報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「魔女の宅急便」 2

2014-07-03 14:37:48 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[現地時間7月4日10:00.アルカディア王国・王都アルカディアシティの地下を走る魔界高速電鉄2号線 エレーナ・マーロン]

「空飛んでると、スカルヘッドがウザいから地下から行くわ」
「楽してんニャ」
 スカルヘッドとは言わば大型のドクロのモンスターで、これも空を飛ぶ。
 巨体を生かして、地面にわざと激突し、周辺に大きな振動を与える傍迷惑なモンスターである。
 無論、今は魔王軍治安維持部隊や公安警察が目を光らせているので、そういった迷惑行為は少なくとも市内では見られなくなった。
 それでも、他の飛行物体を見つけると、ふわふわとついてくる習性がある。
 ナッパー・バットと違い、それだけで、襲ってくることはないのだが、エレーナから見ればウザいらしい。
 薄暗い地下鉄のホームで電車を待っていると、何の放送も無く、トンネルの向こうから電車の接近してくる音がした。
「相変わらずオンボロの電車が好きね。ここの鉄道会社は」
 入線してきた電車は、かつて地下鉄銀座線で走っていたと思われる黄色一色の電車だった。
 魔界高速電鉄の地下鉄線は、全てワンマン運転である。
 この車両も銀座線時代はツーマンだっただろうが、ここではワンマン化改造されている。
 6両編成なのにホームドアが無く、駅や車内も薄暗いということで人間の利用者は敬遠しているのだが、車内には警乗員もいるし、大きな駅では治安維持部隊の兵士が歩硝に当たり、小さな駅でも警察官が巡回しているくらいの徹底ぶりだ。
 ここが終点駅なので折り返しになる。
 運転室のドアが開いて、降りて来た運転士は……。
「きゃー!かわいー!ボクが運転してるの!?」
 見た目、12〜13歳くらいの少年だった。
 短く伸ばした金髪の両端からは、長く尖った耳が覗いている。
 それでも黒いベストにネクタイを着用し、帽子も被っていた。
「わあっ!?何すんですか、お客さん!?」
 少年のような運転士は、エレーナに抱きつかれてびっくりした。
「エレーナ、落ち着くニャ。多分、吸血鬼の一種ニャ」
 と、クロ。
「そうですよ!こう見えても、もう205歳なんですからっ!」
 吸血鬼の一種とされた運転士は憤慨しながら反対側の運転室に歩いて行った。
「少年の時点で吸血鬼になっただけだニャ」
「中途吸血鬼か。それでね……」
 エレーナはそう言って、運転士の後を追って先頭車に乗り込んだ。
 中途吸血鬼とは、人間が吸血鬼に噛まれて吸血鬼化した者のこと。
 ルーシーのような生まれつき、生粋の吸血鬼とは違う。
 ルーシーが即位したことでヴァンパイアの地位が飛躍的に向上したそうだが、貴族化したのは生粋派であって、中途派はそうでもないらしい。
 ここでも格差が生じている。
「生粋派なら、こんなところで電車の運転してるわけないか」
 エレーナが今日も魔界にいる理由は、ただ1つ。
 藤谷に安倍宛てのお中元の配達を任されたからである。

 電車が走り出す。
 朝のラッシュが終わった後の電車は、どことなくのんびりした雰囲気だった。
 乗客の中には、人間よりも魔族が多い。
 その代わり高架鉄道は人間の乗客が多い。
 路面電車は半々だそうだ。
 吸血鬼も分類上は“色欲”の妖怪に当たる。
 男なら人間の女の生き血を吸いやすいようにイケメン揃いであり、女なら美女揃いなのは当然であって【お察しください】。
 この車両、銀座線で走行していた時代は運転室が左半分しか無く、右半分にも座席が置いてあったのだが、ここでは先頭車で使う場合、運転席横の座席は封鎖するようである。
 チェーンで封鎖されており、『運転スペースにつき、立ち入り禁止』の表示がしてあった。
 駅に到着する度、運転士は立ち上がって、運転室横のドアを開ける。
 慣れてくると運転台の客用ドア開閉スイッチを押しながら、自分の横のドアも開けるようだ。
 毎回駅に止まる度に同じことをしているのだから、一応の取扱規則なのだろう。
 良く見ると、銀座線時代には無かったサイドミラーが付いている。
 ワンマン運転を行う為に取り付けられたのか。
「人間界に行けば、人間の女、何人もかっさらえそうなのにね」
「それぞれ事情があるニャ」
 クロは窓の桟に前足を掛けながら答えた。

[日本時間同日11:00.東京都区内某所 日蓮正宗・正証寺 稲生ユウタ&藤谷春人]

「それじゃ栗原さんは、今月の中等部・高等部登山に行くわけですか」
「そうだ。稲生君も今月の青年部夏期講習会、よろしく」
「マリアさんに会いに行くんでパスです」
「お早い拒否だね」
「その為に第4期で行ってきたんですから」
「いや、まあ、その為に行けって言ったわけなんだけどね。長野新幹線で行くのか?おおっ、そうだ。E7系ってのがデビューしたよな。あれに乗りがてら……」
「それもいいんですけど、僕は早く会いたいので、もう前日から出発します」
「夜行列車?あったかな?」
「いえ、夜行バスです」
「鉄ヲタなら、電車に乗ろうよ〜」
「多分、帰りは電車になるかと……」

[同日12:40.JR池袋駅埼京線ホーム 稲生ユウタ&威吹邪甲]

「しかし、今回の信州行きはどうなんだ?」
 昼食後にユタは大学へ向かうため、埼京線ホームにいた。
「何が?」
「藤谷班長の言葉じゃないけど、電車を使わないという……」
「早くマリアさんに会いたいからこそのルートだというのは本当だよ。今度のマリアさんの家、それまでより比較的交通の便のいい所に建ってるんだ」
「ほお?」
「それまでは近くの駅からも、バスが1日2本しか無いという所にあるのがデフォだったでしょ?」
「で、でふお……?」
「今度は長野駅近くのバスターミナルから出てる路線バスが、2時間に1本走ってる所だから」
「に、2時間……」
「夜行バスで行くと、朝一のバスに間に合う。新幹線の始発でも、“ムーンライト信州”で松本→篠ノ井線で長野ではその始発に間に合わない」
「そ、そこまでするか……」

〔まもなく1番線に、りんかい線直通、快速、新木場行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。次は、新宿に止まります〕

「あ、電車来た。まあ、とにかく行ってくるよ」
「ああ。気を付けて」
 入線してきた電車は最新型のE233系。
 これもいずれは外国または冥界鉄道公社や魔界高速電鉄に引き取られる日が来るのだろうか。

[現地時間同日同時刻 アルカディア王国・魔王城 政治犯留置場 グリーン横田]

「ハァハァ(;´д`*)ハァハァ……」

 ジーッ(先日盗撮したエレーナの写真を凝視)

「ハァハァ(*´∇`*)ハァハァ……」

 ギュッ(エレーナが自ら撮影したスカートの中の写真を股間に当ててる)

「ハァハァ(*T▽T*)アァァァァ……」

 ピュッ……
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“ユタと愉快な仲間たち” 「魔女の宅急便」

2014-07-03 10:18:19 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[現地時間7月3日11:00.アルカディア王国・王都アルカディアシティ一番街 共和党本部 安倍春明]

「どうも今の政権、日本人が多いせいなのか……」
 安倍は党本部のメールセンターに運び込まれる荷物を見ながら呟いた。
「毎年、お中元とお歳暮の時期になると忙しくなるんだよなぁ……」
 腕組みをして首を傾げる。
「クフフフフ……。良いではありませんか。日本の良き風習です」
 横田が眼鏡を押し上げて答えた。
「お前の場合、日本では手に入らないいかがわしいものばかり受け取ってるようだがな!」
「そんなことはありません。全て、政治に必要なものばかりですよ。クフフフフ……」
「ウソだぁ〜……」
 安倍は横田の笑みに、口元を歪めた。
「我が故郷、日本では広宣流布に必要なものです」
「もっとウソだな」
 横に控えているSPでダークエルフのサイラスが不思議そうな顔で、御中元の仕分けの風景を見ていた。
 物欲も金銭欲も無いエルフ族には、まこと不思議な光景であるだろう。
「サイラス。良かったら、欲しいものがあったら回すぞ?」
 安倍が振り向いてサイラスに言った。
「いえ、オレは結構です」
「総理、それより陛下宛ての御中元は……?」
 横田が聞いてくる。
「ああ、今、別の荷捌き場で出荷の準備中か」
 安倍の言葉に、サイラスが首を傾げた。
「アベさん、どうして魔王城に直に運び込まないんですか?電鉄の駅から直接魔王城に運んだ方が効率がいいのでは?」
「何でって言われてもなぁ……。表向きは陛下宛ての荷物の中に爆弾なんか仕込まれてたら大変だろ?その検査を党本部でやってから送るという安全対策の為だってことにしてるけどね」
「私の分析によりますと、党本部で爆発があっても、大変な騒ぎになりますよ」
「まあ、そこは立憲君主制だから。何でもかんでも王様がやってしまう絶対王制だと、お中元も直接陛下に……ってことになるんだろうけど、今は政党がワンクッション入れて行う形式だからね。お中元も同じさ。ま、ここから魔王城は近いんだし、別にいいじゃない?陛下も何も言ってないよ」
「そうですね……」
 と、その時だった。
「むっ!?」
 サイラスが突然、走り出した。
「何だ!?」
 安倍が驚く。
「私の分析によりますと、侵入者のようですね」
「なにっ!?」

「安倍総理とルーシー陛下にお届け物でーっす!」
「バカ者!きちんと入館受付せんか!」
 上空からホウキに跨って、お中元を2つぶら下げている魔道師の若い女性が1人。
 地上では人間の警備兵が怒声を上げていた。
「あのコは……」
 安倍は下から見上げて気づいた。
「撃ち方、用意!」
「えっ!?」
 警備隊長が警備兵に一斉射撃を命じる。
 さすがのエレーナも血の気が引いた。
「待て待て!」
 安倍が警備兵達を止める。
「あのコはいい!」
「そ、総理!?ちゅ、中止だ!中止!」
「うっははーい!」
 安倍の姿を見つけたエレーナは、すーっと地上に舞い降りた。
「ポーリン先生からお中元です!」
「キミ、困るな。ちゃんとしたルートで来てもらわないと……」
「先生が『10時指定で』って仰るものですから……」
「私の分析によりますと、1分過ぎてますね」
 横田はポケットから懐中時計(盗撮機能付き。現在、エレーナを盗撮中)を取り出して言った。
「ええっ!?」
 安倍は笑いながら、
「まあまあ。1分くらいなら、悪気は無くても時計の誤差ということもある。10時ぴったりに届いたことにしておこう」
「総理。私の時計は1分1秒の狂いもありませんっ!……おっと!」
 横田は自分の時計(盗撮機能付き)を安倍に突き出そうとして手が滑り、時計をエレーナの足元に落としてしまった(もちろんワザと。エレーナのスカートの中を盗撮)。
「お前なぁ……」
 エレーナは横田の時計を拾い上げた。
 それを自分のスカートの中に入れて、

 パシャッ!(シャッターを切る音)

「ええーっ!?」
「はい」
 と、横田に返した。
「それじゃ総理、ポーリン先生と異世界通信社には盗撮されたことは黙ってておきますので、例の件よろしくお願いしますね(ニヤリ)」
「ええっ!?」
 背中に冷や汗が流れる安倍。
「陛下宛てのお中元もよろしくお願いします。それじゃ失礼します」
 エレーナはホウキに跨ると、颯爽と党本部をあとにした。
「アベさん、例の件って?」
 サイラスが訝しげに聞いた。
「横田っ!てめっ!オマエのせいだぞ!!」
「ええーっ!?」
「連行しろ!」
 警備兵に両肩掴まれてズルズルと引きずられる横田。
「わ、私の分析によりますれば……!」
「じゃかましい!きりきり歩けーい!」

[日本時間7月3日11:00.長野県某所のマリアの屋敷 マリアンナ・スカーレット]

「やるなぁ、エレーナ……」
 水晶球でエレーナと安倍達のやり取りを見ていたマリア。
(確かエレーナ、スカートの下はペチパンツじゃなかったか?)

[同日同時刻 埼玉県さいたま市某所 藤谷春人]

「……ありがとうございました。ではこれからもご贔屓のほど、よろしくお願い申し上げます」
 藤谷は得意先を回っていた。
 そして、車に戻る。
「よし、次に行くぞ」
「はい」
 部下の社員に車を出させる。
「専務、お中元くらい宅配便でいいのでは?」
「大口のお得意先は、こうして挨拶がてら直接お渡しするのが俺の営業法なんだ。その成果は毎年出てるだろ」
「確かに……。あ、でも、あそこはどうします?」
「何だ?」
「明日は都内を回る予定ですが、銀座の“アルカディア共和党”の……」
「あそこか。外国っつっても、ただの外国じゃねぇんだ、あそこ」
「日本と国交が無い……?」
「まあ、それもあるんだが……。それは直接、特殊なルートで配送することにする」
「えっ?」
「さすがのオレも、あそこまでは行けそうに無いからな。あと、何件だ?」
「埼玉県内は午後に1件あるだけですね」
「よし。それが終わったら、お前達は会社に戻っていいぞ。俺は個人的に寄る所があるからな。後で帰る」
「はい」

[同日14:00.埼玉県さいたま市中央区 ユタの家 藤谷春人、威吹邪甲、威波莞爾]

「ちわーっ!藤谷組でーす!」
「ヤーさんは帰ってくれ」
「はーい……って、誰がヤクザだ!組って、そっちの組じゃねぇ!」
 威吹の切り返しに、更に切り返す藤谷だった。
「何の用だ?」
「稲生君はいるか?」
「ユタは大学だよ」
「何だ。大学は夏休みが長いって聞いたんだがなぁ……」
「さすがにまだ気が早いよ。ユタに用があるなら、オレから申し伝えておくが?」
「まあ、厳密に言うなら、稲生君そのものに用があるわけじゃないんだがな」
「は?」
「稲生君の“彼女”を通して、頼みたいことがあって来たんだ」
「魔道師に何か用か?」
「お中元を届けたいんだが、普通の宅急便でも俺が直接行ける場所でもないみたいだからな」
 カンジは送り状を見て、
「まあ、確かに魔界は普通に行ける所ではありませんが」
「オレは行けるけど御免こうむるな」
「えっ?」
「オレは先生の御意向に従います」
「何だよ、冷てーな、ちくしょうっ!」
「魔道師に頼むのがいいと思うが、それとて恐らくタダではないと思うぞ?」
「しょうがない。FedexもDHLも、結構高いからな。それだと思えばいい」
「むっ!?」
 その時、妖狐達は上空から舞って来る気配に気づき、警戒態勢に入った。
「な、何だ!?」

 庭に出てみると、
「お届け物でーっす!」
「魔女の宅急便か!」
 エレーナが荷物をぶら下げて着陸しようとしていた。
 すかさずツッコミを入れる藤谷。
「ん?魔女の宅急便……?」
 そこでピーンと来る藤谷。
「何の用だ?」
「ポーリン先生は『お世話になった人達』にお中元とお歳暮を贈るのが習慣でね、これを稲生さん達一同にって」
「魔女の贈答品は受け取れんな。だいたい、オレ達はお前の師匠とやらと会ったことが無いぞ?」
 威吹の言葉にうんうんと頷くカンジ。
「先生直接というより、『私の弟子が世話になったわね』という感じだと思う」
「だったら尚更、危険なものが入ってるんだろ?」
「先生はお中元やお歳暮で、そんな危ない物を送らない主義だよ?」
「信用できん!」
「まあまあ。ここは男らしく、ビシッと受け取ってやろうじゃないか」
 と、藤谷。
 どうやら受け取る受け取らないの話を早く打ち切りたいらしい。
「それより、1つ頼みがあるんだが……」
「頼み?」
「配送だけでなく、集荷はしていないのかな?」
「藤谷……」
「こっちの魔女に頼む気か」
 呆れる妖狐達であった。
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