報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「人形の館」 

2014-07-20 19:32:11 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月20日08:30.マリアの屋敷 ダイニングルーム 稲生ユウタ&マリアンナ・スカーレット]

「ユウタ君は本当に熱心だね」
 マリアは1人で朝食を食べるユタの向かいに座り、目を細めて言った。
 実はユタ、到着してから朝の勤行を行っていたため、威吹達とは時間がズレたのである。
「いえいえ……」
「申し訳無かったね。うちの師匠達のイザコザに巻き込んじゃって」
「大丈夫ですよ。こうして無事に到着できたんですから。まあ、イリーナさんが迎えに来てくれたことは意外でした」
「ポーリン師は何をしてくるか分からんので、師匠自ら向かった。私が行くと言ったんだけど、どういうわけだか師匠が自分から行くと……」
「何かありましたかね?エレーナさんは東京から出ることができなかったそうですが……」
「エレーナのヤツ、寝坊したらしく、ポーリン師が雷雨を起こす前に東京を脱出して長野に先回りする作戦がパーになったらしい」
「あらま!」
「本当はユウタ君達のバスが長野県入りしたところで襲うつもりだったらしい」
「ちょっ……!バスには無関係の人達も大勢……!」
 ユタは危うく口に入れたコーヒーを噴き出す所だった。
「まあ、私達も大きな声で人のことは言えないんだけど、作戦遂行の為には如何なる手段・犠牲も厭わないというのが、魔道師の考えでね……。まあ、私や師匠はなるべく被害の少ない方法を考えるんだけど、成果第一主義のポーリン師やエレーナはその辺あんまり考えないみたいよ?」
「ひえー……」
「エレーナとは友達になりたいんだけど、ポーリン師は今更、師匠として仰ぐことはできないな。もう、イリーナ師匠のやり方にすっかり染まったものでね」
「その方がいいですよ」
「ごめーん!ちょっといい?」
 そこへイリーナがやってきた。
「ユウタ君、朝ご飯ゆっくり食べていいんだけど、終わったらちょっとマリアの修行、手伝ってくれる?」
「えっ?僕、魔法なんて使えませんよ?」
「当たり前でしょ。そうじゃないの。ユウタ君、泳げる?」
「えっ?ええ、まあ……。小中と体育の授業でやりましたし……」
「助かるわ。じゃあ、また後でね」
 イリーナはにこやかに笑うと、ダイニングを出て行った。
「何でしょう?」
「さあ……」
 マリアは首を傾げた。
「まさか、僕に何か魔術の実験台になれなんて……」
「それはないと思うけど……。まあ、その時はその時で」
「ええーっ!?」

[同日09:00.マリアの屋敷・リビングルーム ユタ、イリーナ、マリア、威吹]

「さすが魔法で建てた屋敷なだけあって、1番最初に来た時から構造や外観が全く変わってないですね」
 ユタは朝食を終えると、マリアと共にダイニングにやってきた。
「映画の魔法学校みたいに、『喋る肖像画』とか飾りたかったんだけど、あれ結構高いし」
 と、イリーナ。
「売ってるんスか!?」
「まあ、そもそもマリアの趣味に合いそうに無いから、マリア力作のお人形さんで我慢してね」
「いや、我慢も何も……。それより、マリアさんの修行の手伝いって?」
「簡単な話よ。マリアに泳ぎを教えてやって」
「へ?」
「マリア、金づちなのよ。かくいう私も、そんなに泳ぎが得意ってわけじゃないから教えられるほどじゃないし、威吹君はスパルタそうだし……」
「『すぱるた』って何だ!?」
 威吹は不快そうな顔をした。
「ユウタ君なら優しく教えてくれそうだしね」
「はあ……。といっても、クロールと平泳ぎ、背泳ぎくらいしかできませんが……」
「それでいいのよ」
「魔道師が泳ぐ必要あるのか?」
 威吹は訝しげに聞いた。
「何事も基本は大事よ。泳げないと、そもそも水に入ることすら怖がるでしょう?魔界じゃ、湖の底に秘密の魔道書が隠されていることだってある。無論、素潜りするわけじゃないけど、結局魔法を使う為に水の中に入るわけだから、万が一に備えて泳げるようにしておく必要はあるわ」
「なるほど。RPGじゃ、よくあるネタですね!」
「そう!そうなのよ。それをイメージしてもらえぱいいのよ」
「確かに湖に魔法で潜る為に、魔法使いのキャラクターがある程度水の中に入って行くシーンとかありますね」
「でしょう?」
「もっとも……『その魔道書を誰が最初にどうして湖の底に隠したか(あるいは沈めたか)』は謎のままであることが多いですね」
「そうねぇ……」
「まあ、中には『かつて伝説の大魔道師が後世の為に隠した』とかいう後付設定も見受けられますが……」
「ここの作者が真っ先にやりそうな手口ね」
 ギクッ!
「で、どこで泳ごうってんだ?その話からして、近くに湖でもあるのか?」
 威吹が聞いた。
「あいにく湖は無いのよ。川ならあるけど」
「この辺の川なら、水もきれいでしょうね」
「そうなの。いつもなら川底が見えるくらい澄んだ水よ」
 威吹は窓の外を見て、変な顔をした。
「……おい。まさか、川ってのはこの窓の外を流れてる川のことか?」
「そうよ」
「お前、ユタを殺す気か!」
 バンッと威吹は外開きの窓を乱暴に開けた。
「げっ!」
 窓の外を見ると、川が濁流と化していた。
「あちゃー……。昨夜のゲリラ豪雨のせいね……」
「あちゃーじゃねぇ!」
「しょうがないわね。じゃ、取っておきの場所に案内しましょうか」
「そこは安全なんだろうな?」
「あの川より物凄く安全よ」
 イリーナは軽くウインクして見せた。

[同日09:15.マリアの屋敷B1F ユタ、イリーナ、マリア、威吹]

「地下は魔術の実験場になっていると思いますが……」
 ユタは地下へ向かう階段を下りながらイリーナに言った。
「それは北階段ね。この南階段を下りると、ある場所に辿り着くのよ」
「何でしょう?」
 階段を下り切ると、そこにあったのは……。
「プールだ!」
「こんなものまで作るとは……!」
「凄いでしょ」
「お前、最初からユタに泳ぎを教えさせるのを織り込んで、急ごしらえで用意したってオチじゃないだろうな?」
 威吹はジト目でイリーナを見た。
「バレた?」
「バレバレだっ!」
「まあまあ。良かったら、威吹君も入って遊んでいいよ?妖狐も水遊びとか好きでしょ?」
「あのなぁ!」

[同日09:30.同場所 ユタ、イリーナ、マリア、威吹]

「それで用意する物に水着があったんですね」
 ユタはボクサータイプの水着に着替えた。
 威吹は赤い六尺ふんどしである。
「そういうこと。じゃ、よろしく頼むねー」
「あ?お前は入らないのか?」
「あたしは上にいるから。人形達に警備させてるとはいえ、ポーリン達が来ないとも限らないからね。何かあったら呼んで」
「どうやって?」
「そこの壁の石板にタッチすると、上の水晶玉と繋がるから」
「ハイテク!」
「……ハイテクではないな。ま、とにかく、懇切丁寧でお願いね」
「後でちゃんとユタには礼をたんまりするんだぞ」
「まあまあ、威吹。それより、マリアさんは……」
「ユタに泳ぎを教わるのに、あまり色気のある物を着て来られても困るんじゃないか?ユタが指導に集中できんよ?」
「それなら大丈夫。そんなこともあろうかと、別の水着を用意しておいたから」
「お待たせしました」
 マリアが着替えて来たのは競泳水着だった。
 なるほど。スイミングスクールなどで着用されているものだ。
 確かに理に適っている。と、ユタは思ったのだが、
(僕が高校の頃、女子が着ていた水着に似てるなぁ……)
 とも思った。つまりそれって、スクール水着……。
 それが似合うくらいのロr(ri
「よ、よろしく!」
「こちらこそ。それじゃあ、早速始めましょうか。まずは水に慣れる為に……」

 いきなり始まった、俄かスイミングクラブ。
 果たしてマリアは泳げるようになるのか。
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“ユタと愉快な仲間たち” 「山野を行った先」

2014-07-20 15:09:33 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[時期不明 時刻不明 場所不明 イリーナ・レヴィア・ブリジッド&大師匠]
(イリーナの一人称)

 私の人間としての人生は最悪だった。
 最後には奴隷として売られたのだから。
 そんな私を買ったのは、名前も知らぬ紳士。
 いや、紳士と言って良いか分からない。
 とにかく、人間だった頃は(精神的に)俯いて生活せざるを得なかった私に顔を上げてしっかり前を向いて生きることを教えてくれた唯一の人。
 ……いや、人ではなかったか。

「怖がらなくていいよ。もう俯くことはない。これからは顔を上げて、しっかり前を向いて生きるんだ。いいね?」
 私を買った紳士は頭から下は、きちんとした身なりをした者だった。
 どこぞの貴族または裕福な商人かと思うくらい。
 正に奴隷を買うベタな法則だ。
「……ハイ」
 私はそう答えるしかなかった。
 奴隷にNoは許されない。Noと言ったら待っているのは死。
 Yesと答えた私に、紳士は更にこういった。
「キミは今日から奴隷ではない。誇り高き大魔道師の直弟子だ」
「……ハイ?」
 頭から上は、当時はまだフードを被っていない大師匠だった。
 その時の私も、今の姿をしていたわけではない。
 だから、姿形が今と違うのはお互い様だ。
 ただ、大師匠の頭は明らかに人間のものではなく……。

[7月20日07:00.長野県某所にあるマリアの屋敷 イリーナ・レヴィア・ブリジッド]
(ここから三人称に戻ります)

「……!」
 ここでイリーナは目が覚めた。
(また、あの夢か……)
 予知夢を見るのが魔道師の異能なのだが、ここ最近は1000年近く前の夢をよく見る。
(体の交換の時期に差し掛かっているのは分かるんだけど、ちょいと早過ぎやしないかい……?)
 イリーナは夢を見た自分にツッコミを入れた。
(それとも、全く別の何かを暗示してるのかねぇ……)
 そこへマリアが入ってきた。
「あ、師匠。もう起きてらっしゃったんですか?」
 イリーナを起こしに来たのだろう。
「ああ、たった今ね。すぐ行くよー」
「はい。二度寝はダメですよ」
「はいはい」
 マリアが出て行くと、イリーナは大きく伸びをした。
(まあいいか。後で先生……大師匠様に相談してみるか。今日は大事な来客があることだし……)
『……誇り高き大魔道師の直弟子だ。だから、私を“ご主人様”と呼ぶ必要は無い。“先生”と呼んでくれればいい』
『先生……』
『さあ、私と一緒に来るんだ。共に、一流の大魔道師を目指す仲間を紹介しよう』
 イリーナは着替えながら、夢の続きのやり取りを思い出していた。
 もう1000年近く前の記憶。
 何度か体を交換していくうちに忘れ去ったはずの記憶。
 しかし、こうして夢に見るということは、記憶は脳にではなく、魂に焼き付くとでも言うのだろうか。
 連れて行かれた自称、大魔道師の家には既にポーリンがいて、彼女を姉弟子と紹介された。
 無論ポーリンもまた、当時は今とは違う姿をしていた。
 後で知ったことなのだが、今でこそ魔界にその名を轟かす(といっても今も当時も大師匠の名前については、イリーナ達ですら分からない)大師匠だが、当時はまだ魔界に存在していた魔法学校の一教師に過ぎなかったらしい。

[同日同時間帯 長野県某所 マリアの屋敷に向かう小道 稲生ユウタ&威吹邪甲]

 新宿から乗った高速バスは、だいたい予定時刻に長野市内のバス停に止まっていった。
 ユタ達はそのうちの1つのバス停で降り、今度はマリアの屋敷の近くまで行く路線バスに乗り換えた。
 それまでは1日2本しかない路線バスの終点、もしくは途中のバス停から歩いて1時間は掛かる場所に屋敷はあったが、今度は2時間に1本というバス路線だった。
 それも途中の山道で降りる。
 山菜取りや登山者の恰好でもしていれば別だっただろうが、ユタは普通に観光客っぽい恰好、威吹に至っては着物に袴に草鞋(普段は草履なのだが、山道を歩くということで、バスの中で履き替えた)だったので、降りる時に運転手に訝しがられた。
「何だか、埼玉や東京の天気が嘘みたいだよ」
 バスを降りてから、ユタは空を見上げた。
「そうだな……」
 空は晴れていた。遠くの山の上に入道雲らしいものは見られたが、それでも今は夏の日差しがカンカンと照っていた。
 ユタはさっさと寝落ちしたのだが、警戒の為に起きていた威吹に言わせると、バスが長野県に入ってから雨も雷も止んだという。
「恐らく信州は、あの魔道師達の領域なのだろう。さしものババ……もとい、魔女達も信州内においては手出しができないのかもしれない」
「だけど、エレーナが妨害してくるって……」
「そう。だから油断は大敵だよ、ユタ。……って」
 威吹は長い銀髪の中に隠しておいた妖刀を左腰に差しながらユタに話していたのだが、まるで居合抜きのようにいきなり抜刀した。
「!!!」
「おっと!」
 カンと鉄の棒で木の幹を叩いたような音がユタの耳に入る。
「せっかく迎えに来たのに、いきなりだねぇ……」
「イリーナさん!」
「くっ……!」
 イリーナは涼しい顔をして威吹の刀を魔導師の杖で受け止めていた。
「威吹、刀をしまって!」
「お前……本当にイリーナだろうな?エレーナとやらが化けたものではないだろうな?」
 威吹は間合いを取った。
「うん。大丈夫だよ。エレーナなら、威吹君の刀を受け止められないし」
「そうですか……」
「それに、今頃彼女は東京都内すら脱出できないんじゃないかねぇ……」
「え?何でですか?」
「ポーリンは長野県内をエレーナに任すとしたらしいんだけど、あのコ、今は都内に住んでるからね。ポーリンがあなた達に嫌がらせをする前に先回りしていれば良かったものを、何だか出遅れたみたいでねぇ……。今頃、ポーリンに折檻されてるんじゃない?」
「折檻……」
「それじゃ、新しいマリアの屋敷まで案内するよ。後ろ、ついてきてねー」
「やっぱり1時間歩くんですか?」
「普通に歩けばね。でも、その道から見えなくなったところで“瞬間移動”の魔法を使うから、何も心配しなくていいよー」
「本当ですか」

[同日07:30.マリアの屋敷の前 イリーナ、ユタ、威吹]

「やあやあ、よく来てくれたねぇ……」
 その時、ユタが目ざとく見つけたのは、
「バス停がある!」
「ああ、これ。冥鉄バスがこの道を通るようになってね。まあ、大丈夫。列車と同じで真夜中にしか走らないから」
「車が通れるんですか?」
「この付近だけね。どこからともなく道の向こうから現れて、向こうに走り去って行くのよ。もっとも、その向こうは道が途中で切れて、いきなり崖になってるんだけどね」
「怖っ!『真夜中にカーナビの通りに走っていたらいきなり崖で、助手席から恨めしい声で、「落ちれば良かったのに」』的な?」
「まあ……それとも違うんだけどね。とにかく、中でマリアが待ちわびているよ。朝ご飯の用意もできてるから、入って入って」
「お邪魔しまーす」
 嬉しそうに玄関ドアを開けるユタ。
 威吹はバス停の名前を見た。
(“人形館前”か。そのまんまだな)
 そう思い、ユタの後から入った。
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“アンドロイドマスター” 「皆と過ごす夏休み」 6

2014-07-20 02:43:25 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月13日09:30.JR東京駅・東北新幹線ホーム アリス研究所の面々]

 行楽客で賑わう東京駅。

〔「今度の20番線の電車は9時48分発、“やまびこ”177号、仙台行きと“つばさ”177号、山形・新庄行きが発車致します。……」〕

「昨夜はアリス博士とお楽しみだったの?」
 MEIKOがニヤけた顔で敷島に話し掛けた。
「こら、人間をからかうんじゃない」
 敷島は最年長成人女性ボーカロイドを窘めた。
「アリスのヤツ、シラフの時は四六時中研究ばっかりなんだから」
「ああ、そう。飲ませればいいじゃない」
 MEIKOは売店の壁に貼られた、自分のポスターを指差した。
 赤い着物を着たMEIKOが、日本酒の一升瓶を抱えて艶っぽい笑みを浮かべている。
「アリスは日本酒飲まないからなぁ……」
 敷島は右手で頭をかいた。

[同日10:00.東北新幹線“やまびこ”177号車内 敷島孝夫]

 アリス研究所の面々を乗せた列車は、定刻通りに東京駅を発車した。
 上野駅でも乗客を乗せて、ほぼ満席状態となる。果たして、大宮駅で全員着席が叶うかは不明。
 上野から大宮までの徐行運転区間を走行中、敷島のケータイに着信があった。
「はい、もしもし」
 すぐデッキに飛び出て、電話に出る。
「……おう、七海か。おはよう。久しぶりだな。……ああ、大丈夫だ。……今、研究所に?へぇ、珍しいな。今日は平賀先生のお子さん達のお守はいいのか?……そうなんだ。まあ、いま新幹線で帰っている最中だよ。お昼頃には、研究所に着くと思う。……え?あ、いや、まだ聞いてないが……。何かあったのか?……えっ、例の企画が?……あれ、ダメ元だったんだけど、本当にOKになったんだ?……へぇ……。人間、何でも一応やってみるもんだな。分かった。ありがとう。詳細は帰ったら確認するよ。……ああ。それじゃ」
 敷島は電話を切って、自分の座席に戻った。

「これだよ、これ。エミリー姉ちゃんとキール兄ちゃんが抱き合ってるところ。アリス博士とプロデューサーよりアツいYo~」
 リンが自分の目(カメラ)で撮影した画像を、他のボーカロイド達と共有していた。
「こら。あんまりエミリーをイジるんじゃない」
 戻った敷島がリンをたしなめた。
 いつもはリンから鬼軍曹と呼ばれるエミリーも、キールのことが話題になると、照れてリンに教育的指導ができないようである。
「プロデューサーも見る?リンが撮影した水着ギャルのセクシーショット!」
 リンが無邪気な顔で敷島に近づいた。
「え?」
 敷島は目をぱちくり。
 ちらっとアリスの方を見る。
「着いたら起こして」
 と、東京駅で乗車直後に早々に仮眠に入ったアリスだった。
 座席を倒してアイマスクを着用し、耳栓まで装着している。
「ほらほら~!早くリンにタブレット接続してってば~」
 リンが囃し立てる。
「べ、別に見なくても……」
 と言いつつ、言われるがままリンの左耳にケーブルの端子を差し込み、手持ちのタブレットと接続した。
「ワイドで撮影したから、ゆっくり右スクロールしてね」
「あ、ああ」
 タブレットにはセクシーポーズを取っていると思われる、艶めかしい足が映った。
 海の家の前に置かれたチェアに横向きになっているようだ。
「おお~……!」
 敷島が鼻の下を伸ばし掛け、更に右スクロールさせると……。
「うげっ!?」
 セクシーポーズを取った、海の家のオヤジオネェだった!
「引っかかった~!いぇい!」
 リンとレンが得意げにハイタッチ。
「無理やり見せられただけだ~!」
 敷島の苦しい言い訳。

[同日11:44.JR仙台駅新幹線ホーム アリス研究所の面々]

〔♪♪(あのチャイム)♪♪。まもなく終点、仙台です。仙石線、仙山線、常磐線はお乗り換えです。……〕

「たかおさん~、復活してくださいぃぃぃ!」
 海の家のオネェのセクシーショットを見せられて以降、放心状態の敷島。
 半泣きで何とか復活させようとするミク。
「博士、もうすぐ到着ですよ。起きてください」
 ルカがアリスを起こそうとすると、
「……さすがにそれは食べれないよ~……」
 何か御馳走をたらふく食べている夢を見ているらしく、なかなか起きてくれない。
「博士、起きてください!」
 ルカが今度はアリスの金髪を引っ張ると、
「Ouchi!……てことは、夢じゃない……」
「いや、夢ですから!」
「……エミリー。博士はルカに担いでもらうとして、あたしはプロデューサー担ぐから、アンタは荷物持ってくれる?」
 MEIKOは人間達の醜態に呆れながらも、周囲の人造人間達に指示を飛ばした。
「OK.MEIKO」
 エミリーは大きく頷いた。
「さすがMEIKOだな。ボク達のリーダーなことだけある」
 KAITOが感心した様子で、試作機の相方を褒めた。
「本当はミクの役目だよ。いつも合同ライブの時はセンターなんだし」
 と答え、
「ミクはそっち持って。あんたもライブの時はセンターでリーダー格なんだから、もう少ししっかりね」
「は、はい」

[同日12:45.仙台市泉区 アリスの研究所 アリス研究所の面々]

「ただいまー」
「おっ、涼しい!」
 研究所に戻り、事務室に入ると、事務服を着た七海が出迎えた。
「お帰りなさい」
 故障したエアコンが修理されていた。
「さっき、太一様が直したんですよ」
 と、メイドロボット第1号の七海はにこやかに答えた。
「何か七海姉ちゃんがそこに座ってると、南里研究所を思い出すね」
 リンが懐かしそうに言った。
 敷島がプロデューサーの仕事が忙しくなると、研究所内での事務作業は専ら赤月奈津子だけになってしまった。
 その奈津子も大学で講師をやっているので、いつもいつも研究所にいられるわけではない。
 そんな時、七海の果たした役目は大きかった。
 今はだいぶ頼りがいがあるが、昔は天然ドジっ子で、よく受けた指示の内容を誤解するなど、芳しい実験成果が得られず、一時は廃棄処分も検討されたが、今ではメイドとしてもベビーシッターとしても良い評価を上げているようだ。
 そんな中、事務作業は昔からそつなくこなしており(理由不明)、メイドロボではなく、事務作業ロボに転換したらどうかという皮肉が財団から出たこともある。
 居眠り運転のトラックから製作者の平賀を身を呈して守ったり、攻撃力に大差あるにも関わらず、シンディに立ち向かったりと勇敢な一面もある。
「もし良かったら、うちのチビ達の手が掛からなくなった時、またこちらの研究所に派遣してもいいですよ?」
 奥から平賀がやってきた。
「平賀先生」
「平賀博士、これ、皆からお土産です」
 MEIKOが土産の入った紙袋を平賀に渡した。
「おっ、こりゃ申し訳ない。……あ、その前に……。敷島さん」
「はい」
「七海から聞いたと思いますが、ボーカロイド達の合同ライブにバックダンサーの登用が決定しましたよ。先程、財団から承認が出ました」
「バックダンサー!?」
 ボーカロイド達は驚いた顔をしたり、意外そうな顔をした。
 中には意味が分からず、首を傾げる者も。
「ありがとうございます。必ずやこのライブ、成功させてみせます」
「壮大な実験がまた始まることに、自分もワクワクしますよ。しっかり頼みます」
「はい!」
 平賀が敷島に渡した承認書には、財団理事長の他、平賀の名前とハンコも押してあった。
 副理事の肩書を持つ平賀も、重要プロジェクトの監督を任される立場にあるようだ。
「自分もできる限りのことは協力します。何でも相談してください」
 実に頼もしい発言をする平賀であるが、裏を返せば、それだけ失敗は許されないということでもある。
「分かりました」
 敷島は肩に大きな荷物を背負ったという感じで受け答えた。

                         「皆と過ごす夏休み」 終
コメント (7)
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