[現地時間7月4日10:00.アルカディア王国・王都アルカディアシティの地下を走る魔界高速電鉄2号線 エレーナ・マーロン]
「空飛んでると、スカルヘッドがウザいから地下から行くわ」
「楽してんニャ」
スカルヘッドとは言わば大型のドクロのモンスターで、これも空を飛ぶ。
巨体を生かして、地面にわざと激突し、周辺に大きな振動を与える傍迷惑なモンスターである。
無論、今は魔王軍治安維持部隊や公安警察が目を光らせているので、そういった迷惑行為は少なくとも市内では見られなくなった。
それでも、他の飛行物体を見つけると、ふわふわとついてくる習性がある。
ナッパー・バットと違い、それだけで、襲ってくることはないのだが、エレーナから見ればウザいらしい。
薄暗い地下鉄のホームで電車を待っていると、何の放送も無く、トンネルの向こうから電車の接近してくる音がした。
「相変わらずオンボロの電車が好きね。ここの鉄道会社は」
入線してきた電車は、かつて地下鉄銀座線で走っていたと思われる黄色一色の電車だった。
魔界高速電鉄の地下鉄線は、全てワンマン運転である。
この車両も銀座線時代はツーマンだっただろうが、ここではワンマン化改造されている。
6両編成なのにホームドアが無く、駅や車内も薄暗いということで人間の利用者は敬遠しているのだが、車内には警乗員もいるし、大きな駅では治安維持部隊の兵士が歩硝に当たり、小さな駅でも警察官が巡回しているくらいの徹底ぶりだ。
ここが終点駅なので折り返しになる。
運転室のドアが開いて、降りて来た運転士は……。
「きゃー!かわいー!ボクが運転してるの!?」
見た目、12〜13歳くらいの少年だった。
短く伸ばした金髪の両端からは、長く尖った耳が覗いている。
それでも黒いベストにネクタイを着用し、帽子も被っていた。
「わあっ!?何すんですか、お客さん!?」
少年のような運転士は、エレーナに抱きつかれてびっくりした。
「エレーナ、落ち着くニャ。多分、吸血鬼の一種ニャ」
と、クロ。
「そうですよ!こう見えても、もう205歳なんですからっ!」
吸血鬼の一種とされた運転士は憤慨しながら反対側の運転室に歩いて行った。
「少年の時点で吸血鬼になっただけだニャ」
「中途吸血鬼か。それでね……」
エレーナはそう言って、運転士の後を追って先頭車に乗り込んだ。
中途吸血鬼とは、人間が吸血鬼に噛まれて吸血鬼化した者のこと。
ルーシーのような生まれつき、生粋の吸血鬼とは違う。
ルーシーが即位したことでヴァンパイアの地位が飛躍的に向上したそうだが、貴族化したのは生粋派であって、中途派はそうでもないらしい。
ここでも格差が生じている。
「生粋派なら、こんなところで電車の運転してるわけないか」
エレーナが今日も魔界にいる理由は、ただ1つ。
藤谷に安倍宛てのお中元の配達を任されたからである。
電車が走り出す。
朝のラッシュが終わった後の電車は、どことなくのんびりした雰囲気だった。
乗客の中には、人間よりも魔族が多い。
その代わり高架鉄道は人間の乗客が多い。
路面電車は半々だそうだ。
吸血鬼も分類上は“色欲”の妖怪に当たる。
男なら人間の女の生き血を吸いやすいようにイケメン揃いであり、女なら美女揃いなのは当然であって【お察しください】。
この車両、銀座線で走行していた時代は運転室が左半分しか無く、右半分にも座席が置いてあったのだが、ここでは先頭車で使う場合、運転席横の座席は封鎖するようである。
チェーンで封鎖されており、『運転スペースにつき、立ち入り禁止』の表示がしてあった。
駅に到着する度、運転士は立ち上がって、運転室横のドアを開ける。
慣れてくると運転台の客用ドア開閉スイッチを押しながら、自分の横のドアも開けるようだ。
毎回駅に止まる度に同じことをしているのだから、一応の取扱規則なのだろう。
良く見ると、銀座線時代には無かったサイドミラーが付いている。
ワンマン運転を行う為に取り付けられたのか。
「人間界に行けば、人間の女、何人もかっさらえそうなのにね」
「それぞれ事情があるニャ」
クロは窓の桟に前足を掛けながら答えた。
[日本時間同日11:00.東京都区内某所 日蓮正宗・正証寺 稲生ユウタ&藤谷春人]
「それじゃ栗原さんは、今月の中等部・高等部登山に行くわけですか」
「そうだ。稲生君も今月の青年部夏期講習会、よろしく」
「マリアさんに会いに行くんでパスです」
「お早い拒否だね」
「その為に第4期で行ってきたんですから」
「いや、まあ、その為に行けって言ったわけなんだけどね。長野新幹線で行くのか?おおっ、そうだ。E7系ってのがデビューしたよな。あれに乗りがてら……」
「それもいいんですけど、僕は早く会いたいので、もう前日から出発します」
「夜行列車?あったかな?」
「いえ、夜行バスです」
「鉄ヲタなら、電車に乗ろうよ〜」
「多分、帰りは電車になるかと……」
[同日12:40.JR池袋駅埼京線ホーム 稲生ユウタ&威吹邪甲]
「しかし、今回の信州行きはどうなんだ?」
昼食後にユタは大学へ向かうため、埼京線ホームにいた。
「何が?」
「藤谷班長の言葉じゃないけど、電車を使わないという……」
「早くマリアさんに会いたいからこそのルートだというのは本当だよ。今度のマリアさんの家、それまでより比較的交通の便のいい所に建ってるんだ」
「ほお?」
「それまでは近くの駅からも、バスが1日2本しか無いという所にあるのがデフォだったでしょ?」
「で、でふお……?」
「今度は長野駅近くのバスターミナルから出てる路線バスが、2時間に1本走ってる所だから」
「に、2時間……」
「夜行バスで行くと、朝一のバスに間に合う。新幹線の始発でも、“ムーンライト信州”で松本→篠ノ井線で長野ではその始発に間に合わない」
「そ、そこまでするか……」
〔まもなく1番線に、りんかい線直通、快速、新木場行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。次は、新宿に止まります〕
「あ、電車来た。まあ、とにかく行ってくるよ」
「ああ。気を付けて」
入線してきた電車は最新型のE233系。
これもいずれは外国または冥界鉄道公社や魔界高速電鉄に引き取られる日が来るのだろうか。
[現地時間同日同時刻 アルカディア王国・魔王城 政治犯留置場 グリーン横田]
「ハァハァ(;´д`*)ハァハァ……」
ジーッ(先日盗撮したエレーナの写真を凝視)
「ハァハァ(*´∇`*)ハァハァ……」
ギュッ(エレーナが自ら撮影したスカートの中の写真を股間に当ててる)
「ハァハァ(*T▽T*)アァァァァ……」
ピュッ……
「空飛んでると、スカルヘッドがウザいから地下から行くわ」
「楽してんニャ」
スカルヘッドとは言わば大型のドクロのモンスターで、これも空を飛ぶ。
巨体を生かして、地面にわざと激突し、周辺に大きな振動を与える傍迷惑なモンスターである。
無論、今は魔王軍治安維持部隊や公安警察が目を光らせているので、そういった迷惑行為は少なくとも市内では見られなくなった。
それでも、他の飛行物体を見つけると、ふわふわとついてくる習性がある。
ナッパー・バットと違い、それだけで、襲ってくることはないのだが、エレーナから見ればウザいらしい。
薄暗い地下鉄のホームで電車を待っていると、何の放送も無く、トンネルの向こうから電車の接近してくる音がした。
「相変わらずオンボロの電車が好きね。ここの鉄道会社は」
入線してきた電車は、かつて地下鉄銀座線で走っていたと思われる黄色一色の電車だった。
魔界高速電鉄の地下鉄線は、全てワンマン運転である。
この車両も銀座線時代はツーマンだっただろうが、ここではワンマン化改造されている。
6両編成なのにホームドアが無く、駅や車内も薄暗いということで人間の利用者は敬遠しているのだが、車内には警乗員もいるし、大きな駅では治安維持部隊の兵士が歩硝に当たり、小さな駅でも警察官が巡回しているくらいの徹底ぶりだ。
ここが終点駅なので折り返しになる。
運転室のドアが開いて、降りて来た運転士は……。
「きゃー!かわいー!ボクが運転してるの!?」
見た目、12〜13歳くらいの少年だった。
短く伸ばした金髪の両端からは、長く尖った耳が覗いている。
それでも黒いベストにネクタイを着用し、帽子も被っていた。
「わあっ!?何すんですか、お客さん!?」
少年のような運転士は、エレーナに抱きつかれてびっくりした。
「エレーナ、落ち着くニャ。多分、吸血鬼の一種ニャ」
と、クロ。
「そうですよ!こう見えても、もう205歳なんですからっ!」
吸血鬼の一種とされた運転士は憤慨しながら反対側の運転室に歩いて行った。
「少年の時点で吸血鬼になっただけだニャ」
「中途吸血鬼か。それでね……」
エレーナはそう言って、運転士の後を追って先頭車に乗り込んだ。
中途吸血鬼とは、人間が吸血鬼に噛まれて吸血鬼化した者のこと。
ルーシーのような生まれつき、生粋の吸血鬼とは違う。
ルーシーが即位したことでヴァンパイアの地位が飛躍的に向上したそうだが、貴族化したのは生粋派であって、中途派はそうでもないらしい。
ここでも格差が生じている。
「生粋派なら、こんなところで電車の運転してるわけないか」
エレーナが今日も魔界にいる理由は、ただ1つ。
藤谷に安倍宛てのお中元の配達を任されたからである。
電車が走り出す。
朝のラッシュが終わった後の電車は、どことなくのんびりした雰囲気だった。
乗客の中には、人間よりも魔族が多い。
その代わり高架鉄道は人間の乗客が多い。
路面電車は半々だそうだ。
吸血鬼も分類上は“色欲”の妖怪に当たる。
男なら人間の女の生き血を吸いやすいようにイケメン揃いであり、女なら美女揃いなのは当然であって【お察しください】。
この車両、銀座線で走行していた時代は運転室が左半分しか無く、右半分にも座席が置いてあったのだが、ここでは先頭車で使う場合、運転席横の座席は封鎖するようである。
チェーンで封鎖されており、『運転スペースにつき、立ち入り禁止』の表示がしてあった。
駅に到着する度、運転士は立ち上がって、運転室横のドアを開ける。
慣れてくると運転台の客用ドア開閉スイッチを押しながら、自分の横のドアも開けるようだ。
毎回駅に止まる度に同じことをしているのだから、一応の取扱規則なのだろう。
良く見ると、銀座線時代には無かったサイドミラーが付いている。
ワンマン運転を行う為に取り付けられたのか。
「人間界に行けば、人間の女、何人もかっさらえそうなのにね」
「それぞれ事情があるニャ」
クロは窓の桟に前足を掛けながら答えた。
[日本時間同日11:00.東京都区内某所 日蓮正宗・正証寺 稲生ユウタ&藤谷春人]
「それじゃ栗原さんは、今月の中等部・高等部登山に行くわけですか」
「そうだ。稲生君も今月の青年部夏期講習会、よろしく」
「マリアさんに会いに行くんでパスです」
「お早い拒否だね」
「その為に第4期で行ってきたんですから」
「いや、まあ、その為に行けって言ったわけなんだけどね。長野新幹線で行くのか?おおっ、そうだ。E7系ってのがデビューしたよな。あれに乗りがてら……」
「それもいいんですけど、僕は早く会いたいので、もう前日から出発します」
「夜行列車?あったかな?」
「いえ、夜行バスです」
「鉄ヲタなら、電車に乗ろうよ〜」
「多分、帰りは電車になるかと……」
[同日12:40.JR池袋駅埼京線ホーム 稲生ユウタ&威吹邪甲]
「しかし、今回の信州行きはどうなんだ?」
昼食後にユタは大学へ向かうため、埼京線ホームにいた。
「何が?」
「藤谷班長の言葉じゃないけど、電車を使わないという……」
「早くマリアさんに会いたいからこそのルートだというのは本当だよ。今度のマリアさんの家、それまでより比較的交通の便のいい所に建ってるんだ」
「ほお?」
「それまでは近くの駅からも、バスが1日2本しか無いという所にあるのがデフォだったでしょ?」
「で、でふお……?」
「今度は長野駅近くのバスターミナルから出てる路線バスが、2時間に1本走ってる所だから」
「に、2時間……」
「夜行バスで行くと、朝一のバスに間に合う。新幹線の始発でも、“ムーンライト信州”で松本→篠ノ井線で長野ではその始発に間に合わない」
「そ、そこまでするか……」
〔まもなく1番線に、りんかい線直通、快速、新木場行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。次は、新宿に止まります〕
「あ、電車来た。まあ、とにかく行ってくるよ」
「ああ。気を付けて」
入線してきた電車は最新型のE233系。
これもいずれは外国または冥界鉄道公社や魔界高速電鉄に引き取られる日が来るのだろうか。
[現地時間同日同時刻 アルカディア王国・魔王城 政治犯留置場 グリーン横田]
「ハァハァ(;´д`*)ハァハァ……」
ジーッ(先日盗撮したエレーナの写真を凝視)
「ハァハァ(*´∇`*)ハァハァ……」
ギュッ(エレーナが自ら撮影したスカートの中の写真を股間に当ててる)
「ハァハァ(*T▽T*)アァァァァ……」
ピュッ……