「ヒロシマ・ナガサキ」の原子爆弾被災から既に65年を経たが、まだなお日本国民の多くは、「原爆の
トラウマ(心的障害)」に苛まれ、放射線に或いは原子力の平和利用に対してすら、謂れなき不安を抱いているのが現実だ。
原爆被災地の長崎大学教育学部で、「原子力は未来を救えるか? 原子力って本当に必要なの?」
とのテーマで、第2回「エネルギー環境教育研究会ワークショップ」が昨年々末に開催された。
留学生を含めて長崎大学の学生と教職員約40名、原子力関係のシニアが約10名、合計50名ほどが参加して朝から夕刻まで、熱心な意見交換と議論を重ねた。
午前中のワークショップ・その1は、「原子力に対するイメージの共有と功罪」をテーマとして、長崎大学病院・大津留准教授が「チェルノブイリから学ぶこと」と題する講演、引き続き虚庵居士が「皆さんと一緒に考える:エネルギーと地球温暖化・原子力への期待」との講演で、午後のワークショップ・その2への話題を提供した。
大津留先生はチェルノブイリ原発事故の惨劇を、朝日新聞の豊富な切り抜きを巧みに編集して、生々しく紹介されたので、学生も先生方もそしてシニアの面々も暗澹たる思いにいざなわれた。虚庵居士は講演に先立って、4点を学生に訴えた; ①地球の明日と、人類の未来を考えよう! ②“子供たちに真実を伝えよう” その前に先ず正しい理解を! ③“教育の在り方”につき批判が多いが、君たちが考え、提言をしよう! ④“永井隆博士”の心を伝える伝道師たれ!(原爆被災で自らが負傷しながら、被災者の救護に当った彼は、原子爆弾救護報告書の「あとがき」に、原子力を平和目的に活して新たな文明を築くことが、多数犠牲者の霊を慰めるものだと書き残した。)
虚庵居士の講演の詳細は省くが、お話の順序は ①地球についてチョットだけ「おさらい」して、地球に満ち溢れている放射線の存在を解説し、 ②世界と日本のエネルギー事情 ③どのように防ぐか-地球温暖化? ④皆さんへの期待、 で締めくくった。
昼食後には、かなり本音ベースの意見交換がなされた。
昨日、予め訪れた浦上天主堂の「被曝マリア様」と永井隆博士の「如己堂」にまつわる、虚庵居士の思いは是非とも学生たちに伝えたいと念じていた。が、対話の中での彼・彼女らの反応を見ていたら、講演の中で触れたポイントを真摯に受け止めてくれていたので、殊更それを強調するのは差し控えた。
拙稿
「人類の過ちと原爆のトラウマ」 と、永井隆博士の理念を紹介した
「原子力の平和利用」の2編のコピーを配布したので、後日に読んで貰えるであろう。
グループ毎の対話と意見交換のまとめとして、最後に学生が発表した中から、感動的な二つの報告事例を紹介する;
一つ目は、虚庵居士の冒頭の訴えを真摯に受け止めて、『子供たちに真実を伝えるのは、教育学部に所属する我々の責務だ』との宣言だ。人間はどの様な自覚を抱いて行動するかで、その成果は「月とスッポン」程の差が生じる。学生が議論を尽くして、ここに到達して呉れたことに、長崎に来てよかったとの感動を覚えた。
二つ目は、原子力平和利用の真髄を理解しなくては、この様な結論に到達し得ないと思われる発表であった。曰く『原子力平和利用に対する我々の意思表示として、放射性高レベル廃棄物処分地に、ヒロシマ・ナガサキが率先して名乗り出るのはどうだろうか!』
この発表を聞いて身の震える思いであった。聞けば、普段の講義や授業では殆ど原子力に関する勉強はしていないという。今回のワークショップに参加して講演を聴き、シニアと膝を突き合わせて対話をして、この様なレベルにまで理解を深めて呉れようとは、想像を超えるものであった。原子爆弾の被災地で勉学しながら、思索を重ねつつ、永井博士の「如己堂」にも時には足を運んでいたことであろうかと思われる。
みぞれ降る長崎の坂歩みつつ
思いを重ねぬ幾星霜に
長崎の学生達との対話にも
被曝マリアの無言の聲聴く
半世紀の 歳月隔てて訴える
じじの言葉に若者耳寄せ
ヒロシマとナガサキこそは名乗るべしと
学生提言 廃棄処分に
原爆の被災地に来て若者と
こころを共にす未来を夢みて