報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“アンドロイドマスター” 「皆と過ごす夏休み」 3

2014-07-14 19:33:31 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月12日12:00.神奈川県藤沢市 江ノ島海岸 アリス研究所の面々、十条伝助、キール・ブルー]

「リンが1番だYo〜!」
「そうはさせないよ!」
「2人とも、待って〜!」
 鏡音リン・レンの後を追う初音ミク。
「こーら、3人とも。これはあんた達、ボーカロイドの海水耐性実験なんだからね。はしゃぎ過ぎは禁物よ?」
 アリスは右耳にインカムを着けており、これでボーカロイド達と通信している。
 早速はしゃぐ年少組に釘を刺した。
「はーい!(×3)」
「そういうアリスも、水着に着替えて、海に入る気満々じゃないか」
 敷島はジト目でアリスを見ていた。
 敷島はカジュアルシャツとチノパン、スニーカーからTシャツに短パン、ビーチサンダルに履き替えてはいたが。
「失礼ね。私は研究者として、少しでも彼女達の近くで実験の観察をしようと……」
「理事。まさか、理事も海に入る気ですか?」
 敷島は呆れた顔をして、アリスとは反対側にいる老博士に聞いた。
「いやいや。さすがに年寄りの冷や水じゃろうて。わしは今回のツアーの責任者として、ここでおとなしくさせてもらうよ」
 そうしている間にキールが、借りてきたビーチパラソルを砂浜の上に刺した。
 十条は敷島と似た格好はしていたが、Tシャツではなくアロハシャツであり、麦わら帽子を被っていた。
 これだけ見ると、とても世界的なロボット研究者には見えない。
「おっと。そろそろ昼食の時間じゃの。キールや、準備ができたら、そこの海の家で焼きそばを買ってきてくれんか?」
「かしこまりました。敷島参事はどうなさいますか?」
「そうだな……。じゃあ、俺もお願いするか」
「アリス博士は……あれ?どちらに?」
「ん?あれ?さっきまであそこに……」
「何じゃ、あれは?」
 近くの海の家に人だかりができていた。
「さあ……」
「ちょっと見てこよう」

[同日12:15.同場所・海の家“めろん” アリス・シキシマ]

 打てば響く大きなラーメンどんぶり。
 3杯目を平らげて、既に平らげて重ねた2つのどんぶりの上に更に重ね上げた。
 直後に店内外から響く大きな歓声。
「とても美味しかったです」
「女王だ!金髪の大食い女王だ!」
「どこの国の人?」
「さあ……?」
 様子を見に来た敷島とキールは唖然とした。
「マジかよ……」
「ウルトラ・スーパー・ジャンボラーメン、3杯食べたらタダと書いてあります。参事」
「え、えー……約束通り、タダでゲソ」
 中高生と思しき白い服を着たバイト店員が驚いた様子で言った。
「あら?あなた達も食べに来たの?」
 何食わぬ顔で敷島達を見るアリス。
「いえ。私は執事ロボットですので、食べられません」
「お前、何やってんだよ?」
「何って、ランチに決まってるじゃない」
「ランチというポリュームじゃねぇなっ!」
 グラマラスな体型はこの大食で維持されているのは誰でも皆認めるところだが、いい感じな肉付きで肥満体型にならないのが凄い。

[同日12:30.同場所・砂浜 敷島孝夫&十条伝助]

「全く、アリスのヤツ……。絶対、泊まり掛けの実験と称した旅行だよ、これじゃ」
「まあまあ。アリス君も、まだ20代半ばの妙齢じゃ。遊びたい部分もあるじゃろうて。分かってやりなさい」
「はあ……。おっと!俺も仕事に戻らないと」
「うむうむ。頑張りたまえ」
 敷島はカメラ片手にボーカロイド達の後を追った。

「ちょっと、プロデューサー。何かイヤらしい感じだよ?」
 MEIKOがジト目で敷島を見た。
 ボーカロイド達が着る水着もイメージカラーに沿ったもので、MEIKOは御多聞に漏れず、赤を基調としたビキニを着ていた。
「いや、これは……アリスから実験の記録映像の撮影を頼まれてて……」
 敷島は少し焦りながら答えた。
「ふーん……?」
 MEIKOはそれでもジト目で敷島から視線を外すことはなかった。
「そ、それより海に入ってどうだった?何か不具合とかは発生しなかったか?」
「別に。私達、元々ドクター・ウィリーにスパイロボットとしても活動できるように改造されたせいか、海に入っても平気だからね。わざわざ実験する必要あるのかしら?」
「それは……アリスに直接聞いてくれ」
 敷島は苦笑した。

「あっ、プロデューサー。ちょうど良かった。オイル塗ってもらえませんか?」
「お前なぁ……」
 砂浜に寝そべる巡音ルカ。
「今回はあくまで海水耐性実験であって、直射日光に当ててどれだけ変色するかの実験じゃないんだぞ」
「そうですか?」
「それに、平賀先生の技術で、お前達の体の表面は特殊加工で変色しないようになってるんだ。変にオイルなんか塗ったら、発火するぞ」
「発火!?発火するんですか!?」
「直射日光に当てたりしたら、お前達の体は超高温になるからな。人間だったら汗をかいたりして調節するけど……」
「それは知りませんでした。海に入ってきます」
「アリスが近くで観察してるはずだから」

 で、今度は……。
「の、ノー!私は・ボーカロイドではないので・撮影しないで・ください」
 キールと一緒にいたエミリーは、敷島のカメラに気づいて慌てて手を振った。
「十条理事から、お前達の関係の記録も録っておけって言われてるんだよ。ほら、もう少し寄り添って」
「……十条博士の命令とあれば、仕方ないですね」
 キールはそう言って、エミリーの腰を抱いた。
「いや、命令はされてないけどな」
「え……?」
「えー、只今、マルチタイプのエミリーと執事ロボット1号のキール・ブルーの感情レイヤーの機能実験です。現在……」
 敷島が撮影しながらレポートを加える。
「……エミリー婆さんが年下の若い男を誑かして、正に若いツバメとやらであります」
「ん?」
「MEIKO!」
 敷島の後ろでアフレコしたMEIKOだった。
「MEIKO、待て!今日という・今日は……!」
 エミリーが怒ってMEIKOを追い回した。
「えー、怒りの感情は正常に機能しているもようです」
 冷静に撮影している敷島だった。

「きゃーっ!KAITO-っ!」
「KAITO、こっち向いてーっ!」
「ありゃ?」
 女性ファンに囲まれて歓声を上げられているKAITOがいた。
「あちゃー……顔バレしちゃったか……」
 敷島は参ったなぁといった感じで右手を頭にやったが、
「どうしたんですか?何かあったんですか?」
 そこへミクもやってくる。
「おおっ!?初音ミクだ!」
「ミクさんがいる!」
「んんっ?!」
 ミクは特徴的なエメラルドグリーンの長いツインテールが特徴なので、目立つことこの上ない。
 今度は男性ファンが押し寄せてきた。
「まずい。これじゃ大騒ぎに……あ」
 敷島はピーンと来るものがあった。
 正にプロデューサー魂であった。

「全くもう……!」
 エミリーとMEIKOのケンカを止めたのはアリス。
「MEIKOは要らんことするし、リンとレンは遠くまで泳ぎに行っちゃうし、タカオは何やって……って!?」
「はいはーい!ボーカロイドの全国ツアー、神奈川は横浜スーパーアリーナで8月に開催しまーっす!」
 敷島はファンに全国ツアーのチラシ配りをやっていた(どこからチラシ持ってきた?)。
「こ、このっ……!」

 チーン……。
「何で俺がこんなこと……」
 ブチ切れたアリスに、頭から下を砂浜に埋められた敷島だった。
「付き合いますね、プロデューサー」
 一緒に埋まるKAITO。
「いいよ。それより、早いとこリンとレンも撮影しないと。早くしないと、今度は砂じゃなくて海に沈められる」
 敷島は自力で脱出すると、リンとレンを捜した。
「えーと……どこ行った?」
 キョロキョロと捜す敷島。
 するとそこへ、
「うわあああん!」
 泣きじゃくりながら戻って来たリンと合流する。
「どうした、リン?」
「レンが……レンがいなくなっちゃったーっ!」
「ええーっ!?」

 何が起きたのか!?
コメント (2)
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“ユタと愉快な仲間たち” 「信濃の森の魔道師たち」

2014-07-14 13:16:12 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月14日07:00.長野県内某所 マリアの屋敷 マリアンナ・スカーレット&イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

「師匠、朝ですよ。起きてください」
「あー……もう、そんな時間かねぇ……」
 弟子に起こされた魔道師。
 大きく伸びをして起き上がった。
 その様子を見て、意外そうな顔をするマリア。
「どうしたの?」
「いえ。いつもなら『あと5分』を1時間以上繰り返すのがデフォルトなんですが……」
「あのねぇ……。あなたは自分の師匠を何だと思ってるの?」
(朝に弱いお寝坊すけ……)
「今、『朝に弱いお寝坊すけ』って思ったね?」
「!」
「別に心を読んだわけじゃないよ。いくら魔道師でも、相手の心を読むなんて魔法無いから。まあ、あたしゃ1000年以上も生きてるし……。逆にあんたはまだ若いから、すぐ顔に出るしね。顔にそう書いてあったのを読んだだけ」
「……朝ご飯の用意は今、シャルテット達が全速力でやってますから」
「シャルテット?ああ、先日できたばかりの新しいお人形か……。必ず一芸に秀でた人形が作れるんだから、そこはマリアも大したものだと思うね」
「ありがとうございます」
「料理の上手い便利な人形ができて良かったじゃない」
「おかげさまで」

[同日07:30.同場所・ダイニング マリア&イリーナ]

「予知夢を見るのが私、クロック・ワーカーの異能の1つなんだけどね、ここ最近は予知夢の逆を見るんだよねぇ……」
 イリーナは紅茶を口に運びながら言った。
「逆……ですか?逆ってことは、過去の夢?」
「そう。だから異能でも何でも無いんだけど、要はちょうど起床時間にその夢で目が覚めただけなんだよ」
「そうだったんですか。どんな夢ですか?」
「んー……まあ、かいつまんで言うと、私が魔道師になるきっかけの夢かな」
「! そう言えば私、師匠がどうして魔道師になられたか聞いてません」
「うん。話してないからね」
「どうして師匠は魔道師に?」
「何でって言われてもなぁ……。あなたと同じで、別に『魔道師になりたいっ!』って師匠……あなたから見れば大師匠ね、弟子入り志願したわけじゃないんだよ」
「と、仰いますと?」
「私があなたをスカウトしたのと同じように、私も大師匠にスカウトされたってところかな」
「そうだったんですか」
「まあ、途中でポーリンに軽蔑されるようなこともしてきたから、大師匠も困ったことだろうね」
 イリーナはいたずらっぽく笑った。
 それでも大師匠はイリーナを破門にするようなことはせず、免許皆伝とした。
「大師匠様は、師匠をスカウトされた時から、あのようなお姿だったんですか?」
「ああ、いや……。大師匠が私を買った時には、もっと違う……」
「買った!?」
「!!!」
 弟子のツッコミにイリーナは慌てて口を押さえた。
「これ以上は話せないね。まあ、強いて言うなら、あなたには人間時代、壮絶な過去があったわけだけども、私にもあったということさ」
「……そうでないと魔道師にはなれないことですね」
「それ以前に志願者がいないというのと、いたとしても、ここまでの魔力も魔法も使えないってところかな」

[現地時間7月14日10:00.アルカディア王国・王都アルカディアシティ 総理官邸 安倍春明]

「うーむ……」
 総理官邸と言っても、魔王城の旧館の一部を改築しただけである。
 一党制であるため、党員数の増加に伴い、市街地の党本部だけでは手狭になったので、総裁室を移転し、官邸としただけである。
 今では撃ち棄てられた旧館が徐々に改築され、共和党事務所と化している。
 いずれは党本部の機能をこちらに移し、旧本部を市街地の連絡所扱いにしようかという計画もある。
「失礼します。総理、コーヒーが入りました」
「おっ、ありがたい」
 党内でもコーヒー通で有名なブラウンがコーヒーを入れて来た。
「宮廷魔導師の採用ですか?」
「ああ。よくよく考えてみれば、魔道師自体はこの魔界にも結構いるんだよな。人間界を拠点としている者で、代表格がこのイリーナ師とかなだけで……」
「そうですね」
「公募はしていなかったんだが、噂で『宮廷魔導師募集中』が流れたのか、応募者が続出だ」
「指名入札にしとけば良かったですね」
「公共事業じゃないんだから……」
「しかし、総理の中ではもう決まってるのでは?」
「決まってるというか……」
 確かに、大師匠の下にいるイリーナとポーリンで固まってはいたのだが……。
「履歴書を提出させてみたら、彼女ら長命過ぎて、それどころじゃないことに気づいた」
「下で横田が書類整理に追われてましたが、その書類は魔道師の履歴書でしたか」
「かいつまんで提出させると、肝心な所は濁される恐れがあるしね」
「はいはい。では異世界通信社に、身辺調査させるというのはどうでしょう?」
「マスコミに?いいネタ見つけてくれるとは思うが、それを週刊誌にされて、後で恨まれても困るなー。あいつらも東スポみたいな新聞出してるんだな」
「ははは……」
「まあ、答えはもう少し後にしよう」
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“アンドロイドマスター” 「皆と過ごす夏休み」 2

2014-07-14 10:29:00 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月12日07:10.JR仙台駅新幹線ホーム 敷島孝夫、アリス・シキシマ、エミリー、Vocaloid Allstars.]

〔14番線に停車中の電車は、7時12分発、“やまびこ”120号、東京行きです。……〕

「すいません、平賀先生もお誘したかったんですが……」
 敷島はホームで電話していた。相手は平賀。
{「さすがに、うちのメイドロボットはチビ達のお守りで実験には参加できそうにないので……」}
「お察し致します」
{「十条先生が御一緒ということは、財団から公認と見て良いということですかね」}
「恐らくそうでしょう。アリスも声を掛けてましたし……」
 敷島はチラッと座席に座るアリスを見た。
 エミリーが買ってきたデカい駅弁を空けている。
{「今はもうウィリーの影も無いですし、いきなり“バージョン・シリーズ”が襲ってくることもないでしょうから、楽しんで行ってきてください」
「のん気に弁当食ってる本人が一緒ですから、それは無いでしょうね。すいませんね。帰りにお土産買っていきますから。……ええ。失礼します」
 敷島は電話を切った。
(バージョン・シリーズを操る側の人間が、そこで暢気に弁当食ってんだから大丈夫だろ)
 敷島はそう思いながら車内に戻った。

〔14番線から、“やまびこ”120号、東京行きが発車致します。次は、福島に止まります。黄色い線まで、お下がりください〕

 壮大な発車メロディがホームに鳴り響く。
 車内では微かに聞こえる程度だ。
「全く。お前は何個食えば気が済むんだ?」
 敷島はアリスの隣に腰掛けながら言った。
「失礼ね!これでもまだ2個目よ!」
「そこまでにしとけよ。特盛くんじゃあるまいし……」
「What!?」
 列車は定刻通りに発車した。

[同日07:34.JR福島駅新幹線ホーム 敷島孝夫]

〔「福島です。この駅で、後ろに山形新幹線“つばさ”120号を連結致します。5分停車致します。発車は7時39分です。発車までしばらくお待ちください」〕
「それにしても、電源コンセント装備車で良かったよ」
 旧型のE2系であっても、比較的後の方に増備された車両にはグリーン車の全席と普通車の窓際(それとデッキに出るドアの横)に電源コンセントが装備されている。
「コンセント、仲良く回すんだぞ」
「はーい」
 夏場はバッテリーの消費が早いボーカロイドに電源は欠かせない。
 電源のある所では常時充電でもいいくらいだ。
 それ以外にも、既に充電済みの予備バッテリーパックも持ってきている。
 いつ何時災害が起きて、停電になってもいいようにしておく必要がある。
「その間に俺は……」
 敷島はスマホ片手にホームに降りた。

 ホームに降りると同時に、エメラルドグリーンのE5系“はつね”“はやぶさ”が轟音を立てて通過していった。
 先行の“やまびこ”が連結作業をしている間、“はやぶさ”や“はやて”を通過させるとはいいアイディアだ。
「もしもし。おはようございます。敷島ですが……」
{「おお。敷島君か。おはよう」}
「お目覚めですか?」
{「おう。わしも実験に参加させてくれるということで、ありがたい限りじゃわい」}
「東京駅で待ち合わせということでよろしいですよね?」
{「うむ。キールにもその旨、伝えておる。なぁに、いざとなったらキールとエミリーの愛の電波で」}
「ははは……(呆)」
 十条は金沢の実家には帰らず、そのまま江東区のマンションに滞在しているとのことだ。
 そこで待ち合わせを東京駅にした次第。
{「そっちは順調かね?」}
「はい。おかげさまで」
{「エミリーに新幹線の信号はイジるなと言っておけよ。顔には出しておらんじゃろうが、早くキールに会いたくてしょうがないといった感じじゃろう」}
「ええっ!?」
{「わしにとっては、キールの耐水実験よりそっちの方が気になるわい(大笑)」}
「な、なるほど……」
 意外とフランキーな博士だと敷島は改めて思った。
(さすが世界的マッドサイエンティスト“3バカトリオ”の1人だった人……)

[同日09:20.JR東京駅“銀の鈴” アリス研究所の面々(←メンド臭くなった)]

「東京はもっと暑いねー」
 敷島はパタパタと自分の扇子を仰いだ。
 週末のせいか、往来する人通りは行楽客が多い。
 敷島達同じ、海に行くと思しき姿もある。
「アリスは海に行ったことあるの?」
 敷島はアリスに聞いた。
「失礼ね。あるよ、それくらい。テキサス州は海に面してるんだから」
「おう、そうか。そうだったな」
「キールが・来ました」
 エミリーが艶っぽい顔になって言った。
「一応、プロフェッサー十条の方が立場が上なんだから、そっちを優先してね」
 アリスがツッコむ。
「まあまあ」
 と、敷島。
 よく考えてみたら、この場で1番立場が上なのは十条だ。
「おう、諸君。おはよう」
「おはようございます!」
 ボーロカイド達も分かっているのか、十条が大きく手を振ると、一斉に挨拶する。
(まるで修学旅行みたいだな)
 と、敷島は思った。
「今日は実験参加、真に御苦労さん。わしも責任者として、しかと見届けよう。しかし……」
 十条は参加してるボカロの面々を見て首を傾げ、敷島に耳打ちした。
「週末の忙しい時に、よくスケジュールの調整ができたな?」
「アリスが無理やりキャンセルしたんです……」
 敷島は泣きそうな顔になった。
「……後で説教してやらんといかんな」
 プロデュース業務もまた財団のプロジェクトの一環である。
「お願いします」
 十条はまたボカロ達に向き直して、
「あー、では、立ち話も何なので、すぐに出発しよう」
 と、促した。

[同日09:45.JR東京駅総武線地下ホーム アリス研究所の面々、十条伝助、キール・ブルー]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。1番線に停車中の電車は、9時49分発、逗子行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕
「グリーン車の平屋部分、貸切だな」
 敷島はホームに降りて、自販機で飲み物を買いに行っていた。
 ややもすれば、グループ客が貸し切れるグリーン車の平屋部分。
(まあ、半分狙ったようなものだが……)
 敷島の一瞬のほくそ笑みの意味を知りたければ、時刻表を確認すべし。
「たかおさん」
「ん?」
 ミクに話し掛けられて振り向く。
「ジュースなら、わたしが買ってきましたのに……」
「いや、いいよ。ミク達はバッテリーを温存しといて。それに財団では、俺が1番下だし」
「たかおさん、参事なのに?」
「あ、いや、ここのメンバーの中ではね。十条理事は理事。しかも、席次がかなり上だ。理事長に推薦されたこともあるほどにね。アリスはあの技術力だろ?ウィリーの孫娘というレッテルさえ無ければ、どこかの大企業に引っ張られて荒稼ぎしていてもいいくらいなんだぞ、本当は。そこへ行くと、俺なんかな……」
「そんな……。たかおさん、プロデュース力ありますよ」
「ボーカロイドと人間のアイドルじゃ、売り方が違うから。どれ、乗り遅れる前に戻るか」

[同日09:49.JR横須賀線953S電車の4号車 アリス研究所の面々、十条、キール]

〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は横須賀線、各駅停車、逗子行きです。……次は新橋、新橋。お出口は、右側です。……〕

「しかし……」
 十条は敷島に買ってきてもらったお茶を口に運んでから言った。
「敷島君にだけツッコミを入れておこう」
「は」
「“ボーカロイドにおける海水耐性実験”とのことじゃが、実質的に海に遊びに行く口実になっておらんか?」
「す、すいません……。私もそう思います」
「研究所のクーラーくらい、わしが直したぞ?というかほぼ間違い無く、アリス君も直せるはずじゃが……」
「ですよね……。私がMEIKOを使って、JTB旅行券当てたばっかりに……。アリスは氷買って来た所で、別の旅行券当てるし……」
「つまり今回の旅行代金は……全てではないにしろ、キミとアリス君が当てた旅行券を使っているのじゃね?」
「はあ……そういうことに……」
「くじ運の素晴らしい夫婦じゃの、キミ達は。え?この分なら、ロトやサマージャンボも当てられるんじゃないのかね?」
「さあ、どうでしょうか……」
「まあ、心配するな。そういうことなら問題無い。財団の金を全額使って、大した成果が出なければ問題じゃが、旅行代金の殆どをポケットマネーを使っているというのなら、そこはまだわしが説明することができる。キミはキミで、自分の仕事をしたまえ」
 十条は不安な顔をする敷島の背中をポンと叩いた。
 敷島が片手に持っているのは、デジタルビデオカメラ。
 ボーカロイドの非日常を撮影する、記録映像という目的だ。
 つまり、PVに近い。
 アリスには実験映像ということにしてあるが。
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