゃあ、先生はここに」
イリーナ:「悪いねぇ。じゃ、着いたらまた起こしてもらおうかねぇ……」
イリーナはそう言うと、白い仕切り板にもたれ掛ってローブのフードを被った。
マリア:「池袋駅の時点で私が起こす」
稲生:「お願いします」
イリーナの隣にマリアが座っているので。
〔この電車は埼京線、各駅停車、新宿行きです〕
〔This is the Saikyo line train for Shinjyuku.〕
マリアは赤い縁の眼鏡を掛けると、自分のバッグの中から魔道書を取り出した。
魔道書に文庫本サイズのものは無く、小さくてもA4サイズである。
マリア:「乗り換えは1回だけなんでしょ?そこは上手く考えたって感じ?」
稲生:「いや、大したこと無いですよ。やっぱり、アルカディアメトロよりは乗りやすいんで」
このE233系も、いずれは魔界高速電鉄の線路の上を走ることになるのだろうか。
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