報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「波乱の出発」

2014-07-16 21:14:26 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月18日12:00.長野県某所にあるマリアの屋敷・応接室 イリーナ・レヴィア・ブリジッド&ポーリン・ルシフェ・エルミラ]

「あの男をあなたの弟子にですって?」
 ロングのウェーブの掛かった金髪に碧眼の魔道師は、妹弟子を見据えた。
 赤毛のセミロングで緑色の瞳をしている。
「そ。私の見立てでは、高僧の生まれ変わりよ。生まれつきの霊力も備わってる。あのまま埋もれさせるには惜しいわ」
 姉弟子に見据えられたイリーナは、スマイルを浮かべて弟子が出した紅茶を口に運んだ。
「男が魔道師なんて……!」
「あら?“ハリー・ポッター”知らないの、姉さん?」
「姉さん言うなって言ってるでしょ!……ホグワーツ魔法学校みたいなのが作れたら、師匠だって苦労しないよ」
「知ってんじゃん!今度USJ行ってみたいね」
「無理に決まってるでしょ!」
「作者が西日本に行こうとすると、決まって台風直撃か豪雪で鉄道がストップするもんね」
「何の話!?」
「まあまあ。先生(大師匠)だって、『男手が必要だ』って仰ってたじゃない!」
「それは本当に男の弟子が欲しいという意味で仰ったのかしら?」
「『推して知るべし』がモットーだもんね、あの先生」
「それを自分の都合のいいように解釈して、あんたは勝手なことを散々……」
「あー、はいはい。そのお説教なら、もう359回聞いてるから」
「数えてるんかい!」
「とにかく、魔道師が女だけってのも寂しいからね。“ハリー・ポッター”だって、主人公が男の子だから面白かった部分もあるわけだし……」
「関係あるの、それ?“魔女の宅急便”の主人公は女だよ?」
「姉さんは魔女っ子みたいなコを育てた。その結果がエレーナなら、全然オッケーじゃない」
「子供番組向けの魔女っ子だと思ってナメると痛い目……どころか、命が無くなるほどにね」
 ポーリンはニヤリと笑った。
「ま、現実はそんなもんよ。とにかく、私は私の考えがあるから」
「だから邪魔するなとでも?」
「ダメ?」
「フザけるなよ」

[同日21:40.JR大宮駅西口 稲生ユウタ&威吹邪甲]

「フザけるなよ」
 大宮駅西口のバスプール内に進入した路線バス。
 その車窓から外を眺めた威吹は憎たらしそうな顔で呟いた。
「まあ、しょうがない」
 ユタは半ば諦めといった感じだった。
 窓の外は豪雨が降っていた。
「はい、威吹。傘持ってー」
「分かったよ」
 バスは幸い駅舎に1番近い階段の前で止まった。
 降車用の前扉が開き、そこに近づく度に湿っぽい臭いが威吹の鼻をつく。
「わっ!」
 バスを降りると同時に、近くで落雷があり、大きな爆発音のような音が響いた。
「いい加減にしろよな……!とんだ嫌がらせだぜ」
 何故、威吹が苛立つのか。

 話は数時間前に遡る。

[同日15:00.埼玉県さいたま市中央区 ユタの家 稲生ユウタ]

 ユタは自宅でマリアからの電話を受けていた。
「え?ポーリン師が?」
{「ああ。ユウタ君が私達と仲良くしているのを快く思わないみたい」}
「何で!?」
{「ほら、うちの師匠があなたを魔道師にしたがってるっていう話はしたでしょう?ポーリン師はそれに反対なのよ。どういうわけだか……」}
「へえ……」
{「私と会うということは、必然的に師匠とも会うことになるわけだから、その時にユウタ君が弟子入りしないか気が気でないみたいなんだ」}
「ポーリン師はポーリン師で、僕を狙ってるということですか?」
{「いや、そうじゃないみたい。私も理解できない考えがあるらしい」}
「ふーん……?よく分かりませんね」
{「それでいい。とにかく、私の家に来るに当たって、ポーリン師からの妨害があるだろうから気をつけてほしい」}
「まさか、大地震を起こすとか?」
{「それはさすがに無いと思う。大師匠からも禁忌とされた魔法で、師匠クラスでも強さや範囲の調節が難しい魔法だ。一応は真面目なポーリン師が、そんなリスクのある魔法を使うとは思えない」}
「……まさか東日本大震災も、それでしたってオチじゃないでしょうね?」
{「それは無い」}
 ユタの疑問に、マリアはぴしゃりと否定した。
{「秘密だから詳しくは話せないが、魔界の負の力が作用したとでも言っておく。あれは気の毒だが、私が見ている限りでもどうしようも無かった」}
「そうですか……」
{「何しろ悪魔達が責任を押し付け合う程の騒ぎだったって話だ。普通なら、『オレがやったんだ』と自慢げに話すらしいが、あの震災だけは何故か全員が『オレじゃない、オレじゃない』ばっかりだそうだ」}
(魔界で何が……?)
{「まあ、とにかくうちの師匠の見立てではゲリラ豪雨ではないかと言ってる」}
「ゲリラ豪雨?」
{「ああ。台風だと、発生させてから日本に直撃させるまでブランクがある。しかしゲリラ豪雨なら、師匠クラスであれば割と簡単にその場でできる魔法だそうだ。だから、それに注意してくれ」}
「分かりました」

[同日同時間帯 JR大宮駅埼京線ホーム 稲生ユウタ&威吹邪甲]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の20番線の電車は、21時49分発、通勤快速、新宿行きです〕

「地下に入るとゲリラ豪雨が嘘みたいだね」
 しかし閉じた傘から滴り落ちる水滴が、外の雨の強さを物語っていた。
「ボクにとっては、魔道師同士のケンカにユタが巻き込まれたみたいで、納得行かないんだ」
「まあまあ。何があっても大丈夫。その為に僕は仏法をやってるんだからね」
「お気楽だねぇ……」
「そんなことは無いさ。だいたい、今度乗る電車で行っても、実はバスターミナルにはバスの発車の1時間前くらいには着いちゃうんだ」
「そんなに早く!?そんなに早く着いてどうするの?」
「どうもしないさ。『戦いとは常に二手三手先を読むもの』って、威吹、カンジ君に言ったそうじゃないか」
「まあね」
「これも戦いさ。1時間前に着くようにすれば、例え妨害があって……」

〔「埼京線ご利用のお客様にお知らせ致します。今度の21時49分発、通勤快速の新宿行きですが、川越線内での集中豪雨の影響により、電車が徐行運転を行ったため、遅れております。只今、電車……えー、お隣の日進駅に到着した所でございます。到着までもうしばらくお待ちください。……」〕

「……このように遅延食らったとしても、このくらいならまだ大丈夫!ああ、大丈夫だとも!」
「う、うん。そうだね。頑張ろう!」
 ユタと威吹は手を取り合った。
 傍から見ればBLだ。アッー!!

[同日21:55.JR埼京線2154S電車10号車内 稲生ユウタ&威吹邪甲]

〔「遅れておりました21時49分発、通勤快速の新宿行き、まもなく発車致します。ドアが閉まります」〕

 ようやくユタ達を乗せた通勤快速は、大宮駅の地下ホームを発車した。
「た、多分これで大丈夫……」
「あ、ああ」

〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は埼京線、通勤快速、新宿行きです。停車駅は武蔵浦和、赤羽、十条、板橋、池袋、終点新宿です。次は、武蔵浦和です〕
〔「お客様にお知らせ致します。只今この電車、川越線内におきまして集中豪雨のため、徐行運転を行っておりました。その関係で大宮の駅を6分ほど遅れて発車しております。お急ぎのところ、大変ご迷惑をお掛けしております。……」〕

 地上に出た通勤快速を待ち受けていたのは……。
「これ……夕立じゃないよね?」
「う、うん……」
 普通、ゲリラ豪雨というのは短時間で発生する強い雷雨のことであるはずだ。
 ユタ達がバスに乗って駅に向かって、この電車に乗ってから40分以上経っているのだが、全く止む気配が無かった。
 まるで積乱雲がユタ達を追っているかの如くである。

 
 ポロロロ〜ン♪

『川越線 運転見合わせ。川越線は河川増水の影響で、大宮〜川越間の上下線で運転を見合わせております。埼京線との直通運転を中止しております』

「ゆ、ユタ、あれ見て」
 威吹が電車の窓の外を指さす。
「え?あれ……?何でそこに止まってんの?新幹線……」
 いつもなら埼京線などアウトオブ眼中で追い抜くはずの新幹線が途中で停車しており、埼京線が悠々と追い抜いていった。

 
 ポロロロ〜ン♪

『東北新幹線 運転見合わせ。東北新幹線は21時40分頃に発生した落雷の影響で、上下線で運転を見合わせております』
『上越新幹線 運転見合わせ。上越新幹線は21時40分頃に発生した(ry』
『山形新幹線 運転見合わせ。山形新幹線は21時40分頃に(ry』
『秋田新幹線 運転見合わせ。秋田新幹線は(ry』
『長野新幹線 運転見合わせ。(ry』

「うわ、大変なことに……」
「着いたら、魔道師共に文句言ってやろう」
 威吹は右手だけでパキッと骨を鳴らした。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“アンドロイドマスター” 「皆と過ごす夏休み」 5

2014-07-16 15:34:36 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月12日17:56.湘南モノレール大船駅→JR大船駅 アリス研究所の面々、十条伝助、キール・ブルー]

 2面1線のホームに、3両編成のモノレールが入線してくる。

〔「ご乗車ありがとうございました。大船、大船、終点です。お忘れ物、落し物の無いよう、ご注意ください。JR線はお乗り換えです」〕

 降車ホーム側に降り立った乗客達は敷島達のような旅行客も去ることながら、どちらかというと地元客の方が多いように見えた。
「敷島君のことじゃから、乗り換え先の電車も考えてあるのじゃろうな?」
 と、十条。
「お察しください」
 敷島は笑みを浮かべて答えた。
「宿は江ノ島じゃなかったのね」
 と、MEIKO。
「悪いな。さすがにシーズン中ということもあって、直前では取れなかった。都内がやっとだったよ」
「あーあ。浜でバーベキューとかやりたかったのになぁ……」
 ボヤくMEIKOに、
「あんた達はその焼いた物が食べれないでしょう?」
 と、さすがのアリスも突っ込んだ。
「アタシのラボの前なら、バーベキューでも花火でも何でもOKよ」
「ははは……。海は無いけどな」
「それより参事、十条博士はお疲れです。早くJR線のホームへ」
 キールが敷島を促した。
「ああ、そうだな。本当に浜じゃ色々あったし」
「迷子捜しとか土左衛門回収とかね」
 MEIKOはイタズラっぽく笑った。
「だから迷子じゃないって!」
「土左衛門じゃないって!」
 2人の少年・青年ボーカロイドは赤い女性ボーロカイドに文句を言った。
「ドンマイドンマイ。プロデューサー、東海道線あっち?」
「乗り換えるのは東海道線じゃないぞ」
「えっ?」
「まあ、どうしても東海道線に乗り換えたいというのなら止めないけど、そこら辺は自分で考えて行動してください」
「リン、自分で考えろって」
 MEIKOはすぐ横にいた少女ボーカロイドに振った。
「うーん……」
 リンは腕組みして考える。
 そして徐に荷物の中から、持ってきたビーチボールを膨らませると、
「誰かボール遊びしませんかー!?」
「はーい!」(レン&ミク)
「何も考えてなかったろー?お前らー?」

[同日18:23.JR横須賀線1816S電車5号車 上記メンバー]

〔この電車は横須賀線、各駅停車、東京行きです。……〕

「大船駅始発の、それも東京駅止まりを狙うとは、敷島君もやるのぉ……」
 十条が感心したように言った。
「日本の鉄道だけですよ。アムトラックやグレイハウンドについては、理事やアリスの足元にも及びません」
「んふふふ……。そうかね?」
 電車は定刻通りに発車した。外国から見れば、これって凄いことらしい。

〔この電車は横須賀線、各駅停車、東京行きです。4号車と5号車は、グリーン車です。グリーン券を車内でお買い求めの場合、駅での発売額と異なりますので、ご了承ください。次は、戸塚です〕

「宿泊先のホテルで、一席設けてありますので、夕食はそちらで……」
 敷島は十条に耳打ち。
「おう。これはすまんの」
 都内のマンション暮らしの十条は宿泊しないで、敷島の設けた一席の後で帰宅する予定である。
「ところで、KAITOはどうして電源を切ったりしたんだ?」
 敷島は座席に深く腰掛けて“省電力モード”に入っていたKAITOに話し掛けた。
「脱出不可能じゃなかったんだから、潮が満ちてくる前に脱出すれば良かっただろ?」
 最初、電源が切れたのはバッテリー切れのせいだと思っていた。
 だが、バッテリーパックを調べてみると、バッテリーの残量は半分以上も残っていた。
「それが、異物がボクの体に当たった反応がありまして……。それでどういうわけだか、電源が落ちてしまったんです」
「自動復旧もしないで?」
「はい」
「アリス」
 敷島はアリスに振った。
「KAITOの電源が切れた辺りの履歴を調べて見ると、『過電流』で切れたことになってるね」
「ええっ?落雷でもあったか?あんなにカンカン照りだったのに……」
「強いて言うなら、今夜遅くに東京駅周辺はゲリラ豪雨に見舞われることになっておる」
 と、十条。
「雷怖い~!」
 怖がるリン。
 人間にとっても落雷は命に関わるものだが、それは精密機械の塊たる彼ら(彼女ら)も同じこと。
 敵への攻撃として高圧電流を放つこともできるエミリーでさえ、それを受ける方には滅法弱い。
 兵器としても使えるマルチタイプの弱点だ。
 以前は海水への耐性が無かったため、それも弱点とされていたが、改良を受けてそれは克服されている。
「しかもレンの行動もおかしいわ」
「レンが何をしたの?」
「あんた、そもそも何でジュース買いに行ったりしたの?」
「え?」
「飲めないのは分かってるよね?」
「も、もちろんです。あ、あれ……?そういえば何でだろ……???」
 レンは首を傾げた。
 ルカは、
「私には『プロデューサー達に買う』って言ってたけど……」
 と、答えた。
「沖で遊んでて、何の脈絡も無く?」
「ええ」
「そもそも何で、あのスタッフ達はレンを迷子だと判断したんだ?」
「レンもその時間帯、『過電流』になってるのよ」
「クラゲにでも刺されたかい?中には電気を放つヤツもいるだろう?」
「いやいや、敷島君。キミは恐らくカツオノエボシのことを言ってるのじゃと思うが、あれは放電してるわけではないのじゃぞ?」
「あ、そうなんですか」
「刺されると、まるで感電したかのように感じるので、通称『電気クラゲ』と呼ばれるようになっただけのことじゃ。ボーカロイドくらいになると、あんなクラゲに刺されても、どうってことにないわい」
「そもそも、クラゲがボーカロイドに刺してくるとも思えないわねぇ……。電気ウナギは?あれは本当に放電するでしょう?」
「湘南の海に電気ウナギがいたら、向こうの学会で発表できるよ。確かにまあ、相当な発電量らしいですね?理事」
「うむ。さすがにJRの電流には到底及ばんが、その半分くらいは放電すると聞いたことがある」
「JRの直流電化区間は1500ボルトだから……」
 敷島は天井を見上げた。更にその上には、この電車の燃料たる直流電流を流している架線がある。
「……その半分っていうと、750ボルトぉ!?」
「そんなものかの」
「大阪市の御堂筋線が走らせられますなぁ……」
「そんなことより、戻ったらどうしてKAITOの電源が勝手に切れたかとレンがどうして不可解な行動を取ったか解明するよ」
 と、アリス。
「分かったよ。ちゃんとした実験結果が出て良かったじゃないか。あとは原因を解明するだけだな」
「はははは。簡単に言うが、意外と難しいかもしれんぞ」
 十条は笑って言った。
コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“アンドロイドマスター” 「皆と過ごす夏休み」 4

2014-07-16 02:20:56 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月12日15:00. 神奈川県藤沢市 江ノ島海水浴場 敷島孝夫]

「だってお前、レンと一緒に泳いでたじゃないか!」
 敷島は泣きじゃくるリンに問い詰めた。
「いつの間にかいなくなってたの!」
「GPSは?」
「反応・ありません」
 と、エミリー。
「リン、緊急SOS信号は発信されたか?」
「それも無いよ……」
「フム。リンとレンの場合、長時間の浸水でGPS機能とSOS発信機能に不具合か……。これはまだまだ改良の余地がありそうね」
 アリスは冷静に実験ノートを付けた。
「そんな暢気なことしてる場合じゃないだろ!」
「そうですよ。最悪、海に沈んだ可能性も……あっ!」
 MEIKOが最悪のパターンを言ってしまった為に、
「レンが海の底に……!?」
 また大泣きしそうになるリン。
「リン、ストップ!ストップ!」
 慌てて止めに入るMEIKOだった。
 ところが、
「どどど、どうしよう!?レンには来週から仕事がギッシリ入ってるっちゅーに!スケジュールの調整がーっ!」
 頭を抱えて右往左往する敷島。
「ちょっと!それより回収費用と修理費用を考えなさいよね!ただでさえボーカロイド1機作るのに何億かかると思ってんの!!」
 ↑使用者と研究者で目の付け所が違うという点。
「まあまあ、皆。少し落ち着きたまえ」
 そこへ十条がやってきた。
「冷静になって考えるんじゃ。……ウォッホン!えー……まず、わしは財団の責任者ではなく、皆の友人として来たわけであってじゃな……。じゃからその……責任とか、そういうのはの……。ハハハハ……」
「俺達が……」(敷島)
「しっかりしないと……」(アリス)
「もうこの博士、ダメかも……」(MEIKO)
「あの……何かあったんですか?」
 そこへルカとミクがやってきた。
 敷島が説明する。
「実はレンが行方不明になっちゃって……。ヘタすりゃ海の底に沈んでるかもしれないんだ」
「ええっ!?」
 ミクは驚いた顔をしたが、ルカは冷静にこう言った。
「あれ?でもさっき、レンなら陸に上がったはずですけど……」
「えっ!?」
「それは本当か!?」
「はい。私が海に入って体の表面温度を冷やしてる時、レンが陸の方に向かって泳いでました」
「レンはちゃんと陸に上がったかね?」
 十条がルカに聞いた。
「いえ、そこまでは……」
「ふむ……。陸に向かって泳いでいる最中、強力な離岸流に巻き込まれて沖まで流されたか……」
「あの、ドクター十条」
 エミリーが口を開いた。
「私の目(カメラ)に・鏡音レンが・陸に上がった・様子が・記録されて・います」
「なにっ!?」
 アリスは急いで、手持ちのタブレットをエミリーに接続した。
 すると映し出されたのは、エミリーがちょっかいを出してきたMEIKOとケンカして、アリスに止められるところ。
 微かにレンが海から上がって砂浜を歩いているのが映っていた。
「じゃあ、レンは陸の上に!?」(敷島)
「どこ行ったのかしら?」(アリス)
「皆のメモリーを確認してみよう!」(敷島)
 但し、真っ先にレンを行方不明と断定したリンは除く。
 するとルカと遊ぶミク、MEIKOと取っ組み合いのケンカをしたエミリーに付いた砂を落としてあげているキール。
 この2人の目に撮影されたレンが、海の家に向かって歩いて行く所が僅かに映っていた。
「ごめんなさい。これくらいなら、レンが不審な行動を取っているとは思わなくて……」
「申し訳ありません。私もエミリーに気を取られてしまって……」
 2人のボーカロイドと執事ロボットは敷島達に謝った。
「まあ、しょうがない。ちょっと行ってみよう」

[同日15:30.同海水浴場・海の家“めろん” 敷島孝夫]

「……その男の子なら、そこの自販機の前にいたでゲソ」
 海の家の店員が目撃していた。
「ジュースを買おうとして、2人の女に声を掛けられていたでゲソ。多分、逆ナンじゃなイカ」
「しまった!レンのそれをすっかり忘れていた!」
 美少年ボーカロイドとして、大人のイケメンボーカロイドとはまた違う人気がレンにはあったのだった。
 しかしアリスが、
「でも、それが何だって言うの?ただのファンなら、少しサービス(握手とか撮影とか)してあげれば済む話じゃない?」
「わっかんないよー。レンは軽いし小さいし持ち運びしやすいから、もしかしたら『お持ち帰り』されてたりしてー。なんて……」
 MEIKOの言葉に、
「それ、人間なら誘拐言いまっせ?」
 と、敷島。
「れ……レンが……レンが……ゆ、ゆ、誘拐……!?」
「うあぁあぁ!リン、待って!泣かないで!」
 ミクが慌ててリンを抱きしめた。
「しかしそうなると、警察に届ける必要が出て来るのではないかね?」
 十条が右手を顎にやりながら言った。
「とはいうものの、レンが盗まれたという確証はまだ無いから、現時点では『遺失物捜索願』とかになるんではないかね?」
 と続けた。
「そ、そうですね。確か、移動交番があったはず。ちょっと一っ走り行ってきます」
「あー、初音ミクも一緒についてってあげなさい。他の者は、ここに残るように」
「分かりました」
「では行ってきます」
 敷島とミクが移動交番に向かった後で、
「『ロボットを1機紛失しました』で、警察は信用してくれるかしら?」
 アリスは心配そうな顔をした。
「どうじゃかのぅ……。じゃから初音ミクを連れて行かせたのじゃが……。実物を見せれば、いくら何でも信用せざるを得んじゃろうて。MEIKOは余計なこと言いそうじゃし、リンはまた泣かれると困るしの」
 と、その時だった。

〔ピンポンパンポーン♪「こちらは江ノ島海水浴場、迷子センターです。宮城県仙台市からお越しの敷島孝夫様、鏡音レン君と仰るお子様を……」「お子様じゃないって言ってんじゃん!!」〕

[同日16:00.同海水浴場・迷子センター 敷島孝夫]

「迷子じゃないのに迷子扱いされた!『お父さんかお母さんはどこ?』って聞かれた!何だこれ!」
 今度はレンが泣く番だったという。
「お手数おかけしました」
 敷島はスタッフに頭を下げた。
「こちらこそ、てっきり迷子かと……」
 スタッフ達も、ばつが悪そうにしていた。
「いやー、大ごとにならなくて良かったよー、迷子クン」
 MEIKOが悪戯っぽく言った。
「迷子じゃないって言ってんじゃん!」
「とんだ実験結果が待ってたわ……」
「まあ、何はともあれ、じゃ。財団の査問機関の介入はもちろんのこと、警察沙汰にもならなくて済んだことじゃし、一夏の思い出ということにしてみてはどうかの?」
 と、その時、浜辺の上の道路に、けたたましいサイレンを鳴らした救急車や消防車が止まった。
 救急隊員はもちろんのこと、消防車からはレスキュー隊員が飛び降りてきた。
「何だ何だ?」
「どうやら、誰か溺れたかしたみたいね」
「ふむ。それなら、わしらの出る幕ではないの」
「じゃあ、レンも無事だったし、着替えして片づけしたら宿に向かうぞ」
「はーい!」
「……ねえ、プロデューサー。何か忘れてない?」
 MEIKOが不審そうな顔をした。
「は?何が?」
「むぅ?何かロボットが1機足りんような気がするが……」
「ちょっと!今度は誰よ!?」
 アリスがいい加減にしろとばかり声を荒げた。

[同日ほぼ同時間帯 同海水浴場 KAITO]

「レスキュー隊、通りまーす!道を空けてくださーい!」
 満潮時刻になった浜辺。
 KAITOが砂に埋まっていた場所は既に海に沈み、電源の切れた彼は土左衛門状態だったという……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする