「うつろ庵」の葡萄棚は、いつの間にかすっかり「自然薯」の蔓に占領されて、「むかご」が沢山なった。
昨年も丁度今頃、「むかご」を摘み取って、友人知人へお裾分けした。「うつろ庵」の数少ない貴重な産物ではあるが、お配りしたお宅にとってはご迷惑ではなかったか。しかし考えてみれば、『たかが「むかご」、此方が思い煩うまでもないか』との思いに辿り着いたら、いたく気楽になった。
しごく質素な日常生活をしている虚庵居士夫妻にとっては、実のところ「むかご」は大変なご馳走なのだ。ごく薄い塩味で「むかご」を炊き込んだご飯は、将に絶品だ。「むかご飯」を堪能した後に頂く「お薄」とも、至極相性がよろしい。秋の味覚の中でも、虚庵居士のランク付けでは最上級品だ。
斯くまでも他愛も無いことを喜んでいるのを知れば、悪友は「虚庵居士も老境に達したか」と揶揄されるに違いあるまい。
何時やらに葡萄に代わる自然薯の
蔓を透かして見ゆる秋空
花結ぶ実にはあらねど自然薯は
むかごに己を主張するらし
いわし雲の広ごる頃ぞむかご飯に
干物も佳きかな庵の食事は