高1女子を殺人容疑で逮捕=同級生殴り、遺体切断―長崎県警(時事通信) - goo ニュース
「チェック……メイトだ……!」
血のりの付いた鉄棒を手に、不気味な笑みを浮かべるマリア。
はっきり言って、目はイッた状態だ。
足元には、かつて自分を暴行したハイスクールの女友達だった肉塊があった。
「そろそろ、サツが来る。早いとこ、ここから離れろ」
頭の中に、契約した怠惰の悪魔ベルフェゴールの声が響く。
「痕跡は私が完全に消しておこう。あくまで、コイツは事故で死んだことになる」
「よろしく」
「やはりこいつは許しがたい……!」
マリアの過去を暴く1人の魔女。
水晶玉越しに憤怒の顔を浮かべるは、イリーナのライバルで姉弟子のポーリン・ルシフェ・エルミラ。
「イリーナは甘い!甘すぎる!こいつが人間界で幸せにやってはいけないのだ……!」
[7月26日16:30.JR上野駅宇都宮線ホーム→東京メトロ上野駅銀座線ホーム 稲生ユウタ他4名]
〔まもなく終点、上野、上野。お出口は、左側です。……〕
ユタ達を乗せた宇都宮線電車は高度を落とし、JR上野駅の低いホームにゆっくりと入って行った。
〔うえのー、上野ー。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕
ドアが開いて、乗客が一斉に降りてくる。
〔「14番線に到着の電車は折り返し、17時25分発、宇都宮線普通列車の小金井行きとなります。……」〕
「改札口を出て、左手の方向です」
ユタは言った。
低いホームを真っ直ぐ進むと、中央改札口に当たる。
頭上に上野動物園を表した動物の絵が描かれていることで有名な改札口だ。
多くの乗客で賑わっており、中には浴衣姿の人も多く見られた。
「あれ?もうキノ達、到着してるらしいです」
ユタはメールを見て言った。
「あいつら早いな」
威吹は呆れた顔をした。
「ええ……」
カンジは同調するように静かに頷いた。
「栗原さんも来るんですよね?確か今日と明日で、中等部・高等部合宿登山があったのではないですか?」
「あれっ!?」
「ほほぉ……。キノのヤツ、“獲物”様の信仰を妨害したか」
「まあ、鬼だからねぇ……」
「あのコの霊力はAからAAくらいかしらね」
と、イリーナ。
「稲生君はSとAAAを行ったり来たりしてる状態だね」
「魔道師には魔道師のランク付けがあるんですねぇ……」
「顕正会仏法やってた頃は、文句無しのS級だったみたいだけど……」
「ユタ、今から顕正会に戻ろう」
「くぉらっ!」
東京メトロ銀座線ホームに移動する。
「ただいま、団扇をお配りしてまーす」
「おっ、ありがたい」
威吹は受け取るが、
「威吹は扇子があるでしょ?」
ユタが突っ込むと、
「おお、そうだった」
威吹は袴の帯に扇子を差していたのを思い出した。
もっとも、この扇子は妖術を掛ければ刀に変わるのだが。
パタパタ扇ぎながらホームに下りると、
「随分と賑やかだねぇ……」
多くの乗客が電車を待っていた。
「こういう時は……」
ユタが一行を先導する。
進行方向1番後ろの車両が来る辺りだ。
「改札からは多少遠いですけど、その分、先頭車より空いてると思います」
「なるほど。マリアはまだ浴衣が着慣れないせいか、少し歩きにくいからね」
「そうですねぇ……」
〔まもなく2番線に、浅草行きが参ります。白線の内側まで、お下がりください。電車とホームの間に、広く空いている所があります。足元に、ご注意ください〕
淡々と喋る男声の自動放送に対し、
〔「2番線、ご注意ください。浅草行きが到着します。危険です!下がってください!」〕
駅員の注意の放送や花火大会の為に配置された警備員達の大声がホームに響く。
「あっ、1000系だ」
まばゆいLEDヘッドライトがトンネルの向こうからやってきて、新型車両が入線してきた。
「初めて乗るんです。幸先がいいですね」
「それは良かった」
〔上野、上野。足元に、ご注意ください。日比谷線、JR線、京成線はお乗り換えです。……〕
確かに最後尾は空いていた。
「これのモチーフになった電車になら乗ったことあるよ」
と、イリーナ。
「マジっスか?昭和一ケタの開通ですよ?」
「うん。だからその時。新兵器たる自動改札機が故障して、駅員が自分の帽子に料金を入れさせてたねぇ……」
「あ、そうか。当時は運賃均一制の改札口で前払い……」
「そう」
電車が走り出した。
〔東京メトロ銀座線をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は、浅草行きです。次は稲荷町、稲荷町〕
「でも魔界で乗ったことあるなぁ……」
ユタは天井を見上げて思い出すように言った。
「威吹も覚えてるでしょ?アルカディア地下鉄の黄色い電車」
「ああ」
「あれ、葛西の地下鉄博物館に展示してある1000形とよく似てるんだよなぁ……」
「人間界から行った人間で、地下鉄に乗る度胸があるの、安倍首相とユウタ君だけだよ」
「いやあ、つい珍しい電車が走ってたもんで、つい……。威吹の護衛のおかげです」
「一応、周りの妖怪どもに睨みは利かせておいた」
「運転士が骸骨のモンスターだったので、びっくりしました」
「魔王軍をリストラされたモンスターも、魔界高速電鉄に転職してるからね」
「なるほど……」
[同日17:00.東京都墨田区吾妻橋 稲生ユウタ]
「よくよく考えたら、ここって妙縁寺さんが近いな……」
と、ユタ。
「日蓮正宗のね」
「ほお……」
吾妻橋を歩いて隅田川を渡る。
左手にアサヒビールの本社が見えてきて……。
「……って、まんま妙縁寺さんの近くかな?」
ユタは藤谷からもらった地図を見ていた。
「そこで勤行させてもらおうかなぁ……」
「ユウタ君は本当に熱心だね」
イリーナは苦笑いした。
「あ、あった。このマンションです」
「お、なかなか高い所だね。確かにここからなら、花火もよく見えるだろうねぃ……」
見上げると、夏の日差しが目に当たった。
「この分なら、予定通りに打ちあがりそうだ」
ユタは早速入口で藤谷に電話した。
しばらくして藤谷が団扇片手に下りて来た。
「おーう、よく来たなー。特別招待客は、キミ達で最後だぞ」
と、藤谷。
「えっ、もう!?だって、まだ2時間もあるのに……」
「まあ、ここの住民さん達は自分の部屋で見るだろうからな。さっ、早く上がってくだせぇ」
「お邪魔します」
エレベーターで最上階まで上がり、屋上へは更にそこから階段で上がる。
「おう、おせーぞ、オメーラ!」
屋上に出ると、浴衣姿のキノが開口一番そんなことを言ってきたので、
「お前達が早過ぎだ!」
と、全員で突っ込んだ。
「栗原さん、高等部の合宿登山は?」
ユタが眉を潜めて、紺色を基調とした浴衣の江蓮に言った。
「いや、それがその……抽選に漏れちゃって……」
「抽選制だったっけ!?」
「どーでもいーじゃねーか!細けぇこたぁ、どーでもいいんだよっ!」
「キノ、既に酔っぱらってる……」
ビールジョッキ片手にほろ酔い加減のキノ。
「初めまして!」
そこへ元気な声が聞こえて来た。
「ユタとはお初かな?」
威吹はその声の主が誰だかすぐに分かった。
「キノ兄ィの妹で、蓬莱山魔鬼です!」
「へえ、キミが妹さんか……。確かに、赤鬼の肌の色(赤銅色)と目元が似てるような……」
魔鬼は赤を基調とした浴衣を着ていた。
「あ、僕は稲生ユウタ。大学2年生です」
「キノ兄ィ、あたし高校の次は大学行きたーい!」
「オレに言うなっ!」
「マリアさん、イリーナさん。花火は向こうの方に見えます」
「おっ、よし。特等席だねぃ」
「ビールもつまみもありまっせ。と、その会費集めておくか」
藤谷はパンと手を叩いた。
「いくらですか?」
「1人3000円」
「高っ!御開扉御供養より高っ!」
「そりゃそうよ。こんな特等席で尚且つアサヒビールからガメてき……もとい、買い付けたビールサーバーでビールの飲み放題、つまみの食い放題だからよ。足りなかったら、下のテキ屋で買ってきてくれ」
「はは……」
「まあ、1番の特等席はエレーナのホウキで間近を飛ぶってことだと思うな」
マリアが言った。
「さすがに花火が直撃する恐れがあるから、ポーリンも注意するわよ」
イリーナは早速、ビールジョッキにビールを注いでもらいながら笑った。
「おおかた、自分の住んでるホテルでおとなしく見てるんじゃない?」
「そうですか。じゃあ、ちょっと一報していいですか?」
「いいよいいよ。弟子同士の友達付き合いまで、とやかく言うつもりは無いから」
めいめいに打ち上げ開始までの一時を楽しむ面々。
この時まだ待ち受けている困難に気付く者は、誰1人いなかった。
「チェック……メイトだ……!」
血のりの付いた鉄棒を手に、不気味な笑みを浮かべるマリア。
はっきり言って、目はイッた状態だ。
足元には、かつて自分を暴行したハイスクールの女友達だった肉塊があった。
「そろそろ、サツが来る。早いとこ、ここから離れろ」
頭の中に、契約した怠惰の悪魔ベルフェゴールの声が響く。
「痕跡は私が完全に消しておこう。あくまで、コイツは事故で死んだことになる」
「よろしく」
「やはりこいつは許しがたい……!」
マリアの過去を暴く1人の魔女。
水晶玉越しに憤怒の顔を浮かべるは、イリーナのライバルで姉弟子のポーリン・ルシフェ・エルミラ。
「イリーナは甘い!甘すぎる!こいつが人間界で幸せにやってはいけないのだ……!」
[7月26日16:30.JR上野駅宇都宮線ホーム→東京メトロ上野駅銀座線ホーム 稲生ユウタ他4名]
〔まもなく終点、上野、上野。お出口は、左側です。……〕
ユタ達を乗せた宇都宮線電車は高度を落とし、JR上野駅の低いホームにゆっくりと入って行った。
〔うえのー、上野ー。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕
ドアが開いて、乗客が一斉に降りてくる。
〔「14番線に到着の電車は折り返し、17時25分発、宇都宮線普通列車の小金井行きとなります。……」〕
「改札口を出て、左手の方向です」
ユタは言った。
低いホームを真っ直ぐ進むと、中央改札口に当たる。
頭上に上野動物園を表した動物の絵が描かれていることで有名な改札口だ。
多くの乗客で賑わっており、中には浴衣姿の人も多く見られた。
「あれ?もうキノ達、到着してるらしいです」
ユタはメールを見て言った。
「あいつら早いな」
威吹は呆れた顔をした。
「ええ……」
カンジは同調するように静かに頷いた。
「栗原さんも来るんですよね?確か今日と明日で、中等部・高等部合宿登山があったのではないですか?」
「あれっ!?」
「ほほぉ……。キノのヤツ、“獲物”様の信仰を妨害したか」
「まあ、鬼だからねぇ……」
「あのコの霊力はAからAAくらいかしらね」
と、イリーナ。
「稲生君はSとAAAを行ったり来たりしてる状態だね」
「魔道師には魔道師のランク付けがあるんですねぇ……」
「顕正会仏法やってた頃は、文句無しのS級だったみたいだけど……」
「ユタ、今から顕正会に戻ろう」
「くぉらっ!」
東京メトロ銀座線ホームに移動する。
「ただいま、団扇をお配りしてまーす」
「おっ、ありがたい」
威吹は受け取るが、
「威吹は扇子があるでしょ?」
ユタが突っ込むと、
「おお、そうだった」
威吹は袴の帯に扇子を差していたのを思い出した。
もっとも、この扇子は妖術を掛ければ刀に変わるのだが。
パタパタ扇ぎながらホームに下りると、
「随分と賑やかだねぇ……」
多くの乗客が電車を待っていた。
「こういう時は……」
ユタが一行を先導する。
進行方向1番後ろの車両が来る辺りだ。
「改札からは多少遠いですけど、その分、先頭車より空いてると思います」
「なるほど。マリアはまだ浴衣が着慣れないせいか、少し歩きにくいからね」
「そうですねぇ……」
〔まもなく2番線に、浅草行きが参ります。白線の内側まで、お下がりください。電車とホームの間に、広く空いている所があります。足元に、ご注意ください〕
淡々と喋る男声の自動放送に対し、
〔「2番線、ご注意ください。浅草行きが到着します。危険です!下がってください!」〕
駅員の注意の放送や花火大会の為に配置された警備員達の大声がホームに響く。
「あっ、1000系だ」
まばゆいLEDヘッドライトがトンネルの向こうからやってきて、新型車両が入線してきた。
「初めて乗るんです。幸先がいいですね」
「それは良かった」
〔上野、上野。足元に、ご注意ください。日比谷線、JR線、京成線はお乗り換えです。……〕
確かに最後尾は空いていた。
「これのモチーフになった電車になら乗ったことあるよ」
と、イリーナ。
「マジっスか?昭和一ケタの開通ですよ?」
「うん。だからその時。新兵器たる自動改札機が故障して、駅員が自分の帽子に料金を入れさせてたねぇ……」
「あ、そうか。当時は運賃均一制の改札口で前払い……」
「そう」
電車が走り出した。
〔東京メトロ銀座線をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は、浅草行きです。次は稲荷町、稲荷町〕
「でも魔界で乗ったことあるなぁ……」
ユタは天井を見上げて思い出すように言った。
「威吹も覚えてるでしょ?アルカディア地下鉄の黄色い電車」
「ああ」
「あれ、葛西の地下鉄博物館に展示してある1000形とよく似てるんだよなぁ……」
「人間界から行った人間で、地下鉄に乗る度胸があるの、安倍首相とユウタ君だけだよ」
「いやあ、つい珍しい電車が走ってたもんで、つい……。威吹の護衛のおかげです」
「一応、周りの妖怪どもに睨みは利かせておいた」
「運転士が骸骨のモンスターだったので、びっくりしました」
「魔王軍をリストラされたモンスターも、魔界高速電鉄に転職してるからね」
「なるほど……」
[同日17:00.東京都墨田区吾妻橋 稲生ユウタ]
「よくよく考えたら、ここって妙縁寺さんが近いな……」
と、ユタ。
「日蓮正宗のね」
「ほお……」
吾妻橋を歩いて隅田川を渡る。
左手にアサヒビールの本社が見えてきて……。
「……って、まんま妙縁寺さんの近くかな?」
ユタは藤谷からもらった地図を見ていた。
「そこで勤行させてもらおうかなぁ……」
「ユウタ君は本当に熱心だね」
イリーナは苦笑いした。
「あ、あった。このマンションです」
「お、なかなか高い所だね。確かにここからなら、花火もよく見えるだろうねぃ……」
見上げると、夏の日差しが目に当たった。
「この分なら、予定通りに打ちあがりそうだ」
ユタは早速入口で藤谷に電話した。
しばらくして藤谷が団扇片手に下りて来た。
「おーう、よく来たなー。特別招待客は、キミ達で最後だぞ」
と、藤谷。
「えっ、もう!?だって、まだ2時間もあるのに……」
「まあ、ここの住民さん達は自分の部屋で見るだろうからな。さっ、早く上がってくだせぇ」
「お邪魔します」
エレベーターで最上階まで上がり、屋上へは更にそこから階段で上がる。
「おう、おせーぞ、オメーラ!」
屋上に出ると、浴衣姿のキノが開口一番そんなことを言ってきたので、
「お前達が早過ぎだ!」
と、全員で突っ込んだ。
「栗原さん、高等部の合宿登山は?」
ユタが眉を潜めて、紺色を基調とした浴衣の江蓮に言った。
「いや、それがその……抽選に漏れちゃって……」
「抽選制だったっけ!?」
「どーでもいーじゃねーか!細けぇこたぁ、どーでもいいんだよっ!」
「キノ、既に酔っぱらってる……」
ビールジョッキ片手にほろ酔い加減のキノ。
「初めまして!」
そこへ元気な声が聞こえて来た。
「ユタとはお初かな?」
威吹はその声の主が誰だかすぐに分かった。
「キノ兄ィの妹で、蓬莱山魔鬼です!」
「へえ、キミが妹さんか……。確かに、赤鬼の肌の色(赤銅色)と目元が似てるような……」
魔鬼は赤を基調とした浴衣を着ていた。
「あ、僕は稲生ユウタ。大学2年生です」
「キノ兄ィ、あたし高校の次は大学行きたーい!」
「オレに言うなっ!」
「マリアさん、イリーナさん。花火は向こうの方に見えます」
「おっ、よし。特等席だねぃ」
「ビールもつまみもありまっせ。と、その会費集めておくか」
藤谷はパンと手を叩いた。
「いくらですか?」
「1人3000円」
「高っ!御開扉御供養より高っ!」
「そりゃそうよ。こんな特等席で尚且つアサヒビールからガメてき……もとい、買い付けたビールサーバーでビールの飲み放題、つまみの食い放題だからよ。足りなかったら、下のテキ屋で買ってきてくれ」
「はは……」
「まあ、1番の特等席はエレーナのホウキで間近を飛ぶってことだと思うな」
マリアが言った。
「さすがに花火が直撃する恐れがあるから、ポーリンも注意するわよ」
イリーナは早速、ビールジョッキにビールを注いでもらいながら笑った。
「おおかた、自分の住んでるホテルでおとなしく見てるんじゃない?」
「そうですか。じゃあ、ちょっと一報していいですか?」
「いいよいいよ。弟子同士の友達付き合いまで、とやかく言うつもりは無いから」
めいめいに打ち上げ開始までの一時を楽しむ面々。
この時まだ待ち受けている困難に気付く者は、誰1人いなかった。