「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「ピンク珊瑚・エンゼルスキン」

2006-02-28 00:31:30 | 和歌

 「うつろ庵」の庭に、立派な珊瑚が育った。

 珊瑚の高級品は、「血赤珊瑚」と呼ばれて宝飾品として珍重され、お値段も物によっては際限がない。その昔、虚庵居士も見栄を張って、虚庵夫人に血赤珊瑚の指輪をプレゼントしたが、お値段を見て腰を抜かした。その際、虚庵氏のカフス釦もかなり上等の珊瑚で誂えたが、お値段は何と十分の一にも満たなかった。

 薄いピンク色の珊瑚で、「ボケ珊瑚(エンゼルスキン)」と呼ばれる種類もあるが、手に入らないので宝飾商は「幻の珊瑚」と呼んで、垂涎の的になっている。
「うつろ庵」の庭の「珊瑚」は、その上を行く見事なものだが、「珊瑚葉牡丹」であることが残念だ。これが本物の海の「ピンク珊瑚」なら、虚庵居士は大金持ちになれるのだが・・・。

  

 




             いと細き珊瑚の枝か葉牡丹の

             陽ざしにゆらめく「水底か」ここは



             海深く生ふる珊瑚も斯くあるや

             水面の光に煌めく葉先は



             幻の「エンゼルスキン」の珊瑚をば

             庵の狭き庭に観るかも








「忍ぶ風情の」

2006-02-27 00:19:08 | 和歌

 野辺に咲く「姫踊り子草」の花を見つけた。

 自然の草木は春をいち早く感じ取って、健気にも精一杯の息吹を見せてくれる。
「姫踊り子草」の花は、忍びやかに、そして控えめに咲いているので、よほど目を凝らさないと見失ってしまう。それにしても、「姫踊り子草」と言う名前を意識しつつジッと見れば、何やら秘めた物語が隠されているような風情に見えてくる。

   

 




             背を屈め姫踊り子草は野に忍び

             もの言いたげに咲くぞいとしき




             たれ頼り野辺に花咲き語らふや

             忍ぶ風情の姫踊り子草は




             舞ころも綴れ錦の帯垂らし

             たれ恋い咲くや姫踊り子は
 








「沸き立つ思いの」

2006-02-26 02:40:57 | 和歌

 「うつろ庵」の庭には、虚庵夫人が植えた紅白の「珊瑚葉牡丹」が、三色菫と相まって、鉢に上手く納まっている。外出から帰った夕暮れ、ふと見ると生垣の木漏れ日を受けて、心の内から沸き立つ思いを代弁してくれていた。言葉では言い表せない、自然のなせる見事な表情だ。

 数日前に読んだ漢詩、「初春」を想い出した。
王績君は酒好きの詩人で、「五斗先生」と自称した。虚庵先生の推測では、「酒をたらふく五斗も呑み申す」との、酒徒宣言に違いあるまい。秋に仕込んだ酒甕から、春が来て「馥郁と沸き立つ」香り、のん兵衛・王績君の「はやる思い」と、夕陽を受けて「沸き立つ」珊瑚葉牡丹が、重なって見えた。
 


 



     初 春    王績 詩 

     春来日漸長
     酔客喜年光
     稍覚池亭好
     偏聞酒甕香

  

             穫り入れて秋に仕込みし 酒甕の

             香る春日ぞ待ちにけらしも




             夕されば漏れ来る陽射しを芯にうけ

             沸き立つ思いの葉牡丹なるかな








「念力 岩を砕く!」

2006-02-25 23:55:04 | 和歌
  
 



          野に転ぶ
          岩に向かいて
          指をさし
          気力を籠めて
          念力を
          「えい!」 「や!」と掛ければ
          アーラ 不思議
          大きな岩も
          忽ちに
          砕けて割れて
          粉々に
            礫となりて
            崩れぬるかな



   

 



 念力で砕いた岩か ?? 
 残念ながら念力の結果ではない。自然のなせる業である。安山岩などの硬い岩石では、この様な破砕は起こらないが、虚庵居士の住む三浦半島には、あちこちに泥岩の露頭があったり、また泥岩のブロックがよく転がっていて、時々この様な砕け石を見かける。虚庵居士は地質学者ではないので、詳しいことは知らないが、泥岩は堆積した泥が固まって岩になったもので、固まり方が未熟な岩は、水を吸い込み、風化し易いようだ。この写真も、拳二個分ほどの大きさの泥岩が、野晒しで、風化して砕けたものだ。

 念力が使えたら、色々面白かろうが・・・。






「春の野みちは」

2006-02-24 00:22:00 | 和歌

  
 



             野を行けば草の息吹きのうれしけれ

             おおいぬのふぐり 寄り添い咲くも



             おおいぬのふぐりに虻も加われば

             春の野みちは のどかなるかも



  





             枯れ草のまにまに生ふるオオイヌノ

             フグリは薄き 瑠璃色の花



             な踏みそ いとけき小花群れ咲くを

             きさらぎの路に春は来にけり








「クロガネモチの実」

2006-02-23 00:11:40 | 和歌

 横須賀の自宅から鎌倉市の講演会に向かう途中で、クロガネモチの並木に出会った。

 最近出来たトンネルの出口に、まだ樹高は二・三メートル程のクロガネモチが、道路わきに十本ほど植えられていた。どの木も、紅の小さな実を沢山付けていた。帰りに再び同じ道を通って、午後の陽射しに輝く、紅の実を写した。



 



             トンネルをいづれば赤き実のなれる

             クロガネモチの樹列に出合いぬ



             竹薮を背にして並ぶ街路樹の

             鮮やかなるか紅の実は



 クロガネモチは、昔は小鳥を捕らえる「鳥もち」をこの木から採取したり、漢方薬にも用いたようだ。どうしたものか、この木の葉や小枝は、真っ黒に錆が付き易いが、お目にかかったクロガネモチは、いずれも錆がなく綺麗な状態であった。まだ樹齢が若い故なのだろうか。 

 鳥たちにとっては、冬の食べ物の無い季節のクロガネモチは尊い餌であるが、殊にヒヨドリはこの実を好んで食べる。さぞや悔しい思いで、遠くから眺めているに違いあるまい。

  





             街路樹に誰が選ぶや紅の

             実を行く人に愉しませむとは

  

             ヒヨドリは悔しき思いで眺めらむ

             実を食べたくも車が怖くば






「熱海桜」!

2006-02-22 02:33:31 | 和歌
 
 早くも六・七分咲きの桜に出会った!

 横須賀から伊豆・函南のホームコースへゴルフに行ったが、熱海市内の入口で、見事な桜に出合った。濃い「鴇色」が鮮やかな桜を目にして、思わず車をとめてシャッターを切った。
夜来の雨が上がったばかりで、空はどんよりと曇り、陽射しがほとんど無いのが誠に残念であった。春の陽射しがあれば、どれ程の美しさであろうか!

 暫らく走って、熱海の略真ん中辺りを流れている谷川の下流に、再び桜並木を見つけた。 
老齢のご婦人に「河津桜ですか?」と尋ねると、「いいえ、熱海桜デス!」とキッパリお答えになった。

 久し振りのゴルフは散々であったが、「熱海桜」に出会ったのは、ゴルフの神様のお引き合わせであろう。



 



             熱海路を車で行けば図らずも

             桜に出会いぬ雨水の二日後

 

             歩み来るおみなに尋ぬ 桜名を

             「河津桜や?」 「いえ、熱海桜よ!」




 



             ふくよかに団子になりて咲くさくら

             春の陽射しの無きぞ悔しき



             百千々に熱海桜は咲き競い

             人恋ふるかも 鴇色濃くして






「目白と競う」

2006-02-21 05:33:43 | 和歌

 「うつろ庵」の狭い庭にも数本の椿を植えてあるが、この時節では目白の好物の蜜が吸えるとあって、朝な夕なに飛び来て、可愛い訪問者が絶えない。

 目白の来訪は大歓迎だが、椿の花は残念ながら、嘴と足の爪痕が残って、お世辞にも綺麗とはいい難い。しかしながら、考えようによっては、目白達との交流の証だと思えば、むしろ立派な勲章を目白から授かったことになる。悔し紛れに聞こえるかもしれないが、可愛い目白とのお付き合いには、それなりの代償も必要だ。

 そんな訳で余程の幸運に恵まれないと、無垢の椿の花にはめったに出合えない。
 今朝はその幸運に巡り会えた。



             うつろ庵の椿の綻び待ちかねて

             目白と競うすみ人なるかな


  

 



             花びらに身を支えては蜜を吸う

             仕草いとしき目白に見惚れぬ



             うつろ庵の椿の誇る勲章は

             目白の残せる爪痕なるかな


  

 



             朝にけに目白飛び来て蜜吸えば

             一つだになし名残のなき花




 



             咲き初むる無垢の椿のただ一輪

             観まくほしけど 今朝はかないぬ








「はしきなるかも」

2006-02-20 07:01:21 | 和歌

             侘びて住む鄙の庵にかえり咲く
             梅芳しく はしきなるかも


  
 



             白梅の眉しろたえに延びたるは

             齢を重ねる主と競うや



             匂いたつ白き花びら支えたる

             咢は小粋に今様色かな


  

 



             花びらに黄金のつぶを撒きたるを

             雛の節句の祝いにやせむ



             巣立ちたる子らおち方に棲まふれば

             おさなく相観し昔を想ほゆ







「揺るるも侘しき」

2006-02-19 00:05:41 | 和歌
 
     邙 山  沈佺期(しんぜんき)詩 

     北邙山上列墳塋
     万古千秋対洛城
     城中日夕歌鐘起
     山上惟聞松柏声


 北邙山は洛陽の北、黄河の南に連なるなだらかな丘陵の名前だと言う。ものの本によれば、後漢の光武帝をはじめ・西晋・北魏の帝の陵が連なり、杜甫・王之渙・顔真卿らの詩人もここに葬られているという。将に墳塋(墓)が連なり、二千年の遥かな昔から、洛陽の街中の「さんざめき」と相対してきた。

 洛陽の繁栄、人生の栄華、歓楽の歌声と対極にあるのが、邙山の世界だと沈先生は詠った。全てが沈黙の世界にあって、松籟のみが耳に残り、人生の無常を感じさせる。



 




             邙山の墳墓の松柏さんざめく

             洛陽の夜をいかに聴くらむ




             大振りの誇れる華を偲ぶれば

             芙蓉のなきがら揺るるも侘しき






「健気に咲きぬ 白き小花は」

2006-02-18 01:33:23 | 和歌

 「うつろ庵」の庭の、「金のなる木」が小さな花を付けた。
 
 この多肉植物は、「銭のなる木」との俗称もあって、身近な存在であるが、花を咲かせるまでにはかなり長い年月が必要のようだ。「うつろ庵」では何れの株も花を付けるが、住人がそれだけ老境にあるということであろうか。一月十五日付け「幼き冬日を」でも、葉の縁に赤紫がさした写真を添えて、数首を掲載した。


             葉の内ゆ淡き緑の花莟
             のぞけば既に赤み差しきて


 あの時は、薄緑の莟の先端も、寒さに凍えて赤紫がさしていたが、何時の間にか白く透ける莟みに変り、それぞれの群莟の中ほどに、気品のある花が咲いた。遠くから漫然と見たのでは、さほど目立たぬ花であるが、近くに見れば誠に清楚で凛とした気品が漂い、虚庵居士の好きな花の一つである。



 




             凍てつける寒さに耐えて何時やらに

             膨らむ莟 今朝に咲きたり

 

             隣には凍えて萎えぬる枝あるも

             健気に咲きぬ白き小花は
  


             花芯には細き血筋を透かしいて

             小花に脈打つ想いを聴かなむ



             寄り添いし莟らやがて陽を受けて

             競い咲く日を待ちにけらしも







「梅かさね」

2006-02-17 01:51:48 | 和歌
 
 「うつろ庵」の深紅の蘇芳梅(すおうばい)が、ちらほら咲き始めた。

 春日に輝く、燃える表情をご紹介するつもりでいたが、今日は朝から霧雨が煙り、濡れる夕暮れの表情が、何とも言えず潤いを湛えていたので、急遽ご紹介することにした。毎回のことながら、虚庵居士が感じ取った紅梅の表情を、写真に写し撮れないのが悔しい思いであるが、拙い歌と合せて読者の「心眼」に、その表情を描いて頂きたいものだ。



 




             南天の深緑の葉と古竹を

             襲ねる色目は「梅かさね」かな



             誂えし梅咲く振袖はじらひて

             身に付け初めにし吾娘を偲びぬ

 

             花びらに雫を湛えて咲く梅は

             嫁ぎし娘の残せる笑みかも

  

             濡れて咲く夕暮れの梅 紅に

             氷雨に堪えるは滾るこころか






「今朝は笑みたる」

2006-02-16 00:01:15 | 和歌

 「うつろ庵」の庭に福寿草が咲いた。

 まだ一輪だけであるが、隣にも膨らんだ莟が待ち構えていて、間もなく賑やかになろう。
この頃の春日は、微かながらそれぞれの息吹を日毎に伝えてくれるのが楽しみだ。



 




             曇り日の朝の寒さに首すくめ

             襟巻きつけて福寿草咲く



             信州の兄貴の庭の福寿草の

             株分かち来て二度目の春かな



             荒れ土に一言だにも不平なく

             萌えいで花咲く福寿草かな



             明日なるか今日は如何と待ちにしに

             今朝は笑みたる「黄花」なるかも








「乙女の誇りを」

2006-02-15 00:03:43 | 和歌

 お隣の薄紅の梅が開花した。

 白梅の清楚な姿とは打って変わって、乙女の華やぎがある。垣根越しに見上げつつ、嫁いだ二人のお嬢さんの、子供の頃の晴れがましい表情が、思い出された。時には里帰りしている姿を見かけたが、最近は余りお目にかからなくなった。爺婆の二人暮らしでも、紅梅の華やぎがうれしい早春であろう。

 「うつろ庵」の深紅の梅は、少し開花が遅くなったが、間もなくご紹介できよう。

  

 
  



             如月の朝日を受けて咲く梅の

             花 うす紅にかおりたつかな



             はちきれむ莟を従え咲く梅の

             乙女の誇りを見上げて讃えつ



             八重に咲く薄紅の梅が花を

             吹きな荒ぶな今宵の嵐よ






「雪中人対雪中花」

2006-02-14 01:35:16 | 和歌
 
 ニューヨークは大雪で大混乱だ。
 1869年に観測を開始して以来の、記録的な大雪だと言う。




                        雪中のキャメロン



 一月ほど前になるだろうか、ニューヨークの娘から雪の中で遊ぶキャメロンくんの写真と、雪に埋もれる花の写真が届いた。この程度の雪であれば、大したことは無いが、東京もニューヨークも大都市の大雪は大混乱をもたらす。

 「生き埋めになっていないか? OKか?」 と大げさにメールに書いたら、
 「OK Daijoubu !!」 との返信が届いた。 




                       雪中のパンジー



          江戸時代の碩学・寺門静軒が詠んだ「雪中見梅」を思い出して、
          和歌を添えてみた。


             雪中見梅   寺門静軒 詩

             寒蓑立尽水之涯
             雪益加時興益加
             香骨吟身両清絶
             雪中人対雪中花



             舞う雪を蓑にしのげど咲く梅は

             ただひたすらに耐えてすがしき