[7月20日08:30.マリアの屋敷 ダイニングルーム 稲生ユウタ&マリアンナ・スカーレット]
「ユウタ君は本当に熱心だね」
マリアは1人で朝食を食べるユタの向かいに座り、目を細めて言った。
実はユタ、到着してから朝の勤行を行っていたため、威吹達とは時間がズレたのである。
「いえいえ……」
「申し訳無かったね。うちの師匠達のイザコザに巻き込んじゃって」
「大丈夫ですよ。こうして無事に到着できたんですから。まあ、イリーナさんが迎えに来てくれたことは意外でした」
「ポーリン師は何をしてくるか分からんので、師匠自ら向かった。私が行くと言ったんだけど、どういうわけだか師匠が自分から行くと……」
「何かありましたかね?エレーナさんは東京から出ることができなかったそうですが……」
「エレーナのヤツ、寝坊したらしく、ポーリン師が雷雨を起こす前に東京を脱出して長野に先回りする作戦がパーになったらしい」
「あらま!」
「本当はユウタ君達のバスが長野県入りしたところで襲うつもりだったらしい」
「ちょっ……!バスには無関係の人達も大勢……!」
ユタは危うく口に入れたコーヒーを噴き出す所だった。
「まあ、私達も大きな声で人のことは言えないんだけど、作戦遂行の為には如何なる手段・犠牲も厭わないというのが、魔道師の考えでね……。まあ、私や師匠はなるべく被害の少ない方法を考えるんだけど、成果第一主義のポーリン師やエレーナはその辺あんまり考えないみたいよ?」
「ひえー……」
「エレーナとは友達になりたいんだけど、ポーリン師は今更、師匠として仰ぐことはできないな。もう、イリーナ師匠のやり方にすっかり染まったものでね」
「その方がいいですよ」
「ごめーん!ちょっといい?」
そこへイリーナがやってきた。
「ユウタ君、朝ご飯ゆっくり食べていいんだけど、終わったらちょっとマリアの修行、手伝ってくれる?」
「えっ?僕、魔法なんて使えませんよ?」
「当たり前でしょ。そうじゃないの。ユウタ君、泳げる?」
「えっ?ええ、まあ……。小中と体育の授業でやりましたし……」
「助かるわ。じゃあ、また後でね」
イリーナはにこやかに笑うと、ダイニングを出て行った。
「何でしょう?」
「さあ……」
マリアは首を傾げた。
「まさか、僕に何か魔術の実験台になれなんて……」
「それはないと思うけど……。まあ、その時はその時で」
「ええーっ!?」
[同日09:00.マリアの屋敷・リビングルーム ユタ、イリーナ、マリア、威吹]
「さすが魔法で建てた屋敷なだけあって、1番最初に来た時から構造や外観が全く変わってないですね」
ユタは朝食を終えると、マリアと共にダイニングにやってきた。
「映画の魔法学校みたいに、『喋る肖像画』とか飾りたかったんだけど、あれ結構高いし」
と、イリーナ。
「売ってるんスか!?」
「まあ、そもそもマリアの趣味に合いそうに無いから、マリア力作のお人形さんで我慢してね」
「いや、我慢も何も……。それより、マリアさんの修行の手伝いって?」
「簡単な話よ。マリアに泳ぎを教えてやって」
「へ?」
「マリア、金づちなのよ。かくいう私も、そんなに泳ぎが得意ってわけじゃないから教えられるほどじゃないし、威吹君はスパルタそうだし……」
「『すぱるた』って何だ!?」
威吹は不快そうな顔をした。
「ユウタ君なら優しく教えてくれそうだしね」
「はあ……。といっても、クロールと平泳ぎ、背泳ぎくらいしかできませんが……」
「それでいいのよ」
「魔道師が泳ぐ必要あるのか?」
威吹は訝しげに聞いた。
「何事も基本は大事よ。泳げないと、そもそも水に入ることすら怖がるでしょう?魔界じゃ、湖の底に秘密の魔道書が隠されていることだってある。無論、素潜りするわけじゃないけど、結局魔法を使う為に水の中に入るわけだから、万が一に備えて泳げるようにしておく必要はあるわ」
「なるほど。RPGじゃ、よくあるネタですね!」
「そう!そうなのよ。それをイメージしてもらえぱいいのよ」
「確かに湖に魔法で潜る為に、魔法使いのキャラクターがある程度水の中に入って行くシーンとかありますね」
「でしょう?」
「もっとも……『その魔道書を誰が最初にどうして湖の底に隠したか(あるいは沈めたか)』は謎のままであることが多いですね」
「そうねぇ……」
「まあ、中には『かつて伝説の大魔道師が後世の為に隠した』とかいう後付設定も見受けられますが……」
「ここの作者が真っ先にやりそうな手口ね」
ギクッ!
「で、どこで泳ごうってんだ?その話からして、近くに湖でもあるのか?」
威吹が聞いた。
「あいにく湖は無いのよ。川ならあるけど」
「この辺の川なら、水もきれいでしょうね」
「そうなの。いつもなら川底が見えるくらい澄んだ水よ」
威吹は窓の外を見て、変な顔をした。
「……おい。まさか、川ってのはこの窓の外を流れてる川のことか?」
「そうよ」
「お前、ユタを殺す気か!」
バンッと威吹は外開きの窓を乱暴に開けた。
「げっ!」
窓の外を見ると、川が濁流と化していた。
「あちゃー……。昨夜のゲリラ豪雨のせいね……」
「あちゃーじゃねぇ!」
「しょうがないわね。じゃ、取っておきの場所に案内しましょうか」
「そこは安全なんだろうな?」
「あの川より物凄く安全よ」
イリーナは軽くウインクして見せた。
[同日09:15.マリアの屋敷B1F ユタ、イリーナ、マリア、威吹]
「地下は魔術の実験場になっていると思いますが……」
ユタは地下へ向かう階段を下りながらイリーナに言った。
「それは北階段ね。この南階段を下りると、ある場所に辿り着くのよ」
「何でしょう?」
階段を下り切ると、そこにあったのは……。
「プールだ!」
「こんなものまで作るとは……!」
「凄いでしょ」
「お前、最初からユタに泳ぎを教えさせるのを織り込んで、急ごしらえで用意したってオチじゃないだろうな?」
威吹はジト目でイリーナを見た。
「バレた?」
「バレバレだっ!」
「まあまあ。良かったら、威吹君も入って遊んでいいよ?妖狐も水遊びとか好きでしょ?」
「あのなぁ!」
[同日09:30.同場所 ユタ、イリーナ、マリア、威吹]
「それで用意する物に水着があったんですね」
ユタはボクサータイプの水着に着替えた。
威吹は赤い六尺ふんどしである。
「そういうこと。じゃ、よろしく頼むねー」
「あ?お前は入らないのか?」
「あたしは上にいるから。人形達に警備させてるとはいえ、ポーリン達が来ないとも限らないからね。何かあったら呼んで」
「どうやって?」
「そこの壁の石板にタッチすると、上の水晶玉と繋がるから」
「ハイテク!」
「……ハイテクではないな。ま、とにかく、懇切丁寧でお願いね」
「後でちゃんとユタには礼をたんまりするんだぞ」
「まあまあ、威吹。それより、マリアさんは……」
「ユタに泳ぎを教わるのに、あまり色気のある物を着て来られても困るんじゃないか?ユタが指導に集中できんよ?」
「それなら大丈夫。そんなこともあろうかと、別の水着を用意しておいたから」
「お待たせしました」
マリアが着替えて来たのは競泳水着だった。
なるほど。スイミングスクールなどで着用されているものだ。
確かに理に適っている。と、ユタは思ったのだが、
(僕が高校の頃、女子が着ていた水着に似てるなぁ……)
とも思った。つまりそれって、スクール水着……。
それが似合うくらいのロr(ri
「よ、よろしく!」
「こちらこそ。それじゃあ、早速始めましょうか。まずは水に慣れる為に……」
いきなり始まった、俄かスイミングクラブ。
果たしてマリアは泳げるようになるのか。
「ユウタ君は本当に熱心だね」
マリアは1人で朝食を食べるユタの向かいに座り、目を細めて言った。
実はユタ、到着してから朝の勤行を行っていたため、威吹達とは時間がズレたのである。
「いえいえ……」
「申し訳無かったね。うちの師匠達のイザコザに巻き込んじゃって」
「大丈夫ですよ。こうして無事に到着できたんですから。まあ、イリーナさんが迎えに来てくれたことは意外でした」
「ポーリン師は何をしてくるか分からんので、師匠自ら向かった。私が行くと言ったんだけど、どういうわけだか師匠が自分から行くと……」
「何かありましたかね?エレーナさんは東京から出ることができなかったそうですが……」
「エレーナのヤツ、寝坊したらしく、ポーリン師が雷雨を起こす前に東京を脱出して長野に先回りする作戦がパーになったらしい」
「あらま!」
「本当はユウタ君達のバスが長野県入りしたところで襲うつもりだったらしい」
「ちょっ……!バスには無関係の人達も大勢……!」
ユタは危うく口に入れたコーヒーを噴き出す所だった。
「まあ、私達も大きな声で人のことは言えないんだけど、作戦遂行の為には如何なる手段・犠牲も厭わないというのが、魔道師の考えでね……。まあ、私や師匠はなるべく被害の少ない方法を考えるんだけど、成果第一主義のポーリン師やエレーナはその辺あんまり考えないみたいよ?」
「ひえー……」
「エレーナとは友達になりたいんだけど、ポーリン師は今更、師匠として仰ぐことはできないな。もう、イリーナ師匠のやり方にすっかり染まったものでね」
「その方がいいですよ」
「ごめーん!ちょっといい?」
そこへイリーナがやってきた。
「ユウタ君、朝ご飯ゆっくり食べていいんだけど、終わったらちょっとマリアの修行、手伝ってくれる?」
「えっ?僕、魔法なんて使えませんよ?」
「当たり前でしょ。そうじゃないの。ユウタ君、泳げる?」
「えっ?ええ、まあ……。小中と体育の授業でやりましたし……」
「助かるわ。じゃあ、また後でね」
イリーナはにこやかに笑うと、ダイニングを出て行った。
「何でしょう?」
「さあ……」
マリアは首を傾げた。
「まさか、僕に何か魔術の実験台になれなんて……」
「それはないと思うけど……。まあ、その時はその時で」
「ええーっ!?」
[同日09:00.マリアの屋敷・リビングルーム ユタ、イリーナ、マリア、威吹]
「さすが魔法で建てた屋敷なだけあって、1番最初に来た時から構造や外観が全く変わってないですね」
ユタは朝食を終えると、マリアと共にダイニングにやってきた。
「映画の魔法学校みたいに、『喋る肖像画』とか飾りたかったんだけど、あれ結構高いし」
と、イリーナ。
「売ってるんスか!?」
「まあ、そもそもマリアの趣味に合いそうに無いから、マリア力作のお人形さんで我慢してね」
「いや、我慢も何も……。それより、マリアさんの修行の手伝いって?」
「簡単な話よ。マリアに泳ぎを教えてやって」
「へ?」
「マリア、金づちなのよ。かくいう私も、そんなに泳ぎが得意ってわけじゃないから教えられるほどじゃないし、威吹君はスパルタそうだし……」
「『すぱるた』って何だ!?」
威吹は不快そうな顔をした。
「ユウタ君なら優しく教えてくれそうだしね」
「はあ……。といっても、クロールと平泳ぎ、背泳ぎくらいしかできませんが……」
「それでいいのよ」
「魔道師が泳ぐ必要あるのか?」
威吹は訝しげに聞いた。
「何事も基本は大事よ。泳げないと、そもそも水に入ることすら怖がるでしょう?魔界じゃ、湖の底に秘密の魔道書が隠されていることだってある。無論、素潜りするわけじゃないけど、結局魔法を使う為に水の中に入るわけだから、万が一に備えて泳げるようにしておく必要はあるわ」
「なるほど。RPGじゃ、よくあるネタですね!」
「そう!そうなのよ。それをイメージしてもらえぱいいのよ」
「確かに湖に魔法で潜る為に、魔法使いのキャラクターがある程度水の中に入って行くシーンとかありますね」
「でしょう?」
「もっとも……『その魔道書を誰が最初にどうして湖の底に隠したか(あるいは沈めたか)』は謎のままであることが多いですね」
「そうねぇ……」
「まあ、中には『かつて伝説の大魔道師が後世の為に隠した』とかいう後付設定も見受けられますが……」
「ここの作者が真っ先にやりそうな手口ね」
ギクッ!
「で、どこで泳ごうってんだ?その話からして、近くに湖でもあるのか?」
威吹が聞いた。
「あいにく湖は無いのよ。川ならあるけど」
「この辺の川なら、水もきれいでしょうね」
「そうなの。いつもなら川底が見えるくらい澄んだ水よ」
威吹は窓の外を見て、変な顔をした。
「……おい。まさか、川ってのはこの窓の外を流れてる川のことか?」
「そうよ」
「お前、ユタを殺す気か!」
バンッと威吹は外開きの窓を乱暴に開けた。
「げっ!」
窓の外を見ると、川が濁流と化していた。
「あちゃー……。昨夜のゲリラ豪雨のせいね……」
「あちゃーじゃねぇ!」
「しょうがないわね。じゃ、取っておきの場所に案内しましょうか」
「そこは安全なんだろうな?」
「あの川より物凄く安全よ」
イリーナは軽くウインクして見せた。
[同日09:15.マリアの屋敷B1F ユタ、イリーナ、マリア、威吹]
「地下は魔術の実験場になっていると思いますが……」
ユタは地下へ向かう階段を下りながらイリーナに言った。
「それは北階段ね。この南階段を下りると、ある場所に辿り着くのよ」
「何でしょう?」
階段を下り切ると、そこにあったのは……。
「プールだ!」
「こんなものまで作るとは……!」
「凄いでしょ」
「お前、最初からユタに泳ぎを教えさせるのを織り込んで、急ごしらえで用意したってオチじゃないだろうな?」
威吹はジト目でイリーナを見た。
「バレた?」
「バレバレだっ!」
「まあまあ。良かったら、威吹君も入って遊んでいいよ?妖狐も水遊びとか好きでしょ?」
「あのなぁ!」
[同日09:30.同場所 ユタ、イリーナ、マリア、威吹]
「それで用意する物に水着があったんですね」
ユタはボクサータイプの水着に着替えた。
威吹は赤い六尺ふんどしである。
「そういうこと。じゃ、よろしく頼むねー」
「あ?お前は入らないのか?」
「あたしは上にいるから。人形達に警備させてるとはいえ、ポーリン達が来ないとも限らないからね。何かあったら呼んで」
「どうやって?」
「そこの壁の石板にタッチすると、上の水晶玉と繋がるから」
「ハイテク!」
「……ハイテクではないな。ま、とにかく、懇切丁寧でお願いね」
「後でちゃんとユタには礼をたんまりするんだぞ」
「まあまあ、威吹。それより、マリアさんは……」
「ユタに泳ぎを教わるのに、あまり色気のある物を着て来られても困るんじゃないか?ユタが指導に集中できんよ?」
「それなら大丈夫。そんなこともあろうかと、別の水着を用意しておいたから」
「お待たせしました」
マリアが着替えて来たのは競泳水着だった。
なるほど。スイミングスクールなどで着用されているものだ。
確かに理に適っている。と、ユタは思ったのだが、
(僕が高校の頃、女子が着ていた水着に似てるなぁ……)
とも思った。つまりそれって、スクール水着……。
それが似合うくらいのロr(ri
「よ、よろしく!」
「こちらこそ。それじゃあ、早速始めましょうか。まずは水に慣れる為に……」
いきなり始まった、俄かスイミングクラブ。
果たしてマリアは泳げるようになるのか。