「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「黄金の芽吹き」

2011-04-28 00:52:34 | 和歌

 桜が散り、葉桜に変わった。

 東日本大震災では岩手・宮城・福島の被災地の皆さんは、そして福島第一原発の事故対応に追われる人々には、桜の繚乱たる様も桜吹雪も目に入らずに、必死の戦いの日々であったろうとお察しする。

リタイヤ組の虚庵居士は、気持がせくばかりで何も出来ぬ無力さに、悔しさのみが募り、グラス片手に深夜までパソコンに噛り付く毎日であった。気が付けば深夜の2時・3時までも、鬱積した思いを深酒の酔いに晴らして来た。

 たまたま日経新聞に掲載された、「放射線と生活習慣の発がんリスクの相対比較表」を見て愕然とした。毎日2合以上の酒を飲み続けると、発がんリスクは飲まない人に比べ1.4倍、3合以上では1.6倍にもなる。毎日2合の飲酒は、原爆被災者の1000~2000ミリシーベルトの被ばくに相当するリスクだと知った。

 福島原発事故に関連して放射線被ばくが話題になっているが、事故時の被ばくは年間の累積線量で管理される。原爆の被ばく量はおよそ1分間程度の短時間被ばくだから、双方の人体に及ぼす放射線の影響は凡そ
500,000倍もの差がある。

 1000ミリシ-ベルト(1シーベルト)の被ばくでは、1万人あたり4000人が癌死亡の可能性があると評価されているのだ。虚庵居士は、既にその領域に足を踏み入れて、いやアルコールに己が身を漬けているのだと知らされた。

 葉桜に変わった公園の片隅で、名も知らぬ木の芽吹きが夕陽を浴びていた。被災地で悶々たる思いに塞ぐ皆さんへ、「黄金の芽吹き」を贈りたい。細い枝先から逞しく芽吹き、夕陽に煌めく「芽吹き」は被災者の皆さんに、胸の内から湧き出る思いを掻き立ててくれるに違いない。被災地の片隅にも、同じような芽吹きがあるに違いない。それぞれの胸に、それぞれの芽吹きを育んで貰いたい。






            夕陽浴びて黄金に煌めく芽吹きかな

            ただひたすらに芽吹くぞ麗し


            桜咲く苑の片隅ひそやかに

            命の芽吹きを胸に刻みぬ
 
                            
            願わくば心塞げる諸人も

            芽吹きに倣い こころに芽吹きを






「国のために尽くす」

2011-04-20 00:03:00 | 和歌
 
 パソコンに噛り付いていて、朦朧となった頭を冷やそうと、三浦半島の細い山道に分け入って驚いた。トテツモナク巨大で、複雑に絡み合った蔓が巨木から垂れ下がっているではないか。蔓の下に立って見上げていたら、何やら混迷を深める我が国の現状とイメージが重なって、暫く呆然と立ちすくんだ。

 東日本大震災では、悲しくも夥しい人々が犠牲者となられた。未だその総数も確定していないが、行方不明の方の数も合わせれば三万人にも及び、第二次世界大戦に次いで我が国開闢以来の悲劇だ。

 3・11以来、我々国民も政治家も、この大災害をどれ程の「国家的危機」と捉えて来ただろうか? 
多くの国々から友好的な支援の手が差し伸べられているが、一方では、国を挙げて取り組む姿勢や統括管理の在り方など、厳しい批判の目が向けられていることも事実である。

 復興や事態の収束に向けて、国も自治体も、事業者や国民もそれぞれ一生懸命にガンバッテはいるが、相互の連携がちぐはぐで、彼らが見れば国家管理や統率が執れていないと目に映るのであろう。
地続きの国々では常に国境を争い、国を侵し、侵される歴史を背負って来た彼らは、国民が常に自ら戦い国家を護って来た。そのような歴史は、国民に「国家」の意識をいやがうえにも植えつけ、それがものの考え方の基本をなしているのだ。

 翻って我が国はどうか。
隣国と海を隔てて孤立している地政学的な条件もあって、歴史的にも「国境」の概念や「国家」の概念が乏しく、「国を護る」との意識が余りにも希薄だ。

 隣国との争いに限らず、食糧やエネルギー資源の確保についても、グローバルな争いと協調とが渦巻く世界では、総てに国を挙げて取り組むことが強く求められている。

 東日本大震災からの復興も、福島原子力発電所の事故収束への努力も、将に「国家再建」の最大の契機とせねばなるまい。災害復興については、国民の皆様の義捐金やボランティアの活動が益々盛んになりつつあることは、たいへん喜ばしいことだ。
 一方、福島原発については、東京電力の「事故の収束に向けた道筋」が昨日発表されたが、幾多の難問を抱えて前途はまだまだ息が抜けない。

 我々原子力シニアは、現役の皆さんが必死で闘っている後方から、邪魔にならぬよう配慮しつつ、可能な限りの提言をまとめ、或いはメディアの取材に際しては極力解りやすい解説を心がけて、正確で適切な報道を支援して来た。

 しかしながら原子力発電と放射線については、多くの市民の皆さんが不安を抱き、原子力にたいして疑念を抱く人の数も増えている模様だ。そんな中で、虚庵居士にも声がかかって、懇談会や講演の機会を活かして、市民の皆様への解説役を務めさせて頂いているこの頃だ。お仲間の先輩の言葉だが、死が近いシニアなどとは言って居れない毎日である。

 三浦半島の細い山道を辿って来たら、古色蒼然たる石造りの祠の前に出た。ごく小さな祠ではあるが、三柱の小さな祠の一つは、あろうことか虚庵居士の生地の、諏訪神社をお招きしたものであった。いつの時代、どのような経緯でこの祠が祀られたかは知る由もないが、当時の皆さんの依って立つところとして、諏訪神社の祠の果たした役割は大きなものであったろう。静かに手を合わせて礼拝した。

 グローバルな現代社会で、我々日本人の依って立つところは何であろうか。 
国際社会での付き合いや鎬をけずる中で、我々のアイデンティティー、依って立つところは大和魂ではあるまいか。海外に出て、多くの国々の男達と議論をすれば、それぞれの男たちが胸に抱いている最も大切なものの一つは、紛れもなく母国を大切に思う心だ。国内に居ては中々見えないが、民族の違い、言語やカルチャーを超えて彼らが大切にしているものの一つだ。
我々一人一人が出来ることはごく些細なことに過ぎないが、それぞれの皆さんが出来る範囲で、国のために尽くしたいものだ。


           山道を辿り来れば驚きぬ 

           巨大な蔓の巨木に垂るるは


           複雑に絡む姿は我が国の

           混迷なるかも解は如何にと


           とつ国の人々厳しく我が国を

           批判するらむ統率無きとぞ


           信濃から諏訪の神あがめ移り住む

           いにしえ人の思いを汲まなむ






「被災地に花を」 

2011-04-15 12:39:51 | 和歌
 
 殆どの方はお気づきにならなかったであろうが、「雪柳」のコメント欄にジャム様から書き込みがあって、これに虚庵居士がお詫びの言葉を書き込んだ。

 ジャム様とは既に長い交流を続けさせて頂いているが、3・11以来のブログ記事をお読みになって、虚庵居士の心労を推し量り、2週間も前に ”gooメール” に心のこもったお手紙を送って下さっていた。しかもピンクのチューリップの写真を添えて・・・。

 虚庵居士は福島原発の収束を願って、夥しい数のWindows mailのやり取りに明け暮れしていて、”gooメール” の受信ホルダーの中に、ジャム様のメールと花の写真を閉じ込めたままだったのだ。
労りのお手紙を頂戴しながら、何とも申し訳ないことであった。 取り急ぎお詫びと、感謝のご返事をしたためたのは言うまでもない。

 ジャム様はピンクに目がないお方であるが、写真の腕前も超一流ゆえ、ご自分の撮影された一枚を添えてお慰め下さったものであろう。お送りくださった素晴らしいチューリップの花を、虚庵居士が独り占めにするのは、余りにもモッタイナイ。
東日本大震災の被災地の皆様は、悲しく辛い日々をお過ごしのことであろうが、
ジャム様から頂いた「ピンクのチューリップ」を、被災者の皆様へもお裾分けしたいものだ。ジャム様から未だそのお許しを頂いていないが、チューリップの笑顔につられて、些かでも多くの皆さんが微笑んで頂けたらと念じて、ここに掲載させて頂く。

 


            越中のピンクの花を召しませと
        
            いたわる手紙を下さる君かな


            あろうことかgooの受信の函中に

            封も切らずにとどめ置くとは


            百万の言葉に代えて花たちの

            笑顔に託すやいたわる心を


            慰めの心を重ねて届けなむ

            被災のもろびと微笑みあれかし


            斯くばかり光を享けて花咲くに

            せめて明かりを塞ぐ心に






「雪柳に涙、そして明日のために」

2011-04-11 00:45:18 | 和歌

 3・11以来、パソコンに噛り付いて夥しい数のメールを交換し、食事のテーブルでは虚庵夫人の言葉にも気はそぞろ、テレビの放映を食い入るように見続ける毎日であった。

 思えば虚庵居士の人生は、精魂を込めて原子力発電所の設計・建設と、安定な運転のためにすべてを捧げてきた。我が国のエネルギー需要を支え、国民の皆様の高度な文化生活を支える国産エネルギーは、原子力発電以外に無いからだ。

 再生可能エネルギーはクリーンで、尽きることない無限の資源であるが、エネルギー密度は極めて希薄で、変動が激しいことから、残念ながら基幹エネルギーにはなり得ない。ドイツのように風力・太陽光の発電電力を高額で買い取る制度(FIT)は、風力や太陽光発電の設備促進には魅力的な制度であるが、つまるところは買い取りの代金は国民の負担となって、高額なツケが永続的に付きまとう。
ドルトムンド大学など国を挙げて研究した結果、続けてはならない制度だと結論付けている。我が国でも、FIT制度を盲目的に取り入れようとの動きもあるが、冷静な判断が求められるところだ。

 巨大な津波にのまれた悲惨な映像が放映されたこの一か月、あろうことか被災地には冷たい雪がしきりに降り続いた。
被災した皆さんは、きのみ着のまま逃れて、防寒着や手袋すらも身に着けていないのだ。身を震わせ、手足を凍えさせている現実が、我がことのように身に沁みた。

 気付けば「うつろ庵」の雪柳が、いつの間にか小枝に雪を湛えているかの様に咲いた。 例年であれば、春の到来を喜ぶところだが、ことしはテレビで見た被災地の雪景色と重なって、涙を誘う雪柳だ。

 福島第一原子力発電所は、激震にも耐えて直ちにスクラムして核反応を停止した。直ちに炉心の冷却システムが起動して、順調な停止運転が続けられたが、間もなく襲った14~15メートルにも及ぶ巨大津波は、発電所の手足を無残にももぎ取って、すべての冷却手段を奪った。その結果は、メディアの報じるところだが、虚庵居士も原子力関係者も歯ぎしりの毎日だ。

 現場の最前線で奮闘している皆さんが、お怪我をなさらぬよう、過大な被ばくを受けぬよう念じている。そしてまた、お気の毒にも退避して居られる人々には、思わず頭が下がる思いだ。虚庵居士は福島発電所の設計・建設には携わらなかったが、原子力人として心からのお詫びと、お見舞いを申し上げたい。

 誰一人予想することも出来なかった巨大な自然災害の結果とはいえ、我が国最大の危機をもたらした原子力災害の責任を、改めて噛みしめる この頃だ。五重の壁で防護し、深層防護の原子力安全思想、入念な品質保証と弛まざる運転・保守訓練など、どれをとってみても繰り返し繰り返して確認を怠らなかった。多分、人類が築いてきた最高レベルの技術であったと思われるが、それでも未だ足りないところを、自然は明確に指摘した。

 人類の歴史を見れば、何万・何十万の尊い命を奪われた過去の犠牲を礎にして、より高度な文明を我々は築いてきた。今回の福島事故では、一般市民の皆様の命に係わる災害は防止できるであろうと予測しているが、自然の明確な指摘を受けて、更に高いレベルの科学技術を次の世代に引き継ぐのが、我々の使命であろう。識者の皆さんの胸には、既にその解のイメージが描かれている。それぞれが描いた解を重ね合わせて、真の解を明示し、国民の皆様の意見を求め、納得し安心して頂くことこそが、我々の課題だ。

 願わくば、皆様の率直なご意見をお聞かせ願いたい。但し心して頂きたいのは、虚庵居士を説き伏せ、ねじ伏せても何の役にも立たぬことを肝に銘じて頂きたい。
万人に通じる言葉で、礼を失せぬ範囲でごく率直に、双方向の真摯な対話を積み重ねたいものだ。

 


              気が付けば家に籠れる日々なるか

              待ちにけらしも雪柳の花は


              さえだ垂れて白雪置くや雪柳に

              被災地おもほゆ涙ながらに


              原発の事故に避難のひとびとを

              思えば済まなく頭下がりぬ


              人知超える自然の指摘の訓えこそ

              次に引き継ぐ源なるかも


              解き明かす安全の手だてに納得と

              安心求めて対話を重ねむ






”A plea for pray”

2011-04-04 12:02:05 | 和歌

 福島第一原発では、炉心の冷却と高レベルの放射性廃液の処理作業が懸命に続けられています。
 
 高レベルの放射線に晒される事故現場で、決死の作業を行っている人々の勇気を称え、その無事を皆さんにも共に祈ってと切々と訴える詩(散文詩)をご紹介します。日本語で書かれたこの詩は、消防団や自衛隊員による最初の放水が行われた3月
17日の夜、書かれたもののようです。原作者の思いを広く世界に伝えたいと、東郷
茂彦氏が英訳したものです。 残念ながら原作が手に入りませんが、取り急ぎ格調高い英訳の詩をご紹介します。

 この危険な作業を率先して引き受けた自衛隊員・消防団員・東電および協力会社
社員などの人々のことは、海外でも「勇気ある50名の人々」として賞賛されました。
9.11の現場で救助活動に当たり、多くの落命した消防隊員とイメージが重なります。
無事を祈らずにはおれません。


A plea for pray :     (Written around Thursday, March 17, 2011)
Please pray !
Please pray for the volunteers
at the site of Fukushima nuclear plants!


Here is a plea from the family of the servicemen and workers,
Who join now the most dangerous mission at Fukushima nuclear plant.

Please, please, the family says,
Please pray, they implore,
“We need all your prayers,
For those who are sacrificing their lives,
To save Japan,
To save our people,
To save your family.
They risk their lives
For this most dangerous mission,”
The family pleads and implores for the success of this mission.

The members of the SDF’s special anti-chemical units,
They are all volunteers.
Aged more than fifty five,
Almost finished bringing up their kids,
Therefore no regret of losing their lives,
There are about fifty of these men.

Here is an article of Jiji Press:
TEPCO asked help to electric companies all over Japan
And to all of collaborated companies and its subcontractors.
They needed experienced men
To join works inside destroyed nuclear plants.
They needed “go for break” units.
And those who applied for this dangerous mission
Were volunteers too.

A man who worked more than forty years.
For Chugoku Electric Company applied
to the mission.
“This kind of work has to be done by veterans
like us, 
Only one year left for my retirement
And I have finished bring up children,”
He reportedly said calmly and decisively.
His wife and daughter could not say anything.
For the first time, the daughter felt something
different 
In her father’s unusual quietness.
Next morning when he left his house for
the mission,
He just said “OK, I’ll get to work,”
Just like his usual morning good bye to his family.

When you work inside a nuclear power plants,
You will be exposed to radiation.
The GOJ had decided the limit to 100 millisieverts.
But now, it is raised to 250.
Why?
Because they have asked !
The workers and servicemen asked to raise.
“If we work under the 100 millisieverts rule,
We can work only several minutes at the site.
The mission cannot be accomplished.
So, please raise the limit to 250.”
They were ready to be heavily exposed to radiation.

Because of their courageous endeavor and devotion,
The nuclear fission in a reactor in Fukushima
Had stopped right before reaching to its critical state.
If it had reached to the critical state,
Our life would have changed completely.
Our precious time with families, with beloved one and
With friends would have been gone.
All those who live within the radius of
Three hundred kilometers from nuclear power plants,
They might have lost their lives.
We owe them, we owe them all our precious time
Which we are cherishing now.

Please, please pray for them,
Please pray for the success of the mission.
Today, the water cannons operation had a certain success.
Please pray for the success of tomorrow.
Please pray so that these volunteers can come back safely.
Please pray,
We plea to you.
Please let your family, friends and colleagues,
As many as possible, let them know
The courageous and dangerous mission which
These volunteers are engaged now.

To pray, that is what we can do now.

                          translated by Shigehiko Togo.




Translator’s note:
On March 21, ten days after the Three Eleven, I got an email from a friend of mine
copy-pasting the original version of this poem-prose in Japanese. The writer was
unknown and it seems that it was written on the night of the 17th, the first day
of the SDF’s water cannon attack.
News afterword report that these courageous men were not limited to veterans but
younger one too. It has also been revealed that TEPCO had inhumanly treated
workers at the site.
However, the original Japanese version was moving. I am not in a position
to confirm the contents of this poem-prose, but I have decided to translate it
into English. Because I truly believe that in the operation of fighting against
nuclear power plants disaster, there are many who are risking their lives and
the danger seems to increase day by day. This poem-prose describes the best
spirit of these men and I wished many people oversea would know it.
I express my sincere gratitude to Emi Sato, who inspired me to translate it
into English.    Tokyo, Thursday, March 31, 2011.

                 SDF: Self-Defense Force (自衛隊)
                 TEPCO:Tokyo Electric Power Company(東京電力)
                 GOJ:Government of Japan(日本政府)